10 冷たい校舎村9
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ー 黒沢と ー
.....はーい。
[黒沢は怒ってないようだったけれど 柔らかく釘を刺されたような気もするので 大人しくいいこの返事をする。
手首を差し出して検分して貰えば 若干疑わしそうだった黒沢も 納得してくれたっぽかった。
俺が自分でやってたらダメ出しくらってそうだけどね! 改めて炭蔵様々である。]
(418) 2021/06/13(Sun) 18時頃
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うん、気を付けるよー。ごめんごめん。 そのへんは大丈夫、俺 そーゆータイプじゃないから。
[さっきはあんなこと言ったけど 基本的には痛いのも苦しいのも嫌だ。
こんな状況にならなかったらきっと 手首自分で切ろうと思うことなんて なかっただろうと断言できる。
なので、普通にそう返してへらへらしてたけど。 続いた言葉にはやっぱりちょっと違和感。]
(419) 2021/06/13(Sun) 18時半頃
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......そうなんだ?
[死ぬためにやるものじゃない、 かどうかなんて考えたことなかったよ。 それこそドラマで見る印象しかなかった。
黒沢の言い方はなんか、 まるで経験したことあるみたいな。]
死ぬためじゃないなら なんのためにやんの?リスカ。
[あくまで一般論として、って顔をして俺は尋ねる。**]
(420) 2021/06/13(Sun) 18時半頃
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― 音楽室 ―
[今まで言う機会がなかったのはさ。
最初にここで会ってピアノのことを聞いたとき、 暮石があんまり触れてほしくなさそうだったから。
なんであの日ピアノを弾いてたのか、 なんで隠れてピアノを弾いてるのか、 なんで少し間を開けて来た時ほっとような顔をしたのか、 なんで気紛れに声をかけてくれたのか、 俺は事情を何も知らない。
知る必要もないと思ってた。 なにか余計な言葉を差し込むことで 穏やかな空間が壊れてしまうことを恐れた。
それくらいには俺にとっても大事な時間だったんだよ。 追い返されないことにも安堵していた。 暮石はそれを知らないだろうけれど。>>376]
(448) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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[今までたくさん、たくさん、 ひとにすかれるための「すきだよ」を振り撒いて 本当のことは隠す癖がついてた。
思ったことをそのまま伝えるの ずいぶん長いこと忘れてたんだ。
「すきだよ」と言って、 「 」と返して貰うこと、 それだけのことが俺にはひどく難しくて、だから。
その時の俺は柄にもなく緊張して、 手にじわっと汗をかいたりしながら、 でも視線をそらさずに暮石を見る。
音楽室に不揃いな音が鳴り響いたあと、>>378 彼女の顔がくしゃりと歪んで、泣くように笑った。>>379]
(449) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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[―――………]
(450) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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[暮石の声は震えていた。>>381>>383]
(451) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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―――そ、か。 そうなんだ。
[なにかずっと胸につかえていたものを 吐き出すかのように紡がれた言葉は 俺の鼓膜を震わせて、夜の空気に融ける。]
………いいね。素敵だね。
[慌ててピアノに向き直る暮石に、 ただ一言、そう零して。]
(452) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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[そうして、ピアノが再び旋律を奏で始める。>>384
聞き覚えのあるメロディーは、 確か文化祭の後の月曜日、 膝を抱えて聞いたものだった。
これはきっと、俺の為に弾いてくれている曲。 そう理解したから、 音楽室の床に座り込んで、静かに耳を傾ける。
所々つっかえながら進む曲に、 ゆったりと身体でリズムを取りながら聞き入って。 曲が終わった後、ぱちぱちと手を叩いて立ち上がった。]
(453) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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[良かったよ、っていつもみたいに言おうと思った。
でも、その前に暮石が話しだしたから。 俺はそれを黙って聞いて、 今度はさっきの暮石とは逆に 驚いて目を見開いた。>>385
どうして暮石のピアノが好きだったのか。 理屈じゃなくて、技術でもなくて。 からっぽな自分に嫌気がさした時 心を埋めて貰えるような気がしていた。
でも、それは俺が勝手に求めてるだけだから。 暮石が喜んでるだなんて 今まで考えたことは無くて……]
(454) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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[………そっか。
「嬉しい」と思ってくれるのか。 「俺で良かった」と言ってくれるのか。 俺の「すき」も、ちゃんと届くことがあるんだ。
その事実がただ胸の奥を揺らして、 今度は俺が泣きそうになってしまう。 眉を下げて、こくりと首を縦に振った。]
(455) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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……………うん。 俺も。好き。…だったよ、この時間が。
また来る。 また暮石ちゃんの演奏、聞かせて欲しい。 またこうして………
俺の為に、弾いてくれる?
[今じゃない、この先のどこかに。 もうひとつ、未来の約束を乗せる。*]
(456) 2021/06/13(Sun) 21時頃
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― 黒沢と ―
[あくまで一般論としてのリスカの話。>>422 黒沢の説明に俺はへえーって言いながら聞き入る。]
そーなんだ。なんかちょっと怖いな。 やらないと落ち着かなくなるとか、 そんな感じなのかな。
[歯止めが効かなくなる、って あながち間違いでもないのかもしれない。
睡眠薬がないと眠れなくなるとか、 アルコールがないと手が震えるとか そんな感じに近いんだろうか。 俺にはやっぱり想像するしかないんだけどさ]
(463) 2021/06/13(Sun) 22時半頃
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……でも、 身体傷付けて安心するって、 やっぱあんまりいい状態じゃないよね。
世界の主も、そうやってすり減った心に 身体の方が耐えきれなくなっちゃったのかな。
[ある日限界を越えて死んでしまった。のか。
なんにせよ隠された黒沢の跡は俺には見えないから それ以上俺が不審に感じることは無かったと思う。 暫し会話をかわしたあとは、 別れてその場を後にしたことだろう。*]
(464) 2021/06/13(Sun) 22時半頃
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― それから ―
[鳩羽と出て戻ってきた後は 毛布にくるまって比較的穏やかに時間を過ごしていた。
休憩室の炭蔵は起きていたのか 起こしてしまったのならごめんって謝って おやすみ〜って声をかけたりしただろう。>>447>>457
普段寝付きがいいはずの俺は 浅い眠りと覚醒を繰り返しながら 朝日が昇るまで毛布にくるまっていた。]
(506) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[はた、と目が覚めれば 同じ部屋で寝た筈の二人の姿はそこになかった。
目を擦って、コートを羽織って、休憩室の外に出る。 しんと静まり返った校舎。
ふと思いついて、 廊下に無数に貼り巡らされている写真から、 一枚剥がしてポケットに入れる。 最後に皆で撮った打ち上げの時のものだ。
静かな校舎内をぺたぺた歩いて、階段を上って3Fへ。 そこでふと、妙に寒いなってことに気付いた。 いつの間にか窓が開いていて、 外から雪が舞い込んでいる。]
(507) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[閉めようと窓に手をかけて、異変に気付く。 誰かが窓の外に立っている…いや、 浮いているのかなって最初は思ったんだけど。
気付けば一面雪景色みたいな 真っ白な空間の中に俺は立っていて。 すぐ近くに誰かの人影があった。
そこに居る筈なのに、よく顔は見えない。 くるくる姿形を変えるその影は 妙齢の女性のようにも、中年の男のようにも、 学生の女の子のようにも見えた。]
(508) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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『話しかけないで』
『どうしていい子に出来ないんだ』
『顔も見たくないよ』
(509) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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『―――大嫌い!!』
(510) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[ぐるぐるとどこからか響く声に、足が竦むのが分かった。 上手く息が出来なくて、はくはくと浅い呼吸を繰り返す。
何だろう、これは。 何を見ているんだろう、俺は。
今すぐ踵を返して逃げ出してしまいそうになるのを 必死に堪えて顔を上げた。口を開いた。
ちっとも笑ってない顔で あやふやな誰かに向けて、震える声を絞り出す。
――――嗚呼、そうだったね。 これが俺の痛くて苦しい、ままならない『現実』。]
(511) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[ごめんね。傷付けてごめんね。 上手く出来なくてごめんね。 自分のことで精いっぱいで、 他の人のことまで上手く 考えられなくてごめんね。
愛するのも愛を受け取るのも へたくそな俺でごめんね。]
(512) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[………でも。]
(513) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[世界の人間には二種類いて、 俺のことを好きな人とそうじゃない人。 雑にラベリングして、怖がって何もかも見ない振り。 でも、そんなに世界は単純じゃなくて。
居場所を作りたいと言ってくれた奴がいた。 俺で良かったと言ってくれた人がいた。 一緒に泣いて笑いたいと言ってくれる奴がいた。 嫌ったりしないと約束してくれた人がいた。
たくさん、たくさん、上に挙げた以外の人たちだって 自分だって悩み事だって辛いことだってあるはずなのに、 もっと前から今まで、色んな気持ちをくれていて、 俺はそれに気づかなかったね。ずっと。]
(514) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[人影を見る。 ちっとも笑ってない顔で あやふやな誰かに向けて、震える声を絞り出した。]
(515) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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………でも、 でも。
俺は好き、だった。好きだったよ。ごめんね。 好かれたかった。
……………ごめんね。
(516) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[馬鹿で怖がりで身勝手な俺だけど、 たったそれだけのこと、 言うくらいは許して貰えないかな。
こんな俺でもいいよって、 力になりたいって、話を聞きたいって、 言ってくれた奴らがいたんだ。
……だから、俺。ちゃんとやるよ。 今すぐには無理かもしれないけどさ。 ちゃんと誰かの痛みにも、向き合えるようになるよ。]
(517) 2021/06/13(Sun) 23時半頃
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[自分でも気づかないうちに いつの間にか泣いているみたいだった。 しゃくりあげながら人影に向けて、 手を伸ばせばがくんと上体が揺れた。
気付けば窓から身を乗り出すようにして立っている。 なるべく下を見ないようにして、そのまま。 一思いに地を蹴った。]
(518) 2021/06/14(Mon) 00時頃
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[朝の8時50分。 チャイムが鳴り響いた直ぐ後に。
――――――どしゃ。
どこからか鈍く、 大きな塊が落ちたような音がする。]
(519) 2021/06/14(Mon) 00時頃
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[きっと窓から外を覗きこんでも 何かを見つけることは出来ないけれど。
けれど、3Fの廊下のどこか、 何故か開け放たれた窓のすぐ近くに 手足の折れ曲がったマネキンが 雪を僅かに積もらせて倒れている。
顔の部分だけがまるで溶けたように ごっそりと抜け落ちていた。]
(520) 2021/06/14(Mon) 00時頃
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[世界の主さん。 きみの正体を、俺は少しだけ勘付いてもいるけど。 感謝も心配も何もかも、もう少し後にとっておく。
バイバイは言わない。 楽しかったよ、また後で**]
(521) 2021/06/14(Mon) 00時頃
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