27 【crush appleU〜誰の林檎が砕けたの?】
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次があったら、 今度は鼻血が出ない威力に必ず調整するよ
[此方の提案に準ずる返事には頷いて。>>184 言及にはやはり、目が泳いだ。 しかし銀は心からそう思っているように見えるから 「普段の高祈先輩」らしく冗談で応じて終わりにすることにした。]
大丈夫 俺のほうこそ、不安な女の子に配慮が足りてなかったよ
[そうしたのだから彼女が謝る側になった時は、 此方の非を認めつつも気にしてないことを示すべきだろう。
気持ちが良い快活さがあるわけではない、 粘着質で陰気なわけでもない。不思議な子だ。 お互い出たがりの性質でもないので、そんな一面は今更実感した。
ただ素直なのはよく分かった。小さな背中を眺め、見送る。*]
(193) 2023/07/27(Thu) 22時頃
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── 行動 ──
……本当は思いついていたけど、怖かったんだよね
[彼女を見送ってすぐのこと。
その声は独り言で、恐らくは彼女には届かなかっただろう。]
(194) 2023/07/27(Thu) 22時頃
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[成海は男性としてそこまで逞しいとは言えない。
だが衣食住に何不自由なく育っていた。 華奢で背が低い女性と比べるならば、 これだけの身長があれば肩幅が広く胸が厚く 腕だって太く掌は大きいと言える。 体重もまた同じことだろう。
躊躇いは無い一瞬の出来事。 背にしていた窓へと向き直り拳を握ると、 銀の頬を張った時とは違う全力の振りかぶり。 体重を乗せた一撃がガラスを打てば、 耳障りな高い音を立てて──割れた。]
(195) 2023/07/27(Thu) 22時頃
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[しかし見ていない僅かな時間に、 無残な姿になっていた筈の窓ガラスは、まるで何もなかったような佇まいに戻っている。
肩で息をし引き攣った笑顔の成海の右手には、 破片が無数に突き刺さり今も赤を流させているというのにだ。
そもそも、暴力に慣れない成海が一撃で割れたこと自体も一体どうなのか。 車のそれは脱出の為に割れやすくなっているが、貴重な品を貯蔵する美術館ならば防犯の為に分厚く強度の高いものを使うのではないか。
今巻き起こったことは、陰謀の一言で済まされない不可解の筈だ。]
(196) 2023/07/27(Thu) 22時頃
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想像通りになったのはいいんだけど 皆に知られたら、恥ずかしいな……
[冷静になれと論した男が一番、衝動的と取れる行いをしたなんて。 集まった学生の中で最年長の一人だというのに。
無事な左手で汗に濡れた額の髪を退け、照れ笑った。
なに、素直な銀に謝られて少し己を恥じたのだ。 ろくな材料も揃えずに超常の中にあることを受け入れすぎだろう、と。
目撃者はいないが完璧な佇まいのガラスについている血液と、無残な手を証拠として撮影しておこう。 それも自分で塗ったと言われたら終わりなのだけれど。]
(197) 2023/07/27(Thu) 22時頃
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[その時、ゼミの彼女らのものではない若い女性の笑い声が聴こえた気がした。 笑顔を完全に崩したのは激痛ではなく、その不確かな音色だ。
黒いタオルハンカチを噛み締め悲鳴を殺しながら雑にいくつかの破片を除去した後に 血も止まっていない手をぶら下げたまま残りの窓の確認へと進んで行く。*]
(198) 2023/07/27(Thu) 22時頃
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[そう、状況を受け入れるのだけは得意だった。
大きな流れに逆らえはしないとすぐに諦め、 思考を停止しさも心を乱していない賢い者のように、自身を偽らんとするのだけは。
成海のその特徴は、決して良いことなどではない。 企業主に留まらない権力を持った親の下で、その道具の一つのように扱われて培われただけの特徴だ。]
(202) 2023/07/27(Thu) 22時半頃
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── その後・一階入り口付近 ──
『田端さんと分担した一階半分の窓の確認を終えました。 開けられる作りの窓は全て開きます。 ただ、換気可能な程度の隙間まででした。』
『実験として素手で窓を割ったところ、目を離した一瞬でガラスが元通りに修復されました。 車の窓ガラスのような脆い作りではない筈なことも含めて、不可解な現象です。』
[苦心しながら左手で報告を打ち、送信する。 証拠があると発言するのは、疑われる前かつグロテスクな写真を貼ることになるのでやめておいた。
新たな存在確認などメッセージの流れはまた進んでいたが、それについて深く考えるにはまず休む必要がありそうだ。 全て自業自得、全く恥ずかしい最年長でいたたまれない。
何か道具を探せばいい、それも事実だっただろう。 だが“天使様“の言葉が全て真だとすれば── この痛みも流れていく液体も、全ての感覚は幻に等しく。 死の宣告を受ける前に別の要因で死ぬなど有り得ない。]
(203) 2023/07/27(Thu) 22時半頃
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大学生と言えば実験だよね
[はてさて、 無限に流れ続けるのか?ガラスのように治るのか? 誰も聞いてない冗句を口にし、微笑んだ。
壁に背を預け座り込み、目を閉じる。 その間も流れる血液が、黒いシャツの端を染め赤黒く変えていく。*]
(204) 2023/07/27(Thu) 22時半頃
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[瞼の裏の暗闇を眺めつつ、銀とのやり取りを思い出していた。 最初は真顔で次に疑心を向けてきた彼女が、見せてくれた笑顔と言葉。
──たまには暴れてみるとスっとしますよ。>>210 家の者は誰一人そんなことを許さないだろうし、自分と無縁な行動としてきたので。 穴を掘って叫ぶという何かの童話のような例を含め、少し笑いに戸惑いを含めて「参考にする」と返したのだが。]
……確かにすっきりしたかもなぁ
[成海は別段この状況にストレスを覚えているつもりは無かったけれど。
あの紳士の言われるがままを呑み込んでいた状況よりは、痛みを持って自ら異常を理解したことで解放感のようなものはあった。*]
(220) 2023/07/27(Thu) 23時頃
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[静けさにより聞き取りやすいだろう足音もろくに聞こえていなかった。 ただ、近くにやって来た時の声は届き、僅かに身体が反応する。>>258
目も開けないままいつもの癖で右手を挙げて挨拶しようとしたが、鋭く走った痛みでそれは成されない。ただ痙攣しただけのようになってしまった指の傷から、更に液体が溢れ出すのを感じた。
これはどこか大きい血管でも傷つけてるのかもしれない、と今更考える。なんだか手指が冷たくなってきているし。 中々に痛々しくて、破片を取り除いた時もあまり見ないようにしていた……お坊ちゃんは荒事に不慣れなのだ。]
(268) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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[彼女の接近から徐々に意識を浮上させていた成海は、 控えめな印象の仁科の珍しい声を聞いた時に目を開く。>>259
正直に言えばやめてほしかった。 この先で自分がどうなるのか、確かめてみたかった。 けれど重たく開いた口はか細く息を吐いたのみで、発声出来なかった。
──なんて情けないんだろう。
手首の自傷による死すら相当深く切らないと成されないというのに。 まるで死の淵に立っているようではないか。 その相当に近かったのかそんなことは無いのか、冷静に把握できる状態にはいない。]
(269) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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[薄手ながら長袖の黒シャツ。 打ち付けたのは拳だが、一部腕の方にも傷がある。>>263
破片は自分である程度抜いたからね。 汚い心配は君の上着じゃなくて俺の血にするべきだろう。 思うことは沢山あるというのに、 呼吸を繰り返すばかりで喉が中々音を作らない。]
……死なない。俺は、信じているからね
[なんとも弱いものだったが、漸くと声を出せた。 ふっと微笑みを作って彼女を見た。 もしかしたら必死すぎて聞こえてなかったかもしれないけど。
自分自身の為ついでに、もし誰かが非現実的状況を受け止める為に少しでも役に立ったら。 そんな前向きな自傷のつもりだ。
決して黒服の発言に絶望したわけではない。 死ぬことはないと仮説上確信していた。 ──まあ、現実でどうなっているかは分からないのだが。]
(270) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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[そんな声を荒げても意味はないだろうに。>>265 こんなに子供っぽいことをするタイプだっただろうか? 自分が冷静さを損なわせている事実を棚に上げて、ぼんやり思っていた。
そして──目を丸くした。 自分の身体から、命に関わる大切な液体が延々と垂れ流されていたのだ。唐突に終わったのなら、分かるというものだ。 大きな怪我の経験があるわけではないのだけれど、時間経過による事象ではないと何故か確信出来ていた。
実験と称し誰も求めてないことで我が身を投げ打つ男と、 そんな者に懸命に寄り添って治ることを願う少女。
……まるで、後者の意志が勝ったようではないか?]
(271) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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分からない、目を閉じて休んでいたから
え、いや、沢山傷跡がその手に…あれ?
[年上の余裕は思わぬ形の実験終了で失せている。 ただ問われるままに答え、 更に驚かされる言葉に右手を顔の前に持ってきて眺めた。>>267
丁寧に拭ってもらえたこともあり──気持ち良いくらいに何も無かった。 もう何を言えばいいのか分からない。 すっかり痛まなくなったそれを、壁についた。
……少し身体が怠い。 でも先程までの頭がぼんやりする心地が無くなり、支えられる必要も無く立ち上がり成海の頭が小さな頭を追い越し高くへと。]
(272) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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ええと、仁科さん
見苦しいものをお見せし、多大なご迷惑をお掛けし 申し訳ございませんでした そして、本当にありがとうございます お陰様で傷は全て無くなったみたいです
[カフェに行くべきなんて相手はとっくに分かっているし、 偉そうに指示していい状況じゃあるまい。
銀がそうしたように、成海は深く頭を下げた。
血は中々落ちないと聞く。彼女の上着はもう駄目なんじゃないだろうか。 新品を返さなければならない……まで日常のように思考し、複雑な感情で脱線から復帰する。]
(273) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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凄い予想外な形だったけど、成功……かな
[第三者の手が入るとは思わなかったが、結果は二択の内の一つになった。 壊した壺が直るように、脱いだ靴が履き直されるように。
ガラスの件も含め、実に夢の中らしい怪奇現象ではないか。**]
(274) 2023/07/28(Fri) 01時半頃
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── それから ──
[成海はスマホを取り出さない。 彼女が何を送ったのかも誰かの反応もまだ知らない。>>300
ただ告げた通りに手は完全に治癒されており、仁科の目視でだってそれは確認出来るだろう。 もし自分のせいで後輩達のやり取りが発生していることに気づけたのならば多少気まずそうにしたかもしれないが、元気なものだった。]
さて、ここは本来の世界の常識は通用しないと証明された そうなると、単独行動の問題は精神以外にも関わってくる
……殺されることは間違いなく無いのだろうけど
[危険は見つけてないとグループや銀には語ったが、あれは自分視点の事実ながら一度落ち着かせる為の方弁が含まれている。
だから田端にも注意のような文面を送っていた。 夢の中で化け物や殺人鬼に追いかけられた経験くらい誰にもあるだろう。]
(327) 2023/07/28(Fri) 14時半頃
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[側にいる彼女が、どれくらいこの状況を受け止めているのかは分からない。 だが血塗れの先輩を前にし怒りのようなものを見せた仁科は突発的行動に出ないだろう、少なくとも成海のように自傷じみた内容ならば。
可能性の脅威より、本人の判断能力の喪失による危険行動のほうが恐ろしい。 成海から見た仁科は頼りなくか弱い姿をしているが、その面では強い心配は無かった。]
俺は何かがあれば皆に伝えられるように見回りを続けようと思う 君は出来れば……誰かと合流して安全を確保してくれると、嬉しいな
大丈夫、もう証明は済んだからあんなことはもうしない
[少し調子を取り戻したが、カフェに行くようにとの先輩面はやはりしづらかった。 他に目的があるというのなら、止めることはない。 普段のように微笑みを作り直しているが、彼女の荒げる声が今も耳に残っているようだった。 本当に意味のない自傷をする気はないけれど、納得してくれるだろうか?
相手の反応がどうであれ、それからどれくらいやり取りが続いたとして 最終的には二人は別れ、別々の方向に向かう。*]
(328) 2023/07/28(Fri) 15時頃
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[カフェに行くようにとグループでも銀相手でも促した。 それは心が乱れた者が精神的に落ち着けるようにという計らい。
自分自身に必要性は感じていない。 集まり話し合う理由があるのだと誰かに言われるのならば従うだろうが。
──全て受け止めるなら、一人が死んで他は生き返るのだ。 全員があるがままを受け止め時を待つようになったら、 そこに明るい空気が発生し得るだろうか。
実際のカフェで皆がどんな風に周りを見てどんな話をしているのか知らない。 これはあくまで成海が積極的に集まる気がないというだけの思考。]
[人でなしじみた思考を見透かされたくないというエゴも そこには多少、混じっていたのかもしれない。]
(329) 2023/07/28(Fri) 15時頃
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── 別れた後 ──
[仁科のお陰で沢山の文字列を脳が読み解けるようになった。 グループメッセージを一つ一つ、辿っていく。
……流石の行動派の田端だ。 己の経験で得た事実を、幾つも共有してくれている。
大体の内容は成海に驚きを齎すものではなかったが、 恐らく“天使様”に会ったらしいことと 彼女の悪夢とやらの存在については画面を撫でる指を一時止めさせた。]
(330) 2023/07/28(Fri) 15時頃
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[田端の報告と比べたら大した価値も無いだろうが 支持する方向性を述べるつもりで送信しておく。]
『それなりに出血してきた手の怪我が唐突に治りました。 現在傷一つ残っていません。 恐らく田端さんがした質問の答えは全て本当。 天使様は何一つ嘘をついていないと思います。』
『怪我には相応の痛みが伴うことを確認しました。 死んで脱出、なんて考えないように。 誰かとの行動と冷静さの保持を心掛けてください。』
[誰がなんと言っても成海にとってあれは天使だ。 例えその色は堕ちたそれの黒だったとしても。
死を宣告し神からの慈悲を届け、死者を連れて行く。 それが天使ではなくてなんだというのだろう? 成海には分からなかった。]
(331) 2023/07/28(Fri) 15時頃
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『見回りを続けます』
[最後に少なくとも今はカフェには行かないという意思表示を残し、スマホを懐にしまう。**]
(332) 2023/07/28(Fri) 15時頃
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[成海がスマホを取り出したのは仁科と離れた後なので、メッセージか通話かどちらにせよその時応対したのは彼女の筈。
ただ無事を示せば福原を放っておいていいとは、流石に成海も思いはしていなかった。 自分の報告と行く先を決めることを最優先としただけだ。]
『デートが台無しになっちゃったね。埋め合わせいつにする?』
[それは個人宛のメッセージ。 果たされなかった待ち合わせに触れている軽口だってことくらいは、理解してもらえる関係性だと思う。]
『ありがとう。心配を掛けてごめんね。 でも、頼もしい後輩がいてくれて安心できる。』
[画面越しには決して伝わらない居心地の悪さ。 いずれ必要になるかもしれないとはいえ、自分のせいで行動させ更に受け取らなかった事実。 偉そうにあれこれ言ったいつかの記憶が蘇った。
もっと言葉を尽くすべきだったのだろうが上手く纏まらず、告げるべきことだけを短く送った。*]
(336) 2023/07/28(Fri) 16時半頃
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[メッセージでは敬語で通している筈の成海は、何故か福原にだけは普段の口調を真似るような言葉遣いで文章を送った。
何も変わらない普段の自分であると示したかったのかもしれない。 目の前にいないからこそ口頭のように話しかけたのかもしれない。
──己と近しい者だと認識している彼に非日常の中でそうすることが、自分の精神に良い影響を与えると考えたのかもしれない。 いずれにせよ己の為だったことに違いはない。]
(344) 2023/07/28(Fri) 16時半頃
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── 美術館棟1F・ビデオルーム ──
[一度は不必要とした再確認、田端が回った分の半周を辿り歩いていく。 いくつかの窓が開いていたのは彼女が開けた分だろう。
向こう側にはやはり、平穏な自然風景が広がっているようにしか見えなかった。 ……天国や楽園と称される場所も、緑豊かに描かれることが多いなと思い出しながら通り過ぎてゆき、足を踏み入れなかった空間へ向かった。
その部屋はいくつかの長椅子の向く先の壁にモニターがある。 時間が掛ると嫌なので見学の際には素通りしていたが、ビデオアートが観れる場所の筈だ。
映像の為だろうか仄暗い作りで、上を向くと天井には疎らに白い照明が点在している。 ──真那とプラネタリウムに行ったことがあったっけ。]
(345) 2023/07/28(Fri) 16時半頃
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[何も映さず沈黙していた筈のモニターが、不意に光を帯びた。**]
(346) 2023/07/28(Fri) 16時半頃
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── 美術館棟1F・ビデオルーム ──
……あ、っ
[得体の知れなさに一歩、二歩と後退りするも 腿の裏に当たる硬質な感触、体勢を崩し背後にあった長椅子に座ってしまった。
すぐ立ち上がろうとしたが、……腰から下が硬直した。 なんとかして動かそうとするも、まるで石になってしまったようだ。
そうしている間にも、 白光の中に朧に何かの像が結ばれてゆく、世界が構成されていく。 ──上映会が始まった。]
(364) 2023/07/28(Fri) 21時頃
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[ 音は流れない。ところどころでノイズが走る。 古い時代の色の無い映画みたいな映像。
これは本来用意されていたものではないだろう。 静止画が連続するばかりで、 芸術としての観点から作られたようにも見えない。 いや、問題はそこではない。
雨が路面を打ち付けている。 車道の真ん中でバイクが転倒している。 雨が地面を打ち付けている。 崖下で潰れた車。 雷鳴が暗い空を一閃する。 ……走行中のマイクロバス。
覚えがあるが自分が知らない光景、 知っているがこの目とは視点が違うもの。
──趣味が悪い。]
(365) 2023/07/28(Fri) 21時頃
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[ 突然画面は一転する。 黒い服で沈痛な面持ちで並ぶ大人達、 棺桶や沢山の花──
どうやら二つの映像を継ぎ接ぎにしているらしい。 集まる顔触れ献花された種類など 不規則に変わる様が不気味だった。
中心として映される少年の背丈も、 幾度も伸びては縮んでいくが 浮かべている薄い微笑みだけは変わりがない。 ]
[ 俯く彼の唇が不意に綻んだ。 その仕草は記憶に無いものだった。]
(366) 2023/07/28(Fri) 21時頃
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