10 冷たい校舎村9
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……それヤだ。心配もする。 だから。できたら、怪我、しないで。
[怪我してもしなくてもどっちでもいいなんて思えない。 乃絵ちゃんと炭蔵くん、どっちかだけなんて思わない。 どっちも、なんだよ。今のわたしは特別欲張りだから。
あるのはわたしの感情で、正しさなんてどこにもない。
炭蔵くんの困惑顔が意外そうな表情に変わるから>>146、 わたしは炭蔵くんの眸を見て、わたしの気持ちを伝えた。 乃絵ちゃん>>132も言葉を重ねたみたい。]
(164) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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[わたしは乃絵ちゃんの方へ向き直った。
本当は、乃絵ちゃんにも同じこと言いたいよ。 怪我しないでって。 炭蔵くんと同じくらいヤだけど口を噤む。
ちなみにもう一人>>3:288の該当者については、 わたしたちの距離>>4:246が一定を保たれていたから 幸か不幸かわたしが気づくことはなかった。
閑話休題。 「どうして」って踏み込んだわたしの問いに答える 乃絵ちゃん>>136へ、わたしはゆっくり近づいていく。]
(165) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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すきだよ。
ちょっと気が弱くて、でもわたしたちのこと 何より大切にしようとしてくれるお父さんが、 わたしはすき。
[そして、ちょっぴり嫌い。 自分のこと、すぐ後回しにしちゃうから。 わたしの夢がいつかお父さんを殺してしまいそうで。]
(166) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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[お姉さんがいることは前から知っていて>>0:849、 お母さんのことも話を聞いたばかり>>4:524。 でもお父さんの話は、乃絵ちゃん、しなかったと思う。
でも、フツーでしょ。 わたしたちは高校生だ。小学生じゃない。 親の話をしないことは珍しくもなんともない>>0:240。]
……うん。
[乃絵ちゃんの話は炭蔵くんとわたしの間を伝う。 わたしはその間、いつもベンチでしていたみたいに 相槌を打ち続けた>>0:1058。]
(167) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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[お姉さんがいること以外に バレーや絵を描くことをやめたことも知っていた。 降り注ぐ雨粒で乃絵ちゃんの輪郭を捉えた気にもなった。
何にも、足りなかったね。
もう時間も残されていない校舎の果て。 口にすることを避けていた「どうして」が、 乃絵ちゃんの本当>>141>>143を教えてくれる。]
(168) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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[炭蔵くん>>146と乃絵ちゃん>>153の話は 揺らぎ>>134を見せながらも、そう簡単には交わらない。
わたしは二人の話を聞きながら記憶を辿っていた。 思い出すなら、言葉より声からの方がいい。 高さはどうだったかな。掠れ具合は? わたし、元気で楽しそうなのもいいと思うけど、 ゆったりしたテンポがよく似合うとも思ってるよ。
だから炭蔵くん>>149がわたしの表情を確かめるなら、 さっき>>103に比べて、ほんの少し柔らかかったはず。
わたしは人より少しだけ大きな手を、 乃絵ちゃんの手に添えようとした。 もし乃絵ちゃんが許してくれるなら、 わたしたちの手の中には涙味のクレープ>>142がある。]
(169) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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……文化祭、楽しかったなら嬉しいって。
[乃絵ちゃんが繰り返し口にする「手遅れ」って言葉。 謝ってばかり>>129>>135の乃絵ちゃん。
伝言は頼まれていない>>3:357。 だからこれは、わたしが力を貸してもらっているだけ。
ここにはもう、たった三人しかいないけれど、 最初からそうだった訳じゃない。 それなら、思いは人の数だけあるはずだ。]
(170) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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こんな世界作っちゃうくらい、楽しかったんだなあ。 ……向井くんがそう言ってた。 向井くんも文化祭、楽しかったからうれしいって。
でも、そういうのだけじゃダメなくらい 疲れちゃったなら、悲しいとも言ってた。
乃絵ちゃんはあんな目に遭わせちゃったって言うけど、 何も、悪いことばかりじゃなかったよ。
[いつもの帰り道じゃ、聞けなかった話>>2:261がある。 朝の気まずさ>>0:561を引きずり続けるだろうし、 あんなこと>>4:165言う機会だってきっとなかった。 約束>>4:386>>4:456を交わすこともなく、 終わっていくだけの月曜日もあっただろう。
何より、一度でもわたしが愛を口にできたのは>>4:383、 この場所がわたしたち以外いない、 思い出の詰まった校舎だったからだ。]
(171) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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いいことも、たくさんあった。 少なくともわたしはそう。きっとみんなも。
[優しいだけじゃなかったかもしれない。 わたしはマネキンになる感覚も知らない訳だし。 でも全員が何らかの意味を得たんじゃないかなって、 そう、信じたいだけかもしれないけど。
乃絵ちゃんはどんな顔をしていただろう。 もし乃絵ちゃんと目があったなら、 わたしはほのかに微笑んで見せた。 虚勢でも見栄でも、舞台の上では堂々とするものだ。
数歩離れる前に乃絵ちゃんの頭に手を伸ばす。 撫でることはできたかな。]
(172) 2021/06/15(Tue) 12時半頃
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……——ピアノ、聞きたいんだっけ。
[乃絵ちゃんから数歩離れたわたしは、 ピアノの蓋を持ち上げながら尋ねた。 乃絵ちゃんの最後の心残り>>135なんだって。
深紅の布を畳んで、引いた椅子に浅く腰掛けて、 ペダルとの距離を確認。わたしは背筋を伸ばした。]
——魔法、かけてあげる。
[夜、柊くんが来てくれて良かった。 誰か一人のために弾く喜びを教えてくれて良かった。
おかげで、指の震えを少しでも抑えることができたから。 わたしは乃絵ちゃんのために、わたしの音楽を奏でる。]
(173) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[本当はね、「上手くできないと思うけど」って 予防線を張りたかった。
でもわたし、 世界には、他が雑音に成り代わるようなすごい音楽が あるってことを伝えたかったから我慢したの。
最後の心残りを晴らすんじゃなくて、 また聞きたくなるような音楽を届けたかった。
わたしは炭蔵くんみたいにたくさんの言葉を知らないし、 我の強いわたしの性格は寄り添うことに向いてない。 炭蔵くん>>151は不器用だけど、わたしも大概だ。 残念ながら、ここに器用な人はいないんだよ。
わたしたちは、できることをやるしかない。
だから、わたしは乃絵ちゃんのためにピアノを弾こう。 わたしにはそれしかできない。 それだけは、できるから。]
(174) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[……できると、思ったんだけどなぁ。]
(175) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[激しくて、力強い曲だった。 それでいて雄大な大らかさもある。 難しい指遣いも多く、聞き応えもある長さ。
わたしがいくら愛を注いでも、 わたしの衰えた指はちっとも気持ちに応えてくれない。
当然だ。 これはお母さんが亡くなった頃に練習していた曲で、 随分前に弾けないと諦めてしまったものだから。
冷たい校舎の中、わたしの額を汗が伝う。 指がもつれた。メロディーが乱れた。腕が痺れてくる。 それでもわたし、一度も止まることなく弾き続けた。
完璧なんてどこにも見当たらない、 思いを叩きつけるような音色だった。]
(176) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[ごめん。 わたしの音、遠くの銀河まで走れないみたい>>4:175。
わたし自身が、そう思っちゃった。]
(177) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[数分に渡る演奏を終え、わたしは鍵盤から指を離す。 心臓がバクバクしていた。息も切れていた。 わたしは椅子に座ったまま、乃絵ちゃんを見上げる。]
……っ!
[——涙が、こぼれた。]
(178) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[どんなに泣きそうでもずっと堪えていたのに、 悔しくて、苦しくて、悲しくて、涙が溢れる。]
……ごめ、ん。 ちがうの、もっと……っ、わたし、
[魔法、なんて。あんなに見栄を張ったのにね。
乃絵ちゃんに別の世界>>4:426を見せられなくて悔しい。 もっとちゃんと弾けてたんだよ。嘘じゃない。
乃絵ちゃん>>157にすぐ反論できないことが苦しい。 そんなお父さん、こっちから捨てちゃえって思っても わたしだって子どもだ。解決策を持ってない。
乃絵ちゃん>>158が何もかも諦めていることが悲しい。 手遅れだって言う。帰れないって言う。なんで、]
(179) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[わたしは制服の袖でぐしぐしと目元を擦った。 わたしが泣いちゃダメだ。そう言い聞かせる。]
現実って、楽しいことばかりじゃないよね。
[ヤだな、声が震えてる。わたしは一度言葉を切った。]
死んだら、終わりなんだよ。
これからあるはずだったこと、思い出。 全部なくなっちゃう。
顔とか声とか、どんな話をしたとか、 そういうのも少しずつ、別のものに変わっていく。
(180) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[帰ったら、わたしはまた愛に口を閉ざすことになる。 自分のことよりわたしを優先しちゃうお父さん。 偉い大人の親戚だって、要らぬお節介はわたしのため。
わたしの物語に悪意はない。 ただ、首に真綿を柔く巻かれているだけ。
決して死ぬことできない息苦しさの中で、 それでもわたしは生きていく。]
(181) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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わたしの力はちっぽけかもしれないけど、 炭蔵くんや鳩羽くんだっている。 他のみんなだって生きてる。
綿見さんとも話せたんでしょ。 ……お母さんだって、いる。
[乃絵ちゃん>>4:524曰く、立派なお母さん。 苺大福の話をしている時、ちょっぴり嬉しそうに見えた。 好きだったのかなって思う>>4:469。 夜食もそう。わたしの知らない夜に、わたしの知らない 乃絵ちゃんの楽しみ>>4:309があった。]
(182) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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これからなんだから……だから、 ……友達のまま、生きてよ。
もっと教えてよ。巻き込んでよ。 言葉にして、伝えてよ。 でないと分かんないよ。
今話したこと、誰にも言ってないんじゃない。 ……できるなら、伝えようよ。
せめて、飲み込まないで、痛くしないで。 全部、わたしにぶつけていいから。
一蓮托生、でしょ。 わたしとなら、ワルイコトでもいいんでしょ。
(183) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[わたしは椅子を離れて、乃絵ちゃんの前に戻る。 ドーナツの穴を通さなくたって、 わたしの赤い目には乃絵ちゃんしか映っていない。
もう一度手を取ろうとしたけどどうかな。 疲労と不安で指が震え、ぺとぺともしたかもだけど、 蓄えた熱さで手を温めることくらいはできるかも。]
乃絵ちゃんは帰れないって言うけれど、 手遅れじゃないとしたら……どうしたいの。
わたしは、乃絵ちゃんの気持ちが知りたい。 ……教えて、くれる?
[理不尽であることも分かってて>>154、 お父さんが間違っているとも思ってて>>156、 それでもなお、どうしようもない>>157。
乃絵ちゃんが抱えているのは 簡単に解決できるものじゃないけれど、]
(184) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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わたしは必要ないって言われても、 乃絵ちゃんの友達をやめる気、ないからね。
[名前で呼び合ったらともだち? きっと違うよね。
わたしが友達でいたいから、ともだち。
涙と汗でぐちゃぐちゃでも、指が震えていても、 全然出口が見つからなくても、不恰好でも。 わたしはいつもみたいに笑って見せた。]**
(185) 2021/06/15(Tue) 13時頃
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[ 本当にお見通しだったら困るな、と
くすくす笑いかえしておいて。]
そっか。
まあ、そうだね、……似たような事態が
私にも起こっていたのは確かだし。
……わかり、やすかった?
[ 他人事だと思えなかったから、相談に乗った。
その見立てはあながち間違っていないし。
さて、ならば。
今度は私の相談したかったことの
一端とその顛末をお伝えしておこうか、と。]
帰っちゃったのはしょうがないよ。
ちょっとびっくりしたけどさ……
…… 私の場合はさ。ずーっと、こう、
幻聴って言っちゃあそれまでだけど、……
そういうのが、聞こえてて。
それにちょっと追い詰められてた、っていうか。
今はもう、聞こえないし大丈夫だけど。
ほんと、四六時中そうだったから。
静かすぎて逆に、なんだか慣れないや。
[ 説明が難しいな、という表情をしながら
それでもどこかすっきりした様に。]
利美のお札……まぁ、
捨てなくてもお守りに持ってたりしても
良いんじゃないの?
どういうものかは知らないけど。
[ ひとみが集中治療室の方に行くのなら
いってらっしゃいと手を振って。
…… まだ、あまりそっちの方に行く気には
私はなれなかった。
冷えた指先を摩りつつ、待合室に佇んでいる。]*
[ 身軽になってしまった、という気持ちはある。
恐らくそれは悪い事では無いし、
私が、──私自身に抱いていた抑圧を、
どうにか緩められた様なところはあって。
きっとこの静けさにもそのうち慣れていく。
それをむなしく感じる日が来るのだろうか。
……むなしいねって、言い合える相手が居るなら
それも悪く無いのかもしれないけれど]
……あ。
柊くん?
[ そんな折。廊下の方に見えた姿に
待合室からゆるく手を振ってみる。
彼もこっちに帰ってきていたのか、と
少しばかり安堵しつつ]*
夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/15(Tue) 13時頃
── 現在・病院外 ──
[尻尾?そんなのどこに。
……なんてね。
変に気遣われたくなかった、って
シンが言う言葉にさ、俺ちょっと笑ったよ。
だって最近よく聞いた台詞!!!
それに、うん、その「うれしい」だって
どこかで聞いた台詞のひとつ
だからさ。 ]
そんなん、俺もだよ!
[ってさ、言ったの。とりあえず今はここまで。 ]
[だってシンがさ「みんな」のひとりじゃあなくて
俺にとっては「シン」であるのが大事なんだって。
気づくのはもうすこし、あとのことだったから。
言わなくても判るだろって、ほら思っちゃう。
そういう意味では
俺からしたら当たり前だったんだろうね]
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