18 星間回遊オテル・デカダン
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『俺の部屋に例の酒を置いてある』
『俺はいねぇが勝手に持って行ってくれ』
[あのクソ狸ならそう簡単にくたばらねぇだろう、そう信じてギョウブの部屋の端末にメッセージを送った]
[規定通りなら次の港に着くまで、部屋はそのままで、部屋の住人の名義もギョウブのままだ。
もし、ギョウブが再びこの船に搭乗することがあればこのメッセージを見ることができるはずだ]
[次に停泊するのは補給基地だから、部屋は片づけられることはない。だから、そこでギョウブがこの船に帰ると信じて]
飲むときに俺に感謝することだな、酒の提供者によ。
[部屋の目立つところにボトルを置き、部屋の整理を再開した]
[ミームの手の内で、『萎れない花』が咲き続けている。
栄養も水も必要としないそれは、生きているのか、死んでいるのか。
涙にも、血にも汚れず。ただ咲き続ける。
その花弁のように、記憶は鮮やかに残り続けるだろうか]
[ミームの荷物の中で、『視界情報記録眼鏡』が時を待っている。
封じたものにいれたメッセージ入りのものではなく、ただ。
サイドテーブルから、惨撃を。懇願を。願いを。命の最後を。
記録し続けたそれが、真実を告げる時を待っている。]
──昨日/自室──
……こいつら勝手に増えてねぇか?
[物の多さにうんざりしかけていた頃、ガラクタの山からある物が姿を現した]
これは……チョウチンってやつか?
[以前の仕事で うちの種族の特産品です ともらったものだったか?自室に飾るには合わないので放置していたが……]
イザカヤにこんなのがあった気がするな……。
[ふと、何かが降ってきた。
整理の手を止め、デスクから紙を一枚取ってくると蹲り、ガリガリと紙に降ってきたものを描き殴る]
ここを、こう……壁にメニューがあって……、カウンターは……。照明は……薄暗く……、チョウチンで光量を……。
[ラフをあらかた描き終えたところで我に返る]
こんなことしてる時間ねぇっつたっろ!!!
馬鹿か俺は!!!
[馬鹿だと思う]
[ともあれ、片づけの邪魔になると、ラフと提灯を提灯をデスクの引き出しにしまい込む]
[もし、誰かがこれを見つけてくれたら。
そんな淡い期待を胸に……。]
― ジェルマンの部屋 ―
[寝具や、もう使えないと判断された生活用品は取り外され。
真っ赤に染まった床は洗い流され。
保証に入っていた分の荷物は運び出され。
肉片は加熱、消毒の上廃棄されて。
少女が持ち出したものは、『無いもの』と判断された。
回収されることもないだろう。
部屋はすっかり綺麗になっていく。
そこに男が存在していた痕跡が消えていく。
懇願を、聞き届けられていたら、
そもそも部屋には誰も来なかっただろう。
話し合いを、するつもりがあるのなら。
血は流れなかっただろう。
選択権はいつだって、力の強いものに存在する。]
[それを理不尽だと言うのなら、世界には理不尽しかない。
理不尽だらけの生の中で、それでも、取れる選択肢はひとつではない。
最後に男が選んだのは自己犠牲だった。
あの時、PJを守ったのが自分だと申し出なければ。
あの時、誰かを代わりにと申し出ていれば。
もっと良い取引を持ちかけたのなら?
結果は変わっていたかもしれない。
それでも、男は選べるカードのなかから、それをとった。
選べる中ではもっとも確実に、『自分以外』を守れる手を。
ミーム、サラ、PJ、デリクソン、ハロ。
そのうちの誰も、身代わりにと差し出すことは。
男には出来なかった。
後に、誰かはそれを優しさだと、勇気だと呼ぶかもしれない。
しかし、男はそれを、弱さだと思っていた。]
[時間が足りなかったのだ。
他の選択肢を模索するには。
団結を促すには。
信頼を築くには。
そして、互いを理解し合うには。]
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― 自室 ―
[机の上の器具を洗浄し片づけていく。少量であっても星喰いアメーバからとった体液だ。熱したり冷やしたりが簡単な量とはいえ、慎重に。医療ロボットにも手伝わせた。
ひと段落のころ、部屋のドア近く、船のほうから用意されたモニターからミツボシの追放を選んだ。 本人にも検査の結果を知らせた事自体は、星喰いアメーバ自身が検査された事を理解しているだし、伝えても伝えなくても安全さに大きな違いはなく思われたからだ。 損得では決めかねた。だから『とりあえず』疎外を選ばなかった。>>30]
(81) 2022/05/13(Fri) 16時半頃
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― 廊下 ―
部屋の清掃をお願い。 ……どこに向かうところだったの?
[廊下に出て、たまたま行き会ったロボットに尋ねるに、ジェルマンの部屋だという。その時点で血が冷えていくような感覚があった。 更に聞けば、悪い想像通りの返答があった。]
(82) 2022/05/13(Fri) 16時半頃
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……、…… そう……
[ロボットはジェルマンの部屋の清掃のために行き来している一体だった。 ジェルマンはこうなる事も考えていたろうし、覚悟もしていたろうし、それに挑んでもいただろう。けれど、それと『死にたいかどうか』は当たり前だが別の話だ。
検査結果が出た後は、ミツボシは必然冷凍追放されるだろう。その上でジェルマンを敢えて殺した。PJにはそれが、殺しや捕食への強い衝動のように思われた。]
…… お礼をするにも、 亡くなってしまってはできないわね。
[ジェルマンは、命の恩人だ。]
(83) 2022/05/13(Fri) 16時半頃
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― 廊下→自室 ―
[廊下にいた清掃ロボットに、手が空き次第でもいいから、1体だけこちらにも寄こしてくれと指示をした。 そして、どこへ行くつもりもなくなり部屋へ引き返した。 相談すべき事が今日は無い。
ロバートの死んだ日。劇場で泣いている自分に、ジェルマンがくれたのであろうメッセージを読み返したくなった。 その文章は、彼の思考や決意の形跡だと思うから。**]
(84) 2022/05/13(Fri) 16時半頃
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服飾商 PJは、メモを貼った。
2022/05/13(Fri) 17時頃
― 3日目以降のいつか/ロバートの部屋 ―
[かつてのロバートが住んでいた部屋は、きれいに掃除されていた。豪華回遊客船『オテル・デカダン』が今後も運行されるのならば、別の誰かが使うこともあるだろう。
ロバートの遺品に、引き取り手はいない。
『星喰いアメーバ』の危機が去り、無事に補給港へ辿り着いたとしても、ロバートの死を伝えるべき相手は誰もいなかった。
彼の主人は、犬をこの船に預けてすぐに、原因不明の宇宙船事故で死亡していた。そのことをロバートは知らされてはいなかった。いくらか予感めいたものはあったにしろ。
「ここで待っていてくれ。必ず帰ってくるから」
主人との約束は、ロバートの生死に関わらず、ずっと前に果たされないことが決まっていた。]
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