[くったりとうなだれる頭、細い髭、見慣れた白い毛並み。
食指がその首筋触れて、薄い皮膚を僅かに割いた。
傷口は最低限。器用な手先は血管を探り当て、その奥へと潜り込む。]
[サンプル採取、実証、研究、被検体。
それは弔いとは程遠く、命への冒涜なのかもしれない。
けれど自分も研究者のはしくれだ。生命を紐解く探究者のひとりとして、その目を背けることは許されない。
彼の命を価値あるものとする為にも、けして。]
[変質した血と肉の感触、身体に残る残留物。
タプルはその身をもって、彼の肉体の一部を受け入れる。
そうして得られた生体情報は、研究結果と名を変え、永遠に刻まれる。それは、傲慢な研究者なりの弔いだ。]
……ありがとう、今度こそゆっくりとおやすみ。
[引き抜かれた食指の痕を隠すよう丁寧に毛並みを整える。
これ以上、彼の眠りを妨げるものはいないだろう。
再び閉じられた棺の傍に、一輪の花を添える。]
やはりこういうのは……苦手だな。
(91) 2021/11/10(Wed) 06時頃