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[ぐずぐずと泣いているところに、
封書がそっと落ちてくる。
赤い目で少し膨らんだ封筒を開けると、
便箋とともに、
ムーンストーンのような石で飾られた箱が転がった。
開けてみると――]
――――。
[美しいトランペットの音が響き渡る。
トランペットを吹くガブリエル。最後の審判。
自然と体を丸めて起き上がると、紙面を読み始める]
…………。
私に罪があるとするならば、
「あのときああしなければ勝てたかもしれない」とか
「もう一度戦ったら今度は勝てるかもしれない」とか
考えてしまうことなのでしょうね。
[膝を抱えて自嘲する。
女に過去は変えられず、現在は無力であり、未来はない。
届かない宝物に手を伸ばすだけの、うつろな死者]
…………。
お返事、書きましょう。
ポストさん、万年筆と便箋をここに……って、
ポストさん?
[いつの間にか移動していたポストは、呼びかけられても何も出さない。
よく見れば、投函する穴が閉じられていた]
死んだらお手紙が出せなくなるんですね。
困ったなあ。
[真相はただのバグで、死んだからではないのだが、
女はそう解釈してため息をつく]
…………暖かい飲み物でも入れましょうか。
[ふいに、こん、となにかが頭に当たる。
紙飛行機だ]
…………?
[不思議に思いながら、紙飛行機を展開すると、
びっしりと文字が綴られていた。
それは手紙だった]
えっ、死んじゃったんです!?
そんな……。
いきなり異世界に連れてこられて死んでしまうなんて、
こんなひどいことってないです。
[彼女の誤った認識をそのまま受け取って、
胸が締め付けられる思いがする]
――私の願いは、
壊れてしまった父さんの魔術刻印を直すこと。
父さんをほんとうの意味で受け継ぐこと。
[魔術刻印とは、一子相伝の固定化された神秘。
力と、意思の証]
でも、負けてしまいました。
だから最終的な願いはちょっと変わって。
――アーチャーに、私のサーヴァントに、
私を覚えていてほしい、ってことになりました。
[それが叶えられたか、確認するすべはない]
かなしいなんて言ってごめんなさい。
あなたはあなたの思うままに、幸せを掴み取って
生き抜いたんですね。
……デアドラさん。
あなたとたくさん話したいな。
[手紙を強く掴む。
つぶやきながら立ち上がると、歩き出す。
部屋の扉を開けた。
と。]
えっ、
えーーー!?
[眼前に、唐突に異界の街が現れた]
[時を数えるのも無意味な程、変わらず終わらぬ夜の静寂。
幽霊のような状態のデアドラはなおも、リフィー川の上流、霧の壁の側に三角座りで浮いている。]
ねえランサー。
[そして川沿いの道路に佇む“あのランサー”の亡霊も相変わらず。
こちらを向きながらこちらに反応しない、そんなギミックエネミー相手に、デアドラは淡々と壁打ちのようなお喋りを始めていた。]
生真面目すぎるあなたでも絶対、ベルモントパークは楽しめると思うんだよ。
だって今はランサークラスでも、昔は馬には乗ってたんでしょ?
わたしもさ、セクレタリアトと、全力疾走して勝ってみたかったもの。
マッハがやらされた理不尽な競馬とは違うし。
っていうかマッハと違って、競馬に出る前にわたし死んじゃった。
[左手首のミサンガに触れながら零す言葉に、亡霊は答えない。]
きんのファッションショーだって見て見たかった。
ファッションショー? 違うな。違うや。でもいっか。
きんの世界は雪の季節に桜が咲くんだって。
あなたの故郷とは違う雰囲気の筈だけど――
っていうか普通に異界みたいな世界だし。
冥府との扉、なんて話まで聞いたら
“あのキャスター”は絶対食いついてたと思う。
この世界には呼ばれてない?と思うけれど。
きんのお母さんとお父さんにも、会ってみたかったな。
[手持ち無沙汰に、自由帳の1ページの黒鉛に触れる。
やはり、亡霊は答えない。]
愛《じゆう》と混沌《しあわせ》――は、
あなたにはどうなのかな?
あなただって血も涙もない鬼軍人じゃないし、
っていうか、結構よく泣くあなただし。
キリトのお茶、カルデアでみんなに
振舞って味わってみたかったのに。
始祖王《エンシェント・ワン》と《蒼い鳥》の話だって、聞かせたかったのに。
[ティーバッグの紅茶葉が微かに擦れる音がする。
やはり、亡霊は答えない。]
それに、ヘンなガブリエルの作り上げた双子の月とか。
こっちは本当に全然なんにも、詳しい話、聞けてないけれど。
ブリテンと水戸のヴィクトーリアのことも――
こっちも詳しい話は聞けてないや。
そういえばお屋敷って、やっぱり水戸の方なのかな。死んじゃった場所ってことは。
[そこで我に返った――というには未だぼんやりとした心地で、デアドラはお喋りをつづけた。]
…………、まるで休戦状態。
ふしぎ。
あの時だって、わたしとあなたは
敵同士のはずだった。なのに、
[ダブリン聖杯戦争は水戸聖杯戦争とは異なり、7組によるバトルロワイヤル戦。
つまり一人と一騎にしか、聖杯を手にする権利はなかった。]
数合わせのマスターどうしで
なんとか頑張ろ、って
あなたのマスターがベルに持ちかけたんだっけ?
本当、あなた好みの清廉で愚直な、
しかも正直な、“まっとうじゃない”魔術師。
だからあなたも、最期まであのコのこと、
本気で守り切ろうとしたんでしょ?
――チェ・ヨン。
あなたにも、もう会えないや。
[そのランサーを模した亡霊は、やはり、答えない。]
[……以上、デアドラのこれらの言葉は、全て確り声として出されている。
うっかり霧の壁の向こう側から通りかかる者がいれば、夜の静寂の中、するっとまるっと全部聞き拾うことができるだろう。]
[「もう会えない」の言葉にまるであたかも応じるかのように、“あのランサー”の亡霊は、川で分かたれた北側の街へと融けるように去っていった。
なおこれは余談だが、北側の街、オコンネル通りに面する中央郵便局には、かの英雄クー・ホリンの像が建てられている。
自分が(本当に)死んだと思い込んだデアドラは、川の上で相変わらずの三角座りをしていたのだが――。
「他の選手がいるフィールドに移動できるようになるかもしれない」という主催側の手紙をすっかり忘れていたこの幽霊(仮)は、一瞬、聞こえてきた気がした驚き声に、ふっと頭を上げた。]
この期に及んでライダーのやつ――
って訳ないよね。
でも、いまの、気のせい?
[などと宣いながら、それでも一応立ち上がる辺りが「切り捨てられない」性分の表れか。
川の上、霧の壁沿いに、デアドラはいまいちど耳を澄ます。]
んー……
[もぞもぞ、ぱちり。
眠い目を擦って起きて、辺りを見回す。
懐かしい家の風景に、まだあの不思議な世界のままなのだとわかった。]
……あれ?ポスト?
[起きれば、ずっといた赤いおばけがいない。
完全に、ひとりぼっちだ。]
……あ
[そこで枕元を見て気づく。
お手紙が2通。]
これ、なんだ?
[ちゃら、と取り上げてみるのは十字。
なんだか、とても暖かい気がする。]
お守りなんだぞ!
嬉しいんだぞ!
おれい……あ、でもポストいないんだぞ……
[しょんぼり]
ほわー!
それに、かぼちゃ!かぼちゃの……えーと、すーぷ?
美味しそうなんだぞ!
行けるのか?
[もう一通に書かれていた内容に目を輝かせる。
たべたい!]
![]() | 【人】 読書家 ケイト ……あら? (10) 2021/04/18(Sun) 21時頃 |
![]() |
![]() | 【人】 読書家 ケイト しかし……困ったわ。 (17) 2021/04/18(Sun) 21時頃 |
[霧の壁のそばで暫く耳を澄ませていたデアドラは、ついに一歩、踏み出す。
それは丁度、空中散歩をする幽霊(仮)。
黒い影めいた亡霊ではなく、あくまであの紫色の冊子の顔写真の通りの色彩の幽霊(仮)。
ただちょっと重力を無視してしまえる程度の、ごく普通の幽霊(仮)だ。
――そして、]
へ ?
ヴィク…………トーリア?
[そんな姿が見えた気がして、思わず素っ頓狂な声を挙げ、碧眼を大きく見開いた。
今までずっと、写真と手紙の中でしか知らなかった相手。
それ故に、聞こえてきた気がした声だけでは、相手がそのひとだとは判らなかった。
そして「フィールド間の移動の可能性」を失念していたが故に、暫くの間、デアドラは混乱して立ち尽くす。
……まさか当の彼女が、あの屋敷で「一緒に戦ったコ」の銃弾に撃ち抜かれて“死んだ”、とは思いもしない。
そして「蜘蛛の糸めいた、一縷の望み」の紙飛行機がきちんと彼女に届いていたことも、また、知らないのだ。]
[結論から言うと、急転直下的な入水を決めた赤いポストは、
20分経っても浮かび上がってこなかったので、
男は諦めて引き上げた。
実にあっさりとした別れだった。
こうなったことに責任を感じなくはないが、]
……しかしいったい誰が予想できるというのです、あのようなことを。
[未来を見通すことのできぬ男には無理な話である]
[ともあれ、ポストが沈む前に届けてくれたたくさんに見える量の手紙と、
ポストに運ばせることもはや敵わない、
まだ2割ほど残っているワインの瓶と空のグラスと皿。
そう言ったもので両手を一杯にしながらの帰宅である。
そうして手紙を机に広げれば、
手紙がたくさん届いたと判断した理由については明白になる。
そう、ポストカードだ。
差出人の名を同じくする4枚のポストカードが、
絵柄の神秘さも相まって――1枚だけ写真が使われているものもあったが――存在感をあらわにしていた]
ええっと……ここは。
ロンドン? それともダブリン?
[辺りを見回す。月は一つしかない]
デアドラさん……?
デアドラさん……!!
[駆ける。
彼女の名を呼ぶ声は次第に大きく辺りに響く。
そして、声を聞いた]
デアドラさーんっ!!
[彼女の姿を認めると、いっそう速く駆け出して、
そのまま彼女にハグを仕掛けようとする]
![]() | 【人】 読書家 ケイト
(23) 2021/04/18(Sun) 22時半頃 |
![]() | 【人】 読書家 ケイト
(25) 2021/04/18(Sun) 23時頃 |
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![]() | 【人】 読書家 ケイト
(27) 2021/04/18(Sun) 23時頃 |
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