31 私を■したあなたたちへ
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―― 前日:ギャラクシー・ランド ――
[坂理と別れ、何処に行こうかと考える。 すぐにでもコーヒーカップを探しても良いけれど 少しずつ陽が傾いて来ているのを感じていた。 個別連絡を入れてみた人もいるけれど 合流はもう難しいだろう。
ふと、どこからか音楽が聞こえてきた。 ゆっくりと周囲を見回す。] メリーゴーランド?
[夕暮れの遊園地。 音楽に合わせて緩やかな動きで回るそれ。 メリーゴーランドのことはどういうものか知っていた。 宇宙イメージらしく、馬車や馬ではなくて、 世界観に合わせた小物や乗り物になっているらしい。]
(0) 2023/11/18(Sat) 23時半頃
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こういうのもいいわね。
[ふふ、と、自然と笑みが零れてしまう。 しかし、そこに派手な身なりの男性が>>290 優雅に流れて来るのを見て、二重の意味で目を丸くした。]
えっ…… あれっ……て……
[「その人」に気付いた私は、 周囲のフェンスの向こうで思わず、 片手を挙げてぶんぶんと振ってしまう。 気付かれなかったら、背伸びして、かかと付けて、と 少しでも相手が気付いてくれるように。]
(1) 2023/11/18(Sat) 23時半頃
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あ……っ あの! すみません! 一枚だけ!写真撮ってもよろしいですか……!
[キラ様!と呼びかけたかったけれど、 そこは我慢して、出来る限りで声を張って。
許可をいただけるかはわからない。 もし許可をいただけたなら、一枚だけ、 メリーゴーランド騎乗中の写真を撮らせて貰うつもり。 時間を取らせるつもりはなかった。 ただ、彼の大ファンだったるくあへ供えられればと。**]
(2) 2023/11/18(Sat) 23時半頃
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(卯木へ個別送信)
『 夜分どうも
まだ会ってなかったと思って連絡したよ。
明日にでも、時間が合えば
どこかで落ち合わないか。 』
(キャンディに個別送信)
『 よう。るくあのおにーさんだ。
遊園地楽しんでるか? 』
(密星に個別送信)
『 お嬢ちゃん覚えてるか?
昼間はどうもな。
あれから、何か判ったことあったかい? 』
(煙崎灰羅への個別メッセージ)
『おはようございます。
私は少し気になることがあって
今日はギャラクシー・ランドの
銀の館に行く予定なのですが、
よろしければご一緒しますか?
私は今はホテルにいるので、
ギャラクシー・ランドに到着するまでは
少々時間がかかるのですが。』
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―― 前日:メリーゴーランド『銀河の海賊』 ――
[一周目は、声が届かなかったようで、 白馬はゆっくりと上下しながら 煌びやかなネオンの向こうに流れて行ってしまった。 諦めずに二周目。 煌びやかな回転軸の反対側から流れてきた 白馬の上の人は、今度こそ反応を返してくれた。 ジェスチャーに気付いてくれていたらしい。>>12 快諾を得て、ほっとして。私もなるべく声を張る。]
……! ありがとうございます……!!
[三周目までにアポロを操作しようとして、少し考えて カメラ内蔵の携帯端末の方を取り出した。 るくあへ、と考えると、アポロで撮影したものが 帰還後にも転送できるかどうか分からなかったので。]
(31) 2023/11/19(Sun) 01時半頃
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[来たる三周目。 片手をぴ、と上げて、撮ります!という合図を。 相手はプロ役者、どの瞬間でも綺麗に映るよう 工夫や訓練を重ねていそうだけれど、念のため。]
ぶれないでね………
[時間は限られているのだから、 自己紹介の写真の二の舞にはしたくない。 おねがいよ、と口中で唱えながら、 ここぞというタイミングでシャッターボタンを押す。
投げキッスポーズ。 るくあが見せてくれていた写真集や雑誌では 見かけていたけれど、リアルで見るのは初めてで。 少し面食らってぶれ…… たりはしなかった。 OKです、のジェスチャーに、合図が返り>>13 何度目かの、安堵の息をつく。]
(32) 2023/11/19(Sun) 01時半頃
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[地面に降り立ったその人に、改めて頭を下げる。]
おかげさまで。 突然だったのに、ありがとうございました。 ええ、密星偲風と申します。
[自己紹介+写真であらかじめ送っていたから 合流しての顔と名前の照合はとてもスムーズ。 “キラ様”の服装は写真と違っている気がしたが 貸衣装かしら、と、口元を上げた。]
園内がとても広いから。 八人だと、なかなか会えませんわね。 私も、キラさ…… あっ、中村さんでやっと4人ですの。 卯木さん、お兄さんの方の煙崎さん。 それに坂理くん。中村さん。
(33) 2023/11/19(Sun) 01時半頃
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……折角「知り合い」って 暈してくださったのに、ごめんなさい。 るくあさんの “推し” さんなのは、知っていました。
[正体を隠していらっしゃるようにも感じたので、 呼びかけは控えたのですけど、 と、申し訳なさそうに眉を下げた。]
私は先生、といっても、いわゆる保健室の……なので、 教員とは少し違うかもしれませんが だいたいそういう、感じです。 *
(34) 2023/11/19(Sun) 01時半頃
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―― 前日:メリーゴーランド 『銀河の海賊』 ――
確かに。あんなに必死に写真を撮らせて欲しいなんて 芸能人や、有名人にしか言わないですものね。 でも、レンタル衣装、似合っています。 着こなしだけで、一般人にはもう見えないわ。
[惜しげなく人好きのする笑顔を向けてくれるので、 此方も警戒心は解け、気さくな口振りになる。 初対面の印象って、とても大事よね、と……ふと。
るくあとの関係性を生真面目にも噛み砕いて 説明してくれて、私も腑に落ちたように頷いた。]
(43) 2023/11/19(Sun) 04時半頃
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煙崎さんは、随分“キラ様”のPRをしてくれましたのよ。 大好きな役者さんなので先生も是非、って。 私は不勉強で、その機会がなかったのですけど。 でも、連絡先の交換もしていたのは初耳。 もうー。 あの子、そこはきっと黙ってたのね……
……
[他の人との話でもそうなのだが、るくあの話をすると、 どうしても生前の面影が浮かんでしまって。 会話の中に少しの空隙が出来てしまう。 キラ様もまた、嬉しいという言葉には嘘偽りが なさそうなのに、どこか複雑な表情も垣間見える。
だから、相手が話し出すまで待って]
(44) 2023/11/19(Sun) 04時半頃
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そうなんです。 戻ったら、―――戻ることが出来たらですけど 煙崎さんに供えたら、喜んでくれるかしら…って。 ………記念撮影。
[少し間の抜けた声で鸚鵡返して、 ふふふ、と、笑った。奇妙な縁で集まった者同士。 るくあの死と、『殺人』『犯人』なんて言葉が 飛び交う場所でないなら、そういうイベントも どんなにか素敵だろう。でも――…。
その後も、少し言葉交わして。 約束があると知れば、慌てて背を押した。]
(45) 2023/11/19(Sun) 04時半頃
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それはいけないわ! すぐ行ってあげて? 写真だけのつもりでしたのに、わざわざお話ありがとう。
[軽妙ではありつつも、軽薄ではないバランス。 ファンが多いのも本当に頷ける。]
…いつか、公演を観に伺いたいわ。
[私も敢えて呑気な いつか を口にして 胸元あたりで軽く手を振った。**]
(46) 2023/11/19(Sun) 04時半頃
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(卯木へ個別送信)
『 銀の館で気になること?
そう言われるとこちらも気になるな。
メシ食ってから俺も行くよ。 』
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── 前日:中央カフェ ──
[遅くまでアトラクションを楽しんでいる招待客は キラ様とだれか、の他にいたのかどうか。
さっき名前が出てこなかった食べ物>>1:250が チュロスだったと思い出した時には、もう日没。 軽い朝食とレモネード以外に何も口にしていないけれど 今日の今日で、何だか食欲が湧いてこない。 それでも何か食べなければ、と迷った末 近くに見えたワゴンで野菜ベーグルを買った。 園内の複数ポイントに設置されているらしきワゴンには 坂理くんの食べていたものと同じもの>>1:194も きっとあったのだと思う。
カフェに向かえば好物のシチューに出会えたり 魅惑の三種のオムライス>>18のことが 聞けたりしたのかもしれない。 今日は、残念ながら料理を堪能できたとは言えず 美味しいものを楽しんだ話をどこかで聞くことあれば、羨むかも。]
(60) 2023/11/19(Sun) 12時頃
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[ホテルに着くと、私に割り振られた部屋には きちんと荷物が運び込まれているようで>>0:55 従業員役のロボットたちに挨拶しながら階上へ。 驚いたのはその内装の方。 細部まで宇宙遊園地のコンセプトへの 愛情やこだわりが感じられる設え。>>24 バスルームの遊びごころ。>>25
ひとつひとつが何だか嬉しくて 彼方此方、室内のドアを開けては見て回り そうして――、同時に、切なくなる。
きっと、もっとゆっくりと楽しめたはずなのだ。 こういう時でさえ、なければ。 ]
(61) 2023/11/19(Sun) 12時頃
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[それでも、 初日に遊園地らしいアトラクションで 殆ど遊ぶことが出来なかった分 浴槽にはしっかりと浸かったし、 ふわふわのベッドにも顔まで潜り込んだ。
―― 夢を観ないように願いながら。 人の夢は、儚いものだから。 *]
(62) 2023/11/19(Sun) 12時頃
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(灰羅へ個人送信)
『 お 兄さん、初めまして。
いえ、もしかしたら、園の入口でお会いしましたか?
そうですね、楽しいです。
まるで、るくあの好きな物ばかり集めた
おもちゃ箱みたいで、目移りしてしまいます。
本当は、るくあもここで、
みんなと一緒に遊びたかったんでしょうか。
そう思うと、やるせないです。』
お義兄さん、と打ちかけてさすがに訂正した。
『ところで、お 兄さんはるくあから、
ボクのこと、何か聞いていますか?』
るくあは多分、配信者キャンディとしての姿は知らないはず。るくあが中学校を卒業した後、未練がましく彼女を"見守る"ためにしばしば県境を跨いで生活圏内をうろついていた時も、群衆に溶け込む目立たない恰好をしていたから。
この場に居ることを求められたのは、どちらの自分なのだろう。
単純なブラフのつもりで、送信する。
(一斉送信)
『夜分にごめん! 🍬だよ!
ボクの大事なもの、
園内に落っことしちゃったかも知れないんだ!
すごい汚れちゃってて、
灰色っぽい紐というか糸で編んだ、
ミサンガっぽいやつなんだけど。
どこかで見かけたら届けて欲しい。
もしかしたら、ゴミと間違われて
捨てられちゃったのかも知れないけど……。
モナリザにも、探して欲しいって伝えてはおく。
本当に、大切な思い出の品なんだ。
よろしくお願いします。
じゃあ、おやすみなさい。』
せめて、とホテルの入口まで自分の辿った道を探し歩いてみるも、結局見つけられずに失意のまま眠るしかなかった。*
(一斉送信)
キャンディおはよ。昨夜は寝てしまってたよ。
僕は見かけなかったけど……サバゲーの他に何処行ったんだろ。
今日は地面見ながら歩いてみるね。*
前日:(キャンディへ個別送信)
『 そうそう、入り口付近に居た。
キミは目立つからな、覚えていたよ。
いや、るくあからキミみたいな友人のことは
聞いていなかった。
だから 驚いて、昨日は見てしまったんだが。
仲がよかったのかい? 』
『 これ? 』
短い文章には、くすんだ色合いの
ほつれた糸の写真が添付されている。
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―― むかしむかし ――
密星偲風が、祖母という人の元に 引き取られたのは生まれて間もなくのこと。 両親だった男と女の事故死によって。
元々養子として他家へ引き取られていた父だ。 その家の長男には既に後継もいて 血の繋がらない女児を家に置いたところで 利も少ないと見做されたのだろう。 息子だった男の死を知った祖母が引受を申し出るや 赤子の私は渋られることもなく返されたらしい。
誇り高く厳しい祖母だった。 礼儀作法に指先の所作ひとつを教え込まれ、 椅子から立ち上がる時の両足の立ち位置は 数センチの誤差を正されることもある。 お説教の決まり文句は『密星の娘であれば』……、 口を開けば 『家名を汚してはなりません』と続く。
(91) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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家名、とは大げさなものだ。 密星という家は、昔に遡れば確かに、 旧家と呼ばれた家ではあるのだけれども 実はとうの昔に無くなっている。
団栗の背比べよりも ほんの少しだけ頭抜けていたために 当主が欲を出して潰れた家、その典型だった。 齢二十だった、当時まだ年若い祖母が 立ち行かなくなった家を継ぎ 手を尽くし細々と家を守りその地に在り続けたために 苗字だけ今に残っているというだけの。
損失の抵当として縁ある品々が持ち去られても。 たった二歳の一人息子を他家の養子に手放しても。 ひとり、またひとりと住み込みの手伝人が家を去り 広いばかりの家にひとりきりになっても。 なけなしの遺産によって衣食住だけは何とか 体裁を保っているようなうらぶれた有様でも、 土地と旧宅を売り払うことはなく。
(92) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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そんな彼女が晩年に心血注いだのが孫の教育だった。 学校こそ通えたけれど、お友達はごく狭い範囲だけ 授業が終われば即帰宅、家庭教師が付ききりの生活。
外遊びなど以ての外、家にお招きしなさいと言われても 陰気な屋敷に誰を呼べるというのだろう。 薄暗い部屋を心許ない灯りが照らす がらんどうの空間に? 自然、おともだちとも距離を置いた。
家では常に、仕立ては良いがひどく型の古い 祖母の若い頃のワンピースを纏い 腰まで伸ばした絹髪には寝癖一つ許されない。
習い事といえば音楽、生け花、茶の湯、舞踊―― 彼女の言うところの『必要な教養』として 挙げられていたこれらは当然、 金銭事情で一つも叶うことはなくて 密かに安堵したことを、時折思い出す。
(93) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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最低限の生活を送るための寝台と机。 身形を整える鏡台だけの部屋。 叩き割れない天窓の硝子。 幼いこどもがベッドに置くようなぬいぐるみも 飴玉や宝石のようにきらめくヘアゴムやピン止めも。 流行の雑誌も、娯楽漫画でさえも 私には無縁の、遠い世界のもの。
――― 真綿で首を絞めるような ゆるやかな軟禁の日々。
時代錯誤甚だしい、歪んだ教育は幾度となく 口さがない近隣の話題に上ったらしいが なにかがおかしいと気付くことは出来ても 説得する、逃げ出すことの出来るだけの土壌が 私には長らく与えられなかった。 無力な子供だったのだ。
(94) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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いまや平均的な家庭にも満たない生活なのに 令嬢然として振舞うことを強いられる滑稽さ。 彼女の抱くものはもはや誇りではなく 手放せない過去への執着だ。
外側ばかりを取り繕いながら あなたのためにと繰り返しながら 本質は自分のために “お人形遊び” に興じる祖母の元で、
四角く切り取られた空をただひとり見上げ よく、命の意味を考えた。
――― 祖母の死によって、 操り人形の糸が離される 十八の秋まで、それは続いた。
(95) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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