─近しい世界─
[──可能性の数だけ世界は分岐し、存在している。]
[もしそれが事実なら、ほんの少しの差異で分岐した世界という物も存在し得るのだろう。たった一つの行動が、或いは偶然が生んだずれが、結末を大きく変える事だってあるのかも知れない。]
・
[一つ確かなのは、どういう訳か“私”はまだこうして自我と思考を保っているという事だ。一度死を迎え、心臓以外の全てを喪った今も、息子──康生の胸の中に居る。比喩的な表現ではなく、移植された心臓として。]
[外部は勿論、康生にすら声を届ける事は出来ないこの思考が、どれだけの意味を持つものなのかは解らない。けれどもまだ私は、康生の五感を通して状況を知る事も、それらに対して何かを感じる事も止めてはいなかった。]
[康生とその学友達──加えて私が、地球を守るパイロットに選ばれ、死の運命から逃れられないと定まった時も。戦闘やそれに起因する出来事により、康生の学友達が既に幾名か命を落とした今も尚。私は康生の胸中で、不毛な思考を垂れ流し……生きている。*]
(2) 2023/11/10(Fri) 03時頃