………そっか
[川沿いを歩くよ。
さらさらと優しい音色のせせらぎを耳にしながら山の方角へ。この川には小さな魚が泳いでいてねアミを持って飛び込んだんだっけ。
あぶないからってすごくおこられちゃったんだよね。
でもね、眩く輝いた川底の砂に小魚たちが描く黒い群泳、跳ね上がる飛沫は夏の甘い香りを当たり一面に漂わせる……
そんな宝石箱のような景色が、思い出が森宮町にあったんだ]
そう、あったんだ
本当の森宮町には
[そんなものはここにはなかった。お日様は眩しく照らしてくるし、光に照らされた川は金色の水面をたゆたえる。
吹きつける風は顔を撫でて灯を揺らし通り過ぎる。
実感はある。でも足りない。
むせるような夏の匂いも
けたたましく謳い上げる虫たちのコーラスも
押し寄せるような圧倒的な山の息吹も
ここにはなにもかもが足りなかったの]
(167) 2024/07/09(Tue) 15時半頃