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ーー裏門待ち合わせ/康生ーー
[当日、僕は黒のライダースーツに身を包み、彼のメットを後部にくくりつけて学校裏門に向かった。
そこには怪しげな変装の人物と初対面の中年男性。
バイクを止めてメットを取り。]
コウ?…えっと。
[隣がお父さんと聞けば挨拶するだろう。]
コウの友達の乾恵一です。クラスも部活も一緒です。
今日は少し康生くんをお借りします。危ない場所は行かないし人目も避けます。
息子さんを僕にください。
…じゃなくて、任せてくださいね。
[最後の言葉は少し変だった。慌てて言い直す。
彼にメットを渡した。バイクは
トライアンフ・スクランブラー400X。
僕の免許は400ccまでで、これはギリギリ乗れる。
見た目はシンプルでスマート、クラシックなバイクだ。]
ちょっとここらから離れるつもり。
[ネットで晒されたらどこに行ってもだが、人気が少ない場所に行くつもりだ。
彼が後ろに跨がってくれたら、白煙を吐きながら走り出すだろう。]
僕の腰にしっかり掴まって!*
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─裏門での待ち合わせ 恵一と─
[俺の免許は要らないって聞いて、ほっとした。]
[当日現れたケイの語尾は尻上がりだったから、変装の出来は上々らしい。久し振りに見たケイ
へへ。俺だってわかんなかった?
あ、こっちは俺の父さん。心配だからって一緒に待っててくれたんだ。
[父さんは「康生の父です」と短く自己紹介した。話せば面白いとこもあんだけど、基本的に真面目だし、愛想のある方じゃない。ケイの言葉に片眉を上げたけど、言い間違えが訂正されると「康生の事、よろしくお願いします」って軽く頭を下げた。]
ん、了解!
[ケイのバイクの後ろに跨って、言われた通り
そんじゃ父さん、行って来る!
[父さんは「気を付けてな」と俺らを見送ってくれた。*]
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ーーLINE/珊瑚ーー
[彼女に恋愛相談をしたのは随分前だ。
僕は入学当初に康生に一目惚れをしてしまい、その想いを打ち明けられるのは珊瑚だけだった。
珊瑚は康生の幼馴染みだから、色々彼の情報に詳しいし、親身に話を聞いてくれるから。]
(LINE)
『そっか、うん。
教えてくれてありがとう。
結構長く僕は意識不明だったからさ。その間のことはわからないし。
いや、確かに男と付き合う可能性はあるとは思うけど、珊瑚から今まで聞いた情報はみんな女の子だったじゃない?』
[そう。彼はモテモテなのだ。あれだけのイケメン、性格もいいなら当たり前だが。
ただ別れるのも早い。
そして聞く限り相手は女の子ばかりだった。]
『隠していたらそれはもう仕方ない。いると分かれば今までみたいに告白を控えるのは可能だけど。
取り敢えず今までの恋人は女の子なんだし、男子まで気にしても…三千院部長とかカッコいいから、彼がもしコウを好きでライバルだと勝てる気がしないが。』
[三千院部長は鋼メンタルの天文部部長だ。コウには負けるがイケメンである。
僕は珊瑚のアドバイスに耳を傾ける。]
『うん、ありがとう。
大丈夫、僕が気持ちを伝えたいのは、彼がどれだけ素敵で魅力的かを伝えたいが一番なんだ。
僕がこんなにも好きになるだけの輝きが彼にはあると。
そもそも同性だから嬉しくないかもだけど…
彼にゆっくり、花に水を与えるように愛情を注ぎたい。
それを彼が許してくれるなら、だけどね。』
[僕の誤解は、二人が幼馴染みで仲良しなの僕が知らなかった時だから仕方ないよ!
珊瑚に面倒臭いだの重たすぎる愛だの思われているのを知らない僕はつっこめないが、感謝してLINEを終えた。]**
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――旅行の日――
早くできるように僕も頑張るよ。
そうだ、写真はたくさん撮ろうね。
珊瑚さんの花嫁衣裳姿ずっと見られるようにね。
[
大和は多くは望んでいないけれど珊瑚との人並みの幸せを求めていて、珊瑚との出会いが彩りのなかった人生に色がつきはじめた始まりなのだからその証としたかった。
こんなにも優しく笑みを浮かべてくれるのだ。
ぎゅうと抱きしめて耳元で、星が多いほうが星座って分かりやすいよ、って囁いた]
うん、濡らさないほうがいいと思う。
学校は付けていくと没収されそうだし、
……うん、うん、そうしよ。
[大和も指輪を外して貴重品入れに入れておいた。
無くさないように小さな袋に小分けして擦れたりしないようにしておこう。
小皿に入れて飾るのもいいと思う。
その時は二つ並べて――またそれも写真で残せたらいいなと思う。
キスをまた重ねて、お風呂は一緒かなとうきうきしてたけど洗うところを見られるのは恥ずかしいらしい。
さっきも恥ずかしい想いをさせたから大和は素直に頷いた]
それじゃあ待ってるね。
離れて寂しくなる前に呼んでね?
[なんて残念そうに眉根を下げて小さく笑うと珊瑚が露天風呂の方へ向かうのを見送った。
以前に一緒にシャワーを浴びた時は――大和が丁寧に洗っていったんだったか。
またしたいけどそれは帰ってからでもできること。
呼ばれるまでの間に準備を整えて声がかかるのを畳の上に寝ころびながらまだかなーってごろごろしながら待っていた*]
ーー裏門→思い出にない海辺/康生ーー
[バイクの後ろに乗るのに免許はいらないし、年齢制限もないから安心してほしい。
彼の変装はちょっと犯罪者チックだが、彼だとわからない点では完璧だ。
紹介されたお父さんは彼とはあまり似てはない。彼はお母さん似なのかも。
お父さんに挨拶をし、僕らは出発する。
しっかり掴まる彼の腕を感じ、僕は少し照れながらアクセルを踏んだ。]
[心地よく風を切りながら進む。スピードを押さえ気味にしてるなら、走りながらの前後の会話も可能。信号では止まるしね。]
わかんなかったなあ。
それなら見つかることはないよ。
ただ、君の顔が見れないのは寂しいけど。
お父さん、心配して付いてきてくれたんだね。優しいな。
そう言えばコウの家族は避難所暮らしじゃないんだね。
おうちが無事で何よりだ。
うちも無事だった。
[流れる風景は全面から迫ってきて、背後に消えていく。
この爽快感を彼はどう思ってるのかな。]
あ、そろそろだ。潮の香りがする。
[暫く走ると真っ直ぐな海岸線が見えてきた。
僕はとある海辺の砂浜を目指す。今はもう夏を過ぎて泳ぐ季節じゃないからガラガラのはず。]
コンビニ寄る?飲み物とか買おう。メットは取ってね。
[海岸近くのコンビニ前にバイクを止める。コーラでも買おうかな。彼は何を飲むんだろう?
ーー海は静かに波打ち、僕らを待っている。]*
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─五回目の襲撃後─
夢の中は、なんだろう。穏やかだけどどこか寂しい夢を見ていたの。
合宿先の天文台で、わたしと命くんが二人きりで空を見上げていたの。
蟹座と獅子座を探して、綺麗な夢だったけれど──時々私が"ごめんね"って泣いてたんだ。
何がごめんねなのかわからない。
命くんは頭を撫でて私を落ち着かせてくれていた。
ただ、二人がそれからも一緒だよと言葉でも確認しあって寄り添う様が幸せそうでもあり、切なくもあって。
穏やかな気持ちだったのに私は起きた時じんわりと涙を滲ませていた。
でもやっぱり幸せな夢だった。
世界に二人きりでも、私は命くんと一緒にいたい。
まあでも目を覚ましたら命くんをマットレスみたいにして寝てて、あれ家かな?と思ったら周りがザワザワしてて一気に目が覚めた。
──ここ避難所だ!
「ごっ、ごめん命くん!重く無い!?」
てしてし命くんの胸元を軽く叩いて確認する。
幸い見え難い所にいたから見つかっては無いみたいだけど、だいぶ時間経ってたんじゃないかな?
そこからはみんなの方に合流して、今回の被害のことを聞いたりさっきのトラブルのことをお父さんに報告したりと色々していたけど…。
チラッと私たちを見て気まずそうにしていたり、あらあらまあまあしている人たちに私は不思議そうな顔を返しておいた。
キスマークのことはすっかり忘れてました!**
―― お久し振りです! ――
『乾先輩!』
『避難されてたんですね…!』
『意識無かったのは心配ですが…
無事だったなら良かったです!』
『(アヒルが嬉しそうに踊ってるスタンプ)』
[天文部のグループLINEにその報告を見付けたなら
見付けたタイミングで速連送。
他にも天文部内で連絡のない部員はいたけど、
関わりの深い先輩の無事報告には
どっと安堵が溢れてきて、思わず
目尻に涙が浮かんでしまった。LINEで良かった…。]
[その後に個別で送られてきたLINEに
相変わらず距離が近いな、なんて
クスクス楽しそうに笑いながら。
『はい!あたしは大丈夫です』
『ただ、遠方に疎開が決まっちゃって…
だから皆さんと思い出作りしたいなって
わがまま言っちゃいました』
『お手伝いありがとうございます!
でも実は、乾先輩の役割もう決めちゃってて』
『詳細は柊木先輩に聞いてみてください!』
『(花束を抱えたうさぎのスタンプ)』
[LINEを送り終えれば一旦画面を落として、
自分の「責務を全うするぞ!」なんて意気込みをし
ポスター制作へと没頭していった。**]
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――五度目の襲撃後日――
[シェルターの中で眠る珊瑚を抱きしめながら大和は優しく頭を撫で続けていた。
片手はずっと背中に回していて離れないように身を寄せて。
襲撃が終わったような感じはあって既に外に確認に向かっている大人がいる中でのんびりさせてもらっていた。
家ではいつも抱き枕みたいな感じなのでマットレスみたいになるのはこれはこれで良いものだった]
おはよう、珊瑚さん。
ん、んー……この重さは幸せの重さだね。
[てしてしされるとくすくすと小さく笑う。
珊瑚は多分軽い方だと思うけど、もし重くなっているならお胸が育ってきているのではないだろうか。
そんな大和は毎日お美味しいご飯を食べてヒョロっとていたのがガッチリしてきているので体重はかなり増えている。
よいしょと身体を起こして再び珊瑚と向き合う姿勢で座ると、いつものおはようのキスをしよう]
それじゃあ僕らもそろそろ行こっか。
[首筋は無理でも胸元は隠そうかとなるべく服を整えてあげて、またキスをしてから外に出よう。
報告とかいろいろしている中で視線を向けられたりして、ペアルックのように首筋にキスマークがある大和が傍にいるものだからきっとまた暫く話題の的だろう。
お義父さんはちょっと怖い顔してこっちを見ていたのでそっぽを向いておいた]
[襲撃が終わる度にもうロボットの襲撃がありませんようにと願われてきたはずだ。
二度目から五度目の襲撃は全て同じ街で行われ、一つの街だけが破壊されていった。
六度目はありませんように――きっと街に住む誰もが願っている。
忙しければ疑心暗鬼を抱く暇もない。
考える時間がなければ不安に苛まれる時間も減る。
結局災害地にて何かしら不穏な行動をしてしまう者は何もしていない人なのだ。
家や避難所で億劫に過ごしていると心が蝕まれていくのだろう。
或いはそれは外部から着た余裕のありあまっている人間か。
あの後、問題行動を起こした者は精神的療養の必要性ありとされて街の外へと移送されていくようになった。
何せ避難誘導のみならず支援をしている人間への暴行未遂である。
放っておいていいことは一切ない。
街へ入る者もチェックが厳しくなったそうだ。
こうした場所では火事場泥棒も横行するので当然だろう。
そうして人の波が調整されていきまた少しずつ復興が始まっていくだろう]
[家に戻ると大和は相変わらず珊瑚にべったりだ。
好みなのはやっぱり膝の間に座ってもらって後ろから抱きしめるパターン。
乾も無事だったとは珊瑚から聞いた話になる。
良かった、って短く答えて微笑んだ。
相変わらず柊木とは仲がいいのだろうが、海外にいると聞くと素直に驚いてしまうしお土産は何だろうねと呑気な話を振ったりする。
乾本人はそれどころではなかったらしいが無事だったならとそういう話もしていこう。
ところでこの頃になると珊瑚のスマホの中に大和の寝顔の写真があることには気づいてしまうわけで、その出所はどうやってもあの時なので顔を両手で覆って身悶える大和の姿が発生することになった]
そうだ、珊瑚さん。
なんかタヌキ明日にでも起き上がるんだって。
見に行く?
[ずっと倒れたままだったタヌキは割れてはいなかった。
合宿の日、お弁当とお菓子を受け取る待ち合わせの場所に使った信楽焼はこの辺りの復興の証として復帰するらしい。
少しずつ、少しずつ、街を元に戻そうとする動きは続いている**]
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ーーLINE/千映ーー
[グループLINEに僕が親近感を覚える後輩の文字が浮かぶと嬉しい気持ちに。
心配してくれてたのかな。
個人のLINEに返事を返す。]
(千映へのLINE)
疎開?そうなのか…
それはとても残念だし、僕は寂しい。
お別れ会を開きたいが難しいよね。避難なら一時的だが、疎開なら引っ越しだから、忙しいだろうし。
じゃあ、天体観測がゆっくりみんなで集まれる最後かな。
コウに聞くの了解。
そうだ、アメリカのお土産があるんだ。
七尾さんへのお土産は食べ物だから、天体観測に渡すのだと間に合わないと思う。
宅急便で送るよ。
[翌日、彼女の自宅に宅急便が届く。
中身はファットウィッチベーカリー」のブラウニー。
包装に可愛い魔女の絵があり人気商品だ。濃厚なチョコレート味のブラウニーはニューヨーカー女子に大人気。]**
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─バイクで移動 恵一と─
[見た目は完全に母さん寄りだけど、性格とかは割と父さん似なんだよな、俺。ま、あの短いやり取りじゃわかんないか。]
顔はな〜。ほら、俺って今有名人だし?
俺はケイの顔見れたから、それでいいんだよ。
[なるべく明るく話すけど、俺を取り巻く状況はあんまよくない。不用意に出歩いたら、知らん奴に高いとこから突き落とされて死んでもおかしくないレベル。あんだけ街壊したコーラと関係あるって思われてるもんな。避難所になんて行けっこないから、そこは敢えて流した。]
……ん、まあな。
あちこち傾いたり、水出なかったり、ガラス割られたりしてっけど。
住むとこあるだけ大分マシ、って感じ。
ケイんちが無事でよかったよ。
[うちに来てもらうことを選ばなかったのは落書きとかされてるからだし、ガラスはコーラのせいで割れたのもあるけど石投げ込まれて割られたのもある。それを「無事」って言っていいかわからない。ケイん家は本当に無事だろうから、そこはよかったなって思った。]
[話してて、思わず腕に力が入る。けど、バイクで風を切って走るのは気持ちよかった。俺が大好きな綺麗な世界は、確かにまだここに在るんだって感じられた。今だけは、やなこと全部忘れられる気がして。「ほんと、ケイが居てくれてよかった」って心の底から思った。]
そうだな、寄ろうぜ!
あ、俺スムージー飲みたい!
[もう夏もとっくに過ぎてるし、バイク乗ってたら体感気温大分下がるから、温かい飲み物の方がいいんだろうけど。なんか無性に飲みたくなって、俺は果物丸ごと入ってる冷たいスムージーを買った。メット取るのはちょっと怖かったけど、変装の甲斐あってか、街から離れたからか、特に誰かにバレることはなくてほっとした。]
海来るってわかってたら、水着持って来たのにな〜。
ま、さすがにもう泳げる季節じゃないか。
来年のお楽しみだな〜。
[買い終わったら、ケイの案内で海へ。陽の光で煌めく海を見て、俺は伊達眼鏡の奥の目を細めて笑った。人が全然居ないなら、マスクは外しちまおうかな。スムージーも飲みたいし。*]
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ーー海辺/康生と二人ーー
え、僕の顔?や、うん…そっか。
[意識不明で倒れていたなんて聞いたら当たり前か。
真面目な話、突然原因不明に倒れそのまま植物人間になる事例は沢山あるのだから。
それでも僕は、何処か嬉しかった。]
……そっか。でも、コウもご家族も無事で本当に良かった。
うちはちょっと離れてるし。
ロボット…動画を見たんだが、合宿で見た人型ロボットが勝ち続けているよね。
あれ、なんだかアイツが僕らの味方でさ、地球護るために戦ってるように見えて。
だとしたらカッコいいんだけど。…動画だからそう感じるんだよな、きっと。
コウやみんなは間近で怖かったよね…。
[戦いに巻き込まれて家が壊れたり、人が亡くなったり。そういうのを考えたらカッコいいなんて。
しかし、こんな気持ちが何処か僕にはあった。親友だからこそ話せる。]
[しがみついた彼を、その存在をライダースーツ越しにも温かく感じる。
嗚呼、僕らは生きている。
僕らは生きているからこうして。
なんだかそう強く思った。]
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