10 冷たい校舎村9
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[救われた主人公芽衣ちゃんは、実は真犯人なんだけど。 わたしはそれを内緒にしている。
志望校を音大から平凡な大学に変えて、 文化祭にも積極的に参加しちゃってさ。 自転車乗れなかったのはちょっと惜しかったね。 買ってってお願いしたら、お父さんどんな顔するだろう。
文化祭、本当に楽しかったんだよ。 友達がいることの頼もしさも知った。 お母さん譲りの不器用さが玉に瑕だけど、 人にもちゃんと優しくできていると思う。
わたしは一番を手放したはず。 それなのに今でも早く帰るし、 月曜日には秘密の30分がある。 お父さんもわたしもピアノを捨てようとしない。
わたしの自由は、危うい均衡の上で成り立っている。]
(3) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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— 夜:3-9教室 —
[さっきまで笑っていた>>2:559と思ったのに、 鳩羽くんの顔はすぐに暗くなった>>2:560。]
……その気持ちは分からないでもないかな。
[わたしの場合、それは何も言わない死人の皮なんだけど。 鳩羽くんの笑顔が並べられるのはちょっと申し訳ない。 だからわたしは鳩羽くんのモヤモヤの手を、 一緒に机に並べてもらおうとした。]
(4) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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[鳩羽くん>>2:562とわたしの手は、初手尻もちから 救ってもらった時と変わらず似た大きさをしている。
わたしは指は3本白くて、 鳩羽くんの爪は僅かに赤黒い何かが残っていた。]
んー?
[これまで触れたことなかったのに、 まったくどこで聞いちゃったんだろう。 1年前まで隠しもしてなかったから、 知ってても何もおかしくないんだけどさ。
さて、どうしたものかな。間延びした声で時間を稼ぐ。]
やってたー……ね、これ。いたい?
[鳩羽くん>>2:562の話題に、わたしはへらへら笑ったまま 鳩羽くんの爪をつつこうとした。 返事は頭にひとつだけ。これで伝わる?]*
(5) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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[こっち>>2:563はちゃんと伝わったみたい。
それからどんな道を辿ったのか。 わたしたちは今朝の話にたどり着いた。]
ふふ。
[わたしのやりたかったことはずっと遠くへ行って、 残ったわたしは大抵のことがどっちでもいい。 だから相手の安心とか喜びとか、 そこに指針を定めることをわたしはこの1年で学んだ。
鳩羽くんが納得したように見えて、わたしは笑った。 わたしの目的は果たされたと思ったから。 お母さんのこと、忘れてないのも本当だけどね。 だって、悪者のお母さんはまだ消えてない。]
(6) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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[アイちゃんは違う。 だから「在り方」が変わっちゃうのはたぶんご両親。 わたしは鳩羽くん>>2:564の言葉から推測する。
そこまで分かっても、わたしはその先が想像できない。 だってわたしの家は、わたしを守る温室だったもの。 甘ったれた頭は、自分のことより周りのことを並べる。 みんな>>2:535の中に、わたしはいない。
そうしてわたしが出した結論は、 どうやら鳩羽くん>>2:566にはそぐわないらしい。]
寂しく、ないの……?
[だからわたしは鳩羽くん>>2:567>>2:568の話を聞く。 途中笑おうとした様子が見えていいんだよって 言おうとしたけれど、またモヤモヤが広がるのかな。 わたしは黙って続きを聞いた。]
(7) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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————。
[息を飲む。 ねぇ、やっぱり鳩羽くんはお日様みたいに眩しいよ。 誰かのためにちゃんと怒って、悲しんでる。 笑顔が剥がれてもくっきりと心が在る。
わたしは目を細めた。口元はそのままだったから、 笑顔としてはちょっと歪だったかもしれないけど。]
わたし、鳩羽くんのそーいうとこ、すきだよ。
[欠けたままのわたしはやっぱりどこかズレてて、 きっとどんなに頑張っても鳩羽くんみたいにはなれない。 それでもこんな風になりたいって思うくらいは 許されるでしょ。わたしはへらへらのすきを添えた。]
(8) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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ひとつひとつに役割があるんじゃないかな。
学校が楽しくて、友達がいて。 それでも代わりにはなれないから、 鳩羽くんが求めるものは、そこにしかないのかも。
[音楽を捨てたわたしが、どこか満たされないみたいに。]
だから、わたしたちは足掻くのかな。 何が正解なのか分かんないし、 何もかも思い通りに行くなんてありえなくても、
それでも、求めるものがあるから。
[わたしはそれすら諦めてしまったけれど。 でも、もういいの。わたしの細めた瞳は諦念が満ちる。 今度は口角も上げて、ちゃんと笑みの形にした。]*
(9) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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[どんなに取り繕っても他人事の拭えないわたしだけど、 ねぇ、今回だけは違うかもしれないよ。 そう思ったのは鳩羽くんに精神世界の話を聞いたから。]
……。
[わたしは久しぶりに押し黙った。]
ねぇ。ここが誰かの頭の中って、本当?
[再度、それだけ確認するように尋ねる。 でもそこまで。わたしは生きた口を閉ざす。
わたしの心みたいに薄らと、 何かの可能性が生まれたなら、きっとこの時だ。]*
(11) 2021/06/10(Thu) 00時頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/10(Thu) 00時半頃
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— 夜の3年9組 —
[わたしのとっさの一言は、鳩羽くんだけでなく 綿見さん>>2:584にも好評だったみたい。 そんな綿見さん>>2:582が先に教室を出て行って、 それから鳩羽くんとどれくらい話しただろう。
乃絵ちゃん>>2:509がやって来たのはいつだったかな。 乃絵ちゃんが「ただいま」っていうなら、 わたしは「おかえり」って返す。
ここはわたしたちの家じゃないけれど、 戻ってくる場所だからかな。 特に変な感じはしなかった。]
(44) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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こんなにすぐ会えるなら、 直接聞いた方が良かったねぇ。
[黒板に情報の寄せ書きがまた増えて、 乃絵ちゃん>>2:510がこっちを振り向く。 待ち構えていたわたしは、乃絵ちゃんのまんまるな目を ばっちり捉えられたんじゃないかな。 だからわたしはへらへら笑う。]
わたしも夜はまだなの。 何か食べに行く?
[わたしが視線を向けるのはクレープ>>2:254の文字だけど 購買でお菓子を買ってみてもいいかもしれない。 普段わたしたちが絶対やらないこと。 たとえば夜の学校でお菓子パーティー、なんて。 だからわたしは二つ目の候補として後者をあげた。 それから最後にもうひとつ。]
(45) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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あるいはお米……
[食堂にはさっき来た向井くん>>2:506が向かうらしい。 わたしは「1人で平気?」って尋ねたけれど、 それでもお米の話は聞けたかな。]
(46) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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[九重さんから炭蔵くんに>>1:585、 炭蔵くんから鳩羽くんに>>2:101、 そして鳩羽くんからわたしに>>2:569。 数名を介して九重さんの声がわたしに届いた。
伝言ゲームはどこまで情報を有していただろう。 誰かの頭の中の世界らしいってことは知った。 「生きて帰れることが多い」らしい>>2:512とは 九重さん→炭蔵くん→鳩羽くんから聞いたけれど、 あの人形を見てそうだって思えるかは怪しい。
だから九重さんを探していた様子の 向井くん>>2:505には、ただ首を横に振って答えた。]
(47) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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[わたし、九重さんが死んだと思った時 悲しんだりはしなかったけれど、 無事だといいなとは思ってる。
わたしにはどれでもいいことがたくさんあるけど、 その上で選ぶなら、相手の望むものがいい。
「生きてるか死んでるか分かんないけど、 少なくとも帰れたと思うよ」なんて言葉は、 悪路なんてものじゃないでしょう?]
(48) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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……は、まだ無理かな。 乃絵ちゃん、どうする? 何がいい?
[米びつから出したお米がほかほかじゃないことくらいは、 料理を一切しないわたしにだって分かる。
最終的に乃絵ちゃんに提示した選択肢は三つ。 食堂でクレープか、購買でお菓子(他でも可)か、 食べずに寝てえらい! か、だ。
鳩羽くんも誘ってみるけれど、 食欲のなさそうな鳩羽くんは>>2:394 その道中には加わらなかったんだっけ>>2:665。
乃絵ちゃん、クレープは一緒に行けなかったかな>>32。 教室に無事戻ってきたひとみちゃん>>2:624が 見えたらわたしは安心してへらりと笑って。
どの選択でも人の少ない方についていったはず。]*
(49) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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— 保健室 —
[更に時計が回ってみんなが布団に入り込む頃には、 わたしの瞼はすっかり重くなっていた。
わたしの夜は早い。 何年も早く起きて、朝練をしていたからだ。 その必要がなくなっても、この習慣はなかなか抜けない。 おかげで朝時間を持て余すことが多くて困っちゃう。 綿見さん>>22と同じ頃にベッドへ入って、 「おやすみぃ」って。
わたしはたぶん、誰よりも寝付きが良かったかも。]
(50) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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[夢うつつ、衣ずれの音>>2:543がする。 暗闇に開かない目の代わりに、 唸りに近い声を出して音の主を呼び止めた。
それから「どうしたの」って言ったつもり。 ちょっと滑舌悪かったかもしれないけど。
聞き覚えのある声が聞こえたけど、 睡魔に包まれた頭には詳細が聞こえなかった。 それは幸運だったのかな。気配がここから離れていく。
先入観のないわたしの耳には先の足音>>2:544が届いて、 どこか遠くに行くのかなって、思った。]*
(51) 2021/06/10(Thu) 02時半頃
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— 翌朝:教室に置かれた屋台の前で —
困った、なぁ。
[制服の右のポケットのには薄青色の小さな花のぼたん。 左のポケットには手のひらサイズのお財布。 今日は更に胸ポケットへスマホが加わっている。]
困った、なぁ。
[二度、繰り返した。]
(52) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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— 早朝:保健室 —
[鼻先が冷たくて目覚めたわたしは コートとマフラー完全装備で保健室を出た。 その時ベッドは最低でも2つは空だったはずだ。
綿見さん>>23とひとみちゃん>>2:262。 早寝組だった綿見さんはともかく、眠るのに 苦戦していた様子のひとみちゃん>>2:265は珍しい。
音は任せて。集中している時を除いてね。 昨晩聞こえたひとみちゃんの呟きに、 わたしが提供できる灯りはなかった。
だって、わたしのスマホ、 最初に見た時から机に置いたままだもの>>1:31。 こっそり声をかけようとしたけれど、保健室のベッドは 間隔が取られていて、結局眠気に負けて目を閉じた。]
(53) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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[昨日の今日だ。 欠けが1人なら心配したかもしれないけれど、 半分以上であれば、まだわたしは穏やかでいられる。
乃絵ちゃん>>29はどうしていただろう。 一番最後はわたしだったらいいな。 だってこんないつため息が降るか分からない場所に、 乃絵ちゃんを置いていくのは心配だから。
それならわたしが1人の方がいい。 平気だよ。大丈夫。だから、わたしでいいよ。]
(54) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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[ここは、誰かの頭の中らしい。]
(55) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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[根拠は九重さんだけだかららしいと言い切るのは 少し躊躇うけど、九重さんならって思えるのは 彼女が独特の雰囲気を持っているからだろうか。
——わたしには、ため息で思い浮かぶ人がいる。]
まさか、ね。
[わたしはベッドから降りた。 それに異常はため息だけじゃない。 スカートの端を持ち上げると、膝の横に 音楽室の前で座り込んだ時についた引っ掻き傷がある。 細く薄い、いずれ消えるだけの跡だ。
わたしはそれを指でなぞってから身支度を始めた。 顔を洗って……ハンカチ、ないんだった。 わたしは保健室で清潔なタオルを1枚お借りして難を 逃れる。もう少しで犬になるところだったわん。]
(56) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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[窓の外は雪模様で、廊下は確実に冷えているだろう。 わたしはベッド脇に置いていたコートとマフラーを しっかり着込んでから扉をくぐった。
だから、保健室は早い内から空になる。]
(57) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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[廊下に出ると、なぜか一方のカッターだけが全部 なくなっていて>>2:645、わたしはない方を眺めた後、 カッターの落ちている道の方を選ぶ。
だって、教室にはこっちが近いから。 今晩のためにスマホを持って来ておいた方がいい。 充電が残っている間だけだけど、 ひとみちゃんの夜を少しは守ってくれるはずだ。
わたしはどこかから遠ざかっていく。]*
(58) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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— 現在:屋台の前に戻って —
[スマホを胸ポケットに入れて、 その教室の中が視界に入ったのはたまたまだった。
うちは人通りのいい場所を確保できたけど、 中には教室の中に屋台を設置するクラスもあった。 店形式とは違う良さがあるんだろう。
文化祭当日、お店を回れた訳じゃないから どこに何があるか全部覚えている訳じゃないけれど、 質素でオカルトなデザイン>>0:565なんて、 逆に見逃す方が難しいでしょう。]
(59) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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困った、なぁ。
[三度目。 わたしは左手をポケットに入れ、お財布を揺すった。 小銭のもったりとした重さが指先に伝わる。]
……どうしよ。
[四節目にはアレンジを加え、わたしはぽつりと呟いた。]
(60) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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10円玉、足りるかな。
(61) 2021/06/10(Thu) 03時半頃
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— AM8:50までの間 —
[それからわたしはひとつひとつ教室を覗いて、 見覚えのあるケースに10円玉を1枚ずつ放り込んだ。
中身がどれだけ入っているかなんて気にしない。 だってわたし、そこまで覚えてないから。 空っぽだったとしても、 たぶんわたしは同じことをしたと思う。
なんだかお参りみたい。 そんなこと思ったら、さすがに神様に叱られちゃうかな。
わたしのお財布は少しずつ軽くなっていく。]
(62) 2021/06/10(Thu) 04時頃
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— AM8:50:渡り廊下 —
[小銭を貯め込む趣味はなかったから、 数件回っただけでわたしの10円玉は枯渇した。
わたしの目的を達成するには少しだけ足りなくて、 解決策といえば両替。つまりは購買。 レジを開けられる保証はどこにもないけど。
わたしは残り1枚になった10円と一緒に、 購買のある1階、そこから道を逸れて本家へ向かう。]
……こんなはずじゃなかったんだけど。
[柊くんへクリームパン代を返すためのお財布は やや小回りが効きにくくなってしまった。
わたしはできるだけカッターを傷つけないように しながら、上靴の厚みを信じて前へ進む。]
(63) 2021/06/10(Thu) 04時頃
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[自慢じゃないけど、わたし、球技の経験がほとんどない。 突き指なんてしない方がいいもんね。
だからわたしのコントロールが壊滅的なのは、 わたしの経験値によるものだから。 練習すればきっと上手くなるから。 あるいはこの場所は、身体が竦む気がするせいだから。
他より外に近い屋台へ放り投げたつもりの10円玉は、 なぜか渡り廊下の柱に跳ね返って床を転がる。
カッターの縁に当たって、当たって、 替え刃で軌道が変わって、]
あれ……?
[こんな小さな銀色の破片>>2、さっきまであったっけ?]
(64) 2021/06/10(Thu) 04時頃
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[三度目のチャイムが鳴る>>#1。]
(65) 2021/06/10(Thu) 04時頃
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[わたしはしゃがみこんで、慎重に10円玉を摘み上げた。 指先に怪我はない。]
……。
[すぐに立ち上がる気にはならなかった。 わたしの耳には、チャイムの余韻が残っている。]**
(66) 2021/06/10(Thu) 04時頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/10(Thu) 04時頃
夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/10(Thu) 04時半頃
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— 夜:3-9教室 —
[例えばわたしのことを噂する女の子がいたとして、 その言い方に少し棘があったとして、 その原因を作ったのはきっとわたし>>0:525だ。 だから、その子は何も悪くないんだよ。
……どこの誰だか知らないけど。]
(125) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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[今を過去に変えたわたしの言葉に鳩羽くんは黙って、 わたしも鳩羽くん>>68が手を握ったことで 爪をつつけなかった。 ぐーになった手はそのまま鳩羽くんの頬にくっつくから、 わたしは近づいた鳩羽くんの顔より 影に隠れて見えなくなった鳩羽くんの指先を見てる。
「人形」の血。鳩羽くんはそう言う。 わたしは九重さんの死体は見たけれど、 首がぱっくり空いた「人形」は言葉でしか知らない。
だからわたしの中では最初から その二つがイコールで繋がっていた。]
……。
[見えない指を追いながら、鳩羽くんは違うのかなと思う。 だってさっきまであちこち探し回ってたみたいだもんね。 声は、ひとみちゃんと歩いた3階まで届いていた。]
(126) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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……あとで洗っておいでよ。
[鳩羽くんのぐーは、わたし>>5と似た匂いがしたから わたしは鳩羽くんのおしまいに乗った。
雪夜の闇は深くて、 鳩羽くんの顔の影に隠れた指先はもう見えそうにない。 わたしは「九重さん」の血を確かめるのを諦めて、 鳩羽くんの顔を見る。
……近いな。別にいいけど。 わたしはようやく気づいて肩を跳ねさせた後、 特に気にした様子もなく距離に馴染んでいった。]*
(127) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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[それから話題が流れて、寂しさのお話。 最初の疑問は鳩羽くん>>69の語る続きに否定される。
空模様みたいだなって思った。 晴れ間もあれば、雲が多い日もある。 本当の空みたいに風で吹き飛んでくれればいいけれど、 むしろ空に浮かぶ方であれば良かったんだけど、 そこにあるのは空じゃなくて鳩羽くんの心だ。
下に潜った気がしたんだよ>>0:556。 きっと、鳩羽くんの寂しさは心に根づいている。
……のかな。全部、わたしの想像。 人間らしいなって思う。ムラがあって、波があって。 どうでもいいこと、少なそう。わたしは目を細めた。
わたしも、そうありたかったなぁ。 楽しいことばかりじゃないことを知ってても、 やっぱりいいなぁって思う。 どこかで口にした羨望>>0:628に似た響きを抱えた。]
(128) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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[分かってる。 結局わたしは、わたし以外にはなれない。 わたしはわたしを手放せない。
こんなに我が強いのに、死んだつもりだったんだって。 ちょっと、笑えちゃうね。]
(129) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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[だからわたし、そんな鳩羽くんが他人のために 怒ったり悲しんだりするとこ、すきだよ。 心が濃いところ。うん、すきだと思う。
そう思ってわたしが口にした軽い音に、 鳩羽くん>>70からツッコミが返ってきた。 ちょうどいいと思ったんだけどなあ。わたしのすき。
心に穴が空いていて、スペース自体が多くない。 だからどうでもいいことも多いけど、 わたしにだって大切にしたいものはある。
たとえば、わたしのお父さんとお母さんとか、 たとえば、わたしの少ないお友達とか、 これは最近……というか今日、新しく増えたんだけど。 たとえば、目の前の人間くさい男の子の心とか。
怪我したところに瘡蓋ができるみたいに、 わたしはの真ん中に大きな穴が空いた心には 少しずつ一番じゃないものが増えていく。]
(130) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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えぇ……じゃあ、別に……すきじゃない……。
[しぶしぶ。それはもうしぶしぶ。 お礼を言える男だった鳩羽くん>>72からの忠告に わたしは納得していない感マシマシで返事をした。
だっていいとか悪いとか、そういうのどっちでもいい。 わたしの基準はわたしが興味があるかないかでしかない。 優しくしたければ優しくするし、 そのために嘘が必要なら別にいいと思う。 わたしのものさしは正しさじゃないから。]
(131) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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え……鳩羽くんが鳩羽くんであることじゃないの?
[少しだけ話を遡るんだけど、 鳩羽くんの呟き>>71にはそんな風に答えた。 当然、みたいに。それ以外にある?
わたしはわたし。鳩羽くんは鳩羽くん。 わたしたちの心に必要なものに役割があっても、 別に自ら役割を担う必要はないんじゃないかって。 存在自体が、意味なんじゃないかって。
わたし、こういうところがダメなんだよね。 分かったつもりにはなれても寄り添えない。 共感もできない。それは音楽の役割だったから。
だから鳩羽くん>>73が頭を撫でてくれた時、 わたしの言葉でも意味を持てたのかなって思った。 わたしの頭を撫でるのはお母さん>>0:1060で、 頭を撫でてくれるのは褒めてくれる時だったから。
(132) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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[わたしは頭に乗った手を払うこともなく 懐かしむように目を閉じて、 さっきの役割の話だけど……って告げる。]
……少なくとも、今は何かになれてたよ。 ありがと。
[元気出ないのに、鳩羽くん>>73はまた笑ってる。 だからわたしが代わりに笑ってあげよう。 これは鳩羽くんがわたしに今くれたものだ。
へらっへらで、ぺらっぺらで、中身が薄くても、 無理やりな人より上手に笑える気がするから。 この瞬間、瞳の諦念は形を潜めていた。]
(133) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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[だから精神世界のことを教えてもらって、 鳩羽くん>>74が空元気みたいな声を出しても わたしは意地悪なこと>>48、言わなかった。
泣きそうな顔に見えたから、 「そうだねぇ」って優しい音だけを返す。 困ったねぇ。わたしにはどうしたら鳩羽くんが 笑えるのか、分かんないや。
だからわたしはまた笑った。 へらりと笑った。]*
(134) 2021/06/10(Thu) 14時半頃
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— 夜:3-9教室 —
[乃絵ちゃん>>100が選んだのは購買だった。 だからわたしたちは一緒に夜の廊下を歩く。 わたしはすらりと背の高い乃絵ちゃんの顔を見上げた。]
実はわたしも詳しくはないんだけどねぇ。 乃絵ちゃん、お菓子あんまり食べないの?
[お昼はいつもお弁当の乃絵ちゃん。 購買に行くのはいつもわたしだけだった。 でも帰りとか生徒会の仕事で残っている時とか、 ちょっと摘んだりしないのかな。 わたしはわたしが絶対知らない、 放課後の乃絵ちゃんについて尋ねる。]
……。
[乃絵ちゃんからはどんな返事があっただろう。 わたしはその間、乃絵ちゃんのことを見ている。]
(148) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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[少なくとも食欲はあるみたい>>95。 わたしは乃絵ちゃんの思惑には気づかないまま、 頭に引っかかった可能性>>11を振り払おうとする。
ため息が聞こえる。それだけじゃない。 そもそもこれが聞こえてるのはわたしだけかも。 校舎の情報は共有しても、カッターは見ても、 わたしは誰とも聞こえる音をしていなかった。]
雪、やまないね。
[それに、カッターと乃絵ちゃんは何も関係ない>>56。 わたしは不意に窓の外を見た。
左手首を握る乃絵ちゃん>>97を、忘れようとした。]
(149) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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[焼けたくないって言った乃絵ちゃん>>0:850を、 わたしはどれだけ信じていたんだろう。]
(150) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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[頑なに貫く長袖、左手首を掴む癖。 ずっと一緒にいなくとも、名前を呼び合う頃には さすがのわたしでもそれくらいは気づけたと思う。
でもわたしは死人のフリをしてた悪者で、 乃絵ちゃんは名前を呼ぶから友達だけど、 わたしの行動の選択肢は乃絵ちゃんが喜ぶかだった。
もし”そう”だったとして、悪いことなのかな。 辛いことではあるのかな。 でもわたしに何ができるんだろう。できたんだろう。
そう思ったら、何も言わないことが一番に思えた。 一番、乃絵ちゃんにとっていいこと。
乃絵ちゃんが望む時に話を聞いて、 時々お母さんの真似をして頭を撫でて。 わたしは友達として、 乃絵ちゃんにいっぱい優しくしたつもりだ。]
(151) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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[こんなことを考える時点で疑問は生まれてるんだけど、 じゃあ今更なんて言えばいいんだろう。 わたしは窓から乃絵ちゃんの方に視線を戻した。
「乃絵ちゃんがここを作ったの?」 ——乃絵ちゃんはきっとピンと来ない。
一緒に鳩羽くんの話を聞いたなら>>96、 乃絵ちゃんの表情は見られたかな。 その時の乃絵ちゃん、動揺したりしてなかった気がする。 ちょっと表情が暗かった気がするけれど。 思い出さないよ>>97。気のせいだよ。だって、
「乃絵ちゃん、死んじゃったの?」 ——なんて、それこそ聞けない。]
(152) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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[炭蔵くんと仮定の話をした時、 わたし>>1:529は悔しいのかなって思ってた。
でも今、その手前みたいな場所で、 わたしは怖くて立ち止まっている気がする。
もし、予想が本当だったら。 もし、乃絵ちゃんが本当に、]
……。
[九重さんの濃密な死が、わたしを臆病にしたんだ。 そう、思い込むことにした。]
(153) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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[わたしは言わない。乃絵ちゃんに言わない。 何の確証もない以上、言っていいことじゃない。 わたしは慣れない善悪で口を塞ぐ。
乃絵ちゃんだけじゃなくて……そうだよ。 こんなこと、誰にも言っちゃいけない。]*
(154) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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— 購買 —
[レジの上にはいくつかの小銭の纏まりがあって、 昼間に柊くんと来た時とあまり変わらないように見えた。 わたしは乃絵ちゃんをお菓子コーナーに案内する。]
ひとみちゃんと綿見さんにお裾分けするとしても、 1人1つくらいかなぁ。 夜だし……無闇に食べすぎないようにはしないとね。
[乃絵ちゃんと綿見さんの間に壁があることは、 わたし>>0:361、気づいてないことになっている。 多いなぁ、こういうこと。 ここに来て強く実感するようになった。
ちょっと薄暗い棚の中を物色してふと目についた袋を わたしは手に取った。乃絵ちゃんに声をかける。]
(155) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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こういうのは?
[丸いフォルム。記事はプレーンとチョコの二種類。 砂糖がたっぷりまぶされて、一口サイズの個包装。 真ん中にはぽっかり穴が空いている。
さっき鳩羽くんと話した時に似たような形>>130を 想像したせいだろうか。 わたしの手はとびきり甘いミニドーナツを選んだ。]
(156) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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昔、ドーナツの穴覗いてみたことなかった? 何が見えるんだろうって。 見えるもの、同じなんだけどね。
[もし理由を聞かれたらって焦ったのかも。 わたしは乃絵ちゃんの反応を待つ前に話を付け加える。
わたしは袋を右目の辺りに持ち上げた。 今は穴なんてないから、何も見えないんだけど。
どう? ってお菓子のチョイスを尋ねたつもりで、 わたしは乃絵ちゃんに尋ねた。]*
(157) 2021/06/10(Thu) 16時頃
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— チャイムが鳴った後:渡り廊下 — ・・ [昨日、九重さんのことがあったばかりなのに、 わたしは長々と1人で出歩いている。
最初はスマホを取りに行くだけのつもりだったから。 予定外のことではあるけれど、 わたしはそれくらいじゃ乱れない。
けれど、聞き慣れたチャイムの音には動きを止めた。 一度目は文化祭の中に迷い込んだ。 二度目は悲鳴の後、九重さんの人形が見つかった。
じゃあ、三番目は? 法則が見えずとも、 何かあるかもしれないって思うには十分でしょう。 濃密な死を、覚えている。
わたしはしゃがんだまま、 鼓膜からチャイムの音が消えるのを待った。]
(162) 2021/06/10(Thu) 16時半頃
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[名前を呼ばれたのはまだしゃがみこんでいた頃。 視線を上げると昨夜ひとりで出ていった人>>75、 向井くん>>78の姿があった。 向井くんが近づく度、わたしの首が上を向く。]
落とし物、しちゃって。
[事情を簡単に説明しながら、 わたしは不審に思われないようできるだけ自然な動作で 10円玉を右の手のひらに収めようとした。
きっとこれを握りしめたところで冷たいだけ。 ひとみちゃんが渡してくれたお守りみたいに 安心できはしないんだろうけど。 薄青色のぼたんは、右ポケットで眠っている。]
(164) 2021/06/10(Thu) 16時半頃
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……今日、も、それなんだね。
[足元の変化は平坦じゃない。 話題の逸らし先に迷って、 いつもより少し間を開けて話しかけた。 わたしは見覚えのあるラインナップ>>1:278>>15を見る。
わたしはしゃがんだまま。 別に腕を貸して欲しいって訳じゃない。
ひとりでヘーキ、でしょ。 昨日は心配もあったけど、今はそっちの方がおすすめ。
わたしは向井くんをうんと見上げてへらへら笑った。]*
(169) 2021/06/10(Thu) 16時半頃
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— 夜:3-9教室 —
待たない。
あは、……いやぁ、待つけど。 いーよ、分かったよ。 じゃ、すきじゃなくなくとくね。
[反射的に返しちゃって、あぁ、何か懐かしいなって。 わたしたちの会話、きっとこんな感じだった。
楽しいこと、いっぱいあって。 お喋りじゃないわたしが、少し賑やかになる>>0:1058。 月が輝けるのはお日様がいるからだ。
つい最近の話なのにね。 わたしは今朝の誤解を解けた時よりずっとすっきりした 気持ちで、混乱する鳩羽くんを見守っていた。]
(174) 2021/06/10(Thu) 17時半頃
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[役割とは。寂しい時。どうしようもないこと。 わたしたちが抱えているもの。
わたしたちは机ひとつを挟んでいろんな話をした。 わたしと鳩羽くんの意見が噛み合うことは多くなくて、 考えも性格も育った環境も違うことが分かる。
欠けたわたしと多すぎた鳩羽くん>>90。 お日様とお月様。 そういうことを知らなくても、 わたしたちはひとつだけ、同じものを渡せた。
——わたしたちは、 お互いの何かになれてる。>>166>>167
それならいっかって、割と無関心ゆえに楽観的な わたしは思えちゃうんだけど、鳩羽くんはどうかな。]
(175) 2021/06/10(Thu) 17時半頃
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[九重さんの無事を願う気持ちに頷いて、 ありがとうにはちょっとびっくりしちゃうかも。 でも頭を撫でてくれた時みたいな気分になって、 わたしは手の届く距離にある、 頬杖をついた鳩羽くんの腕をぽんぽんと叩こうとした。
最後にうまく笑えない鳩羽くんがくれた 「大丈夫」>>168にはちゃんと笑顔を返せたと思う。]
さて、わたしたちは購買行くね。
[そろそろいい時間。 時計を見れば教室に戻って随分経っていた。
踵を下ろすと内緒話にはちょっと足りないくらいの 近さが離れて、頭が一瞬潜る。それから浮上。 153cmに成長しました。背伸びし続けた足を揺らす。]
(176) 2021/06/10(Thu) 17時半頃
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それじゃ、おやすみ。 ……また明日ね。
[何を言おうかなって思ったけど、 わたしが渡したのは根拠のない明日だった。 わたしは3本指の先が白い右手を振る。
相手の望む方向の言葉ってだけじゃなくて、 そこには確かに、わたしの願いが含まれていた。
一度だけ振り返って鳩羽くんの席の横、窓の外を見る。 窓の外には月も太陽も見えないけど、 何だかさっきより明るくなったように感じた。]*
(177) 2021/06/10(Thu) 17時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/10(Thu) 17時半頃
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— 現在:渡り廊下 —
[わたしの首には切れ込みがないから、 男子の中でも大きい向井くん>>188の顔を見るためには 視線も駆使する必要があった。
そこまで無理して上向くの、たしかに不自然かも。 わたしの手にはマジックの途中みたいに10円玉が 握られているけど、わたしはマジシャンじゃないから 手の中ものを消し去ることなんてできない。 タネも仕掛けもございません。本当にね。]
うん、そうだねぇ。
[今日もあって良かった。明日もあるかな。 わたしたちはいつまで、ここにいるんだろう。 そんなことを考えてたら、会話途切れちゃった。
向井くん>>190も違和感を持ったみたいで、 一向に立つ気配を見せないわたしに意識が向いてる。]
(225) 2021/06/10(Thu) 20時半頃
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大丈夫。ほら、ちゃんと見つかってる。
[わたしは緩く握った右の拳を向井くんへ見えるように 振った。準備期間と変わらず、わたしの爪は短い。 どこにも傷のないわたしの手はいくら揺らしたところで 中身の音を聞かせることはできなかった。]
まぁ、チャイムの音……を、
[聞いてたから。って言おうとした言葉は、 向井くん>>190の視線に止まる。 唖然>>191って顔に書いているんじゃないかな。 それくらい、向井くんの反応は素直で、正直で、 迷子を見ているみたいな気分になった。 子どもみたいな目>>192が、こちらを見下ろしている。 わたしは見つめ返して、笑うみたいに目を細めた。]
(226) 2021/06/10(Thu) 20時半頃
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向井くん。
[わたしは両拳を膝に押しつけ立ち上がった。 それでも向井くんの目線とはまだ差があって、 残念ながらそれだけで壁になることはできない。
両手に握りしめたものをそれぞれポケットに入れる。 お財布は元の場所に。入れる暇のなかった10円玉は、 ひとみちゃんのお守りと暫く同居してもらう。 ポケットの中、少しだけ重くなった。]
むかいくん。
[わたしはもう一度名前を呼んだ。 向井くんの目が開いているなら、 わたしはそこにわたしの手のひらを翳そうとする。]
(227) 2021/06/10(Thu) 20時半頃
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ごめん、屋台見に来たわたしが悪かったね。 帰ろう。ここは、危ないよ。
[なんでには答えられないけれど、 これでどうしての答えにはなったかな。 わたしから落とした硬貨を目的と繋げることはしない。
向井くんは見なくていいよ。その方がラクでしょ。 あの日も今も変わらずに、 わたしは向井くんを真実から遠ざけようとした。]*
(228) 2021/06/10(Thu) 20時半頃
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— 昨日の夜:購買まで —
[わたしと乃絵ちゃんの会話はいつも>>0:849みたいに ぽつぽつと。もし雪が地面に落ちる音があるのなら、 聞こえたんじゃないかってくらい。
さすがにお菓子は禁止されてた訳じゃないんだけど、 混雑するお昼はご飯だけ買っちゃうことが多いし、 放課後は友達とお喋りもせずに帰るから、 そもそも手に取る機会がない。 お母さんが買ってきてくれるの食べるくらいかな。
でも、甘いのはいい。 とびきり甘いの、すきだよ>>0:595。 わたしは乃絵ちゃん>>205の話に相槌を打ちながら、 薄っぺらいすきとエピソードを返した。]
(246) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[わたしは放課後の乃絵ちゃん>>206を知らない。 わたしは乃絵ちゃんが与えてくれた乃絵ちゃんしか、 知らない。
それで良かったはずなのに、 落ち着かない気持ちになるのはなんでだろう。
わたしは窓から視線を外し、乃絵ちゃん>>208を見た。]
……ううん、なんでもない。
[ここに来てから誤魔化すの、どんどん下手になる。 平気だったため息が、わたしにもしもを突きつける。 首を傾げる乃絵ちゃんにそれしか言えなかった。]
(247) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[わたしがわたしをここの世界の主人だと思わないのは、 わたしがわたしだから>>2:171だ。
わたしよりふさわしい人を、知っているからだ。]
(248) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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早く行こ。 食べたことないの、探さなきゃ。
[でも、当の本人は至って普通で、 至って普通にわたしたちの中にいて、 わたしの想像が間違いなんじゃないかって思っちゃう。
その方がいい。その方がいいから、 わたしはラクな方に流れようとする。 わたしのラクな方へ流れようとする。
名前を呼び合うから友達なんて考えるくせに、 わたしの中にはとっくに、 乃絵ちゃんに対する意思が芽生えていた。
歩みを進めると、上靴が触れて音を立てた。 ——雪が降り続けている。]*
(251) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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— 昨日の夜:購買 —
[食べたことないのって話してたのに、 結局わたしが選んだのは穴の空いたドーナツだった。 店を物色している乃絵ちゃん>>211に袋を見せると、 どうやら初めての様子。]
すっごい甘いから、お茶があってもいいかも。 ほうじ茶も買う?
[わたしのお母さんも身体のことを考えて 食事を作ってくれてたけど、乃絵ちゃんの家ほど 厳しくはなかった。 だからたまに買ってきてくれるお菓子は市販のもので、 わたしはやっぱり甘いお菓子を好んでいたみたい。 そう大きくなってから聞いたことがある。]
(254) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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わたしも怒られたー。 でもついやりたくなって、こっそりやってたな。
[わたしのお母さんはピアノのことは鬼みたいに怖いけど、 普段は優しいお母さんだったから。 外ではダメだけど、家では多少見逃してもらってた。 だからわたしの怒られたと乃絵ちゃんの怒られたは違う。
乃絵ちゃんの呟き>>212が聞こえた。 わたしは目の前に翳したドーナツの袋をどかして、 乃絵ちゃんを見上げる。]
(255) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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[わたしは両腕に力を込めて袋を開けた。 まだ支払いはしてない。でも今必要だから。]
はい。
[わたしは個包装のドーナツをひとつ摘んで 乃絵ちゃんに差し出した。 真面目な乃絵ちゃんは受け取ってくれないかな。 もしその時は開けた袋を抱えたまま、 レジに小銭を置いてくるつもり。]
はい。
[リベンジ。 どちらかのタイミングで渡せたらいいな。
わたしも袋からミニドーナツをひとつ摘み上げる。 一口で入っちゃうくらい小さな輪っか。 透明なビニールがちょっと邪魔だけど、 わたしはそのままドーナツの穴を覗き込んだ。]
(258) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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乃絵ちゃんがいる。
[わたしは正面にいる乃絵ちゃんの顔をじっと見つめた。 ちゃんと、ここにいる。わたしにはそう見える。]
乃絵ちゃんは?
[わたしはそう言って、乃絵ちゃんに促してみよう。 乃絵ちゃんはどうするだろう。わたしは黙って見守る。]
見えてるもの、同じだねぇ。
[炭蔵くんと視界を共有した時>>1:150と同じ話をした。 でもきっとそういうことじゃないんだろうってことも ちょっとだけ、分かってきた。
さっき別れた鳩羽くん>>222の顔が浮かぶ。 違うとこ、いろいろあったもんね。 鳩羽くんの真似をするように二度、深呼吸。]
(259) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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……もし、見えるものが違うなら、いつか教えてね。 わたしが知らなくて、乃絵ちゃんが知ってること。
[聞くよ>>0:1167より近い、教えてね。 わたしはあの時みたいに頭に触れようとした。 今回はミニドーナツ付きなので少しがさがさするかも。]
ね。
[わたしからはそれだけ。話は終わりって伝えるように、 乃絵ちゃんが選んだチョコレート>>214を覗き込む。]
(260) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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冬季限定味だー。 冬季限定が終わったらどうなると思う? 春季限定が出るんだよ。
[なんて話をしながら、乃絵ちゃんが選び終えて 支払いをするまで待って、お菓子たちと一緒に 保健室へ向かおうか。
ひとみちゃんと綿見さんにもお裾分けできたらとは 思うんだけど、わたしはなんでもいいよ。 みんなの一番ラクな結果でいい。]*
(261) 2021/06/10(Thu) 21時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/10(Thu) 22時頃
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— 現在:渡り廊下 —
[向井くん>>230の疑問はわたしの後ろの変化に吸われて、 わたしの両手にあった秘密はポケットに逃げおおせた。 空いた手で向井くん>>232の視界を遮ろうとする。
向井くん>>234は昨日の朝、 教室を飛び出した時みたいに動揺している様子はない。 腕の中のご飯を大事に抱えたままだ。]
いいの。なんにも買わないから。
[向井くん>>236が歩き出せば、わたしの手は邪魔になる。 腕を下ろして、冷気から守るように両手を擦り合わせた。
渡り廊下は大した距離じゃないけれど、 同じ景色が続くとなんだかずっと同じところを 歩いているような気分だった。 目が回りそうになったわたしの口は、 また向井くんの疑問を増やすような返事をする。]
(272) 2021/06/10(Thu) 22時半頃
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[そのまま離れるはずだった場所。 向井くんが立ち止まって振り返るから、 わたしは半歩遅れて向井くんの方を向いた。]
……?
[向井くん>>239が何を言っているのか 一瞬分からなくて、わたしは首を傾げた。
精神世界の話は、昨晩鳩羽くんに教えてもらったよ。 頭の中って言われても驚かない。]
それは……そうかもしれない。
[カッターナイフがわたしたちに飛んでくる訳でもない。 九重さんの人形のことを除けば、 ため息をそう捉えなければ、 わたしたちに敵意が向いていることはなかった。 まず、わたしは向井くんの疑問に答える。]
(273) 2021/06/10(Thu) 22時半頃
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でも向井くんには危ないでしょ。 ここ、想定外がいっぱいだもん。
[それからわたしの意見を述べた。 わたしは向井くんのルールなんて知らないけど、 向井くんがそういう人だとは思っているよ。
わたしの顔は笑ってない。 でも馬鹿にしたり困ってもいなかった。 ただ当たり前みたいに、わたしは向井くんを定める。]*
(274) 2021/06/10(Thu) 22時半頃
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— 昨日の夜:購買でワルイコト —
[二本指で摘めちゃうドーナツの穴は小さく歪で、 透明な膜を挟んだ乃絵ちゃんの表情はよく見えない。 たぶんちょっと動揺してる>>281。 わたしは角度を変えたり反対の目を閉じたりしながら、 乃絵ちゃん>>282がわたしの言葉を咀嚼するのを待った。
乃絵ちゃんが驚いた顔をした時>>279、 わたしはだよねぇって思った。納得した。 乃絵ちゃんは、やっちゃダメって言われたらやらない。 いつも真面目で、しっかりしてて、冷静で。
でも、別に強い訳じゃない。
乃絵ちゃん>>283がドーナツを目元に当てる。 わたしはわたしがよく見えるように、 乃絵ちゃんへ一歩近づいた。 わたしの名前を呼ばれて、わたしはうんって頷く。 同じだねぇ。]
(304) 2021/06/10(Thu) 23時半頃
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[わたしたちはいつも一定の距離を保っていたから>>278、 わたしは乃絵ちゃんの不安を雨粒分しか分からないし、 乃絵ちゃんもわたしに何が欠けているのか知らない。
でも今、ドーナツの穴から見えるように進んだ分、 わたしは言葉を近づけた。 いつか、なんて、曖昧な言葉だけど。 乃絵ちゃん>>286頷いてくれたからいいかなって思う。]
買う前に開けてごめんなさい。
[わたしは空っぽのレジに謝っておいた。 わたしはドーナツの穴を覗くようなワルモノだけど、 家の外でこんなことするような躾は受けてません。 フツーだよ、わたし。よく人と噛み合わないけど。]
(305) 2021/06/10(Thu) 23時半頃
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[乃絵ちゃんが選んだ冬季限定のチョコとほうじ茶>>279 綿見さんとひとみちゃんの分のお茶、 それからとびきり甘いミニドーナツ(開封済み)。 他よりちょっと大きな小銭の山を作ると、 わたしたちは保健室へ戻っていく。
お菓子パーティーが実現できたかどうか、 お茶が誰の手に渡ったかは、女の子だけの秘密だ。]
(306) 2021/06/10(Thu) 23時半頃
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[いい夜だった。 ここがどこか、なんでここにいるのか、 一瞬だけでも忘れちゃうくらいに。
いい日だったと思ってる。 怖いことはあったけど、 わたしの大切なものは何も失われていない。
自ら手放した、たったひとつの愛を除いて。]*
(307) 2021/06/10(Thu) 23時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/10(Thu) 23時半頃
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— 現在:渡り廊下 —
[向井くん>>291に「変なの」って言われたから、 わたしは「フツーだよ」って返した。 フツーだよ。知られたくないこと隠すために 誤魔化してるだけだもん。みんなもやるでしょ。
わたしたちは短い道を歩いて、 また建物の中に入るはずだった。
向井くん>>292が振り返って、わたしが半歩進む。 再開されるはずだった歩みを止めたのは、たぶん わたしだ。向井くん>>293が固まって、笑う。 わたしはやっぱり笑わなかった。]
(324) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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最初に言ったのは向井くんだよ。 決まってることやるの、ラクなんでしょ。
[わたしの向井くんに対する印象は、 ほとんどがあの日>>0:478に作られたものだ。]
ラクじゃなくてもいいの、すごいんでしょ。 えらいんでしょ。
ラクかどうか、 向井くんには大切なことだって思ってたんだけど。
[向井くんはそう言ったこと>>0:798、覚えているかな。 わたしも会話の詳細はもう覚えてないから 説明はできないんだけど。 わたしは思い出の断片を拾っては向井くんへ向けた。]
(325) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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炭蔵くん? ま、役割が違うからね。 それにわたしも言われなきゃ気づかなかったと思う。 わたしは人じゃなくて、向井くんを見てただけ。
……言わなきゃ、伝わらないんだよ。
[わたしはわたしへ言い聞かせるように零した。 わたしも言葉を途切れさせれば、 向井くん>>294との間に沈黙が漂う。 そろそろ歩き出す頃合いみたいな空気が流れ出した頃、 向井くん>>295が再び口を開いた。]
(326) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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それが、一番嫌なんじゃないの?
[思わず、どうしてが口をついて出ていた。 向井くんは息がしづらいのだという。
わたしがラクを求めずただひとつに打ち込んだように、 向井くんにとっては、 それが何より優先すべきことなんじゃないのかな。
だからわたしは昨日の朝、失われる石橋を思ったし、 今こうして向井くんと話してるし、10円玉を増やした。
分かったつもりだった向井くんのことが分からなくて、 わたしは笑うことなくまた首を傾げる。
笑わないのは、心配しているからだよ。 一番大切なことができないの、苦しいでしょう。 叶えられるなら、叶えるべきだよ。 わたしは理想を向井くんへ勝手に押しつけた。]
(327) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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[向井くんが歩き出すならついていくし、 そうでないなら立ち止まったまま。どっちでもいい。 今、わたしの興味は向井くんに注がれている。]
……っ、
[すると今度はわたしの方に話題が向いて、 面食らったみたいにわたしは息を詰めた。
何が一番好きなのか。 何にでもなれるなら何になりたいか。 そういうこと言えなくなってもう1年が経つ。 その間、わたしはほとんど息してない。 だからわたしは死人だと思ってた。]
(328) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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もし、ここがずっと、このまま、なら。 ……かな。
[ここが永遠なら、 わたしが悪意のない優しさから永遠に遮断されるなら。
そんなことはありえない。 わたしはこの世界よりわたしを信じちゃう。 いつか覚めるものって考えちゃう。
このままじゃいけないって思っちゃう。 わたしの頭の中で、世界と繋がりそうになる友達がいる。
わたしは追い払うように頭を振った。]
(329) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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だから、ちょっと苦しい。
[昨晩は楽しかった。本当だよ。 だからこそ言えないことが増えて苦しい。 わたしは嫌いじゃないって言える向井くん>>295を 羨ましそうに見つめた。あの時みたいに。 今度は「いいなぁ」とは言わなかったけど。]
(330) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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[だから、かな。 思い出がちょうど近いところに辿り着いたのかも。
それとも、嘘の10円をばら撒く行為に 神様を結びつけたせい?]
(331) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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[向井くん>>297の声に、わたしは固まった。 どういう意味だろう。 何度考えても、文字通りにしか捉えられない。]
……違うって言ったら、信じてくれるの。
[わたしの声はひどく硬いものだったと思う。 偉い大人たちの悪気のない優しさを身体が覚えている。 短い爪を、手のひらに強く押しつけた。
また、わたしじゃないことがわたしになるのかな。 何を言っても信じてもらえないかも。
自分は相手をこうだって決めつけるくせに、 わたしがわたしじゃなくなることに耐えられない。 傲慢だ。でもみんなそうなんじゃないの。
向井くんへ向ける視線に、不安と敵意が混じる。]**
(332) 2021/06/11(Fri) 00時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/11(Fri) 01時頃
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— 現在:渡り廊下 —
[わたしが口にして、向井くんが立ち止まって。 だからわたしたちは廊下の端にも辿り着けない。
九重さんの死体を見た時から わたしはもう以前のわたしのままじゃいられなくなった。
今までならへらへら笑って誤魔化し続けて、 向井くんのうやむや>>351もいつか消えるものとして 廊下に置いてきぼりにしただろう。
今回だって、そのつもりだった。]
(380) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[息ができないから、死んでいるんだと思ってた。 でも結局、わたしを殺せるのはわたしだけだ。]
(381) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[向井くん>>352の眉尻が顔を覗かせると、 渡り廊下の上から笑みがなくなった。
肯定から始まった向井くんの話に、わたしは耳を傾ける。
わたしの幼子染みたどうしてに、 向井くん>>353>>355は丁寧に答えてくれた。 子どもみたいと言った誰か>>0:998に見せてあげたい。]
(382) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[言わなきゃ分からないこと。知らなきゃ気づけないこと。 わたしは向井くんのラクじゃないことに、ただ頷いた。
やっぱりわたしにはちっとも共感できなかったけれど、 教室を飛び出した背中を思い浮かべたし、 文化祭の日、とある事件に固まった姿>>1:614を思った。
言わなくてもいいよ>>356。 だってもう頭の中を巡ってる。 それをわざわざ言ったりしないから、 ちゃんと聞くから、その代わり。]
(383) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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こうやって向き合うの、新鮮だね。
[まっすぐ見つめる向井くんの目に慣れる時間を頂戴。
そういえば、準備の時>>0:472も当日>>1:613も わたしたちは隣にいることが多かったから、 こうして真正面から顔を見る機会はあまりなかったね。
思ったより吊り目なんだな、とか、 本来は眉も同じくらい吊り上がっているのかな、とか。 瞳の色も、たぶん初めて知った。
ようやくわたしは向井くんを見た、気がする。 わたしは傾げた首だけ戻し、向井くんの目を見つめた。]
(385) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[言葉を探すような向井くん>>358の声を聞きながら、 わたしは目を閉じた。 さっきの今で格好がつかないけれど、 このまま目を見て話を聞き続けたら、 どうしてか、泣いてしまいそうだったから。 ごめんね。公平なジャッジ>>358はできそうにない。]
……そう、だね。 それはわたしも、そう思う、かな。
[声が震えてしまいそうで、わたしは長く話せなかった。 だからこそ向井くんの話を遮ることなく、 次の補足>>359>>360を身に受ける。]
(387) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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あは、それは……確かにそう。
[わたしは閉じた目を開いて淡く笑ったけれど、 別に馬鹿にしたり、ふざけたりするつもりはない。 ただ、何にも分かってなかったなぁって、 わたしがわたしに思っただけ。
わたしが楽しそうって言って>>0:372。 向井くんがラクだって言った>>0:478。 わたしは勝手にそれをイコールで結んでいたけれど、 向井くんにとって別々の、どちらも大切なものなんだ。
「いいなぁ」って言ったわたしに、思っただけ。 何にも分かってなかったなぁ。]
(388) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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最後だもんね。 きっともう、同じ時間は訪れないから。
[高校三年生。わたしたちはもうすぐ卒業する。 わたしは背景ってもの>>2:380は知らないけど、 あの時>>0:481の言葉を繰り返した。
楽しかったよ、本当に。それはわたしも同じ。 そう口にしようとして、]
(389) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[せり上がってきた懺悔>>361>>362が わたしの喉を貫いた。 和らぎかけた表情が強張る。
わたしは言葉を紡げない。]
(391) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[小休止のように沈黙があって、 わたしは塞がれた喉に更に息を詰める。
1ミリも信じていない仮定の話をした。 それに向井くん>>357が言うように もうダメなくらい疲れたちゃったなら尚更、 わたしはここに永遠を願えない。
だからチャイムの音に思いを馳せ、校舎を見つめる。 きっと今日もこの中で何かが起こった。 視線を戻したわたしに降り注いだのは、 いつかのわたし>>2:599に通ずる無力感。 それから不安、それを隠すための敵意。
誰に何を思われてもいいつもりだったけど、 向井くんに信じてもらえないのは嫌だなって思った。]
(392) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[一番大切なものを失って、ぽっかり空いた穴。 この1年間、わたしが死んだフリをしている間に 気づいたら大切なものが増えていた。
身体って、こんなに重かったっけ。]
(393) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[だから、向井くん>>365が笑わずに答えをくれた時、 わたしは少し間抜けな顔をしていたと思う。 強い感情が全部ぬけたみたいな。ぽかん、って顔。
偉い大人たちとえらい向井くんは別人なんだけど、 状況とかいろんなこと、違うんだけど。
それでも、ほんの少し救われた気持ちになったんだよ。]
……じゃあ、信じて。 ここはわたしの世界じゃない。
[わたしは向井くんにちゃんと言って、伝えようとする。 言えないこと>>152は喉に詰まったままだったけど、]
向井くんの世界でもない、と思う。
[喉を貫いたわたしの罪を引き抜く勇気は出た。]
(394) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[わたしは手のひらを上に向け、向井くんの方へ倒す。 そのまま指を曲げたら、わたしの短い爪が顕になる。 向井くんの爪によく似た、噛めない深爪。]
……ピアノ、弾いてたの。昔ね。 だから長くすると落ち着かなくて。 あと、ちょっと、未練があって。
[ひとつ>>0:704。一歩下がった。]
だから、もし何にでもなれるとしたら、 もっとピアノを弾いてたかったなぁ。
[ふたつ>>0:810。もう一歩下がった。]
(395) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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[それから、右ポケットに手を入れる。 最初に触ったのは小さな硬いもの。 人差し指で引き寄せて、柔らかくぎゅって握った。
引き抜いた拳に握られているものはさっきと違う。 10円玉がいつもよりずっと重く感じられた。 わたしは折り畳んでいた指をひとつひとつ解いて、 今度はちゃんと向井くんの目に映るようにする。]
——10円、足りなかったの。
(396) 2021/06/11(Fri) 09時半頃
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あの日、全部が終わって確認しようと思って。 数えたら、10円だけどこにも見つからなかった。
だから、わたしが、足したの。 わたしのお財布から10円、誰にも言わずに。
[証拠晒したまま、わたしは屋台を振り返る。]
ここが誰かの世界なら わたししか知らないことは含まれないと思って、 全部に10円入れておこうと思ったの。
何の意味もないんだけど、なんか欠けちゃう気がして。 あの時ちゃんと揃ってたものが、ダメになる気がして。
……まぁ、ダメなのは元からだったけど。
[たらればがいくら浮かんでも、わたしは過去に戻れない。 だからわたしができるのはこれくらい。]
(397) 2021/06/11(Fri) 10時頃
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向井くんは、何も悪くないよ。 間違ってなかった。
わたしだよ。わたしが、乱したの。
[みっつの秘密を打ち明けながら後ろへ足を運んだ。 カッターが音を立てても、わたしは歩みを止めない。]
えらいね……はわたしが言えることじゃないから、
[そう時間もかからずに踵が小階段へ当たる。 願うなら、先に校舎前についたのはわたしだといい。]
(398) 2021/06/11(Fri) 10時頃
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かっこいいね、向井くん。
[もう、屋台を巡る必要はない。 バレちゃったから。必要なかったから。 最後の10円玉はわたしの手の中だ。]
嘘ついてごめん。乱しちゃってごめん。 気づかなくて、ゴメン。
楽しいって胸を張ってて。いっぱいそうして。 向井くんは、ちゃんとできてたよ。
[わたしはちゃんと笑えてた。 何ひとつ嘘は言ってないもの。胸を張れる。]
(399) 2021/06/11(Fri) 10時頃
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[いろんなものが崩れる前にわたしは階段に足をかけた。 身体を反転させてると、校舎へ飲み込まれていく。]**
(400) 2021/06/11(Fri) 10時頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/11(Fri) 10時頃
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— AM8:50過ぎ:渡り廊下 —
[ただ、へらへら笑って表面を撫でて、 返事に詰まるような話を振らず、 一定の距離を保つのがお互いのためだって、 何よりわたしを守ることに繋がると、わたしは信じてた。
机とかメニューボードとか、そういうものを何も挟まず、 わたしは向井くんの知らない向井くんの顔を見る。]
そう。ちっちゃいの、わたし。
[向井くん>>453がどんなことを思っているか、なんて 分からないから、わたしが拳を握ることはない。 もし言われたとしても、「なぁに、それ」と言って また目を細めちゃうだけだと思う。
言われなくても伝わるものがあったとしても、ね。 わたしは向井くんの感想に同意する。]
(581) 2021/06/11(Fri) 21時半頃
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向井くんは思った通り大きいよ。
[わたしが向井くんのこと、覚えているのはなんだろう。 知った気になった部分>>0:997は別として、 最初に思い浮かぶのはやっぱり向井くんの声だ。
全容を覚えていないのにわたしが昔の話ができるのは、 音ごと、どこかにしまっているからなのかもしれない。
ボールを転がすような会話の穏やかな声、 疑問が口から出ちゃった時のちょっと子どもっぽい声。 文化祭の時の楽しそうな笑い声や、予算に関する悲鳴。
顔はよく見ていなくとも、 わたしの音には向井くんがちゃんといた。 横からだとこっちを見るまで分からなかった表情が 真正面だとよく見えるから、わたしは首と目でを使って 向井くんの顔を見上げた。]
(582) 2021/06/11(Fri) 21時半頃
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[だから何だという訳でもないんだけど。 わたしはすぐに目を閉じてしまったから、 向井くん>>455がどんな表情をしているのか、 結局分からないままだった。]
嫌いじゃない、し、 ・・・・・・わたしはたぶんすき、なんだよ。
[両手でまぶたをぐりぐり。 目を開けると潤んだ形跡はほとんどなくなった。
きっとわたしと向井くんやみんなとでは、 今見えているものが違うのかも。
みんなが話すのはきっとここにいる誰かのことで、 わたしが思うのはあの子が誰かでなければいいのに、だ。 ドーナツの穴を覗いても同じ物しか見えないのにね。
わたしは「嫌いじゃない」を教えてくれた向井くんに 一欠片だけ、わたしの話を返した。]
(583) 2021/06/11(Fri) 21時半頃
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自分がやれることをやるしかないんじゃない。 どうして欲しいかなんて、分かんないし。 じゃあ、ものさしは自分の手元にあるんだよ。
[呟き>>456だって、わたしの耳は逃さない。 どうすれば、にきっと正解なんてない。 だったらわたしができるのは、 わたしがわたしであることだけ。
向井くんは? 呟きである以上、話を広げることはないけれど。 わたしはそう返すしかない。それしか持ってないから。
わたしが淡く笑うと、 向井くん>>457の眉が吊り気味の目に寄り添う。 向井くんが嫌がってないことだけ、分かった。]
(584) 2021/06/11(Fri) 21時半頃
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[それから沈黙を経て。 罪が喉を貫いて、息を詰めた>>458後のわたしは、 向井くんにみっつの秘密を渡す。
自分が知っているからって唐突に始めた話も、 向井くん>>460は黙って話を聞いていた。 唐突なこと、理由のない信頼に驚いたかもしれないけど、 あるいは固まって置いていったかな>>459。
どちらにせよ好都合だった。 わたしは後ろ足で道をかき分ける。]
(585) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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[心臓がこれまでにない音を立てていた。]
(586) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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[10円の話をした。
それを聞いて向井くん>>461の表情が安堵を滲ませても、 わたしは下がる足を止めない。 いつものゆったりしたペースの順番は破られて、 わたしだけが言葉を連ねる。
その間に踵が終着点に着いて、あとは向井くんも ご存知の通り。わたしは小階段に足をかけた。]
——っ!
[ちょっと似たようなこと、今朝あったよね>>0:106。 わたしの腕に向井くん>>462の手が触れて、 助走をつけられなかったわたしの身体は簡単に傾ぐ。
積もりたての雪は大丈夫だったけど、 ここはさすがに危ないなぁ。]
(587) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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[わたしは うわがきのそこ しんじてる。 ちょっとだけ強く床についた右足は、じんとした痺れで わたしの動きを封じ込める。
だからね、ちゃんと聞こえたよ>>463。 わたしはやっぱり大きい向井くんを見上げる。 ぽんぽんって向井くんの手の甲を叩いたら、 もう置いていかないこと、伝わるかな。 ・・ 袖から覗く向井くんの腕は、わたしと同じで 傷ひとつない。カッターと結びつかない肌。 可能性をひとつ抱えたわたしには、 向井くんが主でない理由なんてそれくらいでいい。]
(588) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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・・・・・・うん、ありがとう。
[向井くんの口から出てきたのは予想外の言葉。 わたしが握っていた手を開くと、再び10円が顔を出す。 向井くんが言っているのはオリジナルのことだろう。
だからわたしはもうお礼しか言えなかったから、 かっこいいを撤回する暇はなかった。ってことにしよ。]
(589) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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じゃあ、今度、駄菓子でも買いに行こっか。
[実際は11円なんだっけ。 それくらいはこっそり誤魔化しちゃうことにして、 ふたりしか知らない間違いを内緒で精算しちゃおっか。
既に入れてしまった10円数枚は、ここの主にあげる。 ここが頭の中なら、現実では手に入らないのかも しれないけど、その時は普通に買い物したっていい。
わたしの予想が本当なら、その子は 駄菓子も食べたことないんじゃないかなって思うから。]
10円のやつなら、2つ、買えるでしょ。
[半分こしよう。そう言ってわたしはやっぱり笑っていた。 爆音を奏でる心臓に、たまに目尻が震えるとしても。]
(590) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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[先頭を譲った言葉たちはどうしていただろう。 もし言えなかったら、頭の中、預かってて。 それが苦しくなったなら捨ててもいいよ。
わたしは向井くんの手をゆっくりと下させようとした。]
今度ね。
[わたしは向井くんへ言い聞かせるように繰り返す。 今度はちゃんと階段を上がれたかな。 視線の高さが同じかわたしの方が高くなった最上段で わたしは向井くんに手を振った。
今はばいばい。またね。 今度こそ、わたしは校舎の中に入っていく。]*
(591) 2021/06/11(Fri) 22時頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/11(Fri) 22時頃
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[暮石芽衣の作り方
一、とびきり凝り性の子どもを用意します。
二、夢中になれる目標を授けます。 この時、同じかそれ以上に目標を追い求める 相手が身近にいるといいでしょう。 両親のどちらかなんておすすめです。 もう1人の両親は控えめな性格にしましょう。
三、あとはのんびり待つだけです。 偏執的な愛を注ぐ子どもがすくすく育ちます。]
(672) 2021/06/11(Fri) 23時半頃
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[暮石芽衣の誤算
一、母が突然亡くなってしまったこと。
二、己の偏執さを鑑みなかったこと。 周囲の理解を全く得られなかったこと。 理解を得る努力を一切してこなかったこと。 周囲が力ある大人たちだったこと。
三、このまま抗い続けたら、 お母さんが悪者にされ続けること。 お父さんが疲れ果てて 死んでしまいそうだと思ったこと。]
(673) 2021/06/11(Fri) 23時半頃
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[暮石芽衣を構成するもの
夢:わたしが世界で一番愛したわたしの音楽。
心:真ん中にあった夢が抜け落ちて、 周りに大切なものが少しだけ残っている。
頭:興味があるかないか。すきかきらいか。 どっちでもいい。どっちかしか選べない。
皮:息ができなくなって被った死人の皮。 他人事。黙秘。未踏。無関心。気づかないフリ。
今:わたしは死んでない。剥がれた皮をびりびりに破いたら、 これまで見ようとしなかったものがたくさん見えた。
友:必要ないと思っていたもの。 気づかない内に大切な相手が増えていた場所。
私:わたしはわたしにしかなれない。]
(675) 2021/06/11(Fri) 23時半頃
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