14 冷たい校舎村10
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[ 連れ戻せなかったのにって莉希ちゃんは言った。
その言葉にどきっとする。
私も和歌奈ちゃんを連れ戻せなかった。
なんにもできずに帰ってきちゃった。
でも、今あたしが気になったのは、
莉希ちゃんの声が、自分を責めてるように
聞こえたことだった ]
莉希ちゃん。
……自分のこと、責めちゃ駄目だよ。
[ 先生の「責めてやるな」の中には、
今校舎にいるみんなだけじゃない、
あたしのことや、莉希ちゃんのことも含まれてると思う。
和歌奈ちゃんがもしも……もしも、帰ってこなくても。
あたしたちに、自分を責めるなって。
先生はそうも言いたいんだと思う ]
あたしもさ……なんにもできずに帰ってきちゃったし、
今も和歌奈ちゃんがどうして飛び降りちゃったのか、
わかんないままだけど。
でも、あたしたちがあの校舎に呼ばれたことにも、
きっと何か意味があったって思うんだ。
[ 帰ってきちゃったあたしたちは、
もう信じて待つことしかできない。
全員帰ってくること。
和歌奈ちゃんが、帰ろうって思ってくれること ]**
— 自宅 —
[背中がとても冷えている。
どうやら壁に凭れかかったまま眠っていたらしい。
首筋をさするけど、そこに傷はない。
あまりにも明晰な夢を思い出していた。
いや、もしかしたら夢じゃないのかもしれない。
人の頭の中に閉じ込められるという話が本当であれば、
自分はまさに、あそこから帰ってきたところなのだ。
確かめるようにスマホを開けば、
虎次郎と飯尾先生からの連絡が入っている。
自殺をしようとした人物の名前がそこに添えられて。]
……なんだよ。
そういうことかよ。
[夏見さんのマネキンを一緒に運びながら、
どうにも妙な感覚を覚えたけど、
あいつがそうだったなんて突きつけられれば、
頭の中がぐるぐるして訳がわからない。
あの場所でずっと何を考えていたのだろうか。
俺にはやっぱり分かりそうになくて。]
[どうやら先に帰った奴らが病院に集合しているらしい。
それなら行かない理由もないが、もう夜は遅い。
部屋を出て両親に一声かけようかとしたら、
どうやら母さんはもう寝ているらしく、
これから寝ようとしている父さんの姿を確認した。
病院に行ってくる、と、伝えようとしたその矢先、
父さんのほうから話を切り出された。]
「お前の結婚相手を探し直しているんだが、なかなか見つからない。
もうしばらく待て。」
[……そう、父さんはユイに俺との婚約を解消された日から、
ユイに代わる新たな花嫁候補を探し続けている。
その話を最近はしていなかったから、忘れかけていた。
そんなの、もうやめてくれよ。と返事できれば良かったけど。
父さんにとって俺を結婚させるのは会社のためだ。
結婚によって会社同士の結びつきを強くし、衰退を防ぐという目的。
俺はその駒に過ぎないことは、とっくに分かっている。
そんなことをしても、
ただ俺はずっと、余計に惨めなだけなのにな。]
……俺も、探してるから。
[だからせめて、父さんが決める前に俺が決める。
自分の意思で誰と結婚するかを決める。
逃れるにはそれしかない。
だけど今それをするには疲れ切っている。
考えたくもない。
逃げるように父さんに背を向けて部屋に戻った。]
[——病院に行く、と伝え損ねた。
さて、どうしようか。]
[コートとマフラーを適当に被って、自室の窓を開け放つ。
そして慎重にそこから身を乗り出し、外に降り立つ。
ここが1階で良かった。
庭に設置されている防犯カメラの死角は分かっているので、
絶対に足音を鳴らさないように、じりじりと移動する。
センサーが反応したら一巻の終わりだ。
外から窓に鍵をかける手段はないので、
閉めることができないのが非常にもどかしくて気持ち悪い。
万が一、泥棒が入り込んだら俺はもう、ヤバい。
それでも防犯意識とプライドと、死にかけているクラスメイトを天秤にかければ、
こうする他ないよなぁと思って耐える。]
[いや、むしろ。
泥棒が入り込んで何もかもを壊してくれたら、
逆に気持ちいいかもしれないなとすら思える。]
[うまく公道に出ることができた。
病院までは遠いが、少しでも走る。
運動部じゃないのがここに来て祟っている。
ああ、そういえば、
あっちの駅方面に向かえばタクシーが停まってるはずだ。
金ならある。そっちのほうが早い。
走って、走って、タクシーを見つければ、
ありがたく乗せてもらって。]
病院まで。
急いでもらえると助かります。
[少し遅れるが。
やがて俺を乗せたタクシーが、病院前に到着するだろう。**]
[七星さんに言われて私、自分が苦々しい顔を
しているのに気がついた。]
あ……うん、大丈夫だよ。
[気付けなかったのは悔しいけれど、悩みとか
弱みとか、みんな隠すのが上手いから。
そこはしょうがないって割り切ろう。
教室に集ったあの時も、和歌奈さんに不審な
動きはなかった。普通に見えた。
何が起こったのかわからなかったあの状況で、
ホストが和歌奈さんだと気づくには時間が
足りなかったと思う。
今頃どうなってるんだろうなって、
他のメンバーに思いを馳せた。]
[時が戻ったかのような校舎。
集められた文化祭の主要メンバー。
お祭りは準備が一番楽しいと言うけれど、
コツコツ作り上げた文化祭は当日だって楽しくて。
私もあの日に戻れたらなって、思ったことはある。
和歌奈さんも同じ気持ちだった?
それとも、何かやり残したことがあった?
だから私たちを呼んだのかな。
それすらも帰ってきてしまった私たちには
確かめようもないけれど。]
意味、かぁ。
あったかな。うん、きっとあったよね。
私たちがあそこにいただけでも。
[だから七星さんも、自分を責めたら駄目だよ。
私にそう言ったんだから。
ぎゅうって腕に力を込めて、真っ直ぐに伝えた。
―――帰ってこなかったらその時は、
和歌奈さんの選択だと受け止めよう。]
……帰ってきてくれて、回復したらさ。
快気祝いと打ち上げしよ。
だって文化祭また楽しんじゃったもんね。
なら打ち上げまでしなくちゃ。
それともクリスマスパーティーがいいかな。
場所は…石頭君ち借りちゃお、決定。
[それでも切な悲しいBADENDよりも
私HAPPYENDが好きだから。
そんな先を今から夢見て、信じるんだ。]**
─── 病院 ───
やっぱ居た。
来ると思ってた。
[息を切らせて病院へとたどり着けば
先に戻っていた3人も、いつの間にやら幣太郎も、集まっていた。
最初から分かっていた。ここへ来ることは。]
[退院がいつできるかわからないから、
クリスマス越しちゃったら忘年会。
それとも年越しパーティー?
年を越そうものなら新年会もついでにさ。
受験?一日ぐらい忘れたっていいでしょ。
そんな夢にしばらく思いを馳せた後、]
私、ちょっと様子見てくるね。
[もしかしたら手術終わってるかもしれないし。
そう言って少し名残惜しそうに身体を離したら、
何かを思いだしたようにその口をまた開く。]
……そういえば、さ。
私元気で明るいクラスのムードメーカーな
七星さんは悩みとかなさそうでいいなって
思ったことあるんだ。
でも、違うよね。
生きている限り、ないわけないもんね。
だったら一人で抱えないで欲しいって思うよ。
そりゃ、誰にも言えないことだってあると
思うけどさ。
その、七星さんも大切な友達 だからさ!
[あの遺書に共感や親近感という言葉を口にした
七星さん。
荒木君だって。
真梛さんや他のみんなも。
私が言えたことじゃないのはわかってる。
けど、言わずにはいられなかったんだ。
誰かが欠けでもしたら、私は哀しいから。]
―― 待合スペース ――
[ご家族は変わらずに待っていた。
少し離れた場所で、心配させぬよう
祖父母に連絡を入れる。]
……そういえば、
あれはBADENDだったなぁ。
[いつか見た演劇部の古い台本。
精神世界のホストたる主人公は、
揺れながらも絶望から逃れられず、
確固たる意志の元その世界に残った。
けれど誰もいなくなった世界で、
一人笑いながら泣いていて――… ]
[HAPPYENDが好きな私は、その終わりが悲しくて、
別の話に耽ったんだ。]
……帰ってきなよ
[あれからグルチャには何の反応もない。
だから石頭君や墨鳥君が帰ってきてるとは
微塵も思わず、ただ赤が消えるのを、待っていた。]**
くそっ待つしかできねぇか。
[それは全部分かっていたことだった。
けれども、居ても立ってもいられなかった。
理由なんて要らない。そうだろう?]
もしかしたらアイツは、戻ってくる気が無いのかも知れねぇ。
そんな事、望んじゃいないのかも知れねぇ。
[まちあいしつの重い空気に耐えられず、そんな事をポツリと口にする。ここまで来て明るく振る舞うのは、流石に無理だ。
それでも]
知るかよ。
[もう迷う必要なんてないから。]
オレはアイツに戻ってきて欲しいんだ。ただの我儘さ。でもアイツじゃなきゃダメなんだ。
呼ばれたんだ。
[それはあの世界へ呼ばれたという意味だけじゃない。
今集まっているクラスメイトはみんな、この病院へ呼ばれたようなものだから。]
ここまで来て、今更後に引けるかよ!
[ 大丈夫って言う莉希ちゃんの表情を、
あたしは慎重に確かめた。
本当なら、いいけど。確か莉希ちゃんは演劇部。
本当の気持ちを隠すのはきっと上手だと思う。
和歌奈ちゃんは天文部だったと思ったけどなあ。
飛び降りちゃうくらいの何かを抱えてたこと、
あたし全然気づかなかった。
あの校舎でだって、
校舎の主はあたしじゃないかと思ってたくらいだもん。
まあ、あたしがそんな風に思ってたのは、
誰にも死んでほしくないっていう願望も籠ってたけどね。
でも、それくらい、
あたしは何にも気づかなかった。気づけなかった ]
多分だけど、自分があの校舎の主だってこと、
和歌奈ちゃん気づいてなかったと思う。
[ 演技だったら?和歌奈ちゃんは役者さんになれると思う ]
無意識で、他の誰でもない、あたしたちを選んで、
呼んでくれたんだもん。
意味はあったって、思いたいなあ……。
[ それもやっぱり願望込みの推測だ。
だってもう帰ってきちゃったあたしたちにできるなんて、
それくらいだもん。
願うこと。祈ること ]
うん、ありがと!
[ あたしも、自分を責めちゃ駄目。
莉希ちゃんの言葉にこっくり頷いて ]
それだー!
快気祝いと打ち上げ!
[ 莉希ちゃんナイス!
あたしはぺちぺちと莉希ちゃんの背中を叩いた
そうだよ、他にもあるじゃん。
願うことと祈ることだけじゃない。
もっとあったよ。和歌奈ちゃんのためにできること ]
今は、待ってることしかできないけどさ、
和歌奈ちゃんが帰ってきたらおかえりって出迎えて、
和歌奈ちゃんが帰ってきて良かったなって思えるように、
この世界がもうちょっと居心地よくなるように、
できたら、いいよね。
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