10 冷たい校舎村9
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[ 棒倒しみたいな危ういバランスで、 でも倒れずに自分は生きているんだと思ってた。 危ういけど、私は倒れないって思ってた。 じりじりと砂を削られても削られても、 なかなか倒れないから、 いつか倒れることなんて忘れてたの。
倒れる時はあっけないんだってこと、忘れてたの ]
(209) 2021/06/10(Thu) 20時頃
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[ 認知のゆがみに私は気づかない。 自分は違うと思いながら、 他のみんなのことも違うと思っている。
どこかに必ずこの世界の主はいるはずなのに、 誰のことも「きっと違う」と思っている。 全くイメージが浮かばない「誰か」に対して、 どうして気づけなかったんだろうと胸を痛めている ]
(210) 2021/06/10(Thu) 20時頃
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[ 芽衣が案内してくれた購買のお菓子コーナーには>>155 いろんな種類のお菓子があって、 どれも美味しそうで、目移りして困る。 ほとんど食べた記憶のないスナック菓子? それともチョコレート? チョコレートも種類がいっぱいで、 どれを選べばいいのかよくわからない ]
そうだねー。
[ 芽衣に返事をしながら、 綿見さんは私が買ったお菓子を受け取ってくれるかなあ? なんてちょっと弱気になってしまう。 食べ物に罪はないから、受け取ってほしい ]
(211) 2021/06/10(Thu) 20時頃
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[ 芽衣が選んだのはドーナツ。>>156 だけど、私はこんな小さいドーナツ食べたことなかった。 ドーナツも、やっぱり私にとっては、 母が作るものだったから ]
子供の頃、覗いてみようとしたら、 行儀の悪いことはやめなさいって怒られちゃった。
[ 食べ物で遊ぶのはやめなさい、だったかな。 母はそう言うことにもうるさかった。 ちゃんと手を洗って。椅子に座って。 両手できちんと持って食べなさい。
見えるもの、同じ。>>157 きっと芽衣は何の気なしに言ったんだと思う。 いつもの私なら、そうだねって流して、 それで終わりだったと思う。 でもなぜか……なぜかその時は、 思わぬ言葉がぽろって零れた ]
(212) 2021/06/10(Thu) 20時頃
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同じかな。同じ、なのかな。
[ 私はドーナツの穴を覗いてみたことがない。 だから本当にその先に見えるものが同じかはわからない。 ……なんてことを言うつもりはないけど ]
私と芽衣が見えてる世界は、実は全然違ってたりして。 ……なんてね。
(213) 2021/06/10(Thu) 20時頃
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ごめん!なんか、変なこと言っちゃった。 あ、私はこれにしようかな。
[ 私はそう言って、チョコレートを手に取った。 冬季限定って書いてある。 よくわからないけど、 冬しか食べられない特別?なチョコレートってことよね。 特別?の割には、あのチョコにもこのチョコにも 冬季限定って書いてあるんだけど* ]
(214) 2021/06/10(Thu) 20時頃
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―― 現在:教材倉庫 ――
ちがう。私、被害者なんて思ってない。 綿見さんが悪いなんて、思ったことない。
[ 必死に伝えても、私の言葉は届かない。>>193 私、自分が何かしたとしか考えたことなかった。 私の何かが不快にさせたとしか思ってなかった。
綿見さんを惨めにしている。 綿見さんを虚仮にしている。>>194 正しい良い子ぶっている。
そんなつもりなかった。 でも、やっぱり私が優等生のふりをしたことが、 綿見さんを不快にさせた? でも私、こんな風にしか生きちゃいけないんだもの。 やっぱり、私の存在そのものが、 綿見さんを不快にさせてる? ]
(241) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[ 目の前が真っ暗になった、その時。 綿見さんのまとう空気が変わった>>195 ]
(242) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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……え。あ、うん。 黒沢だけど……? だ、大丈夫?
[ へなへなと座り込んでしまった綿見さんに>>197 ぎょっとして、慌てて私もしゃがみこんだ。 めまい?貧血? どうしたのかと、綿見さんの顔を覗き込もうとしつつ、 頭の中では現状を整理しようとして ]
(243) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[ そう、今何が起こっていたのか、 冷静になるターンっていうものがやってくる。 えーと、綿見さんはどうやら私を誰かと人違い?して、 ……今、この校舎に入る女子って あと芽衣と番代さんだけだったと思うんだけど、 とりあえずそれは置いておいて、 私は人違いされてるのに気づかずに、 みっともなく子供っぽいお願いみたいなことをした、と。 ……冷静になってみたら 相当恥ずかしいことを言ったような気がする。 嫌わないでほしい、って。 嫌われてるの、辛いって。 なんというか……なんというか、伝えるにしても 他にもっと言い方ってものがあったんじゃない!? ]
(244) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[ 自覚するともう駄目で、どんどん顔が熱くなる。 きっと今私は耳まで真っ赤になってると思う。 蚊の鳴くような声で、私は何か言葉を探した ]
え、えーっと……誰と間違えられたか ちょっとわからないんだけど…… ……その、綿見さんを虚仮にするような人は、 正しくないし、いい子じゃない、んじゃないかな……。
[ もごもごと言ったけど、これはその、 いたたまれなくて、頭が回らないまま口走っているので あまり気にしないでほしい* ]
(245) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[夜のお菓子パーティー。
ああ、楽しかったな。
鞄にポッキーを忍ばせていたので、それを取りに行って加わった。
眠くなるのはすぐだったけど、それまでお菓子を摘みながらのトークに参加したっけ。
お泊まり会とか、憧れるじゃん。
閉じ込められてなんかそれどころじゃなかったけど、
あの時間はそれに近かったんだなって、思えばそうだね。]
[もう一度やろうよ。ね。
両親は外でお泊まりとか許可してくれないだろうから、
じゃあ、うちを使わせてもらえるように説得するから……。]
— 自室 —
[目覚めて体を起こす。
お腹のあたりを撫でるけど、特に何の怪我も無い。
やけに生々しい夢だった。
部屋の明かりが眩しい。
眠る時はいつも常夜灯の薄明かりを点けるので、
今は、そう、勉強の途中で一休憩してたんだっけ。
寝落ちってやつだ。]
……ふう……。
[夢の中でいろんな話をしたし、
思い出してしまったこともある。
なんだろう、あれはやっぱり現実だったのか。]
[こんな時、いつも現れるはずのぼたんの姿が、
なんだかやけに遅い気がする。]
[……スマホを開くと通知が届いていた。
クラスのグループチャットではなく、
個別送信という形で、利美ちゃんからメッセージが届いている。
『精神世界から帰れた皆へ』
……そして、続けて書かれたのは。]
乃絵ちゃんが病院に?
[精神世界というワードと、あの閉ざされた校舎のことが書かれており、
乃絵ちゃんがカッターナイフで自殺を試みて病院に運ばれたこと。
それが記されていた。
さっきまでのことは全部、夢なんかじゃない。]
[乃絵ちゃんの容態は良くはなく、助かるかどうかは半々とのこと。
利美ちゃんは一足先に病院に向かい、
離れゆく魂を掬い上げるための祈りの儀式を行うんだとか。
……それは何のことかよくわからなかったけど。
それなら私も勉強してる場合じゃない。
夜も更けた時間、外は当然真っ暗だ。
両親はまだ起きてるかな。
リビングを覗くと明かりが付いている。
良かった。そこにいる父親に、懇願するように声をかける。]
友達が危篤だから、病院に行かなきゃ。
お願い。
お願い、今日だけは……。
[驚いた様子の父親は、少し考えて、
わかった、と言い、奥にいた母親を呼ぶ。
夜に一人で外出するのは認めない。
だから母親が車で送って行くし、終わるまで車の中で待機してる。
それを条件に許してくれると言う。]
うん……わかった。ありがとう!
明日も早いのにごめんね。
[仕方ないわ、と母親が笑う。
父親は明日も仕事だから、車を出せるのは母親しかいない。
両親の取り決めた門限は絶対だけど、
でもやっぱり、この人たちは私を愛してくれている。
どんなに恵まれていることだろう。
母親が車のキーを取りに行く。
今日はその速度を追い越したりはしない。
部屋着から外出用の服に着替え、急ぎ身支度をする。**]
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―― 昨日の夜:購買へ ――
[ なんでもないって芽衣が言ったら、>>247 私はそっかって返事する。 聞きたいことは聞くよ。 言いたいことは言わなくていいよ。 多分それが私と芽衣のスタンスで、距離感だった。
芽衣のことを信用してないわけじゃない。 大事な友達だと思ってる。 でも、友達が少ない私は、壊してしまうのが怖くて、 繊細なガラス細工みたいに怖々触れることしかできない。 シャボン玉が割れないように、 そうっと見守るような気持ちで、 私は芽衣との友情を大切にしてた。 向井君でも割れなかった窓みたいに頑丈な友情って、 どうやったら築けるのかな? ]
(278) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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[ 芽衣が選んだドーナツは、すごく甘いらしい。>>254 ほうじ茶もって言われて、そうするって頷いた。
怒られても、こっそり芽衣はやってたらしい。>>255 そうなんだ、って答えた私は、きっと目を丸くした。 怒られたことをこっそりするなんて、 私には考えられないことだった ]
(279) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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[ 母は、完璧な主婦であろうとしてた。 家はいつも綺麗に整っていて、 食べ物はいつもきちんとした手作りで、 子供のしつけにも熱心だった。
……それは、本当に母の意思だった? ]
(280) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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[ そんなことを突然考えたのは、どうしてだろう。 私の耳に、ばりんという袋を開ける音がして>>258 私ははっと我に返った。 見ると芽衣がドーナツの袋を開封してて、 え、これ、どういうこと? 全然意味が分からない ]
え、でも。
[ 差し出されたから、とっさに受け取ってしまったけど、 まだお会計すらしてなくて、 こんなところで、た、立ち食い?するつもりなの? おろおろしている私は、芽衣よりずっと背が高いのに、 まるで芽衣がお姉さんで、私が妹みたいだったと思う ]
(281) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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[ 芽衣は個包装を開けたりしなかった。 ビニールに入ったままのドーナツを覗き込む。 私がいるって芽衣は言う。>>259 乃絵ちゃんは?って芽衣が言う ]
え、あ。
[ 行儀が悪いからやめなさい。 食べ物で遊ぶのはやめなさい。 母の声が脳裏に響いて、ここは購買の中で、 私たちは椅子に座ってもいなくて、 そもそもドーナツは会計前で ]
(282) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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[ ここには私と芽衣しかいない。 それでも、心臓が早鐘を打っていた。 怒られたことをこっそりするなんて、 私には考えられないこと、だった。 少し震える手で、私はドーナツの穴を覗き込む ]
……芽衣が、見える。
[ 私をじっと見つめる、芽衣が見えた。 芽衣は、私を見てた ]
(283) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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[ 私の父は私を見ていない。 自分は間違っていなかったと証明したいだけ。 姉で失敗した、そのやり直しをしたいだけ。
私の母は私を見ていない。 私の母は、私が好きな食べ物すら知らない ]
(284) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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……うん。同じだね。
[ だけど、今、私は芽衣を見てて、芽衣は私を見てた。 ほっと息を吐きだして、 私はドーナツを目から離して微笑む。
お姉さんみたいな芽衣は、私の頭に手を触れる。>>260 前みたいにベンチで座ってるわけじゃない、 きっと触りにくいと思うのに ]
(285) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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……そうだね。その時は、聞いてね。
[ 時々、何が正しくて、 何が間違っているかわからなくなる時があるの。 私が白いと思っても、 父が黒だと言ったらそれは黒いことになるから。 そんなことがわからなくなるなんて 優等生失格だと思うけど ]
(286) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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えっ、そういうシステムなの!?
[ 冬季限定チョコレート。>>261 限定期間が終わったら、次の限定がやってくるんだって。 思わぬシステムにびっくりしつつ、 結局甘いものしか選んでないことに気づいたら、 番代さんや綿見さんの分まで、 お茶を買っていくんじゃないかな。 ……受け取ってもらえなくても、 明日飲めばいいんだし(弱気)* ]
(287) 2021/06/10(Thu) 23時頃
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―― 現在:教材倉庫 ――
[ お互い真っ赤な顔でしゃがみこんでいたけど>>269 大丈夫、今の私には綿見さんの顔が真っ赤なことまで 認識するような余裕はない。 具合が悪いわけじゃなさそうって確認するだけで 精一杯だった ]
(298) 2021/06/10(Thu) 23時半頃
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