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[ 夢か現か分からないふわふわふとした意識の中、
俺の耳には聞き覚えのあるバリトンボイスが>>3:*0>>3:*1>>3:*2>>3:*3
はっきりと届いた。 ]
―― 病院・203号室の病室 ――
[ 俺の意識がある程度覚醒したとき、
俺が今いるのは病院のベッドの上なんだと気付く。
真っ白な部屋に消毒液のような独特の匂い。
まだぼんやりとした頭の俺は、
とりあえず誰か呼ぼうとナースコールを押したんだ。 ]
[ 病室に駆け付けた医師と看護師から状況説明を受けた。
どうやら、俺は体は打撲や擦り傷程度だが、
頭からの出血が酷かったらしく、
縫合処置を行ったとのこと。
処置後の経過は良好で、
検査の結果、頭蓋内出血も起きていないらしい。
あと、麻酔がまだ効いているようで、
もう少し寝ているといいという話だった。
未だにはっきりとしない意識の中、
俺はベッドに横たわり、瞳を閉じると
そのまますやすやと眠りに就いた。 ]**
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[
幼子の容は銀のいるこちら側でも視認できた。
迷子? と訝しんだのは一瞬、紫の髪留めに正体が判明する。
覚束ない足取りで、心細そうな声で。
現況を理解している様子は見えない。
ならば、彼女にとってはそのほうがいいのだろうか。
慰めることはかなわない。]
高祈先輩と、仁科さん……。
[
ここまで、アリババの言葉は全て真実だった。
不用意に警戒し、疑念を抱いた高祈には
あの後会う機会がなく、ガラスを割る行為についても
やふやなまま。仁科とはカフェで二言三言話しただけだった。
ふたりとも、生きていてよかった。
その想いには嘘はない。]
[少し前には柊と福原、それに骨谷の無事が判明している。
皆、どのような状態でいるのだろう。
ゆっくりと目を開けると、射し込んでくる光。
あれほど明晰な夢であったのに、
現実の光はこんなにも眩しい。**]
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[病院の窓から、遠雷の閃光が見えて、
オレ西洋美術概論の講義を思い出す。
トンネルを抜ける前、次第に近づく神鳴りを。
日本での雷は神罰にとらえられがちだけど、
西洋の神話ではゼウス(或いはユピテル)の象徴。
「雷に打たれた者(エリュシオン)」は神の祝福だった。
日本でも、佳人薄命、あまりに若く命を失えば
神に気に入られて連れて行かれたんだ、
なんて言葉で無理矢理に納得したり。
砕けた一つの林檎は、神の寵愛を受けたのだろうか。
その"慈悲"の世界に巻き込まれたオレは、
もうそれを荒唐無稽と嗤うことなどできない。
宣告は淡々と非情に
残りを三名にまで絞っていた。**]
【人】 忘我共同体 ニトカ[少し前なら、結果として認識できた。 (56) 2023/08/02(Wed) 17時半頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ―カフェ方面へ― (57) 2023/08/02(Wed) 17時半頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ あ、 (58) 2023/08/02(Wed) 18時頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ[おおぉぉう (65) 2023/08/02(Wed) 18時半頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ[救世主がやってきた。 (66) 2023/08/02(Wed) 18時半頃 |
【人】 忘我共同体 ニトカ[さらにイヤイヤするように大泣きする幼子に途方に暮れる。 (75) 2023/08/02(Wed) 19時半頃 |
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―― 夢の中 ――
夢の中のことに、どんな理屈でとか言うのは
野暮なんだろうけど。
[ 俺はいつの間にか、あの夢の中の美術館にいた。>>3:*2
さっきまで麻酔でふわふわしていた意識は
いつのまにかクリアになっていて、
俺はきょろりと辺りを見渡した。 ]
こっちからは見えるのに干渉できないって
生殺しって感じだな。
[ ぽつりと呟いたところで、
アリババさんのお告げが聞こえた。
そっか。なるほど。
[ 次に目を覚ますのは、さっき俺のことを
魔法使いだと言ってくれた女の子と、
生きてるんだ、高祈先輩。
[ 良かった、なんて口には出せないけれど、
心のどこかで安心していた。
卒業の前に二度と先輩に会えなくなるのは、
俺には耐えがたいことに思えたから。 ]
……俺に何ができるのかな。
[ 先輩の髪を結んでいたゴムがちぎれた後、
カラスアゲハの数が増えていき、
頬や首に致命傷にならない傷が増えていく。
そっと近づいて手を上に伸ばして、
傷口に触れてみるけれど、
その血を拭うことすら俺にはできなくて、 ]
[ ビデオルームに入った先輩の背後に
不穏な影が見えて、
仄かに生臭い香りが広がった。
そっかあ。黒猫に懐かれたんっすねー。
……黒猫は何て言いながら、先輩を傷つけているんです?
[ こんな面と向かって言う状況じゃなくても
先輩に嘘だと言えない俺は、
何があなたに傷を負わせるのか遠回しに、
少しずつ先輩の本音を聞き出そうと言葉を零す。
先輩には当然俺の声は届かない。
もし初めから先輩に突撃していたら、
こんなもどかしい思いをしなかったかもしれないけど、
俺は変わらずに少しずつ努力して、
先輩の心を溶かしていくのが
きっと正攻法なんだって信じたい。 ]
[ どちらにしろ、高祈先輩には隠したい何かがあって
ここで俺が勝手に見るのは
フェアじゃない気がするから、
ここで俺はビデオルームを後にする。
ふわりふわりと館内を漂っていると、
辿り着いたのは、カフェの前。 ]
え? 田端先輩?
[ 仁科ちゃんと回谷先輩と1匹の狐が
小さな女の子に振り回されている様を
おっかなびっくり眺めていたら、
田端先輩の名前が出てきて、俺は唖然とした。
でも、たしかにあの髪留めには
見覚えがある気がして、 ]
幼児退行、かな。
……よっぽど心に負担が掛かってたんだろうな。
[ マイペースなところがあるからと
あまり気にしていなかったけど、
こんなことになるなら、
もう少しフォローしておけば良かったかもと
俺は後悔した。
まさか、自分からみんなを遠ざけてたなんて
俺は知らなかったから。 ]
[ それから、ゆらりゆらりと移動すると、
いつの間にかエントランスに着いていた。
樹の下には潰れた林檎が1つと普通のものが4つ、
そして、樹に生った林檎が5つ。
樹に生った林檎の一つが俺の姿に重なって、
そういえば、他の林檎も目を覚ました面々と
どことなく重なるようで。
それでも、潰れた林檎が誰を指すのか分からない。 ]
例え、誰の林檎が砕けていたとしても。
[ あなたは災害なんかに
巻き込まれていい人じゃなかったって、
俺はいつまでもあなたの死を惜しむよ。 ]*
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――病院2F/休憩スペース――
[オレは西門教授に報告しようと思っていたけど、
目覚めたはずの先生の病室は面会謝絶だった。
アリババ氏の声は等しく聞こえているはずなのに、
そういえば覚める直前の教授の言動はちょっと
病んでるみたいでアブナかったな、などと思い出す。
大半は成人済みの大学生とはいえ、
課外授業の最終責任者は、大人は、教授だけだ。
きっと責任感や混乱で平静では
いられなくなっているのだろう。]
――――、どうしよう、
[病室は出てきたけど、目覚めているのは
シロマちゃん……女子の病室に見舞う
というシチュエーションはオレに許されるのかッ!!?
非常事態ではあるが、現実の人の目もある。
つぶ(略)ブラザーズも一緒なら、勇気を奮って
赤信号みんなで渡れる気がしなくもないが。]
『骨谷ヘータより。
おはようございます。
(↑笑うところだから↑)
目覚め一番乗りってことで、
LINEなり何なりで、
みんなの様子を知れたら嬉しいかな。
まだ、誰が……かは分からなくて、
何となく顔合わせ辛いかも知れないけど。
西門先生は未だ病室行っても会えなかった。
オレはしばらく2階の
休憩スペースにいるんで、
気晴らしの話相手にでもなってくれたら。
P.S. カップは全員分デザインするつもり』
[思い出したようにスマホを取り出して
研究室のグループLINEに打ち込んだ。
そうして、手持無沙汰なオレは夢の中と同じ姿勢で
スケッチブックを広げ、
1人1人の顔を思い浮かべながら、線を連ねていく。]
[病室のあった3階から階段を下りるのに、
少し躊躇したけど、普通の長さの普通の階段だった。
はぁ〜〜、と2階の床を踏んだオレの溜息は
5呼吸分溜めたくらい長かった。
小さなダイヤの粒が象嵌された
タバたん先輩のカップデザインを考えていたら、
後ろの髪が数本引っ張られるような
妙な感覚があった。]
…………子供の、声?
[お腹が空いているのか迷子なのか、
わんわん泣いている、稚い高い声。
おかしいな、外来の時間は終わったし、
この階は小児科もない入院病棟のはずなのに。]
―― 病院・病室203号室 ――
[ 眠っている間に麻酔が切れたのか、
いくぶんかスッキリとした思考で
目を覚ますことができた。
ベッドの側に誰かがいる気配を感じて、
俺はゆっくりと首を動かしたんだけど、 ]
あ……お婆ちゃん……。
[ 入院手続きをするために、
緊急時の連絡先に電話がされたようで、
お婆ちゃんがこの病院まで駆け付けてくれたらしい。
心配そうに俺のことを見つめていた顔が、
安心したように柔らかな笑みに変わったんだけど、 ]
迷惑かけて、ごめんなさい……。
[ 俺の言葉に、お婆ちゃんの笑顔が固まった。
――ああ、違う、
そんな顔をさせたいんじゃなかったのに。
色々な事情があって離れ離れになって、
たしかにどう話していいか分からないような
間柄ではあったけど、
それでも、俺のことを心配して
こんなところまで来てくれた人に、
他人行儀なことを言って傷つけていいはずがない。 ]
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