[予想していた痛みも衝撃も、来なかった。それはいい。寧ろ喜ぶべき事だろう。だが、代わりに口の中にぬるりとした……これは、舌か? 舌を挿れられている?]
んぐ、っ……んッ、ん………!
[口の中に、彼の舌が? 口の、中────拙い]
ん、ふっ…………んぅ、んッ!!
[薄く開かれた視界に移る光景は、推測が正しかった事を裏付けていた。漸く何が起きていたのか理解した康生は、全力で彼の身体を突き飛ばした。初めての、拒絶らしい拒絶の行動。傷付けるかも知れないが、康生にはそうせざるを得ない事情があった。それは、感情以前の問題だった。]
[キス病というものが存在するのを、知っているだろうか。知らなくても問題は無いし、康生に直接関係がある訳ではない。ただ、キスというのが様々な病気を媒介する危険な行為だという事だけ理解してもらえればそれでいい。通常問題にならないのは、免疫の働きに因るものだ。免疫力さえあれば、キスが問題になる事はそうそう無い。]
(175) 2023/08/13(Sun) 21時頃