31 私を■したあなたたちへ
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― 翌朝/遊園地 ―
[シークレットの星のマスコットをあげると、嬉しそうにしてくれたので、同じように嬉しそうに微笑みながら。 雛子ももう一度回すと言うので、後方で見守る。 シークレットが出た瞬間は、思わず『えっすごい!!』と声が出た。]
すごいすごーい!! 2人ともシークレット出すなんてツイてるなぁ。
[お揃いが良かった、と言って手渡されると、ふふ、ともう一度嬉しそうに笑って受け取った。]
本当、全部お揃いになっちゃったね。 まさかのシークレットまで。
(407) steel 2023/11/28(Tue) 01時頃
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なんだか、色々うまく行きそうな気がして来た。 単純かもしれないけど。
[昨日、人生を終える覚悟をしていた事なんて嘘のようだ。 帰宅してからどうなるかはまだ分からないけど。 今こんな風に笑っていられるのは。]
……色々ありがとう。
灰羅は君を妹みたいに思ってるんだって。 『泣かせるようなことはするな』って言われちゃった。
泣かせる事なんて勿論しない……というか、 君の笑顔が見ていたいから。 僕も頑張るね。
[そうして、二人で揃いの星マスコットを付け、 休憩所を後にした。]*
(408) steel 2023/11/28(Tue) 01時頃
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― 帰還後のはなし ―
[帰宅した日。義父との話が終わってから、雛子と麗のいるマンションに帰ったのは少し遅めの時間だった。 とても心配されていたけど、大丈夫だよ、とだけその日は告げて。
最初に考えていた通り、雛子には付き人が使っているマンションで暮らしてもらう事になった。 キラも自宅からそれなりの頻度で顔を出していたが、雛子が来て以降は以前にも増して頻繁に現れるようになり。
役者の化粧道具と演技用の小物は、基本的にお弟子が担当する。 付き人の仕事はほぼ雑用だけど、しばらくは麗に教えて貰いつつこなしているだろうか。
───女形の姿を雛子に見られるのは、何故か少し気恥ずかしいな、という気持ちになったけれど。それも一度舞台に立てば、別人になる。
舞台を降りて、出待ちの女の子たちに迎えられる時、 つい、煙崎るくあの姿を目で探すこともあった。
もう、彼女はどこにもいない。]
(410) steel 2023/11/28(Tue) 01時半頃
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……以前はよく見かけていたから、 今でもつい、るくあちゃんの姿を探すんだよね。
[ふ、と楽屋で雛子に漏らした事もあるかもしれない。
自首しなかった事で、心の中で晴れないモヤがいつまでもあった。 消化するのがとても難しくて。 舞台に打ちこんでいる間はよいけれど、時折、深い霧の中にいるように不安定な精神状態になる。 そんな時、いつも雛子の元に訪れた。
手を握って話を聞いてもらうと落ち着くことが出来た。
それは、彼女が数少ない”事件の真相をすべて知る人”だからに他ならない、と思っていたのだが───。]*
(411) steel 2023/11/28(Tue) 01時半頃
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── ある日の楽屋 ──
[いつものように、楽屋で一息ついている時間。 今日は珍しくお弟子の麗が発熱していて自宅で休んでいるので、雛子に化粧道具の手入れを頼んでいた。 鬘を脱いで頭に羽二重を巻いただけの状態で、化粧台の椅子に腰掛け一息をつく。]
ごめんね、全部やってもらっちゃうと忙しいでしょ。 少し座って休まない?
[そう雛子に声をかけると、隣の空いている化粧椅子に来るよう彼女を促した。 隣に彼女が来たなら、じぃ、と見つめて、口を開く。]
……雛子ちゃん、お化粧してみない?
(414) steel 2023/11/28(Tue) 01時半頃
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[雛子は驚いたか、遠慮するだろうか。 ずいっと前に出て、彼女の柔らかい頬に触れる。]
若いから肌も綺麗だし、薄化粧でも変わりそうだな。 あ、僕、お化粧のプロだから。 じっとしてて?
[そう言ってウインクをすると、自分用の化粧箱を傍に置いて、雛子の顔に手を掛けた。 歌舞伎役者は基本的に、自分で化粧をする。キラがプロであると言うのは嘘ではなかった。化粧水をつけて、下地を塗り、牡丹刷毛で薄く白粉をはたく。 舞台用の化粧はわざと大雑把に塗るものだが、これは普通の化粧なので出来るだけきめ細やかに丁寧に。]
綺麗な二重だからこれは手をかけなくていいね。 少し目を瞑って……。
(415) steel 2023/11/28(Tue) 02時頃
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[眉を整えて薄くシャドウを乗せ、目元を作り上げると、 最後に唇に紅を差した。 唇に触れる時、あまりの柔らかさに少しドキドキしてしまう。]
……はい、出来た。
[そう言って、自身の手鏡を雛子に手渡す。]
思った通りだ。……綺麗だな。
(416) steel 2023/11/28(Tue) 02時頃
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[ずっと雛子にお化粧してみたいな、と考えてはいたのだが。 ”思った通り”というのは実は嘘で。 思った以上に綺麗な彼女が目の前に現れたので、瞬間少し動揺してしまった。]
雛子ちゃんは、人の見た目に興味ないって言ってたけど。 僕は美しいものが好きなんだよね。
[目の前の彼女の美しさに素直に降参して、そんなことを言ってしまってから、慌てて付け加える。]
……あっ、でも。 雛子ちゃんは素顔でいいよ。お化粧した顔、とてもきれいだけど……
(417) steel 2023/11/28(Tue) 02時頃
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……なんだろ。 あんまり他の人に見せたくなくなっちゃった……
………、 ……なんてね、あはは。何言ってるんだろ僕。
[何も考えずに思い付いた順に喋っているから、声になって外に漏れた自分の考えに、己で驚いた。 自身も化粧した姿だったから、頬に紅が差してもきっと彼女には気付かれないだろう。]
(418) steel 2023/11/28(Tue) 02時頃
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[別に今初めてすべてを自覚したわけではなかった。
ただ、そんな独占欲が自分にあった事に驚いたのだ。
彼女に持ち続けている感情を、 もはやどう表現したらいいのだろう───。]*
(419) steel 2023/11/28(Tue) 02時頃
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─ その後・とあるカフェ ─
[あの遊園地から、どれほど経っただろうか。 雛子と外のカフェでランチを食べている時に聞いてみた。]
ねぇ、そういえば。 雛子ちゃんは兎坂庵、行きたいよね。
僕はあの場に居た人には、まだ顔を合わせづらいから… 一人で行って来る? お休み取っていいよ。
[自分なりの償いを、とずっと考えてはいるが。 まだ答えは見つかっていなかった。
雛子は1人だと遠慮するかもしれないな、と思いつつ。 星座のクリームソーダのストローをぐるぐる掻き回す。 ミルキーウェイという有名な星座モチーフのカフェは、どことなくギャラクシーランドを思い出させる。]
(430) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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[自分なりの償い。 それはまだ深い霧の中にあるけれど。
そういえば、雛子を幸せにすることが煙崎るくあに対する償いではないかと考えた日も、確かにあった。]
──……
……雛子ちゃん。
[ストローで遊ぶ手をふと止めて。 星座モチーフの何かを口に運ぶ彼女をじっと見つめ呟いた。]
(431) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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今、雛子ちゃんは幸せ……?
(432) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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僕は……、 雛子ちゃんを幸せにしようと思って うちに連れてきたんだけど……、
[また、考えながら話している。 生まれて初めて、自分が現在進行形で話している内容を恐ろしく感じていた。似た経験をしたことがないからだ。]
……そうじゃないな、って思って。 いや。幸せにしたいのは本当なんだけど。
(433) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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僕は、自分が幸せになりたくて君を連れてきたんだと思う。 最初から。
……出会った時、君がまだ高校生だったから、 考えないように自覚しないようにしてたけど。 君といると楽しくて… 何をしてても可愛く見えて…
……って、カフェでしていい話じゃないな……。
(434) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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……か、帰ろうか。
[そう言うと、慌てて残りのソーダを飲み干して、傍らに置いたサングラスを掛けた。 雛子が食べ終わるか飲み終わるのを待ってから、手を繋いでカフェを出る。 もしかしたら、こんな風に手を繋ぐのもあの遊園地以来だったかもしれない。]
(435) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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[繋いだ手から伝わるほど心臓が早鐘を打っていることに、彼女は気付くだろうか。サングラスの下で仄かに頬を染め、無口で手を引いて歩く。おそらくそんな亜綺羅を見るのは初めてだっただろう。
この出来事、というよりは、雛子との出会いで、綺羅之介の舞台での演技が大きく変化することになる。
つまり恋を知ったのだ。]*
(436) steel 2023/11/28(Tue) 04時頃
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─ その後・カフェの帰り道 ─
[手を引いて、人混みを掻き分けるように歩いていきながら。 彼女の声が微かに聞こえる。>>439
雛子の幸せとは何だろうか、と、引き取ることに決めた時から考えてはいた。衣食住に不自由しないことは、おそらく最低限の下地で、人間の幸せはもっと別のところにある。それは身を以て知っていたから。
だけど雛子は今、幸せだと言った。
顔に書いてあると言われる、と。
元よりキラ目線では、彼女は感情の揺れが分かりやすい子だったのだけど、毎日をほぼ共に過ごすようになってからは、少し感想が変わった。彼女の感情が揺れるのは自分、キラが原因のことが多い。 最初から、特等席で彼女を見つめていたらしい。]
(450) steel 2023/11/28(Tue) 10時半頃
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[そして知れば知るほど、他の表情も見たくなって。 移動しながら少しずつ、ぽつりぽつりと、言葉を落としていく。]
──……僕は、素の自分がそれほど好きでは無くて。 舞台に上がっている時だけが幸福な時間だったんだ。 だって、舞台上の僕は幸福な役を演じているんだからね。
[だから不幸な役の時は不幸なんだけど、と、くすりと笑って。]
でも、不幸な役を演じていても、御客さんが観て、同情して、涙を流してくれるから、独りではないと感じられて。矛盾してるようだけど、不幸でもやっぱり幸せなんだ、舞台の上なら。 独りじゃない、という感覚は舞台の上でしか得られなくてね。 そこを降りたら、僕はただの空っぽな人間だった。
だけど、雛子ちゃんが来てから、舞台を降りたあとに会えるのが楽しみになった。
(451) steel 2023/11/28(Tue) 10時半頃
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最初は、女の子の付き人だから細やかにお世話してもらえるのが嬉しいんだと自己解釈してたけど。 お疲れさまでした、と声をかけてもらえて嬉しい。 僕の着付けを手伝ってもらうようになってからは。舞台に上がる時の気持ちに張りが出るようになって。 それから──……
[手を繋いで、駅とは反対方向の公園に辿り着いて。ひと気が少なくなった頃、足取りが緩やかになる。木漏れ日の下を、ただ話をするために歩いた。]
……普通に、会いたくなってた。
舞台と無関係に、普段の僕で、君と一緒に過ごしたい。
あの遊園地の時みたいに、笑い合って……
(452) steel 2023/11/28(Tue) 10時半頃
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[そこまで話を終えると、ふと、足を止める。 誰からも聞かれない木陰で、引いていた手を握り直して、彼女と向き合った。]
……そんな風に、誰かに対して思ったのは 僕は生まれて初めてなんだ。
だから、何て言うのが正解なのか分からないけど…
[眉をハの字に下げて、先刻の言葉への返事を。>>439]
……君と居たら、 舞台を降りた僕も、幸せになれる気がする。
……… 一緒に、幸せになってくれる……?*
(453) steel 2023/11/28(Tue) 11時頃
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[目を細めて微笑む雛子に。同じように嬉しそうな微笑みを返して。人目もない場所だから、改めてサングラスを外した。]
そうか…。何となく感じ取ってはいたんだけど。同じ気持ちでいてくれて嬉しいな。
………触れてもいい?
[雛子の許しが得られれば、そのまま目の前の細い肩を引き寄せて、抱き締める。 静かな時間は、あの夢のような遊園地で燥いだ日から、とても遠くまで歩いて来たことを感じさせた。 だけど独りではなく、一緒に歩いて来たのだ。
柔らかい髪をしばらく撫でて、囁いた。]
……ところでさっきのは、 告白じゃなくて、
(467) steel 2023/11/28(Tue) 14時半頃
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プロポーズだけど、分かってる?
[抱き寄せた身体を一度離して、肩に手を置いたまま、告げる。 それから、くすりといつもの顔で笑って。]
順番間違えちゃった。 こういうの初めてだから許してね。 好きだよ、雛子ちゃん。
[そしてもう一度、木漏れ日の下で細い肩を抱き締めた。]*
(468) steel 2023/11/28(Tue) 14時半頃
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プロポーズ通じてなかったの?
[少し笑っていたかもしれない。髪を撫でながら、彼女の心臓の音を心地よく感じ取る。背中に回された腕は、細く小さいけれど。]
歌舞伎の台詞だと何でも遠回しに言うのが粋というか。直球は無粋な世界なんだけどね。 現実はやっぱり違うな。勉強しなきゃ。
[指先で髪を梳くように撫でつつ、時折耳やうなじに軽く触れた。 様子を注意深く見ながら、頬に手を添えて、上を向かせる。]
(484) steel 2023/11/28(Tue) 17時頃
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付き人ではなく、僕の伴侶になって。 ずっと傍で手を握っていて欲しい。 僕も、もう死ぬまで離さない。
[雛子の返事を貰えるか、貰わないか、そのまま首を傾けて唇を重ねて。 そっと顔を離すと、ふたたび手を繋ぐけれど、ここに来た時とは違う繋ぎ方で、木漏れ日の中を歩いて帰った。]**
(486) steel 2023/11/28(Tue) 17時頃
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── それから ──
[あの遊園地の一件から、かなりの月日が経ってから、 ひょっこりと、サングラスに和柄のシャツ、紫色の髪をした男が現れた。 歌舞伎役者の中村綺羅之介だ。 一緒に着ていた小柄な女性と店内に入ると、カウンター席に並んで座って、メニューを眺め始める。 しばらく迷ってから、口を開いた。]
すみません、ほうじ茶と大福ください。 あ、大福はおすすめの種類があればそれで。
[マスターがこちらを見たら、卯木さんだ!という顔をしてしまう。]
(510) steel 2023/11/28(Tue) 21時半頃
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[どんな顔をして伺えばよいのか分からなくて、随分と時間が経ってしまってからの来店だが。 ひっそりとでも約束を果たしたくて。
卯木がこちらに気付いても気付かなくても、勝手に話を始めた。]
……随分前に、マスターと会って、ここに来ると話していたので…… ……やっと来れました。
[ほうじ茶と大福が出てきたら、隣にいる雛子の注文したものが出てくるのを待って、一緒に食べ始める。]
(511) steel 2023/11/28(Tue) 22時頃
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えっ美味しーい!!
ねぇこれ美味しすぎるよ!一口食べる?
[一見、女友達同士のような雰囲気ではしゃぐけど、隣に座った女性に一口分けてあげる時の顔は、明らかに恋人同士だった。 実際は恋人ではなく婚約者であるが。
もしも卯木が気付いたら、少しずつ、帰還後にどう過ごしているのか。難しいけれど、聞かれれば心境も。本当に少しずつ、話すつもり。]**
(515) steel 2023/11/28(Tue) 22時頃
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──数年後・歌舞伎座──
[歌舞伎座に並ぶ紅紫色の旗。 その日は、綺羅之介の代表作となった演目『寒芍薬血染めの十字架』千秋楽だった。
内容はこうだ。 花魁・夕狐は姿見る者すべてを魅了する狐の妖怪。 位は座敷持で、結いは伊達兵庫。紅紫色の寒芍薬柄の着物を着ている。 町一番の美丈夫から、村はずれに住む若衆まで、皆が夕狐に恋をして求婚してくるが、夕狐は「私(わっち)の術に浮かされておるのであろう」と、誰も信じる事が出来ない。ある者は殺し合い、ある者は夕狐が手に入らぬことに絶望して自害していく。
寒芍薬が寂しく咲く林下、孤独に耐え切れず悪鬼と化す寸前の夕狐を、兄狐が毒殺する場面で舞台は終わる。]
「 有難う。 私、今 とっても しあわせ 」
[煙崎るくあの放ったあの言葉を、あの表情を 模していることは、綺羅之介本人しか知らない。]
(516) steel 2023/11/28(Tue) 22時頃
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[幕切れ前のこの台詞の名演技により、夕狐に魅せられた客足は途絶えず前例のないロングランになった。 その後も末永く再演され、愛される演目となる。
一度だけ、夕狐演じる中村綺羅之介がインタビューで答えたことがある。]
僕の演じる夕狐には、モデルとなった女性が居ます。 いえ、そういう意味では御座いません。 僕は妻以外の女性に恋したことがありませんので。
その方は……そうですね。 ずっと心の中で花を手向け続けているひとです。
[綺羅之介が夕狐のモデルとなった女性について語ったのはこの一回のみ。]
(517) steel 2023/11/28(Tue) 22時頃
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