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「 それは …… 随分と優しい解釈ですね。 」
話下手な元生徒へのフォロー。>>1:276 それが蜜星教諭の本心からのものなら、 俺が思うよりずっと純粋な人なのかもしれない。
「 残念ながら、下手くそですよ。 …… 俺の言葉は、誰も喜ばせられない。 」
告白してきた女の子達は、一様に顔歪めて。 中には涙を零す者もいた。 煙崎るくあにしてもそうだ。>>1:67>>1:68 最後に贈ったのは、一度吐いたら戻すことができない 聞くに堪えないものだった。
(35) 2023/11/19(Sun) 02時頃
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コーヒーカップもとい、惑星パーティによる洗礼は、 蜜星教諭の経験値を大幅に上げてくれると信じている。
元生徒に対してすら、 丁寧にお辞儀をして去って行く姿。 段々と小さくなっていく背中に。
「 蜜星先生! 」
ふと、思い至ったように声を張ると。 片方の手を振りながら叫んだ。
「 別に頑張らなくていいんですよ。 ここは遊園地なんだから。 」
(36) 2023/11/19(Sun) 02時頃
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「 どうか、気負わず楽しんで! 」*
(37) 2023/11/19(Sun) 02時頃
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クソエイムお兄さんからのメッセージは 確認のみに留めた。>>1:274
そのうち、が来ても来なくても 互いに困ることはないだろう。
負けたのはお兄さんなんだから。 お兄さんの個人情報を貰うのが道理かと思ったが。
…… 勘違いしないでほしい。 俺が同性愛者だとしても、好みはある。 深く言葉を交わしたわけではないが、 あれは対極に位置するタイプだろう。>>1:65
(38) 2023/11/19(Sun) 02時頃
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日の色が傾けば、ホテルとやらに移動する。 客室内も、なかなかギャラクシーな 趣向が凝らされていたが。
流石に疲れていたのだろう。 堪能するのもそこそこに、 スプリングの利いたベッドに倒れ込み ずぶずぶとシーツの中に沈めば、泥のように眠る。 それこそ夢も見ないくらいぐっすりと。
…… せっかくなら煙崎さんの夢でも 見られれば良かったのに。
それをほんの少しだけ、残念に思う。**
(39) 2023/11/19(Sun) 02時頃
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朝はもとから得意ではない。
そして大学生は、長期休暇の最中だ。 高校時代から成長していない自分は、 サークル活動にも熱心ではない。>>0:37
したがって、早起きをする理由もなく。 そのままのそのそと、ベッドに戻ろうとして。
「 あ〜 …… 。 」
見覚えのない室内を、 生気のない瞳で見渡せば。 数回頭を揺らし、意識をゆっくり覚醒させて。 ようやく昨日から続く非日常を思い出す。
(81) 2023/11/19(Sun) 13時半頃
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「 そういえば、そうだった。 …… 流石に起きるか。 」
あと、5分したら。
(82) 2023/11/19(Sun) 13時半頃
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どうにか身支度をませ、朝食の席へ。 見知った顔があれば、会釈をして。 朝は食欲がないので、スムージーだけ注文した。
席につき、待ち時間にアポロを確認する。 お兄さんからの連絡はないようだ。>>51 なら「そのうち」ではないのだろう。 こちらも自由に過ごすことにした。
寝ぼけ眼のまま。 流れで、新着のメッセージまで目を通す。
(83) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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「 …… 落とし物。 」
小さく呟いた瞬間。 給仕ロボットがスムージーを運んできた。>>56 すぐに意識はそちらに奪われる。
他のモナリザにはない派手なリボンが目を引いた。 ロボット界にもファッションリーダーが 存在するのだろうか?
至極、生産性のない思考を巡らせていたら。 ロボットのつるりとした機体から生えた突起物に 何か引っかかっているのに気付いた。
薄汚れた、灰色の …… 。
(84) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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「 ゴミかな …… 。 ん? ゴミ? 」
あっ。
繋がる記憶に、小さく声を上げて。 咄嗟に手を伸ばすと、それを指先で摘み取った。
(85) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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『 これ? 』
短い文章には、くすんだ色合いの ほつれた糸の写真が添付されている。
(*10) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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アポロで撮影した写真を、 個別ではなく全体メッセージで送信する。 発見情報なら全員に伝わった方が良いだろう。
ふぁあと欠伸を殺し、スムージーを飲み干すと。 そのまま緩慢な動作で席を立った。*
(86) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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こんにちは。真面目な良い子です。
ホテルの廊下を歩いている最中。 二文字で終わらせた自分が申し訳ないほど、 熱量のこもった返信が届いた。 文章の向こうから伝わる圧。
よほど思い入れがあるのだろう。 自身の人生に欠けている存在を見出し、 意識の中に、若干の羨望を感じながら。
(134) 2023/11/19(Sun) 16時頃
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『 リボンの似合うモナリザが、 大事に預かっていてくれていたよ。 礼なら彼女(?)にどうぞ。
了解。 なら、フロントに預けておこう。 』
(*17) 2023/11/19(Sun) 16時頃
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今度は個別に返信を送る。
面識のない相手。 それが女性であれば、どうしても警戒心が勝る。
一目惚れされるのは避けたい。 いらぬ心配とは知らぬまま。>>1:54
落とし物は随分年季が入っているようだ。 壊さぬように意識しながら、 フロントへと運んでいる途中。
自己紹介写真と若干印象が異なるが、 十分に華やかな女性が、ぱたぱたと廊下を叩きながら 前方から駆けて来るのが見えた。*>>119
(135) 2023/11/19(Sun) 16時頃
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「 うっっわっっっ。 」
こちらを視認した途端。 ぎゅいん、加速度を増した姿は、 アクセルを踏み込んだような錯覚を抱く。 煌びやかな影は、予測より数秒早く 懐まで飛び込んできて。 …… そのまま通り過ぎ、やがて戻ってきた。
怒涛の一連に、 寝ぼけていた意識が完全に覚醒する。 この様子だと、送ったメッセージは読めていないだろう。
(141) 2023/11/19(Sun) 16時半頃
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「 はい、これ。 大切なものなんだろう。
無くさずにすんでよかった。 」
煌びやかなラメが縁取る眼差しは、 一心に、落とし物へと注がれて。 こちらの顔面事情など眼中になさそうだ。 それに幾分か安心した心持ちで。
彼女の呼吸が落ち着いた頃を見計らい。 爪の先まで整えられた手の平へ、目的の物を手渡す。
坂里だと認識しているのは。 アポロには顔写真を掲示している者が多いため、 消去法だと判断している。*
(142) 2023/11/19(Sun) 16時半頃
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宝物を取り戻し。 周囲に目を向ける余裕も取り戻したのか。 ようやく向けられた表情からは、 どこか歪な印象を受ける。
メイクの乱れに気付いたわけではない。>>119 あいにく、顔を飾るための知識は持ちえず、 そういうものなのだろうと安易に受け入れる側だ。
ならば原因は、浮かんだ表情の方。
「 不本意? 」
首を軽く傾げる。 自分の運んだ物が、誰の何かを知れば、 透かした表情を貫くのは難しかっただろうが。>>144
(161) 2023/11/19(Sun) 18時頃
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実際に取られた手段は、別の言葉。>>145
「 君が煙崎さんを? そうだな。 とりあえず、殺した理由を聞くかな。 殺意に結び付く感情の苗床を教えてほしい。
ちょうど彼女のことを。 知りたいと思っていたところなんだ。 」
…… 裏を返せば。>>1:88 告発も、断罪も。 下すのは己の役目ではない表明、暗に示した後。
(163) 2023/11/19(Sun) 18時頃
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「 ところで。 俺のことは殺さなくていいの?黒須さん。 」
(164) 2023/11/19(Sun) 18時頃
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根拠はなかった。 蜜星教諭の時と同様。 話下手の悪癖が出たに過ぎない。>>1:242
己の奥底に残る罪悪感と。>>35 彼女の言った「不本意」を、 たいそう意地が悪く解釈して。
最後に、いつしか煙崎るくあが、 『大切な存在だ』と言っていた名前。>>0:174
来ていないわけがないと、思考の末に添えたなら。 まるで化粧の裏の素顔を見通すように 柔らかく微笑んで見せた。**
(165) 2023/11/19(Sun) 18時頃
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手を振るその人のことを、俺は知らない。 仮に、彼が何をしたかを知っていても。>>105 こちらのスタンスに変わりはないだろう。>>163
相手が目上だという理由で。 ぺこり。素直に顔を下げて見送るだけ。
縁もゆかりも因縁もない相手。 ただ、恐ろしいほど整った人だとは思った。
(168) 2023/11/19(Sun) 18時半頃
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自分の顔は、あくまで異性受けが良いに留まる。 告白されるということは、 同じ生き物だと認識されていること。
だが先程の彼の美しすぎる、老若男女を魅了する相貌は、 時に畏怖すら感じさせるだろう。 己の容貌ですら、嫌気がさすというのに。
そんな「天賦」を授けられて。 果たしてまっとうに生きていられるんだろうか?
(169) 2023/11/19(Sun) 18時半頃
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「 …… お気の毒に。 」
向けた言葉はただ一言。
去り行く背を見送ることはせず。 そのまま、ふっと睫毛を伏せた。**
(170) 2023/11/19(Sun) 18時半頃
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つくづく思い知る。 俺の話は、女性を喜ばせることに向いていない。 目の前で、狂ったような怨嗟が響く。
…… 正直なところ、めちゃくちゃ怖かった。 でも声帯を抜けて響く声は、不思議と凪いでいた。
それは、施された煌びやかなアイメイクが、 彼女が慟哭する度に、角度を変えて輝くのが。
狂気ではなく。 別の色で濡れているように見えたからかもしれない。
(205) 2023/11/19(Sun) 22時頃
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ボクのことを知っている。>>196
残念ながら、こちらの手札は、 相手の苗字と対象を称する一文しかない。 頷くには烏滸がましいくらい、僅かな量。
ただ、負け犬と。 続く自嘲を否定するに十分な程度でもある。
つまらない。 剥き出しの敵意と共に吐き捨てられれば 思わず驚いて、視線を向けてしまった。
(206) 2023/11/19(Sun) 22時頃
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更にくすりと、吹き出してしまえば、 相手の苛立ちを増長させただろうか。
「 うん。本当にそうなんだよ。 どうも過分な評価をされがちなんだけど。
俺はつまらない話しかできないんだ。 」
嘲るつもりはなかった。むしろその逆で。 向けられたそれが、 あまりにも正しい評価だったから。>>1:241 咄嗟に喜色を含んでしまった。
そんな調子だから、きっとこの先も。 俺は彼女を怒らせることしかできないだろう。 それを承知で、言葉を続ける。
(207) 2023/11/19(Sun) 22時頃
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「 そうだね。君の言う通り。 俺は薄情な彼氏だから。
彼女の死に嘆き悲しむことも。 犯人を憎むこともしなかったよ。 」
煙崎るくあの死、以来。 初めて他者に託す本音は、
(208) 2023/11/19(Sun) 22時頃
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淡々と響く声が、彼女の鼓膜を どんな音で揺らしたかはわからないが。
「 君は、俺ができないことをしてくれた。 」
その言葉は、紛れもない称賛だった。
…… うらやましいと。 羨望を帯びた瞳が揺れる。 そのまま、黒須の姿を真っすぐに映すと。
(209) 2023/11/19(Sun) 22時頃
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「 ありがとう。黒須さん。 …… そっか。
煙崎さんは、 こんなにも愛されていたんだな。 」
二度、三度、瞬いた後。 男は花弁を散らすように、美しく笑った。**
(210) 2023/11/19(Sun) 22時頃
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犯人でないと察していたのはその通り。>>236 自身の言葉で証明していたから。>>197 元来、素直な性質なのだろう。 それは、あれだけ言葉を投げ合った相手にすら、 律儀に添えるお辞儀も示している。
去って行くのなら。 留める言葉も、理由も、俺は持たない。 静寂を取り戻した廊下で立ち尽くす。
『それでも、るくあは ボクでなくキミを選んだ。』>>235
(275) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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「 …… やっぱり嘘をつくのが 一番上手いのは、煙崎さんだったな。 」
いつかの印象が蘇る。>>0:76
偽りの契約が満了した瞬間。 俺達はあっさり他人に戻っただろう。 そうなれば彼女はきっと、俺のことなど思い出さない。
選ばれた? とんでもない。 もういない、記憶の中の横顔が笑う。 離れてそれなりの歳月が経っているだろうに。
瞳を優しく細めて、 愛しい在りし日を振り返るような ──
(276) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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『 え。そうなんだ。 すごうね。全然わからなかった。 ワくん。メイク上手いね。
そういえば煙崎さんが言ってたよ。 ワくんのこと。 大切で、大好きだったって。 』
(*33) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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去ったはずの相手による、アポロによる追撃。
返信は要らないと言われたら、 返信するのは最早礼儀と言っていい。
言いそびれた一文、>>206 添えて送ってから。
(277) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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「 …… 男の子って。 そういうことは、ちゃんと 教えておいてくれないかな? 煙崎さん。 」
初めて女の子に大嫌いと言われたと。>>236 こう、密かなときめきすら感じていたのに ……。 恨みがましい独り言は、当然誰にも届かないが。
『 坂理くんが勝手に勘違いしただけでしょう? 』
そう、楽しそうにほころんで見せる。 他の誰かには、また別の一面を見せるのだろうが。 俺にとっての彼女は、そういう人だったな。*
(278) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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‐遊園地‐
モナリザってやつはさ、何でもできるんだ。>>1:194
給仕は勿論、ホットドックも焼ける。 時には孤独な夜の話し相手にも。
いずれ訪れるだろう、一家に一台モナリザ時代。 来るその日のためにも、その可能性を追及してみたい。
とりあえず、ワくんと別れた後。 遊園地に舞い戻ったはいいが。
特にやることもなかった俺は、 不意にそんなことを思った。
(279) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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「 君はこれ。君はこっち持って。 準備ができたら、ここの列に並んでね。
さん、はい! 」
どこかの広場の中央に。 園内のモナリザと、パレード用の楽器をかき集めて。 ロボット達による突発的な演奏会を開催する。
演奏の出来栄え?さあ …… 開発者のプログラム次第じゃないかなァ。**
(280) 2023/11/20(Mon) 08時半頃
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眠りに落ちた煙崎灰羅。 その目覚めを出迎えたのは。>>285 人工的な芝生の匂いと、調子の外れたラッパの音。
そして下手人らしい円錐形金管楽器を手にした、 至近距離からのアップにも耐えるだろう 坂理柊の顔だったかもしれない。
「 あ。よかった。生きてましたね。 」
善意しかない。 悪びれない表情がにこりと笑う。
(296) 2023/11/20(Mon) 14時頃
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「 遠目に人影が見えたと思ったら …… 夏にこんなところで寝てたら、 健康な人間でも、死にますよ。 」
こちらは真面目な良い子だから。 気が向けば、人命救助だってする。
そこまで言えば、用向きは済んだ。 賭けの景品をチラつかせてみたかもしれないが 相手の反応がなければ、それ以上追うこともせず。
(297) 2023/11/20(Mon) 14時頃
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「 何か夢でも見たかったんですか。 でもこの暑さじゃ。 内容にも期待できないでしょう。
寝るならホテルでクーラーを聞かせた シーツの上をお勧めします。 」
余計でしかない一言を残して。 ラッパを手に、背を向けると、 触れ合い公園に隣接する広場へと駆け出した。 モナリザ演奏会はまだ途中だった。
(298) 2023/11/20(Mon) 14時頃
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やがて、優秀な開発者の手により プログラムされたロボット達が奏でるのは。
優しくはない現実を、柔らかくほどき 溶かして行くような。
リスト「詩的で宗教的な調べ」より 第3曲『孤独の中の神の祝福』
音が、静かに時を刻んでいった。*
(299) 2023/11/20(Mon) 14時頃
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「 音楽科? いいえ。自慢ではないですが、 楽譜もろくに読めませんよ。 」
お兄さんにちょっかいかけた後。 自分しかいなかったはずの演奏会。 新たに加わった観客へ向けて、 非才を恥じ入るように、はにかんで見せる。 こちらは顔を覗けば、 特筆する才のないつまらない人間だ。 指揮だって当然しないし、できない。>>294
よって会話をしながらも、ゆっくりと ロボットたちの演奏に、耳を傾けられただろう。
(300) 2023/11/20(Mon) 14時頃
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「 ああ …… こんにちは。 坂理です。 ナカムラさん、でしたか。 」
声のした方向。 振り向いて確認すれば、 少しだけ驚き、ぱちりと瞬く。
そこには朝方、気の毒だと。 なんとも勝手な感想を抱いた相手が立っていた。**
(301) 2023/11/20(Mon) 14時頃
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「 ええ。 システムに指示して、選曲したのは俺ですけど。
綺麗なプログラムなので 命令は通しやすかったですよ。
よければ、中村さんも試しにどうぞ。 」
なお、この曲が終わったら、 殿がサンバを踊るようなメロディが流れる予定だ。
組んでもまだ長さの余る足。 横目に見ながら誘いに応じると、自身もベンチに座る。 こうして、顔のいい空間が完成した。
(306) 2023/11/20(Mon) 15時頃
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「 そうですね。 彼氏でしたよ。 」
寄せられた疑問符へは、 勿体ぶることもなく、頷いた。
既に卯木氏へ話している内容だ。>>1:56 高校時代を見守っていた、蜜星教諭もいる。 隠し立てする必要は失われていた。
(307) 2023/11/20(Mon) 15時頃
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「 俺もね。 中村さんに聞きたいことがあります。 」
今までの流れに沿って、 煙崎るくあとの思い出話。>>1:242。
ねだろうとした唇は、突然の裏切りを見せる。 気付けば、別の答えを求めていた。
(308) 2023/11/20(Mon) 15時頃
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「 中村さん。かっこいいですよね。 死にたくならないですか? 」
(309) 2023/11/20(Mon) 15時頃
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意に反した問い。
しかし俺程度でも考えたことがあることだ。>>1:67 ならばこれくらい、単なる世間話だろう。 判断して、そのまま答えを待つ。
耳を澄ませば、 意志を持たないロボット達による 神の祝福はまだ続いていた。*
(310) 2023/11/20(Mon) 15時頃
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苦みを顔帯びたから察するに、 快適な目覚めとは言えなかったらしい。
「 それは残念。 俺、男には片想いばかりなんですよね …… 」
幼稚園の頃の初恋然り 先程の黒須ワとの邂逅然り。
人選にお気に召さなかったらしいお兄さん。 長く話を続けるつもりはなかったが。
(315) 2023/11/20(Mon) 15時半頃
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「 …… お招き、ありがとうございます。 」
足を止める意図の感じられない、 抑揚のない一言へ。>>305 こちらも、飾りのない一文を返してから。
(316) 2023/11/20(Mon) 15時半頃
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「 望みは、叶いそうですか? 」
余分な二言目。 反応を待つことはしなかった。 そのまま人の手の入った芝生を、靴先で揺らす。
今の俺には、モナリザたちが待っているし。 元より、教えるのはひとつだけの約束だ。**
(317) 2023/11/20(Mon) 15時半頃
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── 『 お似合い。 』
快活な声に乗せられているのに、 どこか寒々しい響きに感じたのは。>>323 こちらが後ろめたさを感じているせいだろう。
死への渇望は、 あっさりと肯定された。>>324
至極当然と言った物言いは、 まるでかつての自分の願いが許されたような ──
堕ちた天使が美しく微笑むような、 そんな、都合のいい誘惑に縋らせるかの如く。
(335) 2023/11/20(Mon) 18時頃
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それすらもまた、都合のいい解釈に過ぎないが。
「 ああ。少しわかるかもしれない。 俺はね。 片想いばかりなんですよ。 」
愛を一身に受けたような才能者が。 愛を否定するその姿へ。>>325
笑みを向けた拍子に、細まった瞳が、 夏の日差しを受けてきらりと輝く光景は。 少しだけ、涙にも似ていたかもしれない。
片想い。 ならば恋人である煙崎るくあの存在は? 誰かに抱かせたのと同じ、当然の疑問だ。>>329 相手に指摘される前に。
(336) 2023/11/20(Mon) 18時頃
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「 ならある種、死は救済なのかもしれません。
だから中村さんは、 煙崎さんを殺したんですか? 」
問いをかける声の輪郭は、 自分が思ったより、柔らかいものだった。
(337) 2023/11/20(Mon) 18時頃
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蜜星教諭に行った二番煎じ。>>1:215
反応を見た時間はごく僅か。 決して長くは待たなかっただろう。 せいぜい遠くから会釈をする、 昨日ぶりのその姿に。>>312 こちらからも手を振り返す程度の間。
終わり次第。 すぐにネタバラシをするつもりだった。>>1:216
軽快なサンバには、少々似つかわしくない話題。 音楽が切り替わる前には、終わらせる算段で。**
(338) 2023/11/20(Mon) 18時頃
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「 恋もしましたし。 同じ数だけ失恋もしましたよ。 俺は神様ではないので。
届かないと知りつつ、手を伸ばす側です。 」
それなりの辛酸も苦渋も舐めたつもり。 こちらは、凡庸でつまらない人間なのだから。
「 でも、あなたは逆なんでしょうね。 」
笑みを深める瞳がゆらりと揺れて、 探るような色になる。
(350) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 届かないのをいいことに。 綺麗な幻想を積み重ねられる側。 」
ゆっくりと唇が動く。 それは、あまりにも知ったような口だったかもしれない。
(351) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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煙崎るくあを殺した犯人。
一瞬、得たかに見えた答えは、 すぐに冗談めかして返される。
別にブラフが得意なわけではない。 並んだ二つのどちらが真実かなんて。 当然、わかるわけがなかった。
なので確かな事にだけ。 自身の話題だけを摘んで、首を横に振る。
(352) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 残念ながら、俺は犯人じゃないですよ。
言ったでしょう。俺みたいな凡人では、 そんな役割は役者不足だ。
せいぜい舞台の下で、 皆さんを応援しているのがお似合いです。 」
心からそう言って。 苦く苦く、笑ってから。
(353) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 でも一人。 舞台に上がっている人なら知っていますよ。 」
(354) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 煙崎灰羅さん。 」
(355) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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煙崎るくあの兄。 この島への招待主の名。
口止めされていないのだ。 告げたところで咎められまい。
むしろ俺に話したくらいだから。 周知して欲しいと考える方が納得できる。
いっそアポロで全体公開した方が、 なんて気が利く青年だと、 彼には喜んでもらえるかもしれない。
(356) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 誰が煙崎さんを殺したのか。 俺は知らないです。
ただもし心当たりがあるのなら。 よければ、舞台に上がって下さい。 煙崎るくあを殺した犯人に対して。 それは、愛ではないかもしれませんが。 きっと。 煙崎灰羅は、──── 焦がれている。 」
(357) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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いつの間にか演奏は終わっていた。 一際伸びやかな音の後に訪れる静寂は、 本来なら余韻を楽しむ時間だけど。
「 中村さん。好きな曲はありますか。 」
話の終りを示すように、 ぱっとベンチから腰を上げると。
まだ幾分か高い日を見上げながら、 どこか楽しそうな笑みを向けて。
(358) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 よければ、リクエストどうぞ。
今日の閉園時間に流れるように モナリザ達に設定しておきますから。 」**
(359) 2023/11/20(Mon) 19時半頃
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「 月光の第3楽章ですか。
いいですね。 あの爆発するみたいな激情に。 身を委ねられれば思い出せるかもしれませんね。
自分の中にある、感情に。 」
最も、そんなものがあればの話だが。
第3楽章は速い上に転調が多く、 奏でるにはそれなりの技巧を必要とするが。 むしろ正確性を得意とするロボットの方が 向いているかもしれない。
(376) 2023/11/20(Mon) 21時半頃
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「 月繋がりなら、 ドビュッシーの月の光も好きですね。 それじゃあ、モナリザに設定しておきます。 」
ベンチを発つ足は、そのままモナリザの方向へ。 何か思い至ったのか一度止めて。 くるりと振り返れば、お互いの視線が宙で絡む。
短い息を吐く。 胸を刺す感情の色が、 憐れみなのか、祈りなのか。 自分でも決めかねたまま。
「 …… 中村さん。 」
(377) 2023/11/20(Mon) 21時半頃
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「 どうかあなたの孤独にも。 神の祝福があらんことを。 」
自分と似ているようで。 何もかもが違うその人へ。
言い終えれば、再び背を向ける。 たとえ続く言葉があったとしても。
突如周囲に鳴り響いた、 陽気なサンバが搔き消しただろう。**
(378) 2023/11/20(Mon) 21時半頃
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