10 冷たい校舎村9
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[ ……だから何というわけでもないから、 慎一は自分の「嫌いじゃない」を補足して、 途切れがちな言葉を吐く暮石を見てた。>>387
「そう思う」返ってきたのは同意なのに、 いったいそれってどういう顔なのさ。 閉じられた瞳を少し不思議に思ってる。
悲しい。かわいそう。 慎一はね、そこから先に進めずにいる。 だって、そこからどうすればいい?]
(455) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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でも、悲しいから──、 だからって、どうすればいいんだろうな。
[ これは、答えを求めない類の問い。 素直な慎一は同意を得られたと信じて、 呟きとして、声を吐き出したんだけど。]
(456) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ この世界の主の話は悲しい。 けど、慎一の話には少し笑ってくれてよかった。>>388
大丈夫、ヤじゃなかったから。 声に出された同意も、淡い笑みも。
それはただ、 慎一がそういうものなんだって話。 それを聞いてどんな反応をするかも、 そりゃあ個々人の自由なんだけれど。
やっぱり、馬鹿にされると悲しいからね。 安堵したように、眉尻がさっきより瞼の形に寄り添う。]
(457) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ それから。短い沈黙を経て。>>392
慎一は自分ばかり話してたなって、 そういうことになかなか気づけない。 暮石がそっと息を詰めていることも。
「信じて」と暮石は言って、>>394 慎一はちょっと驚いたような顔したあと、 それでもしっかりとそれにうなずく。]
(458) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……わかった。いいよ。
ここは、暮石の世界じゃない。 ……し、俺の世界でも、ない。
[ 本当はね、気にならなかったわけじゃない。 暮石のことじゃなくて、後半の方。 なんで除外されたかわからない自分。 ──でも、 信じるって言ったから、ただうなずいて。
それに、慎一が「なんで」って言おうとしたとしても、 きっと、それより先に暮石が動いてた。>>395]
(459) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ 天井に向けられた手のひら。ひとつめ。 ピアノ。答え合わせをするみたいに、 短い爪がくるりと表に向けられる。>>395
暮石が一歩下がる。ふたつめ。 過去形をして語られる夢。 言葉を挟めないまま、暮石がまた下がる。
ポケットに手を差し込んで、みっつめ。 また顕になった手のひらの上に、 10円硬貨が一枚ぽっち乗っかっている。]
(460) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ 「10円足りなかったの」暮石が言う。>>396
あのね、その言葉を聞いて慎一の胸に広がるのは、 ただ、「そうだったのか」ってモヤモヤの溶けた気配。
慎一が何をしたかって事実は変わらないんだけどさ。 解けるはずのなかった謎がひとつ解けて、 慎一はそのときやっぱり安堵したのだ。
だから、びっくりしてたんだ。 あとずさっていく動きが不思議だった。 重ねられる言葉の意味も。 しばらくの間理解できないまま、 その様子を見るだけだった慎一が、 ようやく動き出したのは、 きっと暮石が身を翻す瞬間だった。]
(461) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ かけられていたのは賛辞なんだろう。 それから種明かし。謝罪。肯定の類。 慎一の頭はまだちっとも追い付いてないのに、 こんなところに置き去りにしないでほしい。 いつもみたいにゆっくり話してほしかった。 暮石がなんで笑ってるかもわからないまま、>>309 反転する体に咄嗟に手を伸ばしてた。>>400 買ってきたものは床に散らばるんだけど、 慎一はあとで意地でもそれを食べるはずだ。 その手が暮石の腕に届いたか届かないか、 それってほんの一瞬のタイミングによるけど、 そのとき真っ先に慎一の口をついて出たのは、 なんていうか──、なんでそれだったんだろう。]
(462) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……じ、10円。こ、今度返すから。 まだ、持ってるから。 [ もっといろいろ言いたいことはあったのにな。 ピアノの話……は慎一は詳しくないけど、 それでもしたかった。文化祭の話ももっと。 夢の話だってちゃんと聞きたかったよ。 なんで過去形なの? 無理強いはしないけどさ。 それでも慎一の口をついて出たのはそれで、 ふざけてるんでもない、大真面目で──、 それでいてちょっとほっとしてるんだから、 今言ったカッコイイを3秒で撤回してもいいよ。]
(463) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ 乱したのが暮石だったとしても、 慎一も明らかに間違えていたよ。 どうせほかの誰も知らないんだから、 このふたりでもう清算しちゃダメかな。 なーんだそうだったんだって笑ってさ。 怒られるのはヤだから、今回だけ内緒で。 その無謀な10円玉作戦>>397は、 収拾がつくかどうか怪しいけれど……。]
(464) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ ピアノ、もう弾けないの? 弾かないの? ]
(465) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ ……とか、 それらは全部慎一の中から、 一番には飛び出してってくれなかったモノ。 誉め言葉へのありがとうも、 黙ってたことへのごめんねも。 暮石がそれでも走ってくってんなら、 きっとそれらは伝えられないまま。 慎一の頭の中をとうぶんの間、 ふわふわと漂うものになるんだろう。*]
(466) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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── それから ── ダメとは言ってねーし。 ……急だなあって思っただけ。 [ ちょっとひしゃげたパンとともに、 慎一はいつも昼を食べるときみたく、 椅子を鳩羽のほうへと寄せる。 ちらりと袋の中身に目をやれば、>>373 「……少ねーの」って一言つぶやいてやる。]
(467) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……そういえばさ、 時間は進んで、日付変わんないなら、 賞味期限ってどうなんだろ。 ……いつまで食って大丈夫なんだ、コレ。 [ ふと思い出したように言って、 パンの袋を見つめたりもしたけど、 ……その事実は未発見だった? あら。 それならあとで黒板にでも書いておこうか。]
(472) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ ……チャイムが鳴って消えた二人。 現れたマネキンそのものを、 慎一はまだ見に行ってはいない。 ただ事実としてそれを知って、 それでもできるだけ普通に、普通に。 会話を重ねていただんろう。 そんな中、まるで世間話みたいな調子で、 鳩羽が差し出してきたソレは、>>376 忘れたわけじゃなかったけれど、 慎一の目を丸くさせるには充分だった。]
(477) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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[ ……どうでもいい話だけれど、 きっと譲渡する段階でそのへんで洗った。 そういうことにしておこうよ、ね。]
(479) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……覚えてる。けど。 せっかくなんだから、 夏のうちに交換すればよかったのに。 [ ちょっとあきれた調子で慎一は言う。 だって、慎一にとってそれは、 ただのアタリの棒でしかなくて、 お店に持っていけばアイスがもらえる、 ちょっとうれしいアイテムに過ぎない。 だから──、 そんなふうに捉えられてると思わなくて。>>377]
(481) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……お守り、って。 [ 鳩羽はいつもと変わらない、 明るい調子でいるように見えた。 少なくとも慎一には、見える。 お守り。願掛け。神頼み。 そういうものに縋ることくらい、 誰にだってあるのかもしれないけど、 少なくとも慎一には少し意外だった。 だから、なんていうか……、 何にどう縋るかは自由だけどさ、 少なくとも慎一は思うんだけど、]
(482) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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学校生活が楽しくて、 悪いこと起きねえのは、 その棒切れのせいじゃないだろ。 [ みなまで言わないけどさ。 何気ないを装いながら言って、 甘ったるいミルクティーを啜ってる。 いつもと同じパンをかじりながら、 鳩羽が言葉を重ねるのを聞いている。 この世界の主についての思考。>>379 それにはなんとなく共感できるものがある。]
(483) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……文化祭の思い出。 だったのかなあって思ったけど、縋るもの。 [ メールを見ての感想だけどね。 ここは慎一もひとつ無責任に想像しよう。]
……縋るものがあってもさ、 もうダメだーーって。疲れちゃったんじゃないかな。
[ 慎一にはそんな感じに見えたよ。 それに、それなら想像の範疇だった。
だから、手に取りやすい仮説として、 正解なんてない問いに今日も挑んでみよう。]
(484) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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……でも、呼んでくれたんだよな、ここに。 ここにいた、10人くらいだけ。
……誰なんだろう。 誰でも、ヤだけど。 レンは──、どう思う?
[ やっぱり慎一の口調は、 そこまで元気いっぱいではないかもね。
「ここはお前の世界?」とも、 「そうじゃないよね?」とも聞かず、 慎一はなんだかずるい聞き方をしてる。
日常めいたことしてるくせ、 非日常的な会話をはじめながら。 パンの袋の縁をゆっくりとなぞっていた。*]
(485) 2021/06/11(Fri) 17時半頃
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── 昼・教室 ──
え。あ、うん。 朝、なんかおかしいなって思って。 今、これ見てて思い出した。 日付が変だったんだなあ。
……時計は動いてんのにな。 なのに日付は書き換えられないって、 食べ物、腐んのかな。季節はずっと冬? ……年も取らない、とか。
[ 慎一は日付、覚えてる。賞味期限も見る。 ゴミの日は知らない。それは父の役割だから。
食材の経過に意識が囚われそうだったから、 あれこれ並べ立ててみたんだけれど。>>493]
(526) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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[ ここにずーっといたら。 それってつまり、死んじゃったらって、 そういう仮定をするのと同じなんだろうか。
頭をよぎった考えがあんまりで、 慎一はそれを頭の中から追い出そうとする。
チャイムが鳴って、これがはじまって、 ひとり消え、ふたり消え、…………。]
(527) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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[ ……無事に合意が得られたようでよかった。>494 慎一もそのくらいの常識は持っていたいから。
とにかく、よくない方向に傾く思考を、 一本の棒切れが遮ってくれたんだから、 もう少し感謝してもいいんだろうけど。
目を細めるしぐさ。>>495 少なくとも同意と取れないその声が、 慎一にとっては思いがけなかった。
なんか、別にさ、悪い意味じゃないよ。 でもこのままってのも誤解がありそうだし、 パンに向けてた視線をチラリと鳩羽に向けて、 慎一は口の中のものを飲み込んでから言う。]
(528) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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……そ。日頃の行いだろ。
[ それ、ジンクスっていうんだけどね。 慎一にはそれなりに馴染みがある言葉。 信じるも信じないも個人の自由──だけど、
天の神様に委ねる間もなく、 君が鳩羽憐だから、どっちみちそうなるかなって。 慎一は自分の感覚以外に裏切られたこともないし、 そんな甘っちょろいことを考えたりもする。
……あくまで慎一の見解。 疑問符にごく短い文章を返答として添えた。]
(529) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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なるほど、って言われても、 わかんねえよ、考えただけだし……
[ 目の前でまばたきがひとつ。>>496 その拍子に鱗がこぼれることはなかったが、 だけどその素直な表情にさらされてると、 一応、予防線をはりたくなっちゃって。
まったくほんとに、 見てくれだけはいつもどおりだってのに、 会話の内容はこれっぽっちもそうじゃない。
鳩羽が慎一の考えと似たことを言って、>>497 慎一はこくりとひとつうなずいた。
……これは俺だって考えてたマウントじゃない。]
(530) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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……だと、いいなって。
[ 最後に思い浮かべた。 だからここにいる。ある。という仮説。
慎一は言葉少なにそれを支持しよう。>>497 だから自分がここにいるんなら、 そうじゃないより、慎一はうれしい。
……それだけの理由だったけれど。]
(531) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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[ 「どう思う?」漠然とした問いかけに、 返ってきたのが存外きっぱりしたもので、>>500 慎一にとっては思いがけなかった。
首を横に振る仕草を、 サンドイッチにかぶりつくのを中断して、 無言のままにちょっと見つめちゃったくらい。
……慎一から見た鳩羽の印象を言おうか。 元気で明るくてひょうきんで、 人の探し物にヤな顔ひとつせず付き合う、 なんていうか……清々しいくらい、良いやつ。
言わないけどね。声に出しては。 でも、だから、鳩羽なら、 無条件に世界の持ち主を探してると思ってた。]
(532) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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[ そんな鳩羽が言葉を紡いでく。>>501
迷いや後悔、そういったふうの。 慎一からすると、これも意外なんだ。
どれだけ人を平面で見てるのって、 神様か誰かに叱られちゃいそうだけど、 ああ、そっかあ。って慎一は思う。
炭蔵の体に起動ボタンがなかったように、 暮石の瞳の形をさっきはじめて知ったように、 慎一には見えてないものがたくさんあるのだ。]
(533) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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[ 食事をする手を止めたまま、 慎一は口の中のものちゃんと飲み込んで、 それからゆっくりと口を開いた。]
「してほしい」んじゃなくて、 「したかった」のかもしれないじゃん。
挨拶とか、お別れパーティーとか、 ……単純に最後に顔が見たかった、とか。
あのメールの送り主が、死のうとしてたなら、 どっちかっていうと、そうじゃないのかなあ。
[ 自信なさげに慎一の声はふわふわ浮かぶ。 もっと溌剌元気といけばいいんだけど、 話題からしてもふわふわさせてて問題ないよね。]
(534) 2021/06/11(Fri) 20時頃
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