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【人】 架空惑星 レン (80) 2021/06/12(Sat) 10時半頃 |
【人】 架空惑星 レン (82) 2021/06/12(Sat) 10時半頃 |
【人】 架空惑星 レン (83) 2021/06/12(Sat) 10時半頃 |
【人】 架空惑星 レン (85) 2021/06/12(Sat) 11時頃 |
【人】 架空惑星 レン── 夜遅く ── (90) 2021/06/12(Sat) 11時頃 |
【人】 架空惑星 レン (92) 2021/06/12(Sat) 11時頃 |
「なんで俺の世界じゃないと思うの?」
[ 聞けなかったから、慎一は自分で考えた。
正解なんて結局わからないままだけどね。
単純に先に有力候補がいたせいだとか、
まっさらな手首のせいだなんて知らず。
あの校舎に迷い込んだ最初の日。
保健室に向かう道中話してて思ったんだ。
もう疲れちゃったなあ。
世界の主にその自覚がないのなら、
慎一の可能性だってあるかもしれない。]
[ きっかけなんて日常にいくらでもある。
朝、卵を切らしてたかもしれない。
うっかり右足から靴を履いたかもしれない。
購買のパンが売り切れてたかもしれない。
筆箱に混ぜ込んだままの10円玉と、
ふとした瞬間、目が合っちゃったかもしれない。
そんな些細なことが今も慎一の首を絞める。
気づいたらぽたぽたと水をこぼしていたりする。
何がそんなにつらいか自分でもわからないのに。
なんで? って繰り返してきた自問自答に、
仕方ない。慎一はそういうふうにできてる。
治らない。それが慎一の生まれ持った形だ。
何かの拍子にそう答えを出しちゃったなら、
その瞬間から慎一は死にたかったんだろう。]
[ でも、違うよって言われたから、
今度は死なない理由を探してた。
死にたくなっちゃった慎一が、
それでも死ななかった理由を。
先を越されちゃった、とかはナシにして、
それでも踏みとどまる理由を見出すなら、
たぶんそれって、さみしいからだ。
死んじゃったらその先ずっとひとりでしょ?
それはさみしいなあって踏みとどまった。
……いや、幽霊も天国も地獄も、
慎一は信じちゃいないんだけどさ。
漠然とした死後のイメージで語ってる。]
[ エラ呼吸が下手なくせ、水の中は好きだったな。]
[ …………。]
── 現在・家 ──
[ バタバタと騒がしい物音で目覚めた。
自宅の自室。自室というか、共同部屋。
部屋の数が足りないから、
慎一は弟たちと大部屋に押し込まれてる。
妹はひとり部屋でいいなあって思うけど、
「女の子だから」って一蹴されたのだ。
やむなし、男子高校生3人で、
ハンガーラックや本棚を駆使して壁を作り、
年から年中陣取り合戦をしている。
それが、慎一の育った家の話。]
[ 慎一はふつうにベッドに寝ていた。
体を丸く縮こまらせて眠るのは癖。
ゆっくりと手足を伸ばして起きる。
物音は部屋の外からしてるみたい。
寝起きの足元はちょっと覚束ない。
閉じていたドアをふつうに開いた。
電気の消えてた部屋から顔を出し、
慎一は目の前に広がる光景に言う。]
ヨースケ、なっちゃん、
うるさい…………。
[ 互いの髪や服をひっつかんで、
取っ組み合ってたふたりがこっちを見る。
きょうだい4人の中で喧嘩が起きるのも、
喧嘩に混ざってないときの慎一が、
その声や物音に苦言を呈するのも、
この家族には珍しいことじゃないから、
何も驚くような顔することはないんだけど。]
[ いつもはこれでもかと言い返してくるのに、
ふたりはしげしげと慎一を見つめてから、
代表して弟のほうがこちらを指さしてきた。
「血ぃ出てるよ、そこ」……はて。
どこだろうかと指先を自分の肌に這わせれば、
首の正面あたりに違和感と、触れたときの痛み。
あわせて、理由なんてわからないし、
今の今まで気がつかなかったけれど、
ぽたぽたと涙がこぼれっぱなしだった。
弟も、妹も、それ以上なんにも言わない。
慎一がベッドでめそめそ泣いているなんて、
別に、珍しくもなんともないもんな。
慎一が黙って袖口で目元を拭っただけ。]
[ どうやらめそめそしてるうちに、
そのまんま寝落ちていたらしい。
それで……なんだっけ。
さらにごしごしと目元を拭いながら、
慎一は止まらない涙に途方に暮れる。
……ああ、そう。夢を見てた。
夢……? それで慎一は思い出す。
そりゃあ、涙も止まらないわけだった。*]
[ スマホを見て、九重からのメールを読んで、
慎一は今、自転車で病院に向かっている。]
[ スマホに目を通し切った時点で、
わたわたと目に見えた慌てて、
着の身着のままで飛び出そうとした慎一に、
弟は「兄ちゃん、とりあえず顔洗え」って、
ぐいぐい洗面所のほうに背中を押して、
妹はでかい声で「おかあさーん」って言った。
なんか大変っぽい。
いや、お兄ちゃんじゃなくて。
お兄ちゃんはいつものやつ。]
[ ……うん。いつものやつなので、
事情を知った両親からは、
割とスムーズに病院に行く許可が下りた。
なんかあったら連絡しなさい。
あと、自転車のライトはちゃんとつけること。
二点、玄関先で念押しした母の後ろから、
心配性の父がウィンドブレーカーを差し出した。
ほら、暗闇でちょっと光るタイプのアレ。
…………ダサ。
つぶやいたのは慎一じゃなくて弟の片割れ。
それどころじゃない慎一は、
素直にコートの上からそれを羽織って家を出る。]
[ 夜道。ペダルを踏みこみながら、
慎一はあの握りしめられた左の袖口を思う。
「慣れちゃった」って言ったあの口ぶり。
床に散らばったカッターナイフ。その替え刃。
「痛くない?」って聞いたとき。
「試してみる?」なんて保健室で言ったとき。
いくらでも点と点をつなぐ瞬間はあったのに、
たぶん、慎一は見ないフリをしていた。
自分のことで手一杯だから。
人のものまで抱え込んじゃったら、
きっと、もっと息がしづらくなるから。
……「むなしい」ってこういうことかなあ。
それとも、これは「くやしい」なのかなあ。]
[ 慎一の言葉でいうなら、悲しかった。*]
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