10 冷たい校舎村9
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「なんで俺の世界じゃないと思うの?」
(+5) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ 聞けなかったから、慎一は自分で考えた。 正解なんて結局わからないままだけどね。
単純に先に有力候補がいたせいだとか、 まっさらな手首のせいだなんて知らず。
あの校舎に迷い込んだ最初の日。 保健室に向かう道中話してて思ったんだ。
もう疲れちゃったなあ。 世界の主にその自覚がないのなら、 慎一の可能性だってあるかもしれない。]
(+6) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ きっかけなんて日常にいくらでもある。
朝、卵を切らしてたかもしれない。 うっかり右足から靴を履いたかもしれない。 購買のパンが売り切れてたかもしれない。 筆箱に混ぜ込んだままの10円玉と、 ふとした瞬間、目が合っちゃったかもしれない。
そんな些細なことが今も慎一の首を絞める。 気づいたらぽたぽたと水をこぼしていたりする。 何がそんなにつらいか自分でもわからないのに。
なんで? って繰り返してきた自問自答に、 仕方ない。慎一はそういうふうにできてる。 治らない。それが慎一の生まれ持った形だ。
何かの拍子にそう答えを出しちゃったなら、 その瞬間から慎一は死にたかったんだろう。]
(+7) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ でも、違うよって言われたから、 今度は死なない理由を探してた。
死にたくなっちゃった慎一が、 それでも死ななかった理由を。
先を越されちゃった、とかはナシにして、 それでも踏みとどまる理由を見出すなら、
たぶんそれって、さみしいからだ。 死んじゃったらその先ずっとひとりでしょ? それはさみしいなあって踏みとどまった。
……いや、幽霊も天国も地獄も、 慎一は信じちゃいないんだけどさ。 漠然とした死後のイメージで語ってる。]
(+8) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ エラ呼吸が下手なくせ、水の中は好きだったな。]
(+9) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ …………。]
(+10) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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── 現在・家 ──
[ バタバタと騒がしい物音で目覚めた。 自宅の自室。自室というか、共同部屋。
部屋の数が足りないから、 慎一は弟たちと大部屋に押し込まれてる。 妹はひとり部屋でいいなあって思うけど、 「女の子だから」って一蹴されたのだ。
やむなし、男子高校生3人で、 ハンガーラックや本棚を駆使して壁を作り、 年から年中陣取り合戦をしている。
それが、慎一の育った家の話。]
(+11) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ 慎一はふつうにベッドに寝ていた。 体を丸く縮こまらせて眠るのは癖。 ゆっくりと手足を伸ばして起きる。
物音は部屋の外からしてるみたい。 寝起きの足元はちょっと覚束ない。
閉じていたドアをふつうに開いた。 電気の消えてた部屋から顔を出し、 慎一は目の前に広がる光景に言う。]
(+12) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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ヨースケ、なっちゃん、 うるさい…………。
[ 互いの髪や服をひっつかんで、 取っ組み合ってたふたりがこっちを見る。
きょうだい4人の中で喧嘩が起きるのも、 喧嘩に混ざってないときの慎一が、 その声や物音に苦言を呈するのも、
この家族には珍しいことじゃないから、 何も驚くような顔することはないんだけど。]
(+13) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ いつもはこれでもかと言い返してくるのに、 ふたりはしげしげと慎一を見つめてから、 代表して弟のほうがこちらを指さしてきた。
「血ぃ出てるよ、そこ」……はて。 どこだろうかと指先を自分の肌に這わせれば、 首の正面あたりに違和感と、触れたときの痛み。
あわせて、理由なんてわからないし、 今の今まで気がつかなかったけれど、 ぽたぽたと涙がこぼれっぱなしだった。
弟も、妹も、それ以上なんにも言わない。 慎一がベッドでめそめそ泣いているなんて、 別に、珍しくもなんともないもんな。
慎一が黙って袖口で目元を拭っただけ。]
(+14) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ どうやらめそめそしてるうちに、 そのまんま寝落ちていたらしい。
それで……なんだっけ。 さらにごしごしと目元を拭いながら、 慎一は止まらない涙に途方に暮れる。
……ああ、そう。夢を見てた。 夢……? それで慎一は思い出す。
そりゃあ、涙も止まらないわけだった。*]
(+15) 2021/06/12(Sat) 13時半頃
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[ スマホを見て、九重からのメールを読んで、 慎一は今、自転車で病院に向かっている。]
(+16) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ スマホに目を通し切った時点で、 わたわたと目に見えた慌てて、 着の身着のままで飛び出そうとした慎一に、
弟は「兄ちゃん、とりあえず顔洗え」って、 ぐいぐい洗面所のほうに背中を押して、 妹はでかい声で「おかあさーん」って言った。
なんか大変っぽい。 いや、お兄ちゃんじゃなくて。 お兄ちゃんはいつものやつ。]
(+17) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ ……うん。いつものやつなので、 事情を知った両親からは、 割とスムーズに病院に行く許可が下りた。
なんかあったら連絡しなさい。 あと、自転車のライトはちゃんとつけること。
二点、玄関先で念押しした母の後ろから、 心配性の父がウィンドブレーカーを差し出した。 ほら、暗闇でちょっと光るタイプのアレ。
…………ダサ。 つぶやいたのは慎一じゃなくて弟の片割れ。
それどころじゃない慎一は、 素直にコートの上からそれを羽織って家を出る。]
(+18) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ 夜道。ペダルを踏みこみながら、 慎一はあの握りしめられた左の袖口を思う。
「慣れちゃった」って言ったあの口ぶり。>>1:618 床に散らばったカッターナイフ。その替え刃。
「痛くない?」って聞いたとき。 「試してみる?」なんて保健室で言ったとき。
いくらでも点と点をつなぐ瞬間はあったのに、 たぶん、慎一は見ないフリをしていた。
自分のことで手一杯だから。 人のものまで抱え込んじゃったら、 きっと、もっと息がしづらくなるから。
……「むなしい」ってこういうことかなあ。 それとも、これは「くやしい」なのかなあ。]
(+19) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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[ 慎一の言葉でいうなら、悲しかった。*]
(+20) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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── 現在・病院 ──
[ どうにかその場所を教えてもらって、 慎一は治療室のベンチの前までやってくる。
黒沢の家族と思しき女の人に、>>+2 ひょこりと会釈だけをして、 まっすぐ九重と番代のほうに向かった。
……挨拶するべきかもしれないけれど、 生来引っ込み思案なほうなのだ。 何と声をかければいいかもわからないし。
だからその人に背を向けるように立って、 病院でも怒られないくらいの声量で声をかける。]
(+21) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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……九重、メールありがと。 番代も来てたんだ。それで……えーと、
[ ちらっと集中治療室のほうを見る。 人が出てくるような気配はない。
重たい空気感にほうっと息を吐いて、 それで、ほんのつぶやきのように言う。]
(+22) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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……黒沢だったんだな。
[ メールの送り主の話。 あの校舎で見たのとおなじものが、 現実世界にもあったこと。>>3
答え合わせみたいだなあ。とは、 さすがに口には出せなかったけれど。*]
(+23) 2021/06/12(Sat) 14時頃
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── 現在・病院 ──
……ただいま。 いろいろ……うん、いろいろ。 外の空気、やっと吸えたな。
[ 最後の一文に関しては「よかったね」って、 そういうニュアンスだったんだけれど、 隣の九重にはなんのこっちゃわからないだろう。 まあいい。九重もそんなことは言わない。
そこまで口数の多いタイプではないし、 口を開けばよくわからないオカルト話の、 ちょっと不思議な女子……と思ってたけど、 精神世界について教えてくれたのも、 さっきのメールも、意外と面倒見いいんだなって、 慎一は静かに印象をアップデートしたところ。]
(+26) 2021/06/12(Sat) 18時半頃
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……九重も、番代も、 すごいことなってたから、焦った。
[ いろいろの断片を持ち出しながら、 慎一はあの校舎でのことを振り返る。
どちらも先に見つけた誰かが、 親切に張り紙をしてくれていたから、 「焦った」くらいで済んだ。感謝してる。
それで……世界の持ち主についての件、 「わかんなかった」って番代は言う。>>+25]
(+27) 2021/06/12(Sat) 18時半頃
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……うん。 でも、誰かに、 気づいてほしかったのかなって。 あの、いろいろさ。
[ 校舎に散らばったカッターナイフ。 誰かにとってはため息さえも、 手がかりになっていたとは知らないけど。
さすがに、後になって結び付けた点と点を、 勝手に人前で繋げてみせることはしないが、
でも、そういうことだったのかもしれない。 あの校舎が純粋に文化祭じゃなかった意味。]
(+28) 2021/06/12(Sat) 18時半頃
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で、問2。 それが誰かを答えなさい。って?
そんな問題が出たら、俺、 白紙で出して落ちたんだろうなあ。
……誰か合格してくれればいいんだけど。
[ 番代から出てきたたとえ話。>>+25
慎一は現代文も苦手だし、 200文字書いてる間に気が滅入る。
冗談めいた形で語ってみたって、 目の前の現実は何ひとつ変わらない。]
(+29) 2021/06/12(Sat) 18時半頃
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[ 夜のお菓子パーティー。女の子の秘密。 あの状況下で開かれていたと知ったら、 女子って強いなあって思っただろうが、 男の子の慎一がそれを知ることはない。
とにかく、慎一はもう現実にいて、 いつもどおりではない悲しい出来事が、 動くこともなく目の前に横たわっている。
だから、ベンチには腰掛けないままも、 その隣に立ってぼんやりと、 上着のファスナーを指先でなぞってた。*]
(+30) 2021/06/12(Sat) 18時半頃
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── 現在・病院 ──
……あ、でも、 本当にすごいことになってそうなとこは、 俺、見てねえから! 布団被ってたし!
[ 少なくともあっけらかんとした感じじゃなかった。 そのときの番代の笑い方の話。>>+31
それをどう取ればいいのか。 慎一がとっさにしたのはそんな弁明。
ほら、おなかの部分とかね。>>3:416 被せられていたのが布団というのもあって、 慎一がめくるのってどうなんだろって思ってさ。]
(+35) 2021/06/12(Sat) 22時頃
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[ 不要かもしれない弁解をしながら、 あのときのことを思い出して、ひとつ気づく。]
……そういえば、あれ。 黒沢の字だったなあ、張り紙してあったの。
キツかったはずなのにな。 こんなことになっちゃうくらい。 限界だったとか書いてたくせに。
[ そんなときに気を回さなくてもいいのに。 残されてた張り紙を思い出して、>>3:417 「えらいなあ」より先にそう思ってた。]
(+36) 2021/06/12(Sat) 22時頃
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[ 落第生ばかり肩を並べて、 おしゃべりしながら試験官の帰りを待つ。>>+32]
……うん、ヒントか。 答えがわからなかった、というより、 見ないフリしてた気がする、俺。
[ ぽつぽつとそんな言葉をこぼす。 落第生同士なんだから、 少しだけ反省点を述べさせてほしい。
慎一や番代に答えられなかった答え。 それに誰かがたどり着いてくれることを祈って。]
(+37) 2021/06/12(Sat) 22時頃
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ユーガか。確かに。
[ 誰か、と言ったって、 あの場所には顔も名前も知っている、 クラスの友人らしかいないのだから、 名前を挙げてみることだってできる。>>+33
真っ先に、当たり前に炭蔵の名前が出て、 なぜか慎一は少しばかりうれしい。 やっぱり隠し事が上手だなあ。 くやしさは特にない。でも、どうだろう。
ふと、慎一は一歩二歩とベンチから離れて、 番代のほうを見ながら大きく手を広げてみる。]
(+38) 2021/06/12(Sat) 22時頃
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……案外近いなあ。
[ その手の届く範囲の話。>>2:271
両腕を広げた長さは身長と近いと聞いたから、 たぶん、これより5cmくらい狭い範囲。
黒沢がその中にいてくれればいいけど、 でも、もしも今、あのなめらかな両腕が、 炭蔵自身をぎゅっとするので忙しくても、 慎一は失望なんかしないんだけど……、 はて、あのかんぺき人間はわかってるかな。
それとも、そんなことになったら、 自分で自分を許せなくなっちゃうんだろうか。]
(+39) 2021/06/12(Sat) 22時頃
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[ 何事もなかったかのように元の位置に戻り、 慎一はほかの名前を挙げてみたりもする。]
レンがさ、すげえ考えてた。 何をしてほしいんだろう、 なんなら教えてほしい、って。
……今思うと、アイツ、 自分が張本人の気、全然なかったな。
[ 伝えれば、きっと助けになってくれる。 寄り添ってくれる。力を貸してくれる。
鳩羽だけじゃなくて、あの場にいたみんな。 それ以上アレコレ名を挙げることはないけど。]
(+40) 2021/06/12(Sat) 22時頃
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