10 冷たい校舎村9
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— 二度目のチャイムが鳴る前:渡り廊下 —
[わたしと屋台を往復していた柊くん>>1:624の視線は、 わたしの人差し指を追って屋台の中へ飛び込む。
炭蔵くんの話をすると、 柊くん>>1:627もその発想はなかったらしく、 わたしは同意するように頷いた。
その後、何だか考え込むような間。 わたしは急かすことなく柊くんを待った。]
うーん……。
[柊くん>>1:630の口から聞こえたのは、 メールの送り主がもう死んじゃった可能性。 わたしはすぐ返事ができず、今度はわたしが間を貰う。]
(17) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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……それなら、なんで今日だったんだろうね。
[名前の見えないメール。 3年9組のわたしたちに宛てられたメール。 クラスの中でも文化祭に深く関わった人がいることは、 この景色からも分かりやすい。]
少なくとも文化祭とは関係ない日でしょ。 それなら、この日に意味があるとするなら……、
[わたしは言葉を区切って深呼吸した。 口全体が乾いていたみたいで、唾液を飲み込む。]
(18) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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……今日、死んだの、かも。
[XX……ううん、遺書みたいだったメール。 誰か死と無関係だとは、どうしても思えなかった。]
そうだとしたら、止まったままだとしたら。 あの時から、ずっと立ち止まったままなのかも。
[わたしたちには知識>>1:585>>1:586がないから、 こうして2人で話したところで答えは出ない。
それがお互いに分かっていたからか、 わたしは柊くん>>1:647に倣って息を吐いた。]
(19) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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んーん。関係はあんまりないの、かな。 わたし販売担当だったから馴染み深いくらい?
ほら、準備したお釣りしか入ってなかったのに、 終わったらいっぱいだったでしょ。
当日盛況すぎてあんまり離れられなかったんだよね。 優秀な客引きさんたちのおかげかな。
[失敗したな、と思った。 柊くんが鈍くないことくらい、わたしにだって分かる。 わたしが上手く誤魔化そうとしても、 柊くん>>1:648は納得した様子には見えなかった。
それでもわたしはへらへら笑っていた。]
(20) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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[当たり障りのない笑みを浮かべて 当たり障りのない会話を交わすだけ。 踏み込んでも行かないし、 踏み込ませる素振りも見せない。
——死≠ェ、 わたしがわたしでなくなること>>1:528なら わたしはもう死んでいるに等しい。
死人に口なし>>1:527。わたしは口なし。 だからわたしは、なんにも言わないよ。]
(21) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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[それに10円を財布から増やした話をしちゃったら、 会計の向井くんに迷惑かけちゃうしね。
わたしの増やした10円で辻褄があったなんて>>1:95、 迷惑をかけるだけじゃなくて、きっと嫌がるよ。
わたしは勝手にそう思って、 たとえ柊くんに違和感を残してしまったとしても 最後まで口を開かなかった。]
(22) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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1階の窓や昇降口は開かないんだったね。 じゃあ部屋をひとつひとつ見ていけばいいかな。
[わたしは柊くん>>1:660の提案に賛同して歩き始める。 一度だけ振り返ったら、そこには当然屋台がある。]
……ひとりぼっちは、寂しいよね。
[わたしたちが思い出として過去にした場所に もし未だ立ち止まっている人がいたのなら。]
だからわたしたち、選ばれたのかな。
[答えなんてないと分かっているのに、 わたしは最後に二言だけ言葉を置いていった。 きっとそれは、雪を運ぶ冷たい風に攫われて どこかに行ってしまうのだろうけど、 その前に、わたしは渡り廊下から離れる。]*
(24) 2021/06/08(Tue) 00時半頃
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[死人を気取って、バカみたい。]
(36) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— それから —
[柊くんと1階を探索したのは何時ごろだっただろう。 校舎の中は文化祭のまま止まっているのに、 時間はどうやら進み続けているらしい。 新しい部屋に入る度、時計と空がそれを教えてくれた。
職員室や隣の隣の会議室>>0:972は、 炭蔵くん>>0: 1170が書いた通り、誰もいなかった。 文化祭で自由解放されている以外の部屋の鍵は 職員室で管理されているらしい。 音楽室のタグがついた鍵がそのままぶら下がっていて、 無用心だなぁって呟いた。]
(37) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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[購買のレジに見覚えのある文字と名前>>1:278があって、 少しほっとしたのも覚えている。 教室を飛び出して以来、向井くんを見ていなかったから。 安心したせいかお腹が鳴ったんだけど、 財布は教室の鞄の中。我慢した。
図書室は図書室でほとんど入ったことがなかったから、 わたしは本を見るより全体を見学するように歩いた。]
(38) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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[柊くんと別れたのはいつだっただろう。 わたしはその後もふらふらと、当てもなく歩く。
途中、みんなが寝床を確保しようとしている場面に 出会えば、ちゃんとお手伝いはしたはず。
気づけば夜が迫っていた。 文化祭の準備でもこんな遅くまでいたことはない。 わたしはあちこちの蛍光灯のスイッチを押しに回る。
その間もカッターは点々と落ちていたし、 知らない誰かのため息はわたしの後ろをついて来た。]*
(39) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— PM8:50 —
[先に悲鳴が聞こえ>>#2、木霊のようなチャイムが続く。 わたしは驚いて顔を上げた。 耳に甲高い叫びが残ったままなのに、 チャイムの音が更に押し寄せてくる。
音の出処は分からなかった。 けれど2階の奥、誰か>>14が教室に入っていくのが 見えれば、わたしはそちらに歩き出した。]
わっ、
[辿り着く前に歩みを止める。足元を見下ろした。 さっきまでの感覚で踏み出した足は、 カッターナイフを蹴り飛ばしていた。 それはおはじきみたいに次のカッターナイフに当たって、 隣にあった剥き出しの刃をも斜めに飛ばす。]
(46) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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……。
[さすがに言葉が出て来なかった。 いつの間に、死の数がこんなにも増えていたんだろう。 急ぐことをやめて、 わたしはゆっくりと3年10組の教室へ近づいていく。]
(47) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— 3年10組 —
[そこには他に誰がいただろう。
そこには椅子があっただろう。 そこには誰かが腰掛けていて、 その誰かは首元を裂かれ、上を向いていた。 裂け目からはどくどくと血を流し、 だらりと手足を垂れ流している。
上を向く。何か札のようなもの>>#6と目があった。]
……っ!
[濃密な死と初めて出会って、わたしは身を竦ませた。 わたしが知っている死はお母さんくらいで、 お母さんの死はこんなに生々しくなかった。 わたしは入り口で立ち止まり、口元を手で覆う。]
(48) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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[叫んだりしなかった。泣いたりしなかった。 でもわたしは死んだままのわたしじゃいられなくて、 ううん、そもそも死んだなんていうのも烏滸がましい。
濃密な死の前で、わたしは甘ったれた子どもだった。]
……ぅ、……。
[わたしは口元を押さえたまま踵を返す。 足元のカッターを蹴り飛ばし、替えの刃も踏み潰して。 跳ねた刃先が靴下の上からふくらはぎをなぞった 気がしたけれど、そんなことを気にする余裕もなかった。
もし廊下>>29>>44に誰かがいたとしても、 ただ反対側へと走り抜けていく。]
(49) 2021/06/08(Tue) 01時頃
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— 3F・音楽室前 —
[辿り着いた音楽室はやっぱり鍵がかかったまま。 わたしは扉に手をついて、ずるずると座り込む。 カッターのひんやりした感触がしても気にならなかった。 階段を駆け上がった心臓が胸を叩くような音を立てる。]
う……ぇ……。
[口の中に酸っぱい味が広がる。 何も食べてなくて良かった。 わたしの愚かさを零すことがなくて、良かった。
わたしは項垂れるように、 音楽室の扉へ寄りかかっている。]**
(50) 2021/06/08(Tue) 01時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/08(Tue) 01時半頃
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/* 今日の主役はひとみちゃんと樫樹くんなので、あとは後方をうろうろしていたい気持ち。 ひとみちゃん誰とお話したいでしょうか。帰宅部は常にうろうろします。うろうろ。
(-3) 2021/06/08(Tue) 01時半頃
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/* 延々と何も話しませんでいる訳にはいかないので、これは自分用ではなく対人用の準備でした。 やっとちょっと縛りがとれるぞー。わー! ねるー!
(-4) 2021/06/08(Tue) 01時半頃
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— チャイムが鳴る前:1階探索中 —
[渡り廊下を離れたわたしたちは、 予定通りに1階の部屋を見て回った。
会議室や職員室で机の下を覗いてみたって、 ヨーコ先生が震えて隠れているなんてこともない。 探しても、探しても、 わたしたち以外の人間も答えも見つからなかった。
わたしは探索の合間に柊くん>>103を覗き見る。]
(170) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— 回想:渡り廊下でのこと —
[空想に近いわたしたちの仮定は、 正解がないからこそ際限がない。
わたしの話す今日だった理由>>19だって、 わたしたちが選ばれたって考え方>>24だって、 所詮わたしが想像したことに過ぎない。
だってわたしは、あのメールの主じゃない。 確かに文化祭は楽しかったよ。心から、本当に。
でも、もしわたしが身体ごと死んじゃう時が来たとして、 わたしは何通、メールを送れるんだろう。]
(171) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[暮石さんって、都合のいい時だけ友だちだよね」>>0:524
誰が言ったかも分からなくなってしまった言葉。 だからわたしは言われた事実だけを覚えている。
それから、 わたしがその子を 一度だって友だちだと思わなかったんだろうってことも、 覚えている。分かっていた。
わたしは、友だちが少ない。]
(172) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[とっくに死んじゃったわたしは、 柊くん>>82>>84>>85が零した言葉にも 曖昧に反応するだけだった。
「うん」「分かんないけど」「そうだね」 へらへらの相槌に虚しさを覚えない訳じゃない。 でも、いつもの音楽室より近い距離。 察しのいい柊くんの前だから、 わたしは死んだ口もあんまり開かないようにした。
特に驚かなかったというのもある。 柊くんのこと、知っているつもりはないけれど、 先に進めない柊くんの寂しさを わたしは一度だけ見たことがある気がするから。]
(173) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— 回想:文化祭と音楽室 —
[約束もしない。会話もほとんどない。 本当はきっとすぐ来なくなると思っていた柊くんは、 今でもふらっと音楽室へやって来る。
それに気づいたのは1ヶ月くらい柊くんが来なかった後、 また顔を見せてくれた時。 わたしは胸に広がる安心を素直に表情にした。
柊くんのお願い>>0:615を、 わたしが受け入れただけだと思っていた。 でもいつの間にか、 わたし>>0:1037の方が柊くんを待っていた。
わたしは柊くんを、道具みたいに利用していた。
いつもの感想に初めて「ありがとう」って伝えた時に 困ったような顔をしちゃったのは>>0:1036、 わたしがわたしにまた少し失望したからだ。]
(174) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[それでもわたしは柊くんに何も言わなかったし、 それからも柊くんでわたしの残された命を測った。
わたしはわたしに失望したけど、 柊くんに罪悪感を抱いた訳じゃない。
だってわたしたちのこの時間の終わりは、 柊くんに委ねられている。 柊くんは聞きたくなったら来なくなる>>0:728。 だからわたしは柊くんに甘えて観客を利用し続けた。]
(175) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[文化祭の翌週、月曜日。 柊くんは音楽室にやって来た。
いつものように挨拶だけ交わすつもりだったわたしの口は たった一言、柊くんを気にかける。
柊くん>>89がぽかんとした顔をした。 その顔、あんまり見たことないな。 わたしはすぐ「なんでもないよ」って続ける。]
……。
[柊くんは察しがいい。 わたしの分かってもらう気がない言葉からも 的確に意味を拾ったみたいで、 普段より弱々しい響き>>90がわたしの耳に届く。
視線をちらりと柊くんの方に向けると、 体育座りをした膝に顔を埋めていた。 明るめの髪が秋の風に揺れている。]
(176) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[わたしは何も言えなかったから、 いつもと同じようにピアノを弾く。 それしか、できない。
春が過ぎ、夏休みも挟んだわたしの指は もう一瞬でも思い通りに動いてくれない。 それでもある程度の曲までなら弾き切ることができる。
ここがわたしの底なのかもしれない。 もつれた音が時折わたしの耳を掠めた。]
え……。
[わたしが鍵盤から指を離した後、柊くん>>91が呟いた。 いつもの感想>>0:847を待っていたわたしは、 予想外の言葉にちょっとだけ面食らう。]
(177) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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……うん。 音楽にもいろいろある、けど。 必要な時に寄り添ってくれるものだって、 わたしは、思うよ。
[休符をいくつか挟んで、わたしも静かな声で返した。 不思議な気分だった。 その一瞬だけはいろんなしがらみも忘れて、 言いたいことを言えた気がする。
わたしの音楽はもうほとんど息をしていなくて、 いつ月曜日が嫌になってもおかしくなかったのに。 それでもわたしがピアノを弾き続けた理由のひとつは、 1人の観客がいてくれたからだった、のかも、ね。]*
(178) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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— チャイムが鳴る前:柊くんと それから、 —
[結局どれだけ探しても有力な情報は見つけられなくて、 わたしたち探索隊は寝床の準備>>105のために解散した。
わたしの手には柊くん>>104が買ってくれた クリームパンがある。 最初わたしは遠慮したんだけど、 そこそこ大きなお腹の音が鳴ったところで観念した。
お昼ご飯に食べる物は決まってなくて、 むしろ同じ物にしないことがこだわりかってくらい ころころ変わる。]
(179) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[おにぎりの日もあればパンの日もあるけれど、 強いていうなら甘いもの>>0:595が多かった。 乃絵ちゃんと一緒にご飯を食べる日にも 時々登場するメンバー>>0:772だ。
くるんと丸くて、中のカスタードはとろっと甘い。 わたしは「後で返すね」って柊くんにお礼を言って、 まるまるとしたクリームパンを受け取った。
それからあちこちを回ってお手伝いをしても エネルギー切れにならなかったのは、 クリームパンを食べたおかげだったのかも。]*
(180) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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[それから、午後8時50分。 二度目のチャイムが鳴る。]
(181) 2021/06/08(Tue) 17時頃
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