16 魔界のミッドウィンター祭【R18】
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[ 知識として知ってはいるが、火で暖をとったことはない。 かまどの扱い方も知らない。
近づいてはみたものの、触るのさえ躊躇う。
熾火のぬくもりはあったから、かまどにくっついていれば、いくらか温かいだろうか── と考えたところで、天使は己れの怠惰さを叱咤した。]
(-28) enju2 2021/12/24(Fri) 08時頃
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[ 居間にとって返し、鍛錬を開始する。
集中していれば、余計なことは考えずに済むかと思ったが、ひとり稽古はかえって群れの仲間の不在を感じさせて気が滅入った。
それもまた魔界の夜のせいかもしれない。
切なくて息苦しいほどだけど、何も感じなくなるまで体を動かしていよう。*]
(-29) enju2 2021/12/24(Fri) 08時頃
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[ 己れを剋するように鍛錬を続ける。 無心にはなれたかもしれないが、心が晴れてゆく感じはしなかった。
乾いて、ひび割れて、虚ろだ。 自分は何処まで来てしまったのだろう。
奥の部屋から漏れてくる光が天使を呼ぶ。
覗けば、獣人の頭は枕の上にあった。]
(-32) enju2 2021/12/24(Fri) 20時頃
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[ 自分から天を奪った魔性に、好き勝手させてやるものかと思う。
扉の鍵は、彼が持っていると言っていた。 力を蓄えて、ここから出て行ってやる。 鍵を手に入れなくては。 回復して── 、 温かな…
消耗した思考が天使を導く。
気が付くと天使は獣人の足元にいて、二、三度、獣人の体に掌を這わすと、光を抱え込むように片翼をかざして臥した。*]
(-33) enju2 2021/12/24(Fri) 21時頃
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[ 温かな光が染み込んでくる。 寂しいながらも、どこか安らいだ気持ちで天使は顔を起こした。
すぐ傍らに獣人が横になっているのを見つける。
蜂蜜色に光っているその体毛を、自分の指が掴んでいるの気づいて、瞬間、息を呑んだ。
自分は何故、彼の寝台に乗っかっているのか。 何かされたか。 いや、記憶にない。
獣人が動き出す前に、離れておこうと、そっと後退る。*]
(-36) enju2 2021/12/25(Sat) 17時半頃
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[ 天使が動くとすぐ、獣人も起き上がった。 その動きは、天使のそれと違って戸惑いがなく、この瞬間まで待機していたことを推察させる。
いくらか後ろめたいような、恥ずかしいような気持ちがした。
獣人の問いかけには答えず、ただじっと見据える。
獣人の方も、それ以上、天使を構うことなく厨房へ向かう。 その振る舞いはとても自然で、邪な気配は感じられなかった。
それでも、天使はすぐ後を追うことはせず、ベッドに残った彼の体温を指先で探る。
当然ながら、鍵は見つからなかったけど、落胆はしていない。 時間稼ぎにすぎないことを自覚している。]
(-38) enju2 2021/12/25(Sat) 19時半頃
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[ 手を動かしていると、背中が少し張っているのがわかった。 砕けた翼の生え際あたりだ。 再生が始まっているのかもしれない。
それは、ここ来て初めてのいい知らせだ。 鏡を見る習慣がないから、現状、どうなっているかわからないけれど、天使は指を組んで祈りを捧げる。
獣人が宿している光で回復したのは認めざるを得まい。
自分を捕獲したのが、彼以外の、もっと堕落した魔性であったら、どうなっていたことか。
それで贖罪になるわけではないが── 、と天使は唇を引き結び、心の壁を確かめておく。 魔性に油断は禁物だ。 翼の健全な再生のためにも、孤高を保って鍛錬を続けようと自分に言い聞かせる。*]
(-39) enju2 2021/12/25(Sat) 19時半頃
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[ 厨房から獣人の声がする。
ああ、あれは彼が選んだ呼称だ。 まだ馴染みが薄くて、日々、繰り返されないと忘れてしまいそうだと思う。
来なさいと言っているが── 命令のつもりなのだろうか。 それにしては、提案しているような響きに聞こえた。
何か食べないかという誘いなら、不要だけれど、 再生し始めている翼を見たら、彼から何か反応があるだろうか。 ただし、勝手に触ろうとしたら、それこそ戦うつもりだ。
そんな思索を巡らせながら、焦らすような手管はないままに、素直に厨房に足を向ける。*]
(-41) enju2 2021/12/26(Sun) 00時頃
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[ かまどには火が入っていた。
勧められた椅子を無視して、かまどの近くまで行く。 獣人がどうやって火をつけるのか見ておけばよかった。
獣人は天使の体調を案じる様子を見せ、手を見せてほしいと求める。
手を見たところで何がわかるものでもあるまいと従わなかったけれど、素早く掴まれて、手首に毛で作った紐を巻かれる。
光る紐はふわりと軽く、温かだった。
補給の足しになれば、との説明から、彼の宿す光が天使の回復に役立っているのは獣人も把握しているらしい。]
(-44) enju2 2021/12/26(Sun) 09時半頃
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[ 弱らせたくないなら、魔界などに留めて置かないでほしい。 獣人が何をしたくて天使を手元で養おうなどと無謀なことをしているのか、理解できなかった。
光る紐を与えたのみならず、獣人は天使を引き寄せて抱擁する。 包み込むようなその光が、体の中まで差してくるようだった。
一瞬、体の力が抜ける。
彼の逞しい胸板が目の前だった。 手首に巻かれた編み紐と同じ色。
己の一部を与えるなど、いっそ献身的な申し出なのだろう。
けれど、拘束されていたり、動けないほど衰弱しているならばともかく、抵抗できる状態の天使に手出しして許されるなどと思わないことだ。
天使は気を取り直すと、すぐさま暴れて、獣人の腕を振り解こうとする。*]
(-45) enju2 2021/12/26(Sun) 09時半頃
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[ 手首に巻かれた組紐が変容して、手鎖になった。
やはり魔性は油断がならない !
この先、何も受け取ったりするものかと決意を新たにして、縛られた手首を獣人に叩きつけて反撃する。 暴れるのは構わないなどと、余裕を見せて翼の痕跡に触れてくるのも腹立たしい。
温かな掌に包まれると、再生途中の翼は伸び上がろうと応えるかのようだった。 けれど、魔性の力を借りて再生などしたら、きっと濁った色がついてしまう。
思い切り身を捩り、嫌がってやる。*]
(-47) enju2 2021/12/26(Sun) 14時半頃
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[ 腕さえ用いずに体を宙に持ち上げられ、諭す口調で獣人の理屈を告げられる。 天使は歯軋りしそうなほどに唇をきつく噛み締めた。
第一に、魔界に連れてこられた時点で、天に帰る道が閉ざされているのは承知している。 第二に、彼の所有物だなどという認識はおこがましい。
それを聞かされて、天使が新たな使命を見出すとでも思っているのか。]
(-50) enju2 2021/12/26(Sun) 22時頃
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[ 他の生き物が恋しいのは、群れで行動する天使にも、よくわかる感覚だ。 だが、その矛先が異種に向くのは理解しがたい。 同族と連帯すべきだろう。
それとも── 彼は、彼の種族の最後の生き残りなのだろうか。
…いや、だが、そうだとしても、天使を拉致してきて、一緒に暮らせとは自分勝手にもほどがある。
後悔させてやるぞ。
あがくような膝蹴りを繰り出しながら、天使は、獣の体温に擦り寄りそうな自分を戒めた。*]
(-51) enju2 2021/12/26(Sun) 22時頃
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[ 足にあたる感触が変わった── と思ったら、彼の姿が変わっていた。 より毛深く雄々しい角を生やした獣がのしかかってくる。
脳裏に響いてくるような深い”声”は、天使に、これから起こることを告げた。
むろん、全力で抗うが、両手を戒められ、床に押し倒された状態から逃れることができない。
首筋に牙の烙印が刻まれる。 彼の命そのもののような熱を感じた。
天使は体を硬直させ、小さく呻く。
いつか、その牙を叩き折ってやると心に誓う。
挫けはしないとばかりに、何度も蹴りにいった。*]
(-54) enju2 2021/12/27(Mon) 00時頃
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[ 言葉が通じていないかもしれないと獣人は考えているようだ。 そんなに自分は彼の語りかけと無関係な行動をとっていたろうか ? 伝わらないものだなと思う。
天使は偽りを語らない。 彼が適切な問いかけをすれば答えるのはやぶさかではないが、魔性の言葉に耳を傾けるべきではないというのが天使の基本スタンスだから、会話は成立しないだろう。
言葉が通じても互いの望むところが異なれば、議論の余地しかなく、妥協なき共和は叶わないというのは、彼が直後に主張したとおりだ。]
(-57) enju2 2021/12/27(Mon) 12時半頃
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[ 獣人は外への扉を開けてくれたが、天使を逃すつもりはないらしい。 天使の気晴らしのためだと言った。
気疲れ ? 否、魔性に気を遣ってなどいない。
彼の重みが離れるや、天使は扉の外を目指した。
彼の姿を一顧だにしてやるものかという気持ちは、彼の言葉を理解していないという偽装ではなく、単なる意地である。
彼が何を与えるつもりでいても、天使が天界にいた頃より満たされることがあろうか ?
天使の知る世界が狭いのは認めるが、自分が今、幸せを感じているかについて迷いはない。]
(-58) enju2 2021/12/27(Mon) 12時半頃
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[ 獣のねぐらの外は豊かな草原だったが、やはり空は澱んで暗い。 回復も浄化もおぼつかなかった。
けれど、これだけの植物があるからは水脈があるだろうと、天使は水気を探す。
足で地表を歩くのは慣れていない。 片翼では浮力が足りなかったが、それでも懸命にバランスをとりながら、飛び跳ねてゆく。
やがて天使は岩の根本に小さな泉を見つけ、首周りの熱にふりかけた。 時間をかけて全身を洗い流す。*]
(-59) enju2 2021/12/27(Mon) 12時半頃
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[ 体を洗った後は、乾かしがてら周囲を偵察する。
身の丈ほどの真っ直ぐな枝が落ちているのを拾い上げ、小枝を取り除く。 それを槍代わりに、架空の戦場をシミュレーションした。
貫き、両断するのは魔性の手にかかった同朋たちの幻影だ。 もはや、自分にその役目が巡ってくることはないとわかっているだけに、天使の表情は無だった。
群れの全員を消滅させかけたところで、ふと、花の香りが流れてくるのに気づく。]
(-62) enju2 2021/12/27(Mon) 16時頃
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[ 花の気配を辿っていくと、大岩の上から陽光が差しているのが見えた。
否、あれは獣の光だ。
花は、その彩りを彼の方に向けて、咲いている。 大岩の周囲全体が、そうだった。
まるで、彼を崇める素朴な信徒たちのようだ。]
(-63) enju2 2021/12/27(Mon) 16時頃
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[ 天使は、おのれの翼のささやかな光には反応しない花を見下ろしていたが、指を伸ばしてそっと摘み取る。 その隣で、彼の方を向いて咲く花もまた。
いくつもの花を集めて、リースを編んでゆく。
たくさんの花が咲いている方へと進んでいけば、気付かぬうちに随分と大岩の付近まで来ていた。*]
(-64) enju2 2021/12/27(Mon) 16時頃
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[ リースを完成させて、その出来栄えに、ふっと微笑む。 集中を邪魔するものはなかったし、体も温まって軽い。 よい行いだったと思う。
と、何かの動く気配に、天使は、ハッと身構える。 ここは魔界の一角だということを思い出した。
見上げればすぐ側の大岩から獣の尾が垂れている。 それが動いたのだろうか。
うかつだった。]
(-66) enju2 2021/12/27(Mon) 17時半頃
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[ 天使は木槍と花輪を持って、その場を離れる。 気配を消すことはしなかった。
ほんの少し遠ざかるだけで、陽光の温もりが弱まるのを感じる。 惜しむべきか苛立つべきか。
自分の現在位置もよくわからなかったが、先ほどと同じようにして泉を目指そうと考えた。*]
(-67) enju2 2021/12/27(Mon) 17時半頃
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[ 後を尾けられているのに気づいた。 振り返って木槍を振り、追い払うような仕草を一度したけれど、後は無視することに決めて泉を探す。
背中がほんのりと温かくて、翼が自然と伸びる。 滑空を交えれば、跳ねるよりもう少し早く移動できるだろうか。
けれど、獣にそんな姿を見られるのも何だか悔しい気がして、翼は開いただけにしておく。]
(-70) enju2 2021/12/27(Mon) 19時頃
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[ 泉に到着すれば、花輪を水面に浮かべて膝をつき、祈りを捧げた。
主の御技を讃える歌もそれに供える。
さて、後は獣の領域の果てを探しにでも行こうか。 逃すつもりはないと言っていたから、どこかで邪魔しに入ってくるだろうが、だからと言って取りやめる気もない。*]
(-71) enju2 2021/12/27(Mon) 19時頃
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[ 壁も川もなかったが、そこが境界だとはっきりわかる場所につく。 光る獣の恩恵の終焉。その先に美しい花はない。
天使はそこで足を止め、振り返って、距離を置いて獣がついてきているのを目にする。 そこにいるだろうと予測はしていたから、驚きはなかったが、複雑な曲線を描くその角に、天に捧げた花輪がひっかかっているのを見て、目を細めた。
贄の獣のようだ。
目を合わせたまま後退り、境界をこえる。 自ら彼の元へ帰るなど、選べぬ話だ。*]
(-74) enju2 2021/12/27(Mon) 21時頃
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[ 境界の外は、空気の匂いからして違う。 たちまち目眩がしてくる。 これは、飛ぶどころではない。
それでも、よろめいたりするわけにはいかなかった。 木槍をついて体を支える。
見る間に周囲の澱みが蠢いて、異形の影が滲む。
さっそくお出ましか。]
(-78) enju2 2021/12/27(Mon) 22時頃
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[ 獣の威光を恐れて、領域侵犯もできない連中だ。 たいした実力はないだろう。
それでも、切り抜ける望みは抱いていない。 自分は動けなくなるまでに、たくさんの穢れた傷を負うだろう。
ここには執行天使はいないのだから。
── 救いはない。]
(-79) enju2 2021/12/27(Mon) 22時頃
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[ その時、獣の深い声が背中越しに届く。 闇を払い、花の香を纏って。]
── …、
[ 執行──せざる者。
主が顧みぬ者を迎えに来た獣の陽光色のたてがみを、天使は指で掴んだ。*]
(-80) enju2 2021/12/27(Mon) 22時頃
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[ 体が軽々と乗せ上げられる。 伸びてきた金の体毛は、縛るのではなく、包み込むようだった。
彼の体温が伝わってくる。
ずっと埋もれていたいような安心感があったが、そうしていられたのはほとんど一瞬に思えた。
ねぐらに辿り着き、獣は器用に扉を開ける。 舌で天使を舐めた理由はわからない。]
(-83) enju2 2021/12/27(Mon) 23時頃
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[ 優しげな声で呼ばれ、簡単な指示をされる。
今なら従うと思っているのか。 無視しても、彼は困りはしないのだろう。
あれは魔性だから──いけない。
天使は外から扉を閉めると、その扉に寄りかかって目を閉じた。*]
(-84) enju2 2021/12/27(Mon) 23時頃
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