―回想:成海と雨―
[きっと、今ならば思えるのかもしれません。
その時、成海は成海らしくなかったのだと。
けれどもとよりそんなに人に興味がなかった田端はそんな変化に気づけませんでした。
憂鬱な雨にお互い気が滅入っているのだろうと、その理由に考え至らなかったのです。]
雨を題材にした絵は結構あるわよ。
ルノワールもシスレーもゴッホも。
日本画だと歌川広重が有名かしら。
雨そのものを描いている絵は少ないけれど。
[吶々と自分の中にある事実を述べていきます。
けれど、雨自体は描かれずに雨に濡れる風景だとか雨傘をさしている人々だとかが多かったですから、雨の絵を見た記憶がないと言われるのも仕方がなかったかもしれません。
だからと言って、そこから会話を広げる訳でもありませんでした。
ボツボツ、ザアザア、雨が降り止むのを待って空を見上げるばかりです。
そのうち電話がかかってきて、心配した父親が迎えにくると言ったのを聞いて、同乗するか聞いたくらいです。
そして、後日。]
(245) 2023/07/25(Tue) 23時半頃