─ブナの木の下で─
[時間にして、ほんの数秒だったはずだ。だが、スマホをポケットに突っ込むと同時に、両肩と背中に衝撃と痛みを感じた。]
い゛ッ……!
[康生の顔が歪む。康生と違い、彼はしっかり鍛えられている。仮に不意打ちでなかったとしても、到底敵わなかっただろう。康生は、暴力に晒された事など一度も無い。大切に、大切にされて来た。自分の身に何が起きたかだなんて、理解出来る筈も無い。ただ、経験した事の無い種類の痛みを受け止めるので、精一杯だ。]
け、いち……? ぐッ……!
[先程まで怯えていた親友が、一変して吠え立てる>>153理由がわからない。康生は、戸惑いながら彼の名を呟く。両肩に指が食い込んで痛む。左肩──彼にとっての右手側は少し痛みがマシな気もするが、どの道抜け出すだけの力は無いし、其処に気を回している余裕は康生にも無かっただろう。]
[狂気を瞳に宿した顔が迫る。殴られる、と思った。康生は反射的にぎゅっと目を閉じ、次の痛みに備えようとしていた。]
[していた、のだが……]
[────は?]
(174) 2023/08/13(Sun) 21時頃