15 青き星のスペランツァ
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― 平原 ―
……そりゃ、ありがたいな。
["失う訳には行かない"。>>3:173 通信機越しの声は、至って真面目な調子に聞こえて。だからこそ、余計に目を合わせられない。自分でも子供じみているとは思う。]
へいへい、帰りましょ。
[ケトゥートゥの名前が出て>>3:174、彼にも心配をかけてしまったか、と少し増える罪悪感。 大の男が二人(片方は今はポッドに収まる液体のすがただが)、小柄なケトゥートゥに怒られる図というのは、なかなかいい見世物になりそうだ……と先を思いやった、その時だった。]
(4) 2021/11/13(Sat) 01時頃
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――ッ
[『マーレ10』の探索において初めて聞く、明確に助けを求める声。 しかもそれは、]
キランディ……!?
[空を飛べるキランディが、助けを必要とする事態なんてそうそうあるだろうか、と一瞬よぎるも。続いて何度も叫ばれるひとつの名前に、血の気が引く感覚。]
ハロ、……
(5) 2021/11/13(Sat) 01時頃
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[二人の座標を確認しようとして、通信機から届く声。>>0 こういった情報はアリババの方が早い。判断も。 ならば何か考えるよりも、彼の言う"マップの地点"まで走るのが先だ。]
了解、こっちはこっちの最短距離で向かう。
[指示されたマップの地点を目的地に定め、二足歩行探査機が砂埃を上げて走り出す。 揺れるドームの中で、取り乱したキランディの叫びが意味をなさない音になっていく>>3:166のを、ただ聞いていた。]
(6) 2021/11/13(Sat) 01時頃
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― "海" ―
[ライジの探査機が到着したのは、アリババより少し遅れてのことだった。 着陸しているマルチコプターの周囲を回り、減速して停止する。]
……。
[採集用ポッドの中でゴボゴボ言っているアリババ>>2を見て、それからキランディの姿>>3を見つける。押している巨大な岩も。周囲にハロの姿はない。 何があったのか、察するには十分すぎる状況だ。]
(11) 2021/11/13(Sat) 01時頃
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……了解。
[自分のせいだと呟くキランディ>>10と、そうじゃないと否定するアリババ>>14のやり取りは、意識して耳に入れないようにする。ただ指示されたこと>>15にだけ頷いて、探査機から降りる。
岩にワイヤーを括り付ける間は無言だった。 その下にいるらしいハロのことも、考えないように。
できるだけ手早く、かつ途中で外れたりしないようしっかりとワイヤーを取り付けて、自分も岩から離れる。]
……終わった。やってくれ。
(16) 2021/11/13(Sat) 02時頃
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[上方のアリババに向けてそう合図を送ってから。 頼む、と言われたキランディに向き直った。]
キランディ。 引っ張り上げる時に別の落石があるかもしれない。 危ないから、終わるまでおれの探査機で待機していてくれ。
[探査機のドームは頑丈だ。万が一岩が落ちてきても操縦席は高確率で無事だし、自分が中にいればドームを開けて出ていくこともさせない。 でかい男(少なくとも体格は男だ)二人は多少手狭だが、暫く我慢してもらうしかない。
さて、素直に言うことを聞いてくれるだろうか。**]
(17) 2021/11/13(Sat) 02時頃
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― 海 ―
[特に抵抗もなく、大人しく探査機に乗ってくれたことにひとまず安堵した。が、吊り上げられていく岩と、その下にあるもの――あるいは、その間で糸を引く何か――が視界に入れば、危惧していた通り、キランディは外に飛び出していこうとする。>>18]
……、
[かける言葉は見つからず、ただ折れていない方の腕を掴み、鋼鉄の腕を回して抑え込む。ドームはこちらでロックしているので開けられはしないが、抑えておかないと強化ガラスに体当たりでもしかねない勢いだ。]
(29) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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[けれど、何事か呟いていたキランディの体からはやがて力が抜けてしまった。>>24 やりすぎたか、と慌てて顔を見るが、どうやら気を失っている様子。呼吸は一応あることを確認して、ほっと胸をなでおろす。 呟きの意味はわからなかった。聞き取れた"死神"という言葉は、気にはなったけれど。ひとつだけわかったのは、キランディも何かを喪ったことがあり――それを自分のせいだと、悔いているということ。]
……アリババ、キランディが気絶した。 腕のこともあるし、このまま中で休ませておく。
[機体の操作に集中しているだろうアリババに一応そう報告し、キランディの体を抱える。 驚くほど軽い体に不安を覚えながら、仮眠用の毛布を広げてその上に寝かせた。毛玉だらけでちょっと臭うが、意識がないなら文句も出ないだろう。長い翼と足を伸ばすほど広くはないので少し丸まってもらった。]
(30) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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[そうして、岩を撤去し終えたアリババの方>>19を見る。 彼はそこから動くことはできない。今この場で動けるのは自分だけだ。]
…………。
[ドームを開けて、外に出る。常とは違い、しっかり閉めてロックをかけてから、地面に飛び降りた。
岩のあった場所に、近付いていく。]
(31) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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……ハロ、……
[見覚えのある色と、見たくもない色が、混ざり合ってそこにある。 キランディからの救難信号はクルー全員に届いているはず。きっとそれぞれがハロの身を案じ、あるいはまだ間に合うと信じて動いている者>>20もいるかもしれない。けれど、
――無理だ。
そこにあるものを。 "本当の本当"を。>>2:69 もう直視してしまった。
岩をどけなければ、ハロは行方不明ということになっただろうか。 ちょっとどこかに行ってしまったけれど、そのうち気まぐれに帰ってくるかもしれない、なんて思えただろうか。
そんなことはありえない。 ハロの身に起こったことは、あの映像と、音声と、通信途絶が示す通りだ。>>156]
(32) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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……連れて帰って、やらないとな。
[口に出した声が震えているのを自覚する。 何度も唾を呑み下しながら、散らばる欠片のひとつを拾い上げようとする。 しっかりと見なければ掴むことはできない。それでも視線が定まり切らない。見たくない、と訴えるように。]
……ッ
[耐え切れず背けた視界の端に、青い色>>26が映る。 そこには、浮遊する青い球体の姿があった。**]
(33) 2021/11/13(Sat) 12時半頃
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― 三日目・海 ―
[駆けつけたチキュウと共に、ハロの体を回収して密閉容器に入れていく。 壊れた発信機も、反重力パンの欠片も。 直接回収する作業の大部分はチキュウに任せたかもしれない、よく覚えていない。正直、吐き気を堪えるので精一杯だった。
探索が始まる前、談話室でぶつかった軽い感触>>0:98が胸の辺りに残っている。 一度だけ手を止めて、衝突した辺りに少し触れて。
その後は、もう何も考えないようにしたと思う。]
(34) 2021/11/13(Sat) 16時頃
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[回収を終えた容器をアリババに託して、ごつごつした岩場を穏やかな波が洗う、"海"の岸辺にしゃがみ込んだ。 その拍子に長靴の先が小さな石ころを蹴飛ばして、高い音を立てて転がっていく。
ころころ、ぽちゃん。
跳ね返って"海"に落ちた石ころが、小さな飛沫を上げた。 何とはなしに、ぼんやりと水面を覗き込む。 丸い石が沈んでいく。
その輪郭が、深い青に溶けて、やがて、見えなくなる。]
(35) 2021/11/13(Sat) 16時頃
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…………。
[深い水の底とは、一体どんな景色だろう。>>3:120 光はどこまで届くのだろう。
どこまでいけば、]
(36) 2021/11/13(Sat) 16時頃
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……――、
[暫くの間、男はぼうっと水面を見下ろしていて。 声をかけられるか、マルチコプターの駆動音でも聞こえれば、は。と我に返って帰投の準備をするだろう。 キランディの手当もある。早く戻らなければならない。]
(37) 2021/11/13(Sat) 16時頃
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― 三日目・タラップ ―
[それから、もう日も暮れた頃かもしれない。 オレンジ色の二足歩行探査機が、がしょんがしょんと『スペランツァ』に戻ってくる。怪我人を乗せているため、極力揺れないようにゆっくり歩いてきたのだ。気をつけたところで揺れるものは揺れるのだが。]
……。
[空を見上げる。 アリババの操るマルチコプターはきっと、回収したハロと共に先に戻ってきているだろう。]
(38) 2021/11/13(Sat) 16時頃
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[通信機をオンにして、タプル宛に通信を送る。]
……タプル。 キランディが怪我をしてる。 処置室に連れて行くから、診てやってくれ。
[それだけ伝えて、キランディを連れて探査機を降りる。 まだ意識がないなら抱えて、歩けそうなら肩を貸して、処置室へ向かった。**]
(39) 2021/11/13(Sat) 16時頃
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─ 三日目・日没後 船内通路 ─
[格納庫からの帰り道。 泥を洗い流す作業も終えて、コーヒーでも飲むかとロビーに向かっていたところに、聞き慣れた挨拶の声>>40がかかった。下を向いていた視線が僅かに上がる。]
……ケトゥートゥ。 あー……、ただいま。
[この挨拶をする時のケトゥートゥは、いつも笑顔だ。 今も……口元は笑っている。ように見える。口調も穏やか。特に剣呑な雰囲気はない。そう思う、のだが。 何故か目を合わせられず、視線が壁際に逃げた。]
(41) 2021/11/13(Sat) 17時頃
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― 三日目・処置室へ ―
右腕が折れてる。 なるべく動かさないようには気をつけた。 あとは、頭にも少し傷がある。こっちはそんなに深い傷じゃあないが……
[タプルからの質問>>42に答えつつ、通信で伝えられる処置は、可能な限り行う。]
……怪我人は他にはいない。
[短く答えて、少しの間。 わかってる、タプルが聞きたいのはそういうことじゃない。告げなければならない。望まれた答えでなくとも。]
ハロは、 ……間に合わなかった。 アリババが連れて帰ってくれてる。とにかく今は、キランディを頼む。
[後で会いに行ってやってくれ。とは、言えなかった。 迎えの担架がやってくれば、そちらにキランディを託して、タラップに置いてきた探査機をとりに戻るだろう。*]
(44) 2021/11/13(Sat) 17時半頃
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─ 三日目・日没後 船内通路 ─
[怒ってない、と言われれば、やっと視線を相手の顔に向けた。なんだかしょぼくれた大型犬のような目をしている。]
おれも、帰ってきたら色々言われると思ってたんだが。
[気まずそうに頭を掻く、その手はグローブをしていない。 "海"での作業で色々な付着物があったので外したのだ。もしかしたら何かの解析に必要で、どこかで調べられているかもしれないが、ともかく、手元にはない。 冷たい金属の義手が剥き出しになっている。]
……ん。 外の方がいいか?
[提案には素直に頷く。 二人だけがいいのだろうことは流石に察した。 タラップの近くか、それとももう少し船から離れたところか。]
いいぜ。おまえの好きな場所で。*
(45) 2021/11/13(Sat) 17時半頃
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[『キジン』はかつて、金の砂漠が広がる美しい星だった。
そこに住む人々は皆若く、無垢で、金色の瞳をしていた。 歳をとらず、飲食を必要とせず、疑いも争いも知らず、ただ穏やかに時を過ごす種族だった。 命が尽きる時、その体は細かい金の砂粒に変わり、砂漠の一部となる。 それが『キジン』の民の"死"だった。
辺境に位置していたため誰にも知られることなく、ひっそりと存在していた『キジン』に、ある時小さな宇宙船が流れ着いた。
地球を離れて様々な星に散らばり、もはや故郷も忘れ果てた移民達。その中にあって秩序に馴染むことができず放浪していた、略奪者達を乗せた船が。]
(53) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[船から降りた人々は、広がる金の砂漠に価値を見出した。 この星は金になる。 彼等は星の場所を隠し、『キジン』の砂を売り始めた。
悪意というものを知らぬ『キジン』の民は、代表者を出して略奪者達の元を訪れた。 "砂は先祖の骸であり、我々の一部であるから、持っていかないで欲しい。" そう懇願したものの言葉も理屈も通じるはずもなく。 交渉に向かった数人が戻ることはなかった。
そして、略奪者達は"『キジン』の現地種族は金になる"という事実を知った。]
(54) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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[それから数世代。 砂漠の金砂は掘り尽くされ、『キジン』の地は大きく様相を変えた。
流れ着いた移民を祖とする人々は"採掘"として現地種族狩りを平然と行い、天敵がいなかったため身を守る術を持たない『キジン』の民はあっという間に数を減らした。
もう獲物がいないと判断された土地は放棄された。 人々は小さなキャラバンのような集団に分かれ、僅かな砂金を巡って争うようになった。
ライジ・チリガネはそんな集団のひとつで生まれた、略奪者達の末裔だ。*]
(56) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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― 三日目・日没後 船外 ―
[長靴を引きずるように、小さな背中を追う。 あんまり思い出して欲しくないなあ>>49、なんて思いながら。
タラップを降りて外に出ると、辺りはもうすっかり暗い。『スペランツァ』以外に人工の明かりはなく、星がよく見えた。 ケトゥートゥの隣に座る。横目で表情を窺うが、暗くてはっきりとはわからなかった。]
……。
[泣かない理由。 古株だからとか、年長者だからとか、適当な理由を挙げることもできるが。なんとなくバレる気がした。]
(57) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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泣くってのは、悲しい気持ちを外に出すことだ。 多分、そうしたら少しだけ楽になる。
[大声で泣くこと>>1:12も。涙を零すこと>>1:23も。背負い切れない悲しみを外に出して、時には誰かと共有して、少し荷を軽くすることだと男は思う。]
……おれは自分のことを、楽になっちゃいけない人間だと思ってる。 昔の仲間を置き去りにして、逃げたことがある。"助けてくれ"って声を無視して、ひとりで逃げちまった。 ひどいやつだろ。
[星を見上げたまま。だから泣かない、そんな資格はないのだと、そう答える。]
別に悲しんでないわけじゃないぜ。
[付け足した言葉も、ケトゥートゥにはきっとわかっていると思う。そうでなければこんな場所に呼び出して、こんな問いかけはしてこないだろう。 それでもつい口にしてしまったのは、表立って悲しさを表せないことに、どこか罪悪感を覚えているからかもしれない。*]
(58) 2021/11/13(Sat) 20時頃
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― 三日目・日没後 船外 ―
[わかる気がする、という言葉に、僅かに目を見開いて弟分を見る。]
……そうだな、そう言ってくれる気持ちはありがたいが。 そうなっちまうな。
[もしもそう言われたとして、それは自分を気遣う言葉であることはきっと、間違いないから。 けれど、素直に受け取って、自分を許せるかどうかは別の問題だ。だから、ケトゥートゥの問いかけ>>64は正しい。
誰にそう言われても、きっと許せる日は来ない。 あの時見捨てた仲間も、故郷も、もうない。 取り返しは二度とつかない。]
(74) 2021/11/13(Sat) 23時半頃
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……そっか。
[ハロの身に起きたことはもう知っているはずなのに、あの大きな泣き声は聞こえてこなかった。今も、ケトゥートゥは泣いてはいない。彼の、いつもの弔い方ではない。 そこにどんな後悔があってそうしているのかは、わからないけれど。]
それなら、おれの分まで、あいつの元気な姿を覚えておいてくれ。
[自分はもう、無惨な最期を見て、触れてしまった。 ハロが無邪気にくるくる回る姿を思い浮かべても、どうしても、あの光景が、感触が、ちらついてしまう。 だから代わりに、覚えておいてくれればと思う。>>65]
(75) 2021/11/13(Sat) 23時半頃
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[つらい。苦しい。 それを言葉にすることは、今までしてこなかった。それも、無意識に許されないことだと思っていたのだろう。そんなことを零す資格もないと。]
ケトゥートゥ、
[言葉が詰まる。喉の奥が圧されるような感覚がある。 きっと、ずっと誰かにそう言って欲しくて。>>66 そう、言ってしまいたかった。]
……ああ、 そうだな、……くるしい、な。
[呟いた声は、掠れてほとんど息のようで。 ケトゥートゥの頭に手を伸ばす。普段の気遣いの足りない雑さではなく、余裕のない、どこか縋るような手つきで、その髪を撫でた。*]
(76) 2021/11/13(Sat) 23時半頃
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[『キジン』でのライジの仕事は、持ち込まれた砂金を選別し、量り、袋に詰め、輸出用の船に積み込むことだった。 オレンジ色の二足歩行機も、その頃はまだ開発されたばかりの新型運搬機だった。
仕事に疑問は持たなかった。 運ばれてくる砂金の山――時には手足や顔のような輪郭の残った状態のそれらを、ただそういうものだと思って処理していた。
きっとそれが、そもそもの間違いだったのだ。]
(83) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[『キジン』の民の最後の一人が死んだ時、ライジもその場にいた。 生きている姿を見たのは初めてだった。 金の瞳、金の唇。 それは美しい女のかたちをしていた。
捕らえられた女の頭に、スコップが振り下ろされて。
人の形がさらさらと崩れて、眩むような輝きの粒になる。 見慣れた金色の砂に変わりながら、その唇がかすかに動いた。]
" "
[何を言ったのか、その場にいた誰一人としてわからなかったが。 その響き、表情には。 それまで『キジン』の民が持たなかった怨嗟があった。]
(85) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[『キジン』の民は滅びる前に、故郷を荒らし、全てを奪い尽くした者達に呪いを遺した。 自分達と同じような体となる呪い。 歳をとらず、死ねば体が砂金となる呪い。
呪いは瞬く間に星中を覆い尽くした。 あちこちで殺し合いが起きた。
『キジン』において、もはや人は人ではなくなった。]
(86) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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[ライジはひとりで逃げ出した。 オレンジ色の二足歩行機に飛び乗って。 助けを求める仲間を置いて。 左腕をなくしたのはその時だ。撃たれてちぎれ落ちた腕は、仲間と同じように崩れた。
そこからどうやって脱出したのか、よく覚えていない。 ただ、もはや追ってくる者はいなかった。 誰もが"最後の一人"になろうとしていた。
そして、全員が崩れて砂金になった。
調査船『スペランツァ』に拾われたのは、その後のこと。]
(87) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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― 三日目・日没後 船外 ―
[僅かに煌めく、青灰色の瞳と目が合った。>>78 今度は目を逸らさない。見つめ返す細く黒い瞳には、星の光も船の灯りもほとんど入らない。]
"海"か。 ……そうだな、おまえも見ておくといい。 綺麗だったぜ。
[実際、風景を楽しむどころではなかったのだが。 ハロの回収を終えて、半ば呆然としている時に見た水面は、確かに美しかった。]
…………。
[青灰色の光が消えて。自分も目を閉じる。 ゆっくりと何度か、鋼の色をした髪を梳くようにしてから、手が離れる。金属の指先では、やはり髪の柔らかさも何も感じられなかったけれど。今はこれが自分の手なのだから、一度は直接触れておきたかった。]
(88) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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……あー、
[調査船に乗っている理由。>>79 それは、きっかけという意味なら、単純に拾われたからだ。他に行く宛もなかった自分を、相棒の二足歩行機ごと迎え入れてくれたからだ。 今も『スペランツァ』に乗り続けている理由は、]
この船には、色んな星から来たクルーが乗ってるよな。 生まれも育ちも考え方も、みんな違う。でも、うまくやってる。 おれは、……おれの、生まれた星は。そうじゃなかったから。
[故郷、と口に出そうとして、言い淀む。 間違いなく生まれ故郷ではある。けれど、自分があの星をそう呼ぶのは、違うような気がしていた。>>56]
姿かたちも文化も違う奴らが同じ船で暮らしてるっていうのがさ。 多分、おれにとってはわりと希望なんじゃねえかな。
[背後を振り仰ぐ。 星空に黒々と聳える『スペランツァ』のシルエットを見上げて、だから乗ってる。と答えた。 ――希望、あるいは憧れ。そして、後悔でもある。*]
(89) 2021/11/14(Sun) 01時半頃
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― 三日目・夜/タラップ付近 ―
[長靴を引きずるようにして、タラップを登ってくる影。 細い目をした仏頂面には、多少疲れが見えるかもしれないが、普段とそう変わらないと言えばそうでもある。 タラップの上に伸びる特徴的な影>>101に気付いて、視線を上げる。]
……キランディ。 具合はもういいのか?
[その右腕を見ながら声をかけた。 男の様子は普段通りと言えばそうだが、比較的新顔のキランディは、グローブをしていない剥き出しの義手を見たのはもしかしたら初めてかもしれない。**]
(109) 2021/11/14(Sun) 04時半頃
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― 三日目・探索に出る前 ロビー ―
……だよな。 そもそもの環境が安定してるってのは、それだけで貴重だ。
[活動するのに特別な器具も装置も必要ない(クルーの大部分にとって、の話だが)星は、これまでの調査履歴の中でもレアだった。だからクルー達の期待も大きかっただろう。
煙草――ドラッグらしいと聞いた気はするが、どちらもやらないライジには違いがよくわからない――の青い光を見る。 時折揺れるそれを見ながら、本物の海の話を聞く。 だからこのイワノフという男は、引退後に船乗りになることを選んだのだろうか、と思う。宇宙に無数に存在する星を渡るように、海をゆくことを。]
(115) 2021/11/14(Sun) 13時頃
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……真っ暗か。
[深海の話。深い深い水の底の、重さと暗さ。堆積した過去とさびしさ。 引き結ばれていた口元が僅かに緩む。どこか安堵したように笑み、呟く。]
ああ。そりゃあ……いいな。
[一切の光が届かない場所ならば、砂金も砂粒と同じ。 もしもいつかが来るならば、そんな場所がいいと思っていた。]
いい話が聞けたよ。 ありがとう、"キャプテン"。
[彼が時々やっている敬礼を真似て、腕を上げてみる。多分あんまりうまい真似ではない。自覚もあるので、苦笑しながら肩を竦める。 それから改めて、いつも通りに軽く片手を挙げて、男はロビーを後にした。*]
(116) 2021/11/14(Sun) 13時頃
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― 三日目・夜/タラップ付近 ―
よかった。 謝るようなことじゃないだろ、別に。
[おれは運んだだけだし……と口の中でもごもご言う。 実際、ライジの二足歩行機でなければ腕の腫れはもうちょっとマシだったかもしれない。勿論、あの状況では他に選択肢はなくて、そう考えるのも意味のないIF>>71なのだけれど。 右腕に嵌るギプスは、タプルが処置してくれたものだろう。返ってくる返事>>111が普段の口調であることに、少しだけほっとする。 あの時>>3、キランディの様子はあまりに普段と違っていた。この笑顔も、特徴的な口調も、何かを覆うためかもしれないと思う。自分の口数が多くないのと同じように。]
え。
[付き合ってくれ、の誘いに間の抜けた声が返る。 イエスとかノーとかの前に、まさかそんな声がかかると思っていなかったので、完全に虚を突かれましたという顔だ。僅かに開いた目を何度か瞬く。]
あー……礼なんて別にいいんだけどな。 ……いや。おれでいいなら、付き合うよ。
[視線をタラップの床に落として、頭を掻く。 それじゃあ談話室でいいか、と指をさして、歩き出す。もう夜も遅いし、人気もあまりないだろう。*]
(117) 2021/11/14(Sun) 13時半頃
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― 三日目・日没後 船外 ―
そっか。 あいつ、楽しそうだったもんなあ。
[海で遊んでいたハロのことを思う。探査機水没未遂の前までは、楽しそうな声も聞こえていた。]
そうだな。夜明けの海はきっと……綺麗だろうな。
[水面に光が当たれば、複雑に揺れるさざ波がきらきらと輝くだろう。 美しい光景だろうと思う。眩しすぎるとも。
義手を握る、小さな手>>112を見ている。 熱も、きっと自分より柔らかいだろう肌の感触も、感じない。握り返すべきか、力加減に迷っているうちに、ケトゥートゥが立ち上がる。]
(123) 2021/11/14(Sun) 14時半頃
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[頬に触れれば、荒れ気味のがさがさした男の肌の手触りが返ってくるだろう。 伸びてくる指先を追って視線が動くが、されるがままになっている。人肌よりは低く、金属よりはずっとあたたかい温度。]
ま……名付けた奴はそういうつもりでつけたんだろうさ。 "希望"にも、色々あるだろ。
[いいよネ、という言葉に、いいよ。と頷く。 それは誰かにとっては目的で、別の誰かにとっては夢や憧れで。 生きる場所だと言う誰かも、いるかもしれない。]
……、
[安心したと少し笑う顔>>113に、笑顔は返せなかった。それほど器用ではない。多分、少し困ったような表情になっただろう。 昼間見た、深い青に沈んでいく石ころ>>35が、ずっと。頭の中にある。]
そろそろ戻ろうぜ。 冷えてきたし、風邪でも引かれちゃ困る。
[これからも一緒に、とは言えないまま立ち上がる。 『スペランツァ』の灯りを背景に、男の輪郭は完全に影になった。*]
(124) 2021/11/14(Sun) 14時半頃
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─ 三日目・夜/談話室 ─
お、おお……
[押しが強い。受け取らざるを得ないという圧がすごい。>>125 こうやってこられると弱いところがあるので、キランディのことは正直苦手な部類だった。嫌いというわけではなく、船内の雰囲気を明るくする姿は寧ろ好ましいものであるのだが。
そうして、談話室に着いて。 強そうな酒が出てきたなあとキランディの手元を見る。怯む様子はない。]
なるほど、耐性ってのも難儀なもんだな。 ……おれも同じのでいいぜ。ストレートで。 あー、開けるぜ。ちょっと貸して……
[ボトルを軽く捻って開けて、渡す。片腕で酒を注ぐのは、やや心配そうに見守った。琥珀色が揺れるグラスを受け取れば、少しその表面を見つめる。]
(129) 2021/11/14(Sun) 16時頃
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おれは指示通りに動いただけだから、どっちかっつーとアリババの功績だな。 ……多分、けっこう参ってると思うから……後で行ってやるといいんじゃないかな。
[飛行機のポッドの中で揺れていた姿を思う。いや、どうだろう。まだ少し時間が必要かもしれないが。 礼、と言われると少し悩む。グラスを傾ける。呑むペースはゆっくりだ。]
そうだな……それなら、他のクルーのこと、頼むよ。 アンタはまだこの船に来て日が浅いが、皆のことよく見てるからさ。
[つまり、今まで通りでいいということだ。 そんなわざわざ頼むまでもないことを、礼として提案した。*]
(130) 2021/11/14(Sun) 16時頃
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― 三日目・日没後 船外 ―
[誰かの肌に、じかに触れたのは久しぶりだ。他人の温度がどのくらいだったかなんて、もう覚えていない。自分のものさえも。 だから知らなかった。今まで撫でたことも、きっと手を引いたことも何度かあっただろう彼の温度は、今日初めて知った。]
いいや。 でも、おまえは温かいよ。ケトゥートゥ。
[そう答える。この温もりを覚えておきたいと思う。 覚えておいてくれたらいいなあ、とも。]
(138) 2021/11/14(Sun) 17時半頃
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[ケトゥートゥの気持ちは、少しは落ち着いたのだろうか。多分、上向いてはいるのだと思う。青灰色の目を見て、そんな気がした。いいことだ。 弟分には元気でいてほしい、というのは心からの願いだ。彼だけではなく、他のクルーについても。]
……そうか。 気をつけろよ。
[彼だってそれなりの期間、調査船に乗っているのだ。そう危険なことはしないだろうとわかってはいても、かける声にはやはり心配の響きが乗る。 それでも、少しひとりにした方がいいんだろうと思い、ついていくことはしない。]
おやすみ、ケトゥートゥ。
[片手をゆるく振るいつもの挨拶を返して、男は船の方に戻っていった。*]
(139) 2021/11/14(Sun) 17時半頃
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― 四日目の朝・格納庫 ―
[探索最終日の朝、男の姿は格納庫にあった。 相棒の二足歩行探査機の整備を終えて、ドームの中でモニターを見ている。 表示されているのは、ハロが死んだ落石現場、そのすぐ近くの"海"。マップデータにはこれまでの調査結果が反映されて、ある程度の水深予測も出ている。
"海"の中でも、とりわけ深い場所。 周囲の水面より濃い青を湛えた穴。 地球において、ブルーホールと呼ばれるような地形。岸からほど近い位置にあるひとつを、目的地に設定した。*]
(140) 2021/11/14(Sun) 17時半頃
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─ 三日目・夜/談話室 ─
飲めるというか、おれもあんまり酔えない質でね。
[いや、飲み過ぎれば二日酔いなどはしっかり来るのだが。酔って記憶がないとか、感情が極端になるとか、そういうことはない。]
ああ、それがいいと思う。
[きっとアリババの繊細さについても、キランディは自分より先に気付いていただろうと思う。
ペース早いな……と相手の飲みっぷりを眺めながら、思い出すのは昔の仲間と飲んだ時のこと。大酒飲みのデリクソンに随分飲まされたっけ、と懐かしく思う一方で、消えない後悔がちくりと胃の辺りを刺した。]
(145) 2021/11/14(Sun) 18時半頃
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[ふと止まった手>>142に、キランディの顔を見る。 こちらを覗き込む薄い色の瞳と目が合って、僅かに息を呑む。目を逸らしがたい何かを感じて、そのまま見つめ返してしまう。]
誰だって、いなくなる時はいなくなる。 そういう時はいつか来るもんだろ。
[気圧されたように、少しだけ早口でそう呟いて。]
……"死神"。 アンタはあの時、そう言ってた。
[あの時断片的に聞き取れた言葉のひとつ。 謝罪の言葉と、恐らくは誰かの名前であろう音に混じって聞こえたそれを、ぽつりと零す。 きっと普段なら聞こえなかったと誤魔化していただろう。あるいは、酒のせいかもしれなかった。*]
(146) 2021/11/14(Sun) 18時半頃
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─ 三日目・夜/談話室 ─
[逃げられないな、と思う。>>148 誰かに話せば止められると思った。から、誰にも言わなかった。でも、誰かにくらいは、言っておくべきなのかもしれない。観念したように、引き結んだ口を開く。]
……おれは、できることなら。 いつ死ぬかは、自分で決めたいと思ってる。 どこで死ぬかも、だ。
[それは、危険も伴う調査船に乗っている者としては、そぐわない言葉だったかもしれないが。決めたいと思っていても、そうできるかはわからない。いつ、どこでなんて、それこそ誰にもわからないことだ。
だから実際、望み通りにはならないだろうと思ってはいた。けれど、]
いい場所を見つけたんだよ。
[視線を外して、グラスに口をつけた。]
(155) 2021/11/14(Sun) 20時半頃
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[――種族レベルで。そう聞いて、黒い瞳が揺れる。一瞬だが、明らかに動揺した様子を見せる。]
……それは、アンタの種族の話か。
[種族が皆死ぬ、すなわち滅ぶということ。]
アンタがどうこうしたんじゃなければ、……いや、
[天変地異の類とか、疫病だとか。そういうもので皆死んでしまったのなら、運が悪かったんだろう。そう言おうとして、言葉に詰まる。 多分、そういうことではないのだ。自分と同じように、ケトゥートゥが言ったように、誰かに何かを言われて納得できることではないのだろう。 けれど、もしも。]
……もしも、"何か"が一方的に奪っていったなら。 それは全部その"何か"のせいだ。 もしもそうなら、それは絶対にアンタのせいじゃない。
[それだけは否定しなければならない。 思い過ごしなら別にいい。が、種族と聞けばどうしても、自分達が何世代にも渡って行ってきた所業が浮かんでしまう。 そんな連想のせいか、珍しく少し強い口調になったかもしれない。*]
(157) 2021/11/14(Sun) 20時半頃
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[滅びゆく故郷を逃げ出して、調査船『スペランツァ』に拾われて。 それぞれ別の星から来たクルー達と共に過ごして、様々な星を訪れるうち、宇宙の広さと"人"の多様さを知った。
その度に、自分達が『キジン』で行っていたことは間違いだったと思い知らされた。
あの砂金の山が元々何だったのか。 それがどんな相手で、何を考えて、どう生きていたのか。 おれはもっと早くに、目を逸らさず考えるべきだった。
目を逸らし続けたことも、仲間を見捨てたことも。 おれの弱さで、罪だ。]
(158) 2021/11/14(Sun) 21時頃
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― 四日目の朝・格納庫 ―
[オレンジ色の機体を撫でる。 何回も塗り直した塗装は、元の色とは少し違う。パーツもかなり取り替えたし、エンジンや駆動系にも手を入れた。旧型故、仲間にも随分手間>>0:65をかけさせてしまった。
そうでもして使い続けるのは。 こいつが故郷にいた頃からの相棒で、 他の命の尊厳を踏み躙った罪の共犯者で、 仲間を見捨てて逃げた弱さを見ていた、証人だからだ。]
行こうか、相棒。
[そう声をかけて、操縦席に飛び乗った。 唸るような低い駆動音。 旧型特有の乗り手を一切考慮しない振動。
やっぱり、乗り慣れた機体が一番いい。**]
(159) 2021/11/14(Sun) 21時頃
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ライジは、二足歩行機で平原を"海"に向かって走っている。*
2021/11/14(Sun) 21時頃
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─ 三日目・夜/談話室 ─
[キランディの普段と違う口調に、え。と視線を上げる。 が、言われた言葉>>160に、また視線をグラスの中に戻す。覆す気はないくせに、叱られた犬のような顔をした。]
……わかってる。 それに、悪いとも思ってる。
[弟分のケトゥートゥとナユタも。 案外繊細なアリババも、やさしいタプルも。 墓守のヨーランダも、律儀なイースターも、新顔のチキュウも。 かぼちゃ頭のジルも、"キャプテン"のイワノフも。
きっとそれぞれ、悲しませることになると思う。怒るやつもいるかもしれない。 でも、一番怒ってるのは目の前のこいつじゃないか?]
(174) 2021/11/14(Sun) 22時半頃
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アンタの種族のことは、おれは知らない。 でも、……そう、おれの一族は、別の種族にとって"死神"だった。
[身に覚えがある。だから真っ先に浮かんだ、そのような意味のことを言う。 "キランディ"のこと>>162を聞く。そういうことか、と得心がいった。]
……ああ、そうか。 アンタは、"キランディ"をずっと背負ってるのか。
[それなら、おれが何か言うことじゃないな、と。 それ以上踏み込むことはしない。きっとそれは、"キランディ"と彼だけの間のこと。]
…………。
[それから、口の中の酒を飲み込み、グラスを置いて。そろそろと立ち上がる。 観念しました。というように腕を下ろして、薄紫の瞳を正面から見た。*]
(175) 2021/11/14(Sun) 22時半頃
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― 四日目の朝・"海" ―
[オレンジ色の二足歩行探査機が"海"の淵を走っている。
一歩を大きく、跳ねるように。 機体姿勢の安定も何もかも放り投げて、ただ加速度をつけるために。
眩しすぎると思った夜明けの"海">>123は、思った通り――思った以上に、きらきらと輝いていた。夜にしようか、とも思ったけれど。ケトゥートゥが見に行くと言っていたから、やっぱり自分も見ておくことにした。]
……綺麗だな。
[輝く"海"の色は、ライジの中ですっかりおぞましいものとなってしまった、眩むような金の輝きとは違っていて、美しかった。
この時間にしてよかった、と思った。]
(178) 2021/11/14(Sun) 23時頃
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[アリババからの通信がある。>>165>>167 音声だけの通信。カメラはすべて切ってある。映像データは、また次に来た時にでも無人機か何かで撮ってくれ。]
おはよう。
[普段通り、淡々とした声で返す。]
なあ、アリババ。 多分だけど、"当たり"を引いた気がするんだ。
[後でデータでも見といてくれよ、と。 それだけ言って通信を切った。]
(179) 2021/11/14(Sun) 23時頃
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……そろそろか。
[空を飛ぶ影>>171には気付かないまま、操縦桿を大きく捻る。"海の"外周を回っていた機体がその勢いのまま、跳躍して水面に飛び出した。
大きな水飛沫が上がる。 オレンジ色の機体が、輝く泡と共に沈んでいく。
ひときわ深く、濃い青の中に。 水源の奥、"海"の深淵>>0:84に。
もしも発信機のデータを見ている者がいたら、機体の深度位置がぐんぐんと下がっていくことに気付いたかもしれない。]
(180) 2021/11/14(Sun) 23時頃
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[旧型探査機のドームは、衝撃には強いが水没には無力だ。
あっという間に中は水で満たされる。 冷たい水が鼻腔を、口腔を、器官を侵していくのを、ただ受け入れる。 光の届かない深さまでくると、"海"の中は随分暗い。 伸ばした手の先すら見えない、暗く冷たい闇。それでもまだ降下は止まらない。
真っ暗なさびしい場所へ、どこまでも落ちていく。]
(181) 2021/11/14(Sun) 23時頃
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[溺れるのが先だったか、水の重さで肺が潰れるのが先だったか。
その瞬間、人のかたちが崩れ落ちる。 金属の義手に纏わりつくように、ドームの中に砂金が舞った。
多くの人間を欲に狂わせた金色も、 この光無き水底で輝くことはない。
薄れゆく最期の意識は、そのことにただ安堵していた。**]
(182) 2021/11/14(Sun) 23時頃
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─ 三日目・夜/談話室 ─
[そう、お互いに最後の一人で、過去に関わりはなくとも、きっと立場は真逆だった。 もっと長く、深く関わっていたら。それはどうしたって仮定の話になるけれど。]
……マユラ。
[告げられた名前を、ゆっくりと発音する。 忘れていいと言われても、首を横に振る。]
覚えておくさ。 使わないんなら、おれが持ってってもいいぜ。
[これから行くのは、そういうところだから。 冗談のようにそう言って薄く笑う。ここまでのやりとりで初めて見せた笑みだったかもしれない。]
(188) 2021/11/14(Sun) 23時半頃
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……、
[それから握られた左の拳を見て、ぎゅっと口を引き結ぶ。 やめないのかよ、と思いながら腹筋に力を入れる。素直に殴られはするが受け身を取らないとは言っていないのだ。]
(189) 2021/11/14(Sun) 23時半頃
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……!?
[なんか構えが高いなとは思った。]
〜〜〜〜っ、顔、かよ……
[ぶん殴られた頬を押さえる。いやあんま痛くない。ケトゥートゥに殴られた時と同じくらいの威力だ。そういやこいつ、めちゃくちゃ軽かったな……そう思いながら、キラ……マユラの方を見る。]
……拳、大丈夫か?
[なんか骨も軽そうだし、うっかり折れてたりしないか心配になってきた。
――そんな風に、いくらかやりとりがあったかもしれない。 そうして夜は更けていって、開けた酒の瓶が空になる頃には、お開きになっただろう。
それが、最後の夜。**]
(190) 2021/11/14(Sun) 23時半頃
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