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そして、次の人にバトンを繋げるためだけに戦うのだ。
私がその選択肢を狭めてはいけないと考えている。
…だって私と違って、生きたいと願う人はいるでしょう?
私たちと同じ状況になってもなお。
だから、私は巻き込まれたみんなのためだけに戦うのだ。
生きて幸せに暮らしましたとさ、となる誰かさんの為には戦えなかった。
誰かを呼んだわけではないけど、拒みもしなかったからパイロットメンバーは来ていたかもしれない。
ああ、でも、ハロには出てこないでとお願いしていた。
あくまでハロは私の敵。巻き込んで大和君を死に追いやり私やみんなの命も奪ってしまう側だから。
お葬式の間、私は泣き腫らした目で大和君の1番近くにいた。
数珠を握りしめて、涙はこぼさなかった。もう沢山たくさん涙を溢して、でも大和君は生き返るわけはなかったから。
祭壇に飾られたお花は少なくて──それでも、来てくれたみんなにお花を入れてもらう。
菊よりこっちが好きだと、白い百合を沢山用意してもらっていたから、大和君は白い百合に覆われていった。
白い百合に覆われた大和君の額に手を添える。
冷たくて、命を感じられなくて。その時、私は枯れ果てたと思っていたのにまた涙を流してしまった。
離れたくない。このままでいてほしい。それでも火葬を選んだのは、より長い時間を共にいようとしたなら肉体の保全が難しいと判断したからだった。
腐らせてしまうよりは、きちんとした手続きをして共に在りたい。本来なら親御さんに連絡をするところだろうけれど、さまざまな混乱の中でそれがうまくいかないらしい事は分かったから、父さんに頼んだのは完全な私のわがままだけど。
冷たい唇にキスをする。
そして納棺を見守って──。
「みんな、来てくれてありがとう。
──大和君もきっと喜んでる。」
そうみんなに頭を下げて、私は火葬場へと父さんと二人で向かった。
二人でよかったと思う。何なら一人きりがよかった。
棺が運ばれてしまう。あれを何と呼ぶのかわからないままだけど、棺が、大和君が、向こう側に行ってしまって…。
「やだ…。」
いつものお坊様が眉を顰めながらも読経を続けてくれているのに。
「いや、やだ、大和君、大和君…!!!
燃やしちゃ嫌、ダメ、死んじゃやだ、
私の隣にいてよ、ずっとずっと──!!!」
私の慟哭は叶うことはない。
泣き崩れる私を横に、死者の弔いが続けられる。
父さんは私の肩を抱きしめようとしてくれたけど振り払ってしまった。
一人になりたくないけれど、誰でも良いわけじゃない。
大和君じゃないと嫌。
大和君じゃないとダメ。
──泣く事で大切な人が生き返るのならば、どれだけの人が生き返れるのだろう。
母さんの時にもそれが叶わない事を知っているのに、私はそれでも涙を止められなかった。
『大丈夫だよ。毎日ちゃんと食べてるもん。
大和君も美味しいって。』
大和くんの前にご飯を並べたもので、それが答えだ。
ご飯を一人分しか作らないくらいの理性はあった。あったけど、そうでもしないとご飯を食べられなかった。生きていけなかった。
大和くんの願いを叶えられなかった。
でも、最後の優しさが手元にあるから何とかやっていけたんだ。
誰かに会う気はあまり無かった。
ハロは敵。だから、情報収集するつもりもなかった。
ただ私の望みは。
誰かの選択肢を狭めない。
大和くんの願いをなるべく叶えて、最期は一緒に眠る。それだけだったから。
嗚呼、でも──。
生憎、私は頭が悪い。成績が悪い。でも、──何故だか人一倍察しが良い瞬間がある。
だから嘔吐した。
そう、私は瞬間的に察してしまった。
恵一くんが戸惑う気持ちも分かるよ。だって、対人で戦闘で勝利なら、相手が戦わないなら不戦勝にしてくれても良いのにね?
でも、そうはならないらしい。
相手のパイロットを絶命させるまでそれは続く。
差し出されたハンカチに手を伸ばしかけたけど──伸ばした手をグッと握り込んだ。
これは、私が使うべきじゃない。
恵一くんか、恵一くんが大切な人が使うべきだ。
私が汚したらダメになっちゃう…。
「ハロ、吐瀉物を除去だけして。
それくらいできるでしょ?」
私の中でハロは敵だから冷たく言い放つ。
雑菌だらけだろうそれを、柊木くんもいる空間で放置していたらその方が危ないだろうから。
だって彼らは、まだ生きてる。私よりも長く。
「恵一くん、ありがと…大丈夫。」
ウソ、全然大丈夫じゃない。
だけど私は、そう言って大和くんを抱き直して座り直す。
そう。私はそれに気づいてしまったから。
そんな事、私には耐えられない。怖い。そう思えたけど──。
「…あは。そんなの、ダメだよ…。」
だって、それは一番の悪手だ。
「そんな事したら、私が1番嫌だった事を
誰かに押し付けることになるんだよ。
私が嫌なのは、誰かの選択肢を狭めない事。
だから、最後のパイロットになるまで
そのバトンを繋げる為に私は戦うの。
そこから逃げたら。
…コイツらと同じになってしまう。
また別の人を巻き込む可能性がある。」
ジロリとハロを睨みつけてから私は前を見つめた。
目を一度閉じてからスウ、ハア、と深呼吸を幾度か繰り返す。
どうしてこの地球のパイロットは逃げ出したのかな?
たぶん説明はあるはず。このままだと負けてしまう。48時間以内。もしかして、戦う事を放棄して──此方にも勝たせないようにするのは何かの意趣返し?何だろうか。
それとも、もしかして意識不明の重体で戦えない──いや、それならコクピットの中で死んでるはずだよね。たぶんだけど。
考えても考えても仕方がない。
だから私はゆっくりと目を開けた。
「──殲滅戦、始めるよ。
見たくなければ見なくて良いから。
こんな事、私一人で…十分だもの。」**
【人】 珊瑚宮連邦 ルリ──数年後の私たち── (118) 2023/11/19(Sun) 18時頃 |
【人】 珊瑚宮連邦 ルリ順番からドレスをどのタイミングで脱いでとか着続けるとかはあるけれど、とにかく私の式では私たちが主役。 (119) 2023/11/19(Sun) 18時頃 |
【人】 珊瑚宮連邦 ルリ長いキスを終えて、私も小さく吐息を溢した。 (120) 2023/11/19(Sun) 18時頃 |
【人】 珊瑚宮連邦 ルリ披露宴は最初はウエディングドレスだったけど、合同なら高砂席が二組、私たちと柊木くん恵一くんの分。 (121) 2023/11/19(Sun) 18時頃 |
【人】 珊瑚宮連邦 ルリでも、命くんは私の旦那様だし、私は命くんの奥さんだよ〜! (122) 2023/11/19(Sun) 18時頃 |
──if・大和の葬儀と珊瑚の戦い──
僕はまだ、珊瑚みたいに近しい人を亡くした経験がない。田舎の祖父母も健在だ。
葬儀にはまだーー慣れない。
下級生であり千映が亡くなり、その喪が明ける暇もなく大和の葬儀を迎える。
何度も友を失い続けたら悲しみも苦しみも麻痺するのか?
そんな事はない。
僕にだって価値があると言ってくれた大和。
最期まで珊瑚を愛し抜いた男らしい大和。
白い百合に囲まれた大和の死に顔は穏やかだ。
生きて眠っているみたいにしか見えない。
僕の悲しみ、僕の憤り。
恋人である珊瑚とは比べ物にならなくとも、こんな若く死ぬ理由なんかまるでなかった大和の死に抱えきれない想いで苛まれた。
葬儀の後にパイロットに選ばれた珊瑚。
大和の元に行けると語る彼女は微笑んでいたから、寂しい嫌だなんて僕は叫べなかった。
本当は、珊瑚を失うのが僕は凄く嫌だったし堪えられなかったが。
こんな地獄は何時迄続くのか。
珊瑚は僕のハンカチを受け取らなかった。それは拒絶でないのは、いつも優しい、優しすぎる彼女を知っている僕にはわかる。
吐瀉物を処理して欲しいと言ったのもきっと康生のためだ。
こんなに追い詰められて自分が大変なのに他人を慮る彼女は……本当に素敵な女の子だと思う。
康生のアドバイスは冷静で合理性の高い内容だ。しかし、結果論ではそうでも全滅させたらいいという言葉に僕は戸惑った。
珊瑚はーー自らでなんとかすると、力強く語る。
「……珊瑚、……」
立派過ぎる彼女。女の子なんだからもっと弱音を吐いてもいいのに。大和の死が彼女を強くしたのだろうか……愛の力が。
彼女は僕らに死の理不尽を押し付けた存在に最期まで抗う覚悟だ。
僕は珊瑚に頷く。
「君は出来る。君は独りじゃない。大和がいる……君の中に。」
僕は彼女の舞台を見守る。
どんな凄惨な光景からも目を逸らさないと心に決めた。*
─IF 瑠璃川珊瑚戦─
[想像していたよりも、瑠璃川珊瑚はずっと冷静だった。康生の言葉にも、取り乱す事無く頷く
[乾いたものながらも、気丈に笑って見せた彼女
瑠璃川……、……ごめん。それと、わかった。
もう「逃げていい」なんて言わないし……俺も、逃げない。
[右手を胸に当て、康生はそう言った。強く彼女へと向けていた視線が、モニターへと移る。「逃げない」という言葉には、恐らく二つの意味があった。一つは、“彼女同様戦い抜き世界を守る”というものだ。世界を守る事に躊躇する子ではないから、今更言うまでも無くはあったが。]
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