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「コウは……コウは、僕を愛してるって、愛してる、って、……ちがう、の?違うの、か?」
言葉が消え入る。彼は僕にまだ語りかけているだろうか。
敵ロボットは両手を広げるようなポーズを取った。 その形状が変化する。 胸の膨らみ二つから無数の鋭いトゲが突き出たのだ。
いらっしゃい、恵一くん。 慰めあいましょ? さあ、私を抱いて……早く。 貴方の太いので貫いて……
(87) 2023/11/19(Sun) 00時頃
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「……雨竜、先輩、……せん、ぱい……」
敵ロボットと雨竜先輩の裸体が重なる。 アストロが一歩踏み出した。 それが僕の意思だからだ。
僕は完全に精神を支配されている。このまま進めば死の抱擁が待っている。
僕を救えるのはたった一人しか、いない。*
(88) 2023/11/19(Sun) 00時頃
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──コックピット/僕の闘い──
僕が正気であったなら。
点滴が外れ床に倒れた康生をそのままになんかしなかったろう。
だが今や僕の精神は完全に蝕まれていた。
清らかな音楽に耳を犯され、思考を奪われて。 懐かしい光景を見せられて。
だが、母の言葉はありもしないものだ。
(96) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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確かに兄は怪我をした。それは事実。そしてピアノを辞めたのも指が理由だ。
だがそれで僕を責めるような母ではない。幼い僕が兄にじゃれついてしまったのは仕方ない事で事故でしかない。
むしろ兄も両親も、僕に自責の念を抱かせぬ為に必死に隠してきたぐらいだ。
つまり僕は脳内に偽りの声を聴いた。ただし、外部からその声が実際に送り込まれた訳ではないだろう。何故なら、母の台詞を捏造するには僕の過去を正確に把握する必要があり、そんなのは外部の人間には不可能だから。
僕は起きた事実は把握していたから、母の声の内容は恐らく、僕の深層心理が産み出したものなのだ。
人は勝手に他人がこう思っているんじゃないか、を産み出し思い込むのが得意であるから。
(97) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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それは僕が知らずに抱えていた重荷であった。
では何故それが唐突に解放されたのかーー。
一度、康生に焦点をあてよう。
もし彼が正気であったなら。 聡明な彼は気付いたに違いない。僕の異変と敵ロボットの行動の関連性に。
敵ロボットの発する音色は精神を操る波動であった。 行動を直接的に指示するとか、そこまで絶対的な力はない。しかし、心弱い人間の精神の隙間を突く作用があるのだーー
康生が冷静さを欠いた可能性は二つ、またはその複合が考えられる。
(98) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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1つは、彼もまた敵の精神攻撃に巻き込まれた場合。 音楽は全員に聴こえているからだ。ただし影響はその人間の精神の強さによって変わるだろうし、パイロット以外にはただの音色であり作用はない可能性も考えられる。
もう1つは、彼が僕以外に気を払う余裕を失っているから。 今や僕に対する彼の愛情が限界まで膨れ上がっているのは明白。何度も指輪を嵌めて欲しいと願うところから不安定さ、目に見える確かなものへの依存傾向も窺われる。
彼は僕に愛されたくて。 その愛がまやかしだったり、失われるのを酷く恐れている。
子供のように。
(99) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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僕しか見えない。僕の状態、彼が僕を見ているか以外に興味がなければ敵など気にする余裕はないだろうから。
更に言うなれば体調の影響もある。熱に浮かされながら冷静なら彼はスーパーマン過ぎるとも。
どういう理由にせよ、彼はただ僕だけを見つめていた。 そして絶望に至る。
狂気という沼がすっぽりと僕ら二人を飲み込んで、絡み付く泥が身体を離さない。
蛆虫にはふさわしい最期なのか。僕らはこのまま、敗けてしまうのかーー。
(100) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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ふら、と前に僕の脚が出た。同時にアストロも一歩前に動いた。それが止まったのは、床を這いながら僕に近づき、康生が足首を掴んでくれたから。
僕は一瞬ポカンとして、視線を落として彼の事を漸く眺める。
コックピットの床を腹で拭くように、身体を引き摺り近づいた彼はまるでぼろ雑巾みたいだ。
何故彼はこんなに必死なんだ? 僕は蛆虫で、みんなから嫌われている。必要となんかされないし、価値もないのに。 止めて何をしようと?
まともな判断力を欠いた僕は混乱する。
(101) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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「違うよコウ……最低最悪なのは僕だけだ。意気地無しで中途半端で、君を殺すと約束したのにそれすら出来ない役立たず。
君は違うだろ。だって人を殺せるなら……みんなをパイロット席に送り込んで殺せるなら、地球を護れるじゃないか。
死にたくないと喚き、逃げようとし、他人が死ぬことも許容出来ず、ただ我が儘を叫んでだだを捏ねた僕とは雲泥の差がある。
君は立派で勇猛果敢な人間だよ、コウ。 蛆虫なんかじゃない。
……だから。」
僕はふ、と寂しそうな表情を浮かべる。諦めきったような、それでいて唇にだけは弧を描く。
「君に相応しくないんだ、僕なんか。」
(102) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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幾ら僕が彼を愛しても、僕には愛される資格はない。 そしてこんな僕を彼が愛するなんてやっぱりないんだ……
すると不思議な事に、彼も僕の気持ちを疑う言葉を口にするのだ。
「……僕の気持ちは、ずっと変わってないよ。 ただ自分がどんな人間かを思い出したに過ぎない。
赦されない罪を抱えた人間であるのを……
行かなくちゃ。彼女が待ってる。抱いて欲しいって言ってる……。」
彼の手が僕から離れた。嗚咽も聴こえたが、それは更にボリュームを増した音楽が消してしまう。
脚が動かないまま床に蹲る彼は蛆虫というよりは芋虫みたいだ。
(103) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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僕は彼を置いてきぼりにして前に進んだ。スクリーンの方へ。 アストロも同じように歩き、敵ロボットとの距離をどんどん縮めていく。
ーー恵一くん、早く。 セックスしましょう? 抱いて……。
「うん、今行く……僕のおちんちんが欲しいんだね?」
うっとりした表情を僕は浮かべる。
そしてーーアストロの身体に変化が起きた。いや正確にはロボットなんだから変形と呼ぶべきか?
アストロの下半身、股間の部分が両引戸のように開き、四角い窓が出来る。そこから現れたのは細長い形状のーー黒光りするもの。
形は男性の性器にそっくりだ。金属のような材質感からそのものよりは大人の玩具に近い。
(104) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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アストロの変形は始めてではない。大和戦の時も起こった事だから、元々そういう決まった機能や武器が内臓されているというより、パイロットの思念に応じて変わるというのが正しいか。
瞬間に行われる分子的な構造変化はこの地球の化学レベルでは不可能だが、アストロが瞬間的に現れたり消えたりするのを考えたら、アストロの存在する次元では可能なのだろう。
僕が抱きたいと望んだからそれに必要なものが現れたのだ。
ーー逞しくて素敵よ、恵一くん。
敵ロボットは股を開くようなポーズはしていない。 ただ両手を広げ立っているだけだ。アストロを串刺しにする武器を胸に露出させながら。
それでも僕は恍惚の表情で両手を広げる。
(105) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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アストロも両手を上げ敵ロボットと熱い抱擁を交わそうとーー
「あッ!」
ガタッとまた大きな揺れがコックピットを襲う。
スクリーン内のアストロはまた、右側に傾いて倒れる。膝をつく。
「?!……な、……」
びっくりした僕は一瞬正気に返った。
なんだ、何が起きている? 敵はーーもう目の前にいるじゃないか!
「コイツッ!……アストロ、脚を払えッ!」
立ち上がる暇はない。アストロは片膝をついた姿勢から脚を伸ばして敵ロボットの足首を狙う。それは見事にヒットし、敵ロボットが仰向けに倒れる。
(106) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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ーー何するの?!恵一くん!
ーー恵一おいやめろッ! お前は大人しく死ね、死ぬんだッ!
雨竜先輩と兄の声が交差する。
「黙れッ!兄さんの声で騙るな、この下衆がッ!」
そうだ、僕は操られたんだ、この敵ロボットに。 僕の大切な兄や、心の負債である雨竜先輩を利用しーー
「ふざけやがって……! そんなに犯されたいか?ああ? なら、くれてやるよッ!
アストロ、その薄汚い牝をーー犯せッ!」
カッとなった僕はめちゃくちゃな命令を下した。 アストロはすぐに立ち上がると、倒れている敵ロボットにマウント姿勢を取る。
(107) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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そしてーー貫いた。
正しくは、股間の武器を寝たままの敵ロボットの下腹部辺りを突き刺した。
「あ?上手いかちんぽは、このアバズレがッ!
死ね、死ね死ねッ!
よくも僕を操り、僕とコウを引き裂こうとしたなッ!
赦さない、絶対赦さないッ!」
僕は喚いた。ロボットでロボットを犯す様は滑稽でもあり地獄絵図でもある。
先程出現した黒光りするものは武器であった。よく見ると先端が鋭く尖っている。 アストロが腕立て伏せをするように動けば、自然攻撃となった。
(108) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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カーテンに護られていない敵ロボットの胴体は、ぐさぐさと刺されて地面を鈍く跳ねる。ぴく、ぴくと痙攣する死体みたいに。
装甲が剥げて、コアの一部が露出した。
「はあ、ッ……はあッ」
コアはへその裏辺りに隠れていて、丸み帯びた形をしている。 後一突きしたら、完全に破壊できる。
怒り狂う僕はまだ、床に伏した康生の傍に駆け付ける事は叶わない。真っ赤な瞳でスクリーンを睨み据えているが。
ーーこれで闘いは終わるのか。*
(109) 2023/11/19(Sun) 11時半頃
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――数年後(墓下軸の続き)――
僕らの就職は大学に進学したらもう目と鼻の先だ。
康生は教師になる道を選択。 高校時代にいつも彼から勉強を教わっていた僕としては、適任だと一番に感じる立場。
「コウが先生になるのか……教壇に立つ姿、きっとカッコいいだろうな。スーツも似合うと思うし。
でも、君から勉強を教わったという意味では僕が最初の生徒だけどね?」
未来の生徒たちに謎のライバル心を燃やす。
説明下手に関しては、愛情なら身体を重ねるだけであっという間に互いに伝えられるが教師ぬるなら彼に生徒を抱かせる訳にいかないし(いや生徒が彼を抱く……?どちらにしろ駄目だ駄目だ!)、必死に二人でトレーニングに勤しんだ。
(125) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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対して僕の方はといえば、意外な形で就職先の目処がついてしまうのだがーー。
僕と康生は珊瑚たちと一緒に結婚式と披露宴を行うことになった。
結婚式は別々に。披露宴は一緒に。僕は仲良しの四人でそんな嬉しい事を出来るだけで幸せだったし、形に拘りはない。
拘るのは康生のウェディングドレスだけだ……!!
そして僕は、結婚における最重要イベントに挑む。
(126) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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康生の両親と僕は既に知り合いである。僕の家を避難先として提供した事があり、以来は家族ぐるみの付き合いだ。 四人で食事をすることなどもあったり。
僕らは各両親からどう見られていたのだろう?
ただの仲良し?友達?親友?だが、同居中に一緒に風呂まで入るのは友達を越えた関係だ。 キスとかは見られないよう極力気をつけて隙を見ていたが、 僕の両親は薄ら勘づいていた。
それで先駆け、僕はハッキリと事情を説明した。
彼と僕は恋人であり、最愛であり、将来を誓った仲であると。
流石に二人ともびっくりした様子だった。しかし僕の両親は性嗜好や属性に偏見はない。ただ純粋に息子の幸せを祈って祝福してくれた。
「恵一、康生くんとずっと仲良くね。二人で助け合うのよ。
助け合うというのは、どっちが頑張りすぎても駄目なの。 貴方も康生も好きな人のために無理をするタイプだから……気をつけてね。」
(127) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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母の言葉に僕は深く頷くと同時に、僕を責めたり異常扱いしない二人に深く感謝を捧げた。
そしていよいよ、康生の両親への報告である。
僕はその日新調したスーツに身を包み、柊木家を訪れた。 お土産を渡したり丁寧な挨拶の上、ついに。
息子さんをお嫁さんに。 一見おかしな言葉だが僕は真剣だ。康生のお父さんに何を言われても諦めない、食い下がると心に決めていたから、床に頭を擦り付けてお願いを続けた。
僕のお嫁さんは康生しかいないんだ!
そこでお父さんに言われた言葉に僕は驚く。
「息子……?僕が……息子、……それって。
ーーあ。」
(128) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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思わず敬語を忘れた僕は漸く理解する。そして、ポロポロ涙を流した。激しく頷いて。
なんて暖かく、心の広い答えだろうか。
「ありがとう……お父さんッ!!」
立ち上がった僕は感極まり、康生のお父さんに抱き着く! 康生とお母さんの目の前で!
ぎゅーっと抱き締めたお父さんは何処か、康生と似た香りがしたような気がした……
……一悶着あったかないかはともかく、僕は康生の家で夕飯を呼ばれる事に。 僕がお父さんから事業を継ぐ話をされたのはこの時だ。
正直驚いた。僕が自分を糞雑魚ナメクジ呼ばわりするのは康生が傍にいて自信を与えてくれるお陰で随分軽減されている。
(129) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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そんな大きな期待に応えられるか震えたが、康生がこれで心置きなく夢を追いかけられるなら。
しっかり力強く僕は頷いただろう。
それから、僕は急速に康生のお父さんと仲良しになった。 まさかお父さんがゲームが好きだなんて思わず、しかも一緒に遊ぶと中々に上手くて。 新しい友達が一人増えたみたいな喜びがあった。
康生も僕の両親や兄に甘えたり、交流を深めたりしてくれたら嬉しい。
ウェディングドレスについては、僕らのLINEでは一番活発に交わされた話題だったかも。
康生には窘められたけど、思うと僕が言ったような無邪気はむしろ昔の康生がよく言うような口振りだった。
彼は教師という目標を得て着々大人に成長しているのか。 僕もしっかりしないと追い越されてしまうし、かかあ天下が発生し尻に敷かれてしまうかも?なあんて。
(130) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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珊瑚が送ってくれた写真はとても素敵だった。大人びはにかむ彼女の艶姿が素晴らしい。 これがマーメイドラインというのだなと僕は学ぶ。
珊瑚のアドバイスの通り、康生にはお姫様ぽいのが似合うと僕も思った。
前に試着した時もめちゃくちゃ可愛くてその後ホテルに駆け込んで五発ぐらい抜かずにしてしまったし……。
僕には何故かたまに思い出す不思議な記憶があった。
康生と二人で訪れた、想い出の教会。 そこで彼はウェディングドレスを纏い、僕となんちゃってな挙式を挙げるのだ。
参列者は誰もいない、お遊びの。
あの記憶はなんだろう。 僕らはとても悲しい運命を背負っていた気がするんだが……。
(131) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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ーー僕らのウェディングベルーー
愛を誓うだけなら僕らはもう済ませていた。だから、もしかしたらこの挙式は僕らではなく、見守ってくれる両親たちや祝福をくれる友人たちの為なのかもしれない。
勿論僕はセレモニーが大好きだし、康生の可愛らしいウェディングドレスを拝めるだけで嬉しいから、可能なら何回でもやりたい。
ちなみにドレス以上に僕が拘ったのはガーターベルトだ。
「花嫁は白のガーター!!これが正義。」
びしッと指を立てる僕を康生はどんな目で見ていたか。
嗚呼、裸にガーターと白スト、そして頭にヴェールだけをつけた康生とガンガンやりたい!
(132) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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僕の妄想は膨らんだ。 どうでもいい僕のタキシードは灰色。大和の白もかっこよく迷ったが……
僕らの式はお父さんと共に歩くバージンロードを康生がおごそかに歩き、それを僕が迎え入れるオーソドックスに始まった。
最前列の僕の母さんは嗚咽し、兄と父が支えている。
神前でみんなに見つめられて、改めて愛を誓い、僕は彼の唇に唇を寄せる。
ピンク色でふっくらして。 微笑むと天使みたい。 そんな彼を花嫁として。 永遠に、僕のものにーー。
珊瑚と大和たちの挙式には、僕らは参列者として席につく。
(133) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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ビシッとタキシードを決めた大和はイケメンだ。キリッとした眉、意思を感じる瞳。 彼なら絶対珊瑚を幸せにするだろう。
珊瑚は本当に綺麗だった。 小さな頃の彼女を知る僕は、人の成長って凄いなとしみじみ思う。
二人の幸せが自分の事のように嬉しくて堪らない。
「おめでとう、珊瑚、大和。末永く幸せに……!」
二人の手を硬く握り僕は告げただろう。*
(134) 2023/11/19(Sun) 20時半頃
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──if・大和の葬儀と珊瑚の戦い──
僕はまだ、珊瑚みたいに近しい人を亡くした経験がない。田舎の祖父母も健在だ。
葬儀にはまだーー慣れない。
下級生であり千映が亡くなり、その喪が明ける暇もなく大和の葬儀を迎える。
何度も友を失い続けたら悲しみも苦しみも麻痺するのか? そんな事はない。
僕にだって価値があると言ってくれた大和。 最期まで珊瑚を愛し抜いた男らしい大和。
白い百合に囲まれた大和の死に顔は穏やかだ。 生きて眠っているみたいにしか見えない。
(=29) 2023/11/19(Sun) 21時半頃
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僕の悲しみ、僕の憤り。
恋人である珊瑚とは比べ物にならなくとも、こんな若く死ぬ理由なんかまるでなかった大和の死に抱えきれない想いで苛まれた。
葬儀の後にパイロットに選ばれた珊瑚。 大和の元に行けると語る彼女は微笑んでいたから、寂しい嫌だなんて僕は叫べなかった。
本当は、珊瑚を失うのが僕は凄く嫌だったし堪えられなかったが。
こんな地獄は何時迄続くのか。
(=30) 2023/11/19(Sun) 21時半頃
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珊瑚は僕のハンカチを受け取らなかった。それは拒絶でないのは、いつも優しい、優しすぎる彼女を知っている僕にはわかる。
吐瀉物を処理して欲しいと言ったのもきっと康生のためだ。
こんなに追い詰められて自分が大変なのに他人を慮る彼女は……本当に素敵な女の子だと思う。
康生のアドバイスは冷静で合理性の高い内容だ。しかし、結果論ではそうでも全滅させたらいいという言葉に僕は戸惑った。 珊瑚はーー自らでなんとかすると、力強く語る。
「……珊瑚、……」
(=31) 2023/11/19(Sun) 21時半頃
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立派過ぎる彼女。女の子なんだからもっと弱音を吐いてもいいのに。大和の死が彼女を強くしたのだろうか……愛の力が。
彼女は僕らに死の理不尽を押し付けた存在に最期まで抗う覚悟だ。
僕は珊瑚に頷く。
「君は出来る。君は独りじゃない。大和がいる……君の中に。」
僕は彼女の舞台を見守る。 どんな凄惨な光景からも目を逸らさないと心に決めた。*
(=32) 2023/11/19(Sun) 21時半頃
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