15 青き星のスペランツァ
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[花を供えながら、ヨーランダにしか聞こえぬようにぽつりと呟く。]
死んでもうたら花なんてもろたって、 うれしいかどうかようわからんけどなあ。 でも、綺麗やな。
[献花台に花を置いたからといって、アシモフが生き返るわけでもない。 いくら時間を置いても、それを確かめることになるばかりだ。 溜息を吐くように毛がしぼむ。]
(*0) 2021/11/10(Wed) 01時頃
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あしもふ はな みる ない。 はな ぎろちん あしもふ あう する あいさつ。 はな きもち。
[カプセルの中にいるアシモフが花を見ることはない。だが、花を供えることは会いに来たと伝える手段だと、ヨーランダは思っている]
ぼく しぬ はな もらう うれしい きっと。 しぬ おもう される うれしい。 しぬ ぼく わすれる される かなしい。 しぬ わすれる しない ぼく しごと。
[死んでからも自分のことを思ってもらえたら、きっとうれしいだろう。故郷では忘れ去られた存在だからこそ、強くそう思う。 ヨーランダは「人の記憶から忘れ去られたときに人は二度目の死を迎える」と思っている。 もしかすると覚え続けていることが、墓守の本当の仕事なのかもしれない]
(*1) 2021/11/10(Wed) 09時頃
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あいさつかあ。なるほど。 置いとるだけやとただの死体やけど、花置いたら周りは綺麗になるし、そいたら傍に寄りたくなるし、見た目もええ。
[弔いの意識が薄いギロチンが、ヨーランダのいう"きもち"を汲めたのかはわからない。ただ、一定の合理的な納得はいったようだ]
……ウチなあ。 いつかは"ママのために"死ななあかんねんな。 せやからあんま考えたことなかったなあ。 "自分"が死んだらどうして欲しいかとか。
[ギロチンのいうママ——不死の女王は、己が死なない代わりにその分体たる子供らの死の記憶を望む。 ギロチンたちの星では、死は個人のものではなく女王へ捧げるものなのだ。 ギロチンが『スペランツァ』に乗り込んだのには、そういった死のサンプルを収集する目的があった。 みんなには内緒やで、と毛玉に目が埋もれる。 あくまで研究のためと募られた乗組員たちの死を、研究材料としてではなく星の意向として観測することを望むのは、星空間倫理にも抵触しかねないからだ。]
(*2) 2021/11/10(Wed) 10時半頃
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しぬ さびしい ちがう おもう。
[棺ごしにアシモフの頭を撫でる。声をかけても聞こえることはない。 それでも冷たい棺に眠る者たちに声をかけ続ける。覚えているよと、側にいるよと]
ぎろちん しぬ ない。 しかし かのうせい そう、 ぎろちん ほしい こと ぼく する。
[そうならないことを望んでいる。だが、もし、万が一そうなったら、ヨーランダはギロチンの望んだことをするだろう]
ぼく しる ぎろちん、 ぎろちん ひとり。
[ギロチンの言葉から 「きっと目の前にいるギロチンは、母体にとって端末の一つだろう」 とヨーランダは考えた。だが端末だろうが何だろうが、ヨーランダにとってギロチンは今目の前にいるギロチンだけなのだ]
ぎろちん しぬ きもち、 まま ないしょ。 きもち じぶん だけ。
[だからそうなったときは死の記憶は捧げても、『スペランツァのクルーであるギロチン』の抱いている気持ちだけは捧げないで、自分のもののままでいてほしかった]
(*3) 2021/11/10(Wed) 13時頃
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[アシモフが撫でられている姿をじいっと見る。 死したものが惜しまれる、という、女王だけが持つ特権を、他の星の者はいとも容易く持っている。 そのことがすこし羨ましくも思えた。]
うん……ヨーランダはんに覚えてもろてたら、 さびしくないかもしれへんな。 みんなにお花もろて、話しかけてもろて…… 時々、キレーなもんが見たいなあ。
[羨ましくなったから、つい饒舌に希望を述べる。 死を個人のものだと思えないギロチンにとって、死んだあとにも自分自身を想ってくれる者がいるというのは、それだけで甘美な想像だった。]
……ないしょかあ。おもろいな。 死人に口なし、ていうんやろ?バレへんやん。 [用法は微妙に違ったが、それは間違いなく、いま生きているギロチンにとっては救いの言葉だろう。 嬉しそうに膨らむと、ヨーランダの痩躯に飛びついて、思いっきりまとわりついて、毛だらけにした。]
(*4) 2021/11/10(Wed) 18時半頃
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[ギロチンの要望にこくりと頷く]
はな いっぱい ある。 みんな いう だいじょうぶ? とくべつ ぎろちん はな いっぱい そなえる。
[そうなったとき、ここに来た人にギロチンがそう言っていたと伝えていいか。そう言っている]
うん、 ないしょ。 ぼく ぎろちん ふたり ひみつ。 ぼく いう ない。 まま しる ない。
[ギロチンの種族のことをヨーランダは知らない。だが、一人だけ、一人くらいは変わり者の、記憶を独り占めするようなのがいてもいいと思う。
ギロチンがまとわりついた男からは、仄かに獣のにおいがしたかもしれない]
(*5) 2021/11/10(Wed) 21時半頃
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みんなに言うん? そ〜れはちょっと、こっ恥ずかしいわ〜 くれるって言う人だけでええよ。ぜんぜん。
[自分自身を弔うひとのことなど、考えたこともなかったし。本当は望むのだっておそれおおいことだ。 恥ずかしそうに身をくねらせて、大きく身体をゆすった。 来てくれるヒトが自分の意思で花を添えてくれたら、それだけでいい。 もちろん死んだあとのことは、知るよしもないのだけれど。]
おおきになあ、ヨーランダはん。 おおきに。なんかめ〜っちゃうれしいわ。 こないうれしいの、初めてやわあ。
[感極まったように何度も繰り返す。 獣の匂いがしたのなら、ギロチンはずっとそれを覚えているだろう。 きっと、死に至るその瞬間まで。]
(*6) 2021/11/10(Wed) 22時半頃
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