―現在―
[田端は自転車を走らせていました。
暑いのが嫌いだからでしょうか。
それとも心の奥底に宿る不安がそうさせるのでしょうか。
あたりの空気が肌寒く感じられるほどです。
夏だと言うのに。大藤はあんなに汗をかいていたと言うのに。
それでも、吊り橋に辿り着くまでに他の人影を見る事はありませんでした。
そのまま自転車を止める事なく吊り橋の先へと進んでいきます。
ペダルを漕ぐ脚を止めたらそこで立ち竦んでしまいそうな恐怖感はありました。
そう、何をしても変わらないのでしょう。
例えばここで誰かが倒れていても、泣いていても、笑っていても、あの男の言う通りなら田端には何をする力もないのです。
或いは人数を増やすことで自分の生き残る可能性を上げたかったのかもしれません。
結果が変わらずとも、人数が多ければ、知らない人がいたのなら、薄情だとは思いますがそれだけ気分が楽になる気がしたからです。
けれど、新しく綺麗に作られただろう吊り橋を渡っていると変化がありました。]
(163) 2023/07/27(Thu) 19時半頃