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── 現在・病院 ──
……綿見、キチク。
でも、撮れたら俺にも教えて。
[ 綿見の発言にちょっと引いたあと、
同じ口で便乗するようなことを言ったけど、
別にゆすりのネタにしようってんじゃない。
あの校舎に行って、帰って、
慎一のつくりには何も変化がないからして、
炭蔵がどっかで泣いていたとして、
目の前でもなきゃ気づかないだろうしさ。]
[ 騒がしくて散らかった慎一の視界。
測ってみても思ったより狭い手の届く範囲。
誰かみたいに手を伸ばす真似事を夢見るとして、
それとは別に誰かの目を借りるってのもアリだろう。
……たぶん、女子に無視されても炭蔵は泣かないけど。]
[ くすくす笑いに黙殺された問い。
そのことはあまり気にしないでおこう。
「変な感じ」に黙ってうなずきながら。
「懐かしい」と称された出来事。
確かにずいぶんと前のことに思えるけど、
でも、慎一の心にはずっと残っていた。]
……なんでわかったの?
とか聞くと、また藪蛇になりそうだなあ。
[ 泣き顔が見たかった? こわぁ。でもごめんね。
慎一が浮かべているのは苦笑みたいなものだ。]
[ 実のところ、吹っ切れたわけじゃない。
諦めがついたわけでもなく、
でも、気づかないふりもできなくなって、
だから、慎一の「むなしい」は現在進行形。
でも、死なない理由探しもしちゃったから。
付き合いきれない自分に折り合いをつけて、
息苦しくても呼吸をしていくしかないのだ。
至った結論は結局のところ、
あまり変わってはいないのだけれど、
ひとりになるのはさみしいからね。
どうせ生きるなら、夢くらい見たいじゃないか。]
[ まあ、つまり──、現在進行形な慎一が、
その文脈で時制に引っかかるのは必然。
図星としかいいようのない言葉を重ねられ、
悲しいやら恥ずかしいやら情けないやら、
喉元ばかり触っていた慎一だけれど、
ふと、顔を上げてつぶやいてみようか。]
……過去形なんだね。
「虚しくてだった」……、
[ 言葉尻を捕らえるようなことしてごめんね。
ただの言葉の綾じゃあなければいいんだけど。
だって慎一は、もうそれをいいように捉えた。
捉えて、「よかったなあ」って顔をしている。]
……だとしたら、よかったね。
[ 「ごめーんね」って間延びした調子。
到底謝罪には聞こえていないんだけれど、
いいよ。ここは慎一も笑ってあげよう。]
事実だしね。アレは怖かったけど。
認めたのも認めたけど──、
頑張るのはやめない。あと少しくらいは。
[ にへら、と浮かべた笑みは、
疲れてないと言っちゃあ嘘だけど、
大丈夫。急に刃物を手に取り乱したりはしない。]
……できればそう、
豹変せずに、次はそっと教えてほしい。
[ 最後にそんなリクエストだけ添えようか。
慎一はいつものほうの綿見のが好きだよ。
……淡々と言葉を重ねる姿は、
なんだかどちらも綯い交ぜになっても見えるけど。
そして話題は移り──、
不思議なことに、慎一は礼を言われている。
和らいだ視線は怖くないけど、
その感覚は慎一にはないものだった。
それについてもいずれ「なんで?」って言えるかな。
こういう話を、現実世界でも続けていれば。]
[ ぐいっと顔をこちらに向けた番代に、
慎一は一瞬、「うおっ」って驚いて──、
……ほらね。ビビりなところも変わってない。
それから、ふふんと自慢げに笑って見せた。]
あ〜〜番代は早々に帰ってたからな〜!
うまかったなあ。夜に食べるパンケーキ。
[ 冗談めかしてそんなことを言うとき、
慎一の手はもう首元をなぞってはいない。
目を細め、羨ましそうな視線に付け足そう。]
今のうちに綿見に頼んでおけば?
「これから」だってあるんだし。
で、カフェオレと、コーラね。
……寒いのに番代、すげえな。
[ ふたりぶんのリクエストを復唱。
復唱は大事って販売係で学んだからね。
余計な一言を付け足しはしたけれど、
「おまけ」だから……お代はいいよ。
慎一だってきっと、今の気持ちの感じなら、
そのくらいの気は回せるはずだ。
無償のナントカにはまだほど遠いけれど。**]
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【人】 泥炭採り ユンカー
(22) 2021/06/14(Mon) 02時頃 |
【人】 泥炭採り ユンカー
(27) 2021/06/14(Mon) 02時頃 |
【人】 泥炭採り ユンカー
(28) 2021/06/14(Mon) 02時頃 |
【人】 泥炭採り ユンカー
(30) 2021/06/14(Mon) 02時頃 |
【人】 泥炭採り ユンカー
(32) 2021/06/14(Mon) 02時頃 |
[……もしかしなくても私、
ものすごく空気が読めてない視線の割り込みをしたけれど、
パンケーキ自慢をした向井くんのせいってことにしとこう。]
ずるいずるい!
私も食べたかった〜〜!
[
向井くんにはさっきから「ずるい」ばっかり言ってる気がする。
ずるいと言えば、男子に秘密のお菓子パーティーの件、
向井くんには教えてあげないけど、そのことについては棚に上げている。]
寒い時こそ甘ったるくて爽やかな炭酸はガソリンですから。
[
例え斜め上と言われようがこの好みは譲らない。
自販機に行く向井くんを見送った後、
茉奈ちゃんがまだここにいるようなら、
次はパンケーキ、お願いね!というキラキラした目線を送ってみた。]
[それと、茉奈ちゃんにはもうひとつ。]
何かあったらいつでも話、聞くからね。
[……と、小さな声で告げれば。
これは本当に最後の確認のつもり。
もし私に対して何も話すことが無いようなら、これ以上は聞くこともしない。
私の気のせいということにしようと思う。
いつの日か相談に乗ってもらった手前、
報告くらいはしないといけない、とは思ったので。手短に。]
私にしか見えない女の子の守護霊?的な、
あのことなんだけど。
私が“いる”って思い込んでたせいだったのかな、って。
……うまくお別れできそうなんだ。
[お別れ、というのが明確にどういうことなのかは自分でも分からず口にしたけど、
もうぼたんの存在に悩まされることはないだろうし、相談することも無くなる。
それだけを伝えたかった。**]
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[―――気付けば泣きながら目を覚ました。]
― 帰還 ―
[目を開ければ視界には見慣れた天井。
カーテン越しの窓の外は薄暗い。
日が昇るにはまだ少し早いようだ。
濡れた顔を拭って頭だけを動かせば枕元にはスマホ。
自室の風景がそこには広がっている。]
……………ああ……………
[まだ若干ぼんやりする頭を無理やり持ち上げ、
ベッドの上で体を起こした。
なんだっけ、なんだか深くて濃い夢を見ていた気がする。
何気なく視線を落とせば、手首に巻かれたハンカチが目についた。]
――――、
[ぼーっとそれを見つめて3秒。急激に思考が覚醒した。
思わずそのハンカチを剥ぎ取って
部屋の明かりをつけて手首を確かめる。
よくよく見ないと分からない程度だけれど、
うっすらと傷跡のような線が残っていた。
ばたばたと立ち上がり、部屋のハンガーにかけてある
通学時に使っているブラウンのコートを見る。
手を突っ込んでポケットを漁れば―――あった。
まるで上から水を撒いて滲んだように
全体が強くピンボケした写真。
でもシルエットで分かる。
黒板を背にして皆が映っているそれは、
打ち上げの時に撮ったあの―――]
………帰ってきた、
[口に出す。確かめる。頬についた涙の跡を指で辿った。
弾かれた様にスマホを手に取る。
どうでもいいメッセージをスワイプで押しのけて、
グループチャットを開こうとする前に
九重からのメッセージが入っていた。
[それを見て、
…………ああ、やっぱり。って。
脳裏に過ったのは納得と確信だった。
もしかしたらそうなんじゃないかなって
話してる時にちょっと思ったんだ。
俺が帰ると決めた後、
夢の中で話した唯一
未来の話をしなかったきみ。
そもそも消去法でもうだいぶ絞られていたもの。
帰りたい?って聞いた時、是とも否とも言わなかったけど。
きっと答えはどっちでもなくて、"帰れない"んだ。
自分が作り出した世界にずっと、留まり続けている。]
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