─ 廊下からエントランスホールへ ─
[地下一階、カフェを出てすぐの廊下の手摺。
まるで彫刻のようになってしまった黒い蝶を見つめる。
仕方なしと、結局はいったんおにぎりを手から離す決断をした。
なに、ラップにくるまれているのだから問題はないだろう。
ごつごつとしたカメラに手をかけてファインダーを覗く。
ピントを合わせると指がシャッターを切った。
世界を切り取る小気味いい音がフロアに響く。
丁度話していた、骨谷や高祈にもその音は届いたかもしれない。
すぐそばのトイレに居たら、その人にも。
その蝶はもうすでにオブジェの一部と化したようで
触っても逃げるどころか、漆の塗られた木のような質感になっていた。
この蝶さえ、実際全員が見えるものなのかどうかもわからない。
ふと息を吐きおにぎりを手にすると
会話の聞こえる場所を避けるように遠回りをしてエントランスへと向かった。]
(262) 2023/07/30(Sun) 15時頃