14 冷たい校舎村10
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— 打ち上げにて —
[河合さんが退院してから、どれくらいの時間が経ったかは置いといて。 病院で夏見さんと話した計画の通り、 だだっ広い我が家で打ち上げが開かれただろうか。
時期的には受験シーズンでもあったから、 何人かの合格報告も聞けただろうし、それのお祝いも兼ねている。
何かしたいことがあれば準備はそちらに任せるとして、 俺は客間のテーブルにもてなし用のお菓子を並べていた。
目玉が飛び出るほどの高級品! ……というわけではないけど、 コンビニで売っているようなものよりは、1段階グレードが上のものたちである。]
(234) myu-la 2021/11/19(Fri) 23時半頃
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あっ虎次郎、先に食うな。 乾杯の用意してんだろ。
[ジュースを注いだグラスを持ちながら、 さて乾杯の音頭を委員長にでも頼もうか。
今日の主役は河合さんだ。 こっちの世界に帰ってきて良かったと思わせる手厚い歓待を頼むよ、みんな。
と思ったはいいけど、みんなはもっと肩肘張らない集まりを御所望だったろうか。 会社の創立記念日のパーティーを参考にしたところがあるので、 そこはまあ、ごめん。]
(235) myu-la 2021/11/19(Fri) 23時半頃
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[グラスを掲げて、 その時に声を合わせて交わした言葉は、 「退院おめでとう」だったか、「おかえり」だったか、それとも。
冷え切った校舎では決してできなかった、 心の隙間を埋めるための賑やかな時間が始まる。*]
(236) myu-la 2021/11/19(Fri) 23時半頃
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— 3年後 —
[冷たい校舎の中にいなければ、必然と時は流れる。
卒業後、俺はユイの結婚式に参列した。 そこで死んでやろうと思ったのはもう遠い昔のことみたいで、 彼女の将来を純粋に祝福することができたと思う。
まあ、もう会うこともない。 会社同士の付き合いという義理も、これで終わるのだ。
式場を後にした俺に、もう未練は残ってなかった。 そして——]
(302) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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「ちょっと、ぼんやりしすぎじゃないですか?」
[目の前の女性が、不機嫌そうにこちらを見ている。 小柄だけどキリッとした目つきは、こちらの寝ぼけ眼を射抜くよう。]
「顎のところのキズ。 はしたなく見えますよ、それ」
[俺の顔を覗き込んだ後、辛辣に言葉を投げて背を向けていった。 顎のところを撫でると、小さい傷があることを思い出す。 どうやらヒゲ剃りの時にミスっていたらしい。]
(303) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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[彼女は紙の束を取ってくると、無言で俺の膝に乗せた。 今日の研究発表で使うための欠かせない資料だ。 ぼんやりしている間にこれを準備してくれた手腕には敵わない。]
「困りますよ。しっかりしてもらわないと」
[心の底から呆れた顔で、最後に釘押しをして立ち去っていく。 その背中に、笑って声をかけた。]
いつもありがとう、セイカ。
[資料を持ち上げて、さて、と背伸びをした。]
(304) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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[進学先の大学で——紆余曲折あって一緒になった、 イシズ製薬の協力会社の社長の娘さん。
父さんからの紹介により巡り合って、そして婚約する羽目になった。 結局、俺は拒否をしきれなかったのだけど、 今回はユイの時とは違って、関係性は対等。
新たな婚約者のセイカは優秀で、何事もストレートな物言いをしてくれる。 高いヒールを履いてよろけたりしないし、夏祭りに浴衣を着てくれることもない。 優しい言葉をかけてやれば、「気味悪いんですけど」と返してくる。
だけど、何を考えているのかを逐一伝えてくれるから、とても助かっている。 たまにうるさい時もあるけど。]
(305) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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[今のところ、セイカは俺のことを恋愛対象として見てはいないようだし、 俺も、そういう目で見れているわけじゃない。 それでも俺たちは婚約をすることになった。
……上手くいくかはわからない。 けれど、前よりは上手くやれているといいな、と思う。
もし上手くやれたなら、いつか結婚式の招待状を、 あの時の校舎に共に閉じ込められたみんなに送るよ。]
(306) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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[結婚とは、恋愛の末にするものではありません。 結ばれてから相手に慣れていくことを言うのです。
父さんの部下に言われたいつかの言葉が、何度も反響する。
俺の人生は、やっぱり少し特殊で、 どこかに恋愛を差し挟む機会は巡ってこないらしい。
それでも、その時に抱いてしまった余計な想いが、 何かの役に立つ日が来ますようにと願って止まない。
人を好きになれることが、 素晴らしいことだと言うのならば。]
(307) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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[先に行ったセイカをゆっくりと追いかけるように、 資料を抱え直して大学の廊下を歩いていく。
足元には卵が落ちていることもないが、 落ちていたとしたら、今は見落とさない視界の広さで。]
(308) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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[敗者は誰にも求められず、ただ消えるのみ。 そう思っていた。
潔く、敗者であることを認められたのなら。 その時、誰が見てくれていたのかを、ようやく知るのだろう。**]
(309) myu-la 2021/11/20(Sat) 22時頃
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