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[——病院に行く、と伝え損ねた。
さて、どうしようか。]
[コートとマフラーを適当に被って、自室の窓を開け放つ。
そして慎重にそこから身を乗り出し、外に降り立つ。
ここが1階で良かった。
庭に設置されている防犯カメラの死角は分かっているので、
絶対に足音を鳴らさないように、じりじりと移動する。
センサーが反応したら一巻の終わりだ。
外から窓に鍵をかける手段はないので、
閉めることができないのが非常にもどかしくて気持ち悪い。
万が一、泥棒が入り込んだら俺はもう、ヤバい。
それでも防犯意識とプライドと、死にかけているクラスメイトを天秤にかければ、
こうする他ないよなぁと思って耐える。]
[いや、むしろ。
泥棒が入り込んで何もかもを壊してくれたら、
逆に気持ちいいかもしれないなとすら思える。]
[うまく公道に出ることができた。
病院までは遠いが、少しでも走る。
運動部じゃないのがここに来て祟っている。
ああ、そういえば、
あっちの駅方面に向かえばタクシーが停まってるはずだ。
金ならある。そっちのほうが早い。
走って、走って、タクシーを見つければ、
ありがたく乗せてもらって。]
病院まで。
急いでもらえると助かります。
[少し遅れるが。
やがて俺を乗せたタクシーが、病院前に到着するだろう。**]
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![]() | 【人】 季節巡回 こころ
(66) 2021/11/13(Sat) 16時半頃 |
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(67) 2021/11/13(Sat) 16時半頃 |
[七星さんに言われて私、自分が苦々しい顔を
しているのに気がついた。
あ……うん、大丈夫だよ。
[気付けなかったのは悔しいけれど、悩みとか
弱みとか、みんな隠すのが上手いから。
そこはしょうがないって割り切ろう。
教室に集ったあの時も、和歌奈さんに不審な
動きはなかった。普通に見えた。
何が起こったのかわからなかったあの状況で、
ホストが和歌奈さんだと気づくには時間が
足りなかったと思う。
今頃どうなってるんだろうなって、
他のメンバーに思いを馳せた。]
[時が戻ったかのような校舎。
集められた文化祭の主要メンバー。
お祭りは準備が一番楽しいと言うけれど、
コツコツ作り上げた文化祭は当日だって楽しくて。
私もあの日に戻れたらなって、思ったことはある。
和歌奈さんも同じ気持ちだった?
それとも、何かやり残したことがあった?
だから私たちを呼んだのかな。
それすらも帰ってきてしまった私たちには
確かめようもないけれど。]
意味、かぁ。
あったかな。うん、きっとあったよね。
私たちがあそこにいただけでも。
[だから七星さんも、自分を責めたら駄目だよ。
私にそう言ったんだから。
ぎゅうって腕に力を込めて、真っ直ぐに伝えた。
―――帰ってこなかったらその時は、
和歌奈さんの選択だと受け止めよう。]
……帰ってきてくれて、回復したらさ。
快気祝いと打ち上げしよ。
だって文化祭また楽しんじゃったもんね。
なら打ち上げまでしなくちゃ。
それともクリスマスパーティーがいいかな。
場所は…石頭君ち借りちゃお、決定。
[それでも切な悲しいBADENDよりも
私HAPPYENDが好きだから。
そんな先を今から夢見て、信じるんだ。]**
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(96) 2021/11/13(Sat) 21時半頃 |
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(99) 2021/11/13(Sat) 21時半頃 |
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─── 病院 ───
やっぱ居た。
来ると思ってた。
[息を切らせて病院へとたどり着けば
先に戻っていた3人も、いつの間にやら幣太郎も、集まっていた。
最初から分かっていた。ここへ来ることは。]
[退院がいつできるかわからないから、
クリスマス越しちゃったら忘年会。
それとも年越しパーティー?
年を越そうものなら新年会もついでにさ。
受験?一日ぐらい忘れたっていいでしょ。
そんな夢にしばらく思いを馳せた後、]
私、ちょっと様子見てくるね。
[もしかしたら手術終わってるかもしれないし。
そう言って少し名残惜しそうに身体を離したら、
何かを思いだしたようにその口をまた開く。]
……そういえば、さ。
私元気で明るいクラスのムードメーカーな
七星さんは悩みとかなさそうでいいなって
思ったことあるんだ。
でも、違うよね。
生きている限り、ないわけないもんね。
だったら一人で抱えないで欲しいって思うよ。
そりゃ、誰にも言えないことだってあると
思うけどさ。
その、七星さんも大切な友達 だからさ!
[あの遺書に共感や親近感という言葉を口にした
七星さん。
荒木君だって。
真梛さんや他のみんなも。
私が言えたことじゃないのはわかってる。
けど、言わずにはいられなかったんだ。
誰かが欠けでもしたら、私は哀しいから。]
―― 待合スペース ――
[ご家族は変わらずに待っていた。
少し離れた場所で、心配させぬよう
祖父母に連絡を入れる。]
……そういえば、
あれはBADENDだったなぁ。
[いつか見た演劇部の古い台本。
精神世界のホストたる主人公は、
揺れながらも絶望から逃れられず、
確固たる意志の元その世界に残った。
けれど誰もいなくなった世界で、
一人笑いながら泣いていて――… ]
[HAPPYENDが好きな私は、その終わりが悲しくて、
別の話に耽ったんだ。]
……帰ってきなよ
[あれからグルチャには何の反応もない。
だから石頭君や墨鳥君が帰ってきてるとは
微塵も思わず、ただ赤が消えるのを、待っていた。]**
くそっ待つしかできねぇか。
[それは全部分かっていたことだった。
けれども、居ても立ってもいられなかった。
理由なんて要らない。そうだろう?]
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