[恩師に、周囲に、口を揃えて言われていたことだ。
「演技が真面目過ぎて、華やかさに欠ける」
「恋の一つもすれば、情感たっぷりに滑れるようになる」
恋にかまけて練習をサボれば、あっという間に技術は衰えるのに、芸術性のために恋をしろ、とは大いに矛盾している。
フィギュアスケーターは、アスリートであると同時にアーティストで、アクターでもある。
恋愛は芸の肥やし。演技幅が広がるとか、表現力が増すとか、仕種に艶が出るとか。
足りない部分は別の何かで補えば良いと思うのに、そんなにも恋は人を、演技を変えるものだろうか?]
……これで、私の演技は
変わる――良くなるのかな?
[確かめてみたい、と思う。
この身体は無垢なまま、情交の痕の一つもなければ、"女"でもない。
けれど心には、全て刻まれている、恋も悦びも知ってしまっている。
『La Traviata』は恋を知る前の、
愛を信じられないヴィオレッタの歌。
なら次に滑るのは、『È strano Sempre libera』。
恋を知ったヴィオレッタを、今なら演じられるだろうから。]
(-334) 2023/04/29(Sat) 20時半頃