─乾恵一の家 応接間─
[「強いんだね」と彼は言った>>85。]
[康生は強い子だ。けれどその強さは、天賦の才ではない。恵まれているから得られた物ではない。 ──真逆だ。強く在れるのは、弱くては生きられなかったからだ。純白で居られるのは、穢れを知らないからだ。真っ直ぐで居られるのは、曲がる事が出来なかったからだ。希望だけを瞳に宿すのは、絶望を映す余地が無かったからだ。]
[弱る事も穢れる事も曲がる事も絶望する事さえも、康生には許されていなかった。それらは簡単に死へと直結し、命を奪うから。生まれ育った環境が、この子をこうしてしまった。綺麗な世界で育った、綺麗な子供。“普通”の生き方が許されない子供。だから康生は、強く穢れなく真っ直ぐで、希望に満ちているのだ。]
[……傍から見れば、さぞ眩く輝いて見えただろう。輝く事しか出来なかっただけだと言うのに。]
そんな、つもり──……。
[「騙した」と言われ>>86紡ぎ掛けた否定が、「赦さない」という言葉で途切れた。胸元の手が、ぎゅっと握り締められる。康生は今、彼の言葉で明確に傷付いた。傷付けられた。]
[なのに──足りないと言わんばかりに、拳が振り下ろされた。]
(90) 2023/11/11(Sat) 21時半頃