― 格納庫 ―
[格納庫の扉開閉ボタンを押すと、軋む音とともに重い扉がスライドしてゆき、薄暗い庫内に光が差す。『スペランツァ』の備品である探索用・作業用の機材はだいたいがこの中に格納されているのだ。
クレーンや作業車、最近配備された水陸両用移動挺などが並ぶ横をすり抜けて、格納庫の隅に向かう。最新鋭・多機能のかわいこちゃんも魅力的だが、乗り慣れたものが一番いい、というのが男の持論だ。]
さあて、調子はどうだ? 相棒。
[見上げるのは年季の入った旧型の二足歩行探査機。名もなき量産型だ。
オレンジ色の丸い胴体から鳥のようなシルエットの脚部が伸びる姿は見た目通りバランスが取りづらく、操縦には技術と慣れと――細かい上下振動への耐性が要求される。つまり、人によってはめちゃくちゃ酔う。
胴体上部はほぼ全てが半球形の強化ガラス製のドームであり、360度の視界なんて言うと聞こえはいいが、普通に飛んできた塵やら砂やらがぶつかってくるし、カメラ映像の投影でもないので視覚頼りだし、お世辞にも使い勝手がいいとは言い難い。
それでも整備を重ねて使い続けるのは、こいつが故郷にいた頃からの相棒だからだ。]
(59) 2021/11/06(Sat) 12時頃