―現在―
[田端は特に目的があって歩いている訳ではありませんでした。
だから自然と、入り口から右手沿いに館内を巡っていきます。
一人で行動するのは苦ではありません。
昔から田端は一人で行動してきました。
一人でなんでもできなくてはいけませんでしたし、もっと言えば誰かを助けなくてはいけませんでした。
だから、誰かを助けなくてはいけない集団行動よりも、自分だけ助ければ良い単独行動の方が気楽なのです。
そして、いつしかそれは自分を守る盾にもなりましたし、他人を遠ざける壁にもなっていました。
けれど、常識的な範囲内で誰かに手を貸すことを厭う訳でもありません。
ただ、それをツンデレのデレだと思っていたら大間違いだと言うことです。
やがて一枚の絵の前で田端は足を止めました。
一階の奥の方にあった、手を繋いだ二人の子供の絵です。
雨の中、カッパを着た小さな子と、その子の手を引く傘を持つ子。
雨の表現も見事でした。
葉に光る雨粒や紫陽花の花も美しかったです。
ただ、その絵の前で田端は少しだけ不愉快そうな顔をしていたのです。]
(324) 2023/07/26(Wed) 16時半頃