[歌う。少しずつ声を張って、次第に全身を使って、夜中には似つかわしくない大きさで。
とはいえ、中で眠っている誰かや、静かに過ごしている誰かを起こすほどでは、もちろんない。そうならない場所を選んだつもりだ。
見かけて気になってついてきたとか、ちょっと外の空気を吸いたくて出てきたとか、外から今、帰って来たとか。そういう誰かが聞くことは、あるかもしれないが。
これも、泣くことと同じような、発散の一つなのかもしれない。
シュトゥレクの民たちが歌い継ぎ、受け継いできた、死に心折れない為の手段なのかもしれない。
そう思わせるほどに、レクイエムとは思い難いほどに、その歌は躍動感に溢れるものだった。
最高潮に達して、伸ばしきり、ふっと、一瞬間が開いて。]
♪
ウェーウェ ツャリィ
ラァラ キュシュトゥリリ テ ……
[最後の一節だけは、祈るように、差し出すように。
歌い終えたケトゥートゥは全身を開閉するように、大きく息を吸って、吐いて。
それからもう少しだけ、夜を見つめていた。**]
(87) 2021/11/10(Wed) 02時半頃