18 星間回遊オテル・デカダン
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[冷ややかな声が響く。]
どなたですか、痕跡など残したのは。
……まあ、我々以外に迂闊者がいた可能性もありますか。
[アシモフ記念宇宙港は大きな港だ。
目的地の捕食者がすれ違う可能性はなくもない。]
[聞こえた声に一瞬足を止めた。無人の廊下でその様子を見た者はいない]
おっと、お仲間発見だ。
アンタ……教祖さんかい?
[くつくつと笑い声が漏れる]
ようこそ、オテル・デカダンへ。
[グラスを傾けて、笑う。]
そういうあなたは……デザイナーの方でしたか。
以前下見には来ましたが、
変わっている場所もあるようで。
色々とお詳しいのでしょう?
[この船について。と、先に侵入していたらしい同胞へ。]
おお、おお。その声は、先に会った船員と……噂に聞く教祖殿ではないか?
これは頼もしい。
[微笑んで唇を舐める。]
下見、ねぇ……。
いつ頃の話かわかんねぇが、こっちは頻繁に改装改築しててな。まあ、多分アンタが前に乗った時と色々変わってるよ。
[最近の変わった場所を思い浮かべる。バー、劇場の拡大、ショッピングモールの店舗入れ替え……あまりにも多すぎる。常に変化するこの船は、さながら代謝を繰り返す生き物だ、と。
そんなことを思った]
……多いな、伝えるのは難しい。後で端末かなんかに送りたいところだ。
証拠が残るの嫌か?それなら表向きの面識を持って、正当に渡せるようにしたっていいぜ。
[悪戯をたくらむような声色で 潜り込みやすい場所も増えた と一言加えた]
おっと、さっきのお客さんもお仲間だったか。
[善良な客人と思っていた人物が同胞であった事実に、エフは笑い声を漏らした]
アンタ、教祖さんと違って初めてだろ?ああ、どうせだから教祖さんに送ろうと思ってたデータ、送ろうか?
なぁに、それっぽい口実がありゃ端末に入ってても何の問題もないやつさ。
[続いて響く声は、この船では聞き覚えのないものだ。]
ええ、表では教祖なんぞをやっております。
[色々と都合がいいのでね、と笑う。]
あなたは……きっと会ったことはないですね?
まあ、声でだいたいの居場所はわかりますから、
問題はないでしょう。
こちらこそ、頼りにしていますよ。
ああ、やはり。
見覚えのない店ができていると思ったのですよ。
[提案には、喉の奥で笑うような音が返る。
ほどなく、物理的にも近くにやってきたエフを見れば]
さすが、仕事が速いですね。
これで堂々、お近づきというわけだ。
[同胞の提案()に笑みを深める。]
ほう、データ。よければ送ってもらえるかの。
なにせ我はこの船に来てから日が浅いでの。右も左もよう分からぬ。
[女自身も船に来たばかりであったし、この女に"成り代わった"のも船内でのことだ。ゆえに船のことには詳しくないのであった。]
[周りにいる人物に気取られぬよう、細心の注意を払って念を飛ばす]
OKOK、うまいことそういう方向に話を誘導してくれ。
俺はそういうのが下手でね、ババァとロバートに悟られないよう、いい感じに持って行ってくれ。
[そして聞こえてきた女の声には]
了解だ。
そうだな……後でどっかで落ち合おうか、そこで“親切”なスタッフの俺が“親切心”でお客さんにデータをお渡ししよう。
うむ、了解じゃ。我は頃合いを見て居酒屋を出ようと思う。その後適当なところで落ち合おうぞ。
[聞こえてきた声に了承の意を返す。]
ところで、ちと気になったのじゃが。ぬしらは共におるのかの?
なんならそちらに出向いた方が良いか?
……出入星管理。我々の天敵ですね。
このPJという女。
少し、注意した方がいいかもしれません。
[呟く声は、僅かに硬い。]
[ミツボシの提案に若干の間の後に]
いや、ここに来られたら俺がボロだしそうで怖いな。
……そうだ、アンタは食堂から出たら船内案内板の辺りにいてくれ、そこだったら“親切心”でデータを渡しても違和感はねぇ。
俺もできるだけ早く会話を切り上げてそっちに向かうわ。
ババァは警戒しとくに越したことはねぇな。
前歴もそうだが、何かと目ざとい。
……即座に排除すべき脅威、とまではいかないと思うがな。
[未だ接触していない誰かがより緊急性の高い脅威である可能性がある以上、PJに対しては警戒以上の対策は取らない方がいいと、エフは判断した]
ええ、そうですね。
[即座に排除すべき脅威ではない、には同意する。]
わたくしは先程魔法商人と名乗る男に会いましたが、
そちらはまだ、なんとも言えませんね。
お互い、もう少し情報収集をした方がよいでしょう。
[連絡先を渡しながら、声ならぬ声でそう囁いた。]
PJという女に要注意じゃな。了解じゃ。
我はまだ会うとらんが、見かけたら注意しておくことにしよう。
[直接接触したエフがすぐさま襲撃する必要はないと判断したのなら、そうなのだろう。]
ふむ。では我もなるべく他の人間と接触を図るとしよう。
危険因子を見つけるのは大事じゃからな。
[――現在、《銀光教団》の信者として活動している者達。
その半数以上は、教祖アルクビエレから分かれた子株に喰われ、乗っ取られた者の成れの果て。
"星喰いアメーバ"と呼ばれる捕食者達である。]
[悲しみや絶望の淵にある者が、
例えば突然人が変わったようになったとして。
不自然だと思う者が、どれだけいるだろう。
長く塞ぎ込んでいた者が、
信仰を得て前向きになったとして。
中身が入れ替わっているなどと思うものが、どれだけいるだろう。
そうして、その家族や友人までもが、
やがて信者になったとしても。
親しい者の間で思想が広がることは、
そう不自然なことではない。
《銀光教団》というアメーバのコロニーは、
そうやってじわじわと同胞を殖やしてきた。]
[突然の騒々しい放送に、緩慢な動作で天井にあるスピーカーを見上げた]
おいおいおい、依頼人のクソジジィじゃねぇか。
クソだと思ったらやっぱりクソだったな。
[無理やりの仕様変更を根に持っているのだ]
はー……余計なことしかしやがらねぇな、あのジジィ。
[ぼんやりと薄暗い目で呟く]
邪魔だなぁ、あのクソジジィ。
おや、お知り合いですか?
『PaLooook』……
いずれは手を伸ばさねばと思っていたのですが、
なかなかガードの固いところで。
[教祖という立場でいくつかの駆虫業者に接触したことはあったが、流石に天敵のひとつとあっては慎重にならざるを得ず、内部へ信者を送り込むには至っていない。]
ここで葬れるならば、一石二鳥かもしれませんね。
ほう、2人ともあの駆除業者とは縁があるのか。これは面白い。
[からからと笑い声を上げた後、急に声のトーンを落とす。]
いや、面白がってばかりもいられぬか。薬剤の散布とやらは止めねばならぬ。
早速、今夜にでも殺りに行くか?
それがよいでしょうね。
他の乗客と手を組まれても面倒です。
……ああ、夜にならねば動けないのがもどかしい。
[人気のない廊下で天井を見上げる、青い目が一瞬肉色の膜で覆われて、戻る。待ち切れぬというように。]
エフならば、彼の客室もご存知でしょう。
道案内はお願いしますね。
[依頼人ということなら、と決めつけた。]
[道案内と言われ(*21)はっと息を吐く]
送る地図のデータにマーカー機能、一応つけときますよ。この船の客室数、かなり多いんでね。
今後、役に立つでしょ。
[エフは 今後 を強調した]
ジジィの部屋はわかりやすいんで案内の必要はねぇと思うが……。
私怨もあるんで喜んでさせてもらいますよ。
何から何まですまぬのう。人を襲うのに迷っていてはどうにもならんからの。
これで速やかに行き来できるというものじゃ。
では、面倒な爺の案内はおぬしに任せるぞ。いやはや、危険因子が早々に消せそうで何よりじゃ。
ありがとうございます。
ふふふ、やはり勝手を知っている者がいるとやりやすい。
[我々の庭も同然、と喉の奥で笑う。]
危険因子を消した後は……
邪魔になりそうな乗客から片付けてしまいましょう。
ロバートとかいう、あの獣も噛みつかれそうで嫌なのですよね。
まあ、それはまたいずれ……
──自室──
[風呂から上がり、手持ちの端末に送ったデータを確認する。
何も問題ない、何の変哲もない案内板とさして変わらぬデータだ]
こっち見られたら一貫の終わりだ。
[そう言って二人に送りつけたデータを再び見る。
端末に送りつけたデータとさほど変わらぬそれに、指を這わせロックを解除する]
解除方法も送ったしな、問題は何もねぇ。
[手持ちのものより一回り大きい端末に映っているのは、定型の宇宙人なら通れぬ通風孔やわずかな空間の隙間が記されたマップだ]
[アルクビエレの 我々の庭 という言葉(*24)に、内心二マリと笑った]
正面切って行ったらまぁまず警備がヤベェ。
ってことで、こっちはこっちのやり方でやらせてもらうとしますか。
ジジィの客室、空調設備が他の部屋とは段違いの充実ぷりでね。
[それ以上は言わない。こうやって話せる相手であれば理解できるからだ]
[指示通りにデータのロックを解除し、貰った地図を確認する。()
続く船員の言葉にもにやりと笑って()]
……なるほど、これは実に有用じゃな。改めて、おぬしが仲間で良かったよ。
爺の部屋が特別仕様であることも、感謝せねばなるまいて。まるで入ってくださいと言わんばかりではないか。
なかなかよい体ではないですか。
この船で手に入れたのですか?
[雑談といった調子の声が飛んでくる。]
先の騒ぎであの少女に注目が集まれば、
我々としては都合がよいのですけれど。
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