[あらゆる事柄に阻まれ実行せず終わったが、成海が見に行こうとしていたのは蒔絵の小箱だった。
蝶が飛び交い天原真那の声がするようになった経緯がそこにあると思ったのだ。
この異常な空間で、死者が会いに来た可能性を人間は何もなければ捨てきれない。
ただ真っ向からそんなフィクションを妄信するにはいくつか気になる点がある。
あまりにも生前と掛け離れる、己の願望に都合の良い真那の言動。
怨念と呼ぶには手が込み、どちらかといえば自分の記憶を材料にしているようだった映像。
それに、異変が起きる直前までずっと留まり眺めていたものは
あの小箱だ。
儚くなった少女を想い、記憶に残る黒蝶を重ねていた。
──“現実の世界“で、“本来繋がりがない“それらを心が結んでいた。
だから、小箱に何らかの変化があったのならば
それは死者の依代でも蝶の発生源でもなく、
ましてやこの世界や上位的人外の悪意でもなく
成海の思考の投影の証拠であろう、と。*]
(110) 2023/07/31(Mon) 20時半頃