33 桜森高校同窓会
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……… は、 ……はい。
[正式な作法、なんて言うものだから。 どこかふわふわと落ち着かない心持ちで こくこく、と、頷いて、彼の手元を見詰めた。]
……… っ
[大きく息を呑む。 初春のうららかな陽を受けて 格調高い小箱の中に光るダイヤ。 その輝きの中に燈る決意は瞭然で わたしの胸はすでに早鐘を打ち始めている。]
(202) 2024/02/19(Mon) 03時半頃
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[これまでの4年間で、 互いに色々な贈り物をしてきた。 なのに意外とわたしも彼も、一度として リングの類を送り合っていない。 ――― 口にしたことはなかったけれど それはふたりの中で、ふたりの未来について 暗黙の了解のようなものがあるからだと信じていた。]
[勿論、不安がなかったわけではない。 『いつか』を想像しなかったわけでもない。 誰よりも愛する人に、…大好きな彼に、 二人きりの場所で、プロポーズを受けること。]
(203) 2024/02/19(Mon) 03時半頃
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[彼は教えてくれる。 彼の家に代々伝わるダイヤモンドのこと。 婚約指輪として譲って下さったのは 恐らくは彼のお母さまなのだろう。 彼の家と系譜が繋がるものを譲り受けることに どこか姿勢が伸びるような心地にもなったし、 そうしたものを贈ってくれた彼の想いに 胸がじんと熱くなってしまう。
アルバイトの日数や時間が増えていたことは 一緒に暮らしているのだから勿論知っていたけれど 婚約、結婚、そういう言葉が出て来るのは もう少し先のことかと思っていたから この時の為だったなんて、思いもよらなくて。
驚いて、嬉しくて、 ああ、やっぱり好きだなあって。]
(204) 2024/02/19(Mon) 03時半頃
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かな と、 くん……… っ
[口にしたい言葉は幾つもある筈なのに。 考えていた言葉、聞きたいこと、 伝えたいことも何一つ。 どうしよう、うまく形になってくれない。]
奏人くん、かな……とくん、 かなっ …… っ、っ…
(205) 2024/02/19(Mon) 03時半頃
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[ぽろぽろ、と。 涙ばかりが溢れて止まらなくなった。
なんだか、これまでで一番みっともない 泣き方をしているような気がする。 涙の海に溺れてしまう前に、彼の温度を求めた。 首元に縋るように抱き着いて、ぎゅうっと力を籠める。
奏人くんの胸の鼓動がひどく近く、大きく聴こえて ああ、彼も緊張していたのだと、愛しさが込み上げる。]
(206) 2024/02/19(Mon) 03時半頃
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[――― “嬉しい” ]
[暫し、涙を止める時間を貰った後。 はっきりとした響きで、彼の耳元に囁いた。 答えなんて一つしかない。]
(207) 2024/02/19(Mon) 03時半頃
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……… ありがとう。 ずっと、奏人くんの傍に居させて。
[視界を滲ませる涙がやっと止まってくれたので 身体をそっと離し、真っ直ぐに彼の瞳を見詰め返す。 目許も睫毛もまだ濡れていたけれど、 朱に染まる頬と、ふわりと緩んだ表情で 確かに幸福なのだと伝わるだろうか。]
…… 奏人くんの手で、付けてくれる?
[婚約の証となるリングを今一度見つめ。 彼の指先に左手をそっと触れさせる。 預けるのは指だけれども、委ねるのは全てだ。**]
(208) 2024/02/19(Mon) 04時頃
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ーー温泉プール→想い出の場所ーー
[一目で誰もがわかり納得することなら繰り返し強調する必要がないともいえるが、敢えて言おう。
彼女はモデル並の抜群のプロポーションの持ち主である。 鍛え上げられた筋肉の引き締まりと、女性らしい丸み帯びた肉を兼ね備え、男女関わらず見る者を魅了し止まない。
更衣室から現れる彼女に少年が期待を寄せたのも当然の事だろう。
セクシーな水着にそのはち切れんばかりの魅惑を詰め込み、美しく背筋を伸ばし現れると思っていたからだ。
ところが……。
バタバタと目の前を疾風の如く走り抜ける影。少年の愛するぼんきゅっぼんは何やらピッチリした布に包まれ肌が全く見えないではないか!]
ちょッ……おいニジノッ!?
(209) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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[詐欺だ!!露天で裸ではないと知っただけでも落胆したのにこれ以上の肩透かしがあるのか?
ラッシュガード? そんなん水着じゃねええー! (※エロ可愛い以外ものは認めない)
とはいえ、走り抜ける彼女も転がるお握りも止める術はない。 少年も一拍遅れて走り出して後を追う。廊下を走るな!!]
待てよおい!転ぶからッ……
[運動神経抜群の彼女にそんな心配は無用だろうが、必死に背を追い掛ける。
二人はあっという間に屋外へと。 ひゅう、と吹きすさぶ風はひんやり少年の素肌を撫でる。]
ええ〜?だってそりゃ。
(210) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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[彼女は覚えているだろうか。VR内で初めて身体を重ねた時、唇で愛を刻まれる事を強く望んだのを。
今は元気に走る事が出来る、彼女のしなやかな脚。 でも、あの時は……。
以来少年は彼女の全身に吸い痕を残す習慣がついている。
それが少しでも安堵に繋がるなら。ただですら二人は遠距離恋愛という難しい立場なのだから。
とはいえ、貸切風呂にてつけまくったキスマークに朝おかわりを足したのはやり過ぎたか?
眉尻下げる少年を尻目に、彼女は一段高い飛び込み台の上に起立する。は、と息を呑んだ次の瞬間にはーー]
(211) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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[彼女の身体が宙を舞う。
伸びやかに、しなやかに。 爪先にて残した円上を少年が目で一周する間に、躍動感溢れる入水を果たす。
さながらイルカがジャンプするように。]
カッコよ……!
[見惚れて口を開いた少年であったが、誘われたならすぐさま続いて飛び込んだろう。 ジャンプ台からではなくお尻から。ざっぱーん!]
ひゅう、あったけ。 気持ちいいな!
[彼女と水面にて屈託ない笑みを交わす。するとーー。
肩の上にひや、としたものが触れ、消えた。 頭上を見上げれば曇天、その灰色から降り注ぐのはーー粉雪。]
(212) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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うわ、マジかよ。 天気予報雪だったけ? さむッ……
[ブルッと犬みたいに震える。彼女の唇も心なしか青紫じみて。コイツはやばい。
というか、雪が降ると困るのは寒いだけではないのだ。 バーベキューやキャンプファイヤーは出来るのか? 企画倒れのピンチ!
それに、少年は個人的にやりたいと思っていたこともありーー。]
ニジノ、予定変更だ。 ちょっと早く上がろう。 風邪ひいちまうし。
[折角プールに来たわけだが仕方ない。彼女の水着は部屋で拝ませて貰う手もある。
温泉が水に変わらぬうちに退散を決め込んだ。]
(213) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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[もう一度更衣室にて着替えを済ませると、少年は彼女に断りを入れる。]
なあ、すまねえがちょっと待っててくんねえか? 準備したいものがあんだ。
[雪が酷くなるのか、止むのか。止んでくれるなら構わないが、酷くなるかもと心配した少年は、ある場所にてやりたいことを考えている。積もる前に。
彼女が頷いてくれたなら、一度部屋に戻ってある物を取ってきてから、売店に寄り傘を購入する。
再び合流が叶ったら傘を見せて。]
相合い傘でいーよな。 行くのは近くだから。
[何処へとは言わない。雪がちらつく元校庭を小さな傘に入るよう身を寄せあい歩こう。
もしかしたら道すがら、彼女は少年が向かう目的地を悟ったかもしれない。
それは二人の想い出の場所だから。]
(214) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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……あった。
[紅色の花弁が鮮やかに。桜は時期ではないが、この花は冬の寒空の中開花する。
ーー寒椿。
VRならいつでも咲いているかもしれないが、時期としては12月から2月。まるで少年たちを待っていたかのよう。
3メートルほどの低木の前に立ち、真っ赤な花弁が白い雪にはた、はたと化粧されていくのを見守った。]
……渡したいもんがあるんだ。
[傘を持たぬ左手はワークジャケットのポッケに。取り出した物は]*
(215) 2024/02/19(Mon) 08時頃
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――温泉プール――
[ちらほら舞う雪を見ると、つい口を開けて待ち構えてしまう、子供じみた仕種。大半は、皮膚に辿りつく前に透明な雨粒に戻っていく。]
え゛ぇー、折角来たのにー。 学校のプールなんて、小学生ぶりだよ、懐かしい。
[確かに降雪には驚いたが、湯口の側は十分に温かい。結局、高温を保った範囲に集まってしまうのでは、広々としたプールの有難みは薄いかも知れないけれど。 不服そうに唇を尖らせて、最後の悪足掻きに大きく酸素を取り込むと、ぶくぶく湯の底へと沈んでいく。 25mの泳ぎ出しは、大腿四頭筋を活かしたドルフィンキック。クロールは息継ぎをせずともグングンスピードを増し、あっと言う間に端に到達する。壁を蹴り半回転、雪を見ながらの背泳は、真ん中あたりで足を止めて、ぷかぷか浮遊するに任せた。]
(216) 2024/02/19(Mon) 10時半頃
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まだ、朝食べたオムレツ分も、 カロリー消費できてな――っくしゅ!
[暫く風流な雪見風呂を堪能していたかったが、ほぼ水の中を潜航したせいか、大きなくしゃみが出た。 濡れ髪は冷え切っているし、顔面もピリピリしてくる。 同行の彼は派手な黄色の海パン一丁なので、余計に寒そうだ。
不本意ながら、更衣室へ撤退する。最後までう゛ーう゛ー唸りながら、名残惜しそうに恨めしそうに、湯気と雪で白むプールを振り返り振り返り。]
(217) 2024/02/19(Mon) 10時半頃
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うん、急がなくていいよ。 ちょっと冷えちゃったから、 私はサウナ入って来る。
[更衣室のついでのようにサウナが併設されていたのも、ちゃっかりチェック済みだ。 準備とやらのため大和が雪の中を駆け回る間、小さな窓から銀世界を拝みつつ汗だくになるまで蒸されておいた。これでホカホカ、湯冷めの心配もないだろう。]
……私の荷物の中に、 折り畳み傘持って来てたのに。
[わざわざ、本館に戻る道中虹乃が雪に濡れないように、傘を買ってきたのだろうか。エスコートにしても大袈裟だな、と早とちりで鼻白む。 どうやら、別に目的はあったらしい。大人しく従い、肩を抱かれるようにして均されたグラウンドに足跡を残して行く。 途中でまんまと、その先に何があるか気付いても、無言で続いた。]
(218) 2024/02/19(Mon) 11時頃
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[枯れ木の黒と雪白が織り成す、寒々しいモノトーンの世界でぽつり、目を惹く鮮やかな色彩。これまで幾度も、自身の恋心を託してきた、くれなゐに灯る華。 まるで、椿色の衣装を纏い、広大な銀盤の上に凛と立つ己の姿を写し取ったよう。凍てつくほど清澄な寒気の中、恋の炎はまだあかあかと燃えている。]
……うん、……大和。
[真正面から挑む彼の眼差しは、VRの頃から変わっていない――否、瞳に篭る熱量はあの時の比でなく、この一身を焦がすほど。 白い息を吐きながら、彼の左手の動きを目で追っていた。*]
(219) 2024/02/19(Mon) 11時半頃
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── 桜並木 ──
[それからしばらく、スマホの音楽に合わせて 二人でくるくると踊る。 VRでは日暮れに差し掛かる頃、 ほぼ夜桜に近かっただろうか? 今は、ほんのり粉雪のちらつく曇天の下で。 白い息を吐いて二人だけの舞踏会をした。]
あはは、前も思ったけど上手だね、沙羅。
[やがて一曲終わるので、身体を離して一礼をする。 VRも、とても大切な思い出だけど。 今リアルでこうして、彼女と過ごせることが 何よりも幸せだと感じた。
彼女がほぼ同じことを考えていたなんて、 全く知らないまま。]
(220) 2024/02/19(Mon) 12時頃
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[苺博士。 野々花がどこかで恋愛探偵の呼称を得ていると 知っていたかどうか。 新たな二つ名が増えたことに笑みを零す。 手づから食べさせたショコラテリーヌに 満足気な様子であることも可愛らしくて、 幾度も視線を交わ合わせながら バレンタインの至福を味わった。*]
(221) 2024/02/19(Mon) 12時頃
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[朝食後部屋に戻ったとき、 野々花と入れ違いに「忘れ物」と部屋に入ったから 勘づかれるかとも思ったが、 さすがに予測できていなかったらしい。
声音に含むものを察したか、姿勢を正す彼女の 息を詰める気配に、柊も固唾をのんで返事を待った。]
(222) 2024/02/19(Mon) 12時半頃
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[時間にしてそう長いものでもない筈の、奧妙な沈黙。 その後で彼女の唇から零れる自身の名。 これから先も何度だって彼女から与えられる 自身の名の響きだ。]
ののか。
[それと対になる名を唱えた。 笑みを浮かべる予定だった口許は 彼女の眸から溢れ出す滴で不安定な形になる。 慌てて彼女を抱き締めようとして、殆ど同タイミング、 抱き着いてきた彼女を受け止めた。]
(223) 2024/02/19(Mon) 12時半頃
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の、のか…… 、 ……………… ののか。
[急にごめん。大丈夫、ここにいるから。 泣かないで。どれも見当はずれな気がして、 彼女同様、名を呟くことしかできなかった。
ただ、自身に縋るようにしがみつく彼女を 優しく抱き締めるだけ。 彼女から流れ込んでくる感情に、 自身の胸も熱くなりながら。 やがて耳元に届けられる―――― 福音に、 目を見開く。]
(224) 2024/02/19(Mon) 12時半頃
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…… やったあ。
す ごく 嬉しい。
[やはり彼女のすぐ傍だったため、 安堵の吐息は気付かれたろう。 通じ合えていると理解していても、 酷く緊張するものだと改めて実感しながら。
もう一度、ぎゅ、と彼女を強く抱き締めた。]
(225) 2024/02/19(Mon) 12時半頃
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僕に出会ってくれてありがとう。 ずっと野々花の傍にいるよ。
[いつも眩い彼女の眸が潤いの嵩を増して、 強く柊の心を打つ。 ようやく頬を流れなくなったことにほっとして、 指先で彼女の目尻をそっと拭うと、 差し出された左手を手のひらで持ち上げた。 頬が染まっているのは寒さゆえでないことが分かって、 柊の顔にも満ち足りた笑みが浮かぶ。]
(226) 2024/02/19(Mon) 12時半頃
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[彼女の耳にピアスを飾った時とはまた違う心持ちで、 そっと薬指にリングを嵌める。]
サイズ直しの必要はなさそうだね。 よかった、とても似合う。 …… 世界一かわいいです。 大好き、僕の野々花。
[彼女の幸福な笑顔を永遠のものにしよう。 委ねられた気持ちを受け止めながら、 静かに心に刻んだ。**]
(227) 2024/02/19(Mon) 12時半頃
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[子供は風の子、ニジノは雪の子! 舞い降りては湯に溶ける淡雪をものともせず泳ぎ出す。
壁を蹴り勢いのあるスタート、みるみる姿が対岸のプール端まで遠ざかる。はえ!て驚いてる間に戻って来た。忙しない人魚だ。
実のところ少年は寒さには割りと強いのだが、彼女が風邪を引いたら大変である。 何故ならスポーツマンは身体が資本なのだから。今はお休みの時期とはいえど。
サウナで待っているとの提案はナイスアイデアであった。 少年が傘を持ってきたのは確かに移動用ではあったが、彼女が少しでも濡れないようとの気遣いには変わりない。]
(228) 2024/02/19(Mon) 13時頃
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[しんしんと音もなく降りしきる雪の中。やや霙と化した土の上を歩く足音だけがさくさくと響く。
やがて、眩しい紅色の椿がぼんやりと浮かび上がって二人を迎えた。
その鮮やかを見つめる少年は、あの時の気持ちを思い出す。
この花の前に誓った。 二人の未来を。
そして彼女を初めて抱き、心を重ねた。
それなのにーー少年は挫け。 結果彼女を独りぼっちにしてしまう。
どんなに苦しかったろうか。 辛かったろうか。
少年が踏みにじってしまった花。 それを再び拾い上げ胸に飾りたいなど、どれだけ烏滸がましいと悩んだか。]
(229) 2024/02/19(Mon) 13時頃
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[それでもーー。
過ちを悔い、もう一度掴もうとしたのは、この木の前で交わした想いが本物であったから。
あれから月日が経った。
彼女は少年の隣にいる。 居てくれる。
きっと「また大和は居なくなるのでは」なんて不安もあったはずなのに。
隣にーー……。]
(230) 2024/02/19(Mon) 13時頃
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[名を呼ばれて。少年はポケットこら小さな箱を取り出す。
少年と彼女が付き合い始めた年のクリスマスイヴ。
教会で二人で礼拝に参加した後、少年の友達がバイトするイタリアンレストランにて食事し、そして。
少年はこのプレゼントを渡そうとした。
彼女に箱を見せた時、開ける前から中身を当てられて。 まだスケートを頑張りたい自分はそれを貰えない、と断られた。
でも、このまま付き合い続けて気持ちがお互い変わらないのなら、その時にプレゼントして欲しいと。
少年はその際に「じゃあ五年後に渡す」と約束したのである。
彼女はまだ卒業していないし、渡すには早いかもしれない。 あの時だって「普段使いの身に付けられる品がいい」と言われたのだ。
だけど……。]
(231) 2024/02/19(Mon) 13時頃
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