[仁科は風景画も動物の絵も描くが、人物が好きだ。
人物以外の絵でも、必ずどこかに人または人のパーツが入っている。
カフェにいる人を、視線だけで見渡す。
自分が死ぬのなら、もう現実では絵を描けないけど、ここでならまだ描ける。
生を素直に喜べないこの状況の何が“慈悲”だと思う人もいるかもしれない。
でも、仮定や想像を超えて“本当に”自分が死ぬと考えた時に、自分にとっては、それが“慈悲”だと思った。]
私も持ってきたらよかったな。
[スケッチブック、と独りごちて2つ目に。
今日はしっかり鑑賞して帰るつもりだったから、描く予定ではなかった。
最後に描きたいもの。なんだろうな。
ゼミのみんなも良い。最後の思い出。
死神はどうだろう。二度と出会うことのない題材だ。
いや、生きていたら再開する可能性もあるのか。でも2回目はいらない。
あとは――――――――
過ぎる影に、手が止まる。]
(131) 2023/07/29(Sat) 21時頃