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「キミは犯人じゃなさそうだ。 それに、ボクを殺してくれそうにもない。
――つまらないな。」*
(197) 2023/11/19(Sun) 21時頃
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(煙崎さんへ個別送信)
『 地下室?
プラネタリウムに……?
あ、ありがとうございます。
こちらも、少し用事を済ませていますので
落ち着いたら、連絡ください。
というか…地下って、安全なのかしら?
変なことがあったら、煙崎さんも卯木さんも
避難してくださいね?
(お返事不要です) 』
(菊水さんへ個別送信)
『 菊水さん、ご連絡ありがとうございます。
中学生時代の先生だったとお聞きしたので
私も一度お会いしたいと思っていました。
確認ですか?
私でお役に立てるとも思えないですけれど
お話、聞かせてください。
菊水さん、今、どちらにいらっしゃいます?
こちらから伺います 』
(密星さんへ個別送信)
『よかった、それなら来てもらえますか。
そんなに大した話ではない…
いえ、少なくとも煙崎さんを殺したという人を
探すのには役立たないかもしれないけれど。
私は今遊覧船に乗ってます。
一周するくらいならちょうどいい時間になるかも。
乗船場で待ってますね。』
(菊水さんへ個別送信)
『遊覧船ですね。わかりました。
今から急いで向かいますので、お待ちください』
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「何を笑ってるんだ。そんな目で見るな。」
勝者の余裕に浸るでもなく、突然に逆恨みをぶつけられても、彼は反発して来ないどころか嬉しそうに認めるのだ。ただ憎いだけだった相手が、分からなくなる。いっそ憐れまれた方がまだ良かった。何故、自分が焦がれてやまない立ち位置を奪った相手に、羨望の眼差しを向けられねばならないのか。 感謝のことば(>>210)に、思考はますます混迷を極め、相手が喋っているのが日本語でないような錯覚を覚える。到底受け入れられず、ショッキングピンクに輝く髪を駄々っ子のように振って、腹の底から低く唸った。
「それでも、るくあはボクでなくキミを選んだ。
話がつまらなかろうが、薄情だろうが、 ボクよりキミの方が良かったんだ!」
所詮世の中顔なのか、と口走りかけて、ふいに脳内にるくあの声が響く。滔々と澱み無く流れる台詞に愛情は感じられない、そう彼の告解(>>208)と同じ温度で。
『あなたは、何も知らない。』(>>0:175)
死刑宣告に等しい、関係を断ち切り拒絶する彼女に、絶望の淵に叩き落された。
(235) 2023/11/19(Sun) 23時半頃
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今、眼前の相手は凄絶なほどの笑みを浮かべて、真っ直ぐに自分を捕らえている。不覚にも一瞬見惚れてしまったのは、彼の端正な美貌のせいではなくて――るくあを重ねてしまったからだ。
彼等が、似たもの同士と言い合っていたことは知らない。 最愛にして心の拠所であった彼女の面影を、憎い恋敵の中に見出してしまうなんて、惨敗どころではないではないか。その言寿ぎは、生きているるくあ本人から、一番聞きたかったものだったから。
「あっそう。どういたしまして。
…………ボクはキミが大嫌いだ。」
強がりで、そう絞り出すのが精々だった。 どうせ、自分がるくあを殺せていないことくらい、キャンディの正体を見破った彼にはお見通しだろう。 引き留められなければ、ミサンガの礼にもう一度だけぺこりと雑に頭を下げて、ロビーの方へ向かおうと。*
(236) 2023/11/19(Sun) 23時半頃
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――ホテルロビー――
るくあの隣に立つことを許された男坂里との対峙は、思ったより心身を消耗させた。まだ、朝起きたばかりだと言うのに。 ラウンジの昨日と同じ席に、ドサリと身を投げ出す。まるで連勤続きの疲れたサラリーマンの風体。
「あー モナリザー おはよーぅ。 昨日と同じコーヒーを貰えるかな。」
複数働く御馴染みの機体の中から、自身のトレードマークでもあったピンクのリボンを冠したロボットを、にこやかに手招きしてデバイスを翳した。
今朝(と言ってももう正午近い)はテーブル上の角砂糖を10個ほど黒い液体に放り込んでみる。混ぜるスプーンがたてるざりざりした音。最早泥のような砂糖にコーヒーが染みている、みたいな有様だが、壊れた舌では昨日の一杯と違いを感じられなかった。
(264) 2023/11/20(Mon) 02時頃
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「それから、オムレツが食べたいな。 ね、ね、ケチャップで何か描いて! 憧れてたんだ!」
一旦調理スペースに引っ込んで行ったモナリザが、1分経たずに内側が湯気で曇った透明なクローシュ付きの皿を運んできた。ワクワクしながら蓋を開けると、閉じ込められていたバターの香の湯気が広がる。
「――――――――っ。」
ギャラクシーランドのフードメニューだから、無難に月星や惑星の記号が描いてあるだろうと思っていたのに。園内で多用されている角ばったフォントで、寸分違わず描かれた赤い『SUSUMU♡』の羅列。メール用のアカウントは変更できても、デバイスの持ち主の登録名はバレバレなのだ。 坂理の前では意地でも見せなかった涙が一滴、頬を伝ってスプーンに落ちた。
(265) 2023/11/20(Mon) 02時頃
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「もうさぁ、 もうさぁぁ!!
ボクは別にここから出られなくても 全然、一向に、困らないワケ。 底辺配信者なんて、更新止まっても リアル多忙やメンタルやられて失踪した とか思われるだけだし、そんな事例ゴマンとあるし。
1人暮らしだし。父親も母親もボクが 生きてようが死んでようがどうでもいいだろうし。
でももし、ここから出ることになるならさぁ、 ボクはキミを連れて帰りたいよ。切実に。」
目印のリボンなんていつ外れてしまうか分からないから、ポーチから取り出したメタリックな深紅色のマニキュアで、モナリザの胸部ディスプレイの隣にハートマークを塗りつける。オムレツのケチャップのお返しだ。
「我ながら情緒不安定でおセンチな気分だな。 全部アイツのせいだっ」
スプーンで掬った優しい淡黄色を口に運ぶ。蕩ける食感は、僅かにしょっぱい。*
(266) 2023/11/20(Mon) 02時頃
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(坂理へ個人送信)
『誤解(何の?)なきよう言っておくけど、
僕は、黒須ワは、歴とした男だからな。
🍬の恰好は、女形のキラ様リスペクトなだけで、
いつの間にか後に退けず……。
まあそういうことだ。返信は要らない。じゃあね。』
女が好きな女でも、女装趣味の男でも、坂理の知ったことではないだろうが、妙に拗らせた対抗心と勢いで謎の釈明を送り付けた。
(下書きフォルダの未送信メール)
『じゃあ間違って招待されてしまったのでしょうか。
だとしたら、ボクだけでも、
この島から出して貰えるかも?』
灰羅への返信が随分と遅れてしまった。当然なのに、るくあが自分のことを身内に語ることはなかったのだと、事実として知らされてしまったらもう立ち直れない。坂理と相対して、多少なりともその人柄に触れて、格の違いを見せつけられた後だから、余計にだ。
モナリザと坂理には素性がバレてしまった。遅かれ早かれ、招待者の耳に入る可能性がある。白々しいメールの文面にDEL連打して、打ち直した。
(灰羅へ個人送信)
『仲が良いどころか、どちらかと言うと、
嫌われたり迷惑がられたりしてそうです。
黒須ワ、なら……何か聞いていますか、お 兄さん。』
『 え。そうなんだ。
すごうね。全然わからなかった。
ワくん。メイク上手いね。
そういえば煙崎さんが言ってたよ。
ワくんのこと。
大切で、大好きだったって。 』
(黒須へ個別送信)
『 黒須くん、な。
名前は聞いていたかもしれない。
中学時代だろう?
いや、るくあは誰のことも
悪く言ったことはなかったよ。 』
(密星へ個別送信)
『 身の安全ということなら問題なかった。
今は銀の館を出て、触れ合い公園で寝てる。
用向きが終わったら、起こしてくれないか。 』
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――回想/僕とるくあと卯坂庵――
煙崎るくあが高校に進学すると、引っ越しによる物理的距離が開いたこともあって、"見守り"は困難になっていた。さすがに四六時中とはいかず、たまに午後の授業を抜け出して電車に乗り、るくあの下校を待ち伏せたり、休日にるくあの行動範囲のスポットを偵察したり。
卯坂庵はるくあの行きつけの喫茶店らしく、彼女が三度その扉の向こうに消えるのを見届けると、僕は次の来店時期を予測して店を訪れた。これがもっとシャレオツで女子高生が映えるスィーツを撮りに並ぶような店だったら、当時の僕は怖気づいて回れ右しただろう。モダンながらも落ち着いた和風の店構えが、マスターの人柄と相俟って居心地の良さを演出していた。歌舞伎趣味といい、るくあは和風テイストが好みだったのかな、と今になって思う。 近くの高校はまだ授業中であろう時刻にやって来る、帽子を目深に被った私服の若者。特に何を喋るでもなく、文庫本を開いたりスマホを弄ったりしながら、コーヒー一杯だけ飲んで去ってゆく。不審な存在だが、幸い通報されることも、素性を探られることもなかった。
(289) 2023/11/20(Mon) 12時半頃
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一日置きに張り込むこと9度、ついにるくあが友人を連れて卯坂庵の扉を潜った。高鳴る胸を抑えながら、卓の下で足を落ち着きなく組みかえる。どこか儚さを湛えながら、るくあは日に日に大人びて優雅に咲き綻んでいく。僕はその芳香に惑わされる小さな虫。店内の和紙越しの柔らかな光の下で、僕のるくあは今日も抜群に綺麗だった。 此方に背を向け、大福のセットを注文するるくあを、学友と和やかに時を過ごするくあを、僕は一分一秒を惜しむように、目に焼き付けた。 茫っと見惚れてしまっていたら、持ち上げたコーヒーカップがソーサーに着地し損ねて、硬質の音を響かせる。その時、ふっとるくあが此方を向いた。目が合った。
「…………っ!!」
不覚だ、尾行に気付かれるなんて。偶然だね、なんて声をかける度胸もなく、僕は3分の1飲み残したコーヒーと紙幣を置いて、お釣りも受け取らず脱兎の勢いで店から逃げ出した。
(290) 2023/11/20(Mon) 12時半頃
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それから一か月も経たぬ内、るくあの隣に顔ヨシスタイルヨシのスラっとしたイケメン(※坂理だ)が並び歩くことになる。仲睦まじそうな空気感の二人を目にした時の絶望たるや、僕が魔王なら世界を33回くらい滅ぼしちゃっていたところだ。 それ以上二人を追えなくて、けれど遠ざかる二つの背から目を逸らせなくて。僕は悔しさと憤怒のあまり血涙を流し、隠れ蓑の電信柱をへし折る勢いで掴んでいた(※イメージ)。
その時るくあは、まるで最初から気付いていたように、ゆっくりと振り返り僕の方を見つめた。唇が諭すように動いて、その時紡がれた言葉が謝罪だったのか、諦めを促すものだったのか、聞こえはしなかったけれど。何という皮肉だろう、僕の希望を木っ端微塵に砕いたその瞬間にこそ、彼女は"その他大勢"に沈んだ"僕"を、確かに見つけ出してくれたのだ。直後奈落に突き落とされた僕は、すごすごと最寄り駅へと引き返すしかなかった。
(291) 2023/11/20(Mon) 12時半頃
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こんなことで、僕が諦めると思ったなら、るくあは僕のことを何も理解しちゃいない。るくあのことを忘れて、身の丈の生活に甘んじ、別の誰かを好きになるなんて――冗談じゃない!! 一度決めた相手以外に心変わりするなんて、大嫌いな僕の父母と一緒だ。僕の想いはどんなに捩じくれ歪められても、対象を変えることは絶対にない。してはいけない。
るくあが僕を選ばなかったことも恨むけれど。るくあの眼差しを、笑みを、語らいを、或いは可愛いおねだりを、向けられる相手を殺したいほどに憎悪するだけ。いつかるくあに好きになって貰うために、るくあが好むものを、この薄っぺらな身体に詰め込んでいくだけ。
そうして僕は、今日も明日も明後日も、キミを愛し、キミを案じ、キミを"見守って"いくのだ。
(292) 2023/11/20(Mon) 12時半頃
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――ホテルラウンジ――
心の隙間に滑り込むような、穏やかな男性の声(>>274)。醜く愚かな嫉妬の炎で焦げた身を、黙って聞いてくれるモナリザに慰めて貰っていたけれど、配慮に溢れた声はまた別の傷に染入る。
「どーもしない。 独りで飲みたい気分なんだ……。」
映画のワンシーンを気取ってみても、モナリザ相手に愚痴を零す情けなさは打ち消せない。未成年だからカウンターで渋く酒杯を傾けることもできない。 ちらと声の主を認めて、かつての卯坂庵での一幕を鮮明に思い出して。気不味さを覚えながらも、いや、とかぶりを振る。
「やっぱり、少しいいかな。 話しを聞いてよ、マスター。」
最早底に砂糖しかないコーヒーカップを両手で包んで、苦渋に満ちた溜息を吐く。居酒屋のオヤジにくだを巻く酔っ払いの戯言の調子で、喫茶店の店主に向かいの席を*促した。*
(293) 2023/11/20(Mon) 12時半頃
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――ホテルラウンジ――
数年越しの不思議な邂逅。 るくあの"見守り"(≒ストーキング)を通して、招待者の半数以上は一方的に知っていたけれど、彼等からは自分は未知の存在だろう。メイクを始めはっちゃける前は、極力目立たないよう日陰を歩いてきたのだから。 卯木からの注文を受けて去るモナリザを微笑ましげに見送ってから、再度嘆息。
「辛いこと……そうだな、失恋はもうとっくに トドメは刺されてるし。
敢えて言うなら、好きな人が、 ボク以外の誰かの手で殺されたらしいこと、かな。」
それだけで、想い人が誰であるか容易に察せる状況だ。 卯木の視線を追って、オムレツに目を落とす。モナリザの心使いの♡から食べ始めていたから、逆さから見ても『SUSUMU』の文字ははっきり判読できるはず。右端からスプーンで削って、はくりともう一口。 1人に暴露した以上、あまり正体を隠し通す意味はない。せいぜい、中学教師の菊水先生に見られたら気不味いな、程度。
「ボク、こんなナリで動画配信とかしてるけど、 中学の時のるくあの、 ……知り合いで。 招待状はそっちの――黒須ワ宛でした。」
(322) 2023/11/20(Mon) 16時頃
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「ねぇ卯木さん。 ボクはまだ、煙崎るくあの死が信じられないんです。」
モナリザが抹茶ラテを運んで来るのを待って。残り半分になったオムレツが冷めてしまうのを申し訳なく詫びながら、重々しく口を切った。 つらつらと並べたてるのは、賑やかな道化のキャンディの裏で、ここ数ヵ月ずっと燻っていた疑念。相手もまたるくあと面識があり、事件に巻き込まれているのだから、告解には最適な人選に思えた。
「るくあが高校を卒業する前後くらいかな、 ある時から急に、パタリと姿を見なくなって。
……遺体も見ていないし、葬式に呼ばれてもない。 心臓麻痺と診断したのは、 医者なのか警察なのか知らないですけど。 それが、『殺された』なんて話になって。」
(327) 2023/11/20(Mon) 16時半頃
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「他の人の事情は分からないけど、 ボクは正直、犯人が誰でも、殺すも殺さないも、 割とどうでもよく……はないか。理由によっては 羨ましくて殺したくなるかも。
ただそれより重要なのは、 るくあがもうこの世界に居ないと、 僕自身がハッキリと確証を得ること。
――それさえ分かれば、 きっと躇わずに済むから。」
思いつめたように、両手で包んだ黒い砂糖の塊を睨めつけて。険しく寄せられた眉間を、スカイブルーの爪で解すと、卯木の返事を待った。彼が、自分の知らないるくあの某かを、語ってくれることを*期待して。*
(328) 2023/11/20(Mon) 17時頃
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――ホテルラウンジ――
思考と言動は限りなくワに戻りつつあるのに、長い睫毛を伏し目がちに憂う表情だけは、恋する乙女のそれで。卯木の言葉に真剣に耳を傾け、何度か静かに相槌を打つ。縺れ絡まった思考の糸を解く手伝いをして貰っているような。相談事に慣れた大人との会話は、ささくれ立った心を宥めてくれた。
「確かに。お義兄さんなら、 僕を納得させるだけの証拠を持ってそうです。 というかむしろ、彼に示せないなら、 他の誰にも無理でしょうね。
ボクはまだ会ってないけど、 後でメールで呼び出してみるか……。」
顎を揉みながら呟いて。真面目な会話の途中で失礼とは知りつつも、ちらと『アポロ』に視線を落とす。着信に、うへぇと思い切り顔を顰めるのを隠しもしない。
(379) 2023/11/20(Mon) 22時頃
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それから、改めて卯木の顔を正面から見据えて、目をぱちくりと丸くした。
「苦しみを解放する、手伝い……
それって、意味分かって言ってますか?」
躊躇する理由――もしかするとるくあが生きているのではないかという一縷の希望が、完全に潰えたなら。自分がどんな行動に及ぶかまで、彼は察しているのだろうか? 後顧の憂いなく、るくあの居ない世界から旅立つことができる。未練を断つことは、精神的な自殺幇助だ。
(380) 2023/11/20(Mon) 22時頃
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「冗談でなく、ボクの世界の中心はるくあなんです。 彼女が死んでいたなら、ボクが生きている意味もない。
もしも本当にるくあが望んだら、犯人探しだって始末だって ボクは喜んでやり遂げますよ。
ただ、あのホログラムは贋者だと思うから、そうしないだけで。」
常人が聞けば狂人と、或いは恋の奴隷と捕らえられるのだろうか。淡々と告げる言葉に一片も嘘はない。卯木の顔色を窺い、舌で渇いた唇を湿して続ける。
「卯木さんは、彼女の…… るくあのことをどれくらいご存知ですか?
ボクはそもそも、誰かが敵意や害意を持って、 るくあを『殺す』ことなんてできるのか、
それだって疑わしいと思っています。」
ただ、その仮説が正しいなら、るくあの死は不本意や無念でなく、彼女が受け入れたことになってしまう。だからずっと、ぐるぐると思考の迷路を彷徨い続けていた。 卯木がその推察の根拠を求めるなら、中学時代の思い出を掻い摘んで聞かせることになる。
(381) 2023/11/20(Mon) 22時頃
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――回想/るくあ教の狂信者たち――
煙崎るくあを嫌う人なんて居ない。
美人でモテる女生徒なんて、同性からやっかみの対象になったり、万人から好かれるなんて有り得ないのが世の常だけれど、煙崎るくあはきっと誰からも好意的に受け入れられていた。
ある時、るくあのクラスの女生徒が、交際中の陸上部のエースがるくあに鞍替えしてフられたと、泣き喚いて友人に慰められている場面に遭遇した。僕からすれば真っ先に責められるべきはそのエースとやらで、るくあに罪はないと思うけれど、逆恨みは理屈じゃない。(坂理某への実体験を伴ってひしひし感じる)
(382) 2023/11/20(Mon) 22時頃
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放送室を掃除していた僕は、階段の側で群れる下級生の女子たちが、次第にるくあを生意気だとか泥棒猫だとか、ハブろういじめようと計画しているのを耳にしてしまって、心臓が飛び出る程の勇気を振り絞って「きみたち、掃除をサボっちゃいけないよ!!」と数年に一度の大声を張り上げた。 途端に蜘蛛の子を散らすように女子たちは走り去って。翌日の授業中、僕は気が気でなかった。るくあが、クラスメイトの女子たちからいじめられるかも知れない。様子を見に行きたい、助けの手をのべたいけれど、他学年の教室というのは、思いのほか敷居が高い。方程式を上の空で聞き流しながら、僕は悩んだ挙句に、報道部の後輩を呼びに来た素振りで、るくあのクラスを訪れた。 一人切り離された机、ポツンと孤立しても俯かない、すらりと背筋を伸ばした姿勢がいっそ痛ましく、僕の心を突き刺した。
(383) 2023/11/20(Mon) 22時頃
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それが、二日後には一変していた。教師や大人や警察が介入した形跡はない。ただ、いじめを主導していた女生徒が掌を返したように、煙崎さんが相手なら仕方がない、むしろ自分が難癖つけるのも烏滸がましいと、まるでるくあを女神か何かのように崇め始め、いじめに加担してた他の生徒たちも次々るくあに傾倒していった。 ――多分、陸上部のエースとやらが、るくあに告白するのも時間の問題と焦った僕は、一世一代の大勝負に出るわけだが、それはまた別の話。
るくあが教師に贔屓されている、色目を使ったに違いない、と悪意ある噂をばらまいていた女生徒が、号泣しながらるくあに許しを乞うてきたり。購買部での万引きを窘められた生徒が、逆恨みで嫌がらせを繰り返していたのが、急に別人みたいに更生したり。
煙崎るくあを嫌う人、害する人、責める人なんて居ない。
当時の僕は、それがるくあの魅力で、皆がそれに気付いてしまわぬよう、ひっそり愛でていたいと愚かな独占欲を燻らせていたけれど。今思うと、異様で不気味な状況だった気もする。*
(384) 2023/11/20(Mon) 22時頃
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