1 冷たい校舎村(別)
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―― げんじつせかい ――
[ 目を開けたら、私の部屋だった。 机の上に広げられた塾の宿題を枕にして、 私は眠ってたみたい。
なあんだ。やっぱり夢だったんだ。 あまりにも生々しかったから、 夢じゃないって信じちゃってた。 でも、目が覚めてみれば、 夢以外の何物でもない ]
(+0) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ こんな格好で寝たら肩が凝っちゃう。 私は思いっきり伸びをして、 あ、今何時かなってスマホに手を伸ばした。 スマホに表示されるのは、 現在時刻とメールのお知らせがいくつも。
メール来てたんだ。気づかないくらい寝ちゃってたのね。 なにかなって、私はタップして―――― ]
(+1) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ そのまま、スマホを落とした ]
(+2) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ ごとんっていう音にはっとして、慌てて拾い上げる。 信じられない気持ちで、もう一度見返した。 何度読み返しても結果は変わらない。 夢の中で届いたメールと同じ。 ただひとつ違うのは、送信者名がバグっていないこと。
遺書にしか思えないメールの送信者は、、ヒナだった ]
(+3) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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あれは、ただの夢でしょ?
[ そう思った。そのはずだった。 でも、夢で見たのと一字一句同じメールが届くなんて、 そんなことある? それとも今いるここも夢の続き? 夢なら早く覚めてほしい ]
(+4) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ そういえば、届いてたメールは1通じゃなかった。 他のメールも確認しないと。
担任のたつみ先生から、メールが来てた。 ヒナが病院に救急搬送されたって。 病院の住所と名前が書いてある。 最寄りの救急病院だった。
残りのメールはメアから。 「誰か帰ってきた?」 「まだ?」 「私、病院に行くね」 「病院についたよ」 そんな一言だけのメールがたくさん届いてた ]
(+5) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ ねえ、「帰ってきた?」って何。 それって、まるで、まるで、 あの夢が、夢じゃなかったみたい。
私、帰ってきたの? 私、精神世界にいた? ヒナの精神世界にいたの? ]
(+6) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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とりあえず、病院に行かなくちゃ。
[ 行ってどうこうなるものじゃないけど、 でも、家でじっとしてるなんて、 そんなこととてもできなかった。
私は、あの世界にいた9人と、 たつみ先生にメールを送る ]
『今から病院に向かいます』
(+7) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ 立ち上がって、部屋着なことに気づいた。 クローゼットを開けて、少し考えて、 私はミモレ丈のゆるふわスカート>>2:70を取り出す。 形に残る、文化祭の思い出の品。ヒナの作品。>>2:129 普段着にするには少し甘すぎるけど、 冬に着るには少し薄すぎるけど、 着れないこともない。 地味目の上着を持ってきて、 分厚いタイツを履けばきっと大丈夫。 今日は大雪じゃないし ]
(+8) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ 部屋を出ると、廊下で妹にばったり会った。 妹はあの日から、私と顔を合わせると、 申し訳なさそうな顔をする。 そのくせ、口元は笑ってるの。変な顔。 この子が何を考えてるのか、 やっぱり私にはさっぱりわからない。
でも、もしも普通は相手の気持ちがわかるものなら、 この子に私の気持ちがわかるとしたら、 人間的に問題があるのは私よりもこの子が上だと思う。 私のプライドが傷つくと承知の上で やったってことでしょ? それって相当性格悪いわよね? ]
(+9) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ でも、本当にわからないの。 理解できないし、変わってると思う ]
桃香って変な子よね。 [ そう言ったら、妹の眉が奇妙に歪んだ ]
昔から、私のお下がりは嫌だって、 散々駄々をこねて 新しいものを買ってもらってたじゃない。
でも、彼氏は私のお古がいいのね。
[ 矛盾してると思う。理解できない。 心底不思議でそう言ったら、 何か喚きだしたけど興味がなかった。 うっかり相手をしちゃったけど、 私、今はそれどころじゃないの。 喚いてる妹は放置して、私は両親の部屋に向かう ]
(+10) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ ノックをして顔を覗かせたら、 母は寝てたけど父はまだ起きてた ]
先生からメールが来て、 友達が病院に救急搬送されたって。 私、行ってくるね。
[ 私がそう言ったら、父は読んでいた本を閉じた。 眼鏡を外してベッドから降りる ]
お父さん?
[ 首を傾げたら、もう遅い時間で危ないから、 車で送ってくれるって。 玄関で待っていなさいって言われて、私は素直に頷いた ]
ありがとう、お父さん。**
(+11) 2020/11/13(Fri) 01時頃
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巫女 ゆりは、メモを貼った。
2020/11/13(Fri) 01時頃
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[ 父の運転で、病院に向かう。 助手席に座って、私はまっすぐ前を見てた。 私、どうして病院に向かってるのかな。 そんなことを考える。
家でじっとしてなんていられなかった。 行かなくちゃって理由もなく思った。
でも、でも、ね、 メアの話が正しければ、あの精神世界を閉じるために、 誰か一人残らなくちゃいけない。 だとしたら……ヒナは、助からない。
きっと今頃、ヒナの治療にあたってるお医者さんたちは ヒナを助けるために力を尽くしているのに。 ヒナは、多分、助からない。 そのことを、私は知ってる ]
(+12) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ そして、もし、もしも、ヒナが助かったとしたら、 その時は、別の誰かがあの世界に残ることになる。 誰かが、ヒナの代わりに命を落とす。
私、何を祈ったらいいんだろう。 みんなで帰ってはこれないって知ってても、 みんな帰ってきますようにって願うの? そんな、決して叶わないお願いごとに意味ある?
でも私、 私が残るから、みんなは帰っていいよとは言えなかった。 一人残って、あの世界を閉じる役目を引き受けてもいい。 そんな風には思えなかった。今も思えない。 帰ってこられてよかったって思ってる ]
(+13) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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……お父さん。
[ 口数の少ない父は、黙って運転してくれてる。 真っすぐ、暗い道の先を見つめたまま、 私は父に話しかけた ]
私、自分のこと、なんでも持ってるって思ってた。 何も欠けたところがない勝ち組だって。 でも、私、大事なところが欠けてる。 そのことにやっと気づいた。
[ 多分、自分に欠けたところなんかなくて、 自分のことを勝ち組だって思ってた。 それこそが、私の欠陥だった ]
(+14) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 出来のいい姉と出来の悪い妹。 両親のいいところを全部もらった私と、残りかすの妹。 そんな風に本気で思ってた。 でも違った。 私は、普通の人が当たり前にできることが、 どうやらできないらしい。 私は欠陥品で、 プライドなんか粉々に砕けて、 それでも、 あの世界にたった一人で残ろうとは思えなかった。
だからきっと、 こんな感じでこれからも生きていくんだと思う。 人の気持ちをわからないまま。 空気を読めないまま。 無神経って言われても ]
(+15) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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ごめんね、こんな娘で。 私、自分のこと、出来のいい人間だと思ってたのに。
[ 自嘲の笑みを浮かべた私に、 思いがけない父の言葉が降ってきた ]
「お父さんな、会社で、 トンビが鷹を生んだなって言われてるんだぞ」
[ 思わず、え、と聞き返して、思い当たる。 私の家庭教師の生徒は、父の同僚の娘さんだった。 私が家庭教師になってから成績が上がったって、 ご両親にも喜ばれてたんだった ]
(+16) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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「でも、そんなことは関係なく、 お前は、父さんと母さんの大事な子供だ」
(+17) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 「そんなことは関係なく」 その言葉に、思わず目を見開いてしまう。 言葉を探すように、父は少したどたどしい口調で、 「桃香は」と言う。
なんでもよくできた私に比べて、 出来がいいとは言えない妹。 姉へのコンプレックスで潰れてしまわないように、 両親は二人とも大事に思っていることが伝わるように、 気を遣っていたつもりが、 甘やかしすぎて増長させてしまった。 父はそんなことを言った ]
(+18) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 甘えて、甘やかされて、すべてを許されていた妹。 私はあんな風にはなりたくなくて、 ひたすら上を目指してた。
私、もしかしたら、そうしたら愛されるって思ってた? 甘えられない代わりに出来のいい娘でいることで、 両親の自慢の娘でいようと思った?
わからない。 人の気持ちがわからない私は、 自分の気持ちすらよくわかってなかったみたい ]
(+19) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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……お父さんとお母さんは、 私の自慢の、大事なお父さんとお母さんよ。
[ 病院に到着した。 父は夜間出入口の前に車を停めてくれる。 迎えに来るから連絡しなさい、と言われて頷いた ]
ありがとう。行ってきます。*
(+20) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 目の前は真っ白。 ]
(+21) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 操縦士の指示通りに動く、 ただただ海を征く船でありたかった。 ]
(+22) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 残念だね。 志帆は人間だし、こころもあるし、 時には指示に逆らいたくなることだってあるんだよね。
澱のように、黒い気持ちが溜まった結果なのよね。 ]
(+23) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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『理帆ちゃんはいいなぁ!』
[ 言いたくても言えなかったんだもん。 だけど、言える立場じゃないのはわかってる。 言えないよ、理帆ちゃんには。 ]
(+24) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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──現実世界──
[ ジェットコースターから飛び降りたみたい。 心臓がばくばくしてる。 ]
ぇ……、 いま、の、なに?
[ ねえ、なんなの。 暗闇の中、枕元を探して携帯を立ち上げる。 光がとても眩しくて、目を細めた。
日付と時間を確かめていたら、不意に目に入ったの。 手首に不自然な線のようなもの。 ]
(+25) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 携帯からの光じゃ全然足りないから リモコンを探り当てて照明のスイッチオン。
……蚯蚓脹れ。 パジャマを捲ったり覗いたりしてみれば、 至る所が赤く盛り上がっている。 精神世界でナイフをあてたところと見事一致です。 ]
帰ってきたの?
[ それとも追い出された? わからない。 目を丸くして考えてみるけど、なんもわかんない。 ]
(+26) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ 呆然として、携帯に再び手を伸ばせば、 メールの通知に気がついた。
古い順から一通目。琴子。 二通目、担任。三、四、五……通目、めあり。 めありで通知がいっぱいになってたから、 めありのから開こうね。>>+5 ]
……めありぃ。今帰ってきたっぽいよ。
[ めあり本人に届くはずのない答えを零して、 メールをひとつひとつ検分していく。 ]
(+27) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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ことめろ、どうして?
[ ねえ、どうしてよ。教えてよ。 ]
(+28) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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[ わかんない。わかんない。わかんない。 携帯片手に固まってたら、もう一通メールが届く。>>+7 ]
びょーいん、……いかなきゃ。
[ 救急搬送されたって。 病院に行ったところで何かできるわけでもないけど。 だって呼ばれたわけだから、いかなきゃね。 人間って聴力が最後まで残るってきいたことあるし、 案外呼びかけたら、なあに?って起き出すかもじゃん。
変換する時間も惜しくて、『わたしもいく』と返信。 ベッドから飛び降りた。** ]
(+29) 2020/11/14(Sat) 00時頃
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