31 私を■したあなたたちへ
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「以上!」で〆たのは何だったのか。その場の勢いだ。もう忘れた。
(坂理へ個別送信)
『なんだよまた自慢か。 ボクなんて最後まで「黒須先輩」だ。 キミだってボクと同い年なのに、なんだこの差は。
どうぞ、存分に優越感に浸るがいいさ! 全敗は気に入らないから、後で ボクが勝つまで何かで勝負しろ!!!!!👊』
(*16) 2023/11/22(Wed) 00時頃
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『幼稚園が最後、つまりるくあには 「好き」って言ったことがないのか!!!? どんだけ口下手で淡白野郎なんだ ボクなら142627回でも囁くのに!! なんでるくあはこんな顔だけ朴念仁の方がry
いや、多分予測はついてる。 るくあは、自分に好意を向ける人がダメなんだ。 だからボクは逆立ちしたって選ばれない。
愛情より、もっと根本的なものが欠けていた。 承認と、信頼だ。
……信じて貰うには、どうすれば良いと思う?』
最後は灰羅に投げたのと同じ問いを。
(*17) 2023/11/22(Wed) 00時頃
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――夕方/観覧車――
ついに頭から爪先までキャンディのフル装備が整うと、暮れ始めた空を背景に廻るゴンドラに再度乗り込んだ。
「そういえば、今夜ってパレードがあるんだっけ? ここからでも見えるかな。
……るくあと一緒に見れたら、楽しかっただろうな。」
(211) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「キミに好きになって貰いたくて、 キミに見つけて貰うために、 色々頑張るついでに配信者なんて始めちゃったけどさ。
どんなに奇抜で目立つ格好で 『ここにいる!!』って叫んだって、 珍しいイキモノを見る目で動画を楽しむ人たちは、 本当の僕を見てないし、知りたくもないだろうね。
るくあも、同じだったのかな。 本当に欲しいのは、信者の崇拝じゃない。 でも、僕のこともずっと"そっち側"だと疑ってただろう。 或いは、"そっち側"になっちゃうかも、って不安だった?」
先程は面接官灰羅が座っていた向いのシートに、中学生の頃のるくあを座らせる。あの頃、遊園地のデートに無邪気に夢を膨らませていたのも、砂上の楼閣だったのだろうか。 『自分は酔ってない』と喚く酔っ払いのようなもの。自分は正気だ、一目惚れだと言ったところで、狂気じみたこの妄執が本当は何なのか、自分でも分からないのに。
(212) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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エアるくあに話しかけながら、カメラはもう回さない。彼女は遊園地で親しい人が楽しんでくれるのを、開園の暁には大勢の観光客で賑わうのを、望んだかも知れないけれど。ここが彼女の墓標なら、誰に紹介してやる気もない、独り占めしたい。るくあを知らない"その他大勢"の連中に、無粋に踏み荒らされたくない。ずっとずっと側に居て、誰にも邪魔をされずに二人きり。
「犯人でも誰でも、人死にが出たら、 遊園地は閉鎖されるかな。 逆に警察とかマスコミとか押し寄せてくるかな。」
ままならない、と物憂げに溜息を吐いて、夕焼けの茜色した窓に映る自分を見た。誰も一見では黒須ワと思わないだろう、プロ顔負けのメイクと変装。悪目立ちして個を主張する、全身蛍光ビビットカラー。
「この恰好見たら、キミは何て言ったかな。 るくあが好きなもので全身粧えば、 今度こそ好きになってくれる……? それでもやっぱり、キラ様や坂理には敵わなさそうだけど。」
(213) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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『 あなたは、何も知らない 』
それが、黒須ワに向けられた最後の言葉。
目の前が真っ暗になったけど、知れば再び彼氏の座に返り咲けるのかと、ポジティブに曲解してるくあの"見守り"を開始した。世間一般にはストーキングと呼ばれる行為。 手始めに彼女の好きなものを調査した。星が好き、歌舞伎が好き、ほうじ茶が好き、流行には興味なさそうに見えたのに、ある時急に同年代に人気のCDを漁り出したのは、一過性のブームだったのかな? るくあと交流がある者なら誰でも知ってそうな情報でも、積み重ねれば何かが起こる気がしてた。
(214) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「ごめんね、るくあ。 僕はあの時も、今も、 やっぱりキミのことが分からない。
――知れば、何か変わっていたの? 今更知っても、キミは生き返ったりしないのに?」
ゴンドラが最高度にさしかかる。黄昏の空の果て、水平線に沈みゆく太陽が、波間をキラキラと黄金色に輝かせている。
(215) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「……違うな、知りたくないんだ。 キミは知って欲しかったんだろうけど。
表面的な情報で組み立てた 虚像に恋してる方が楽だから。
真実を知るのが怖い。
だから、ごめん。 あの日、キミは確かに僕を見つけてくれたのに。 僕は本当のるくあを見つけられそうにないよ。」
彼女の髪で編まれた腕輪を撫でて、ごめんと心で繰り返す。 それから、窓枠に手をかけ、えいやと一気に開け放った。途端に、一陣の風がゴンドラ内に吹き込んでくる。髪先が、大振りのピアスが、衣装の裾が、びゅうびゅうバタバタうるさいほどにはためいて。
(216) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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「園内にお花屋さんはなかったから、 キミのお墓に手向ける花はコレにするね。
……そういえば、るくあの好きな花は知らない。 だから、コレだけは僕の好みなのかも。
るくあと、るくあに纏るもの以外、 僕自身の好きなものとか何もない、 薄っぺらで空っぽな人間だけど。」
ウィッグの髪を束ねるコームには、デフォルメされた向日葵が咲いている。引き抜いて、ぽいっと窓から放り投げた。園内のどこに落ちたかも、目で追わず。
「向日葵の花言葉は、『あなただけを見つめる』だよ。
……太陽の方を、ずっと、ずっと、 追い駆けて"見守って"る花だ。」
ゴンドラが地に着くまで窓を開けたまま、風が頬を撫でるに任せ、甘やかな感傷に*浸っていた。*
(217) 2023/11/22(Wed) 11時半頃
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――夜/ホテル――
園内スピーカーから大音量でパレードの曲が流れてだす(>>219)。アップテンポの明るい曲調、心踊る軽快なメロディとリズムは、単純な繰り返しですぐに観客も巻き込めるように計算されている。合奏に時折ピコピコ電子音が混ざるのが、モナリザたちの動きと絶妙にマッチして、整然と進むパレードを盛り上げていた。 そんな華やかな行列を逆行して、並行二輪車はホテルの方に向かっていた。一瞬目を奪われはするけど、観客も疎らなパレードは、どこか虚ろで寒々しい。闇夜にクッキリ浮かび上がるようにライティングされたギャラクシーランドの、なるべく暗い箇所を偲び行く。
(235) 2023/11/22(Wed) 14時半頃
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部屋に戻ると、軽くシャワーを浴びて服を着替えた。あのウィッグはもう被らずに。中学校の制服は、さすがにサイズが合わなかったから、黒いシャツにデニム、鉛色のパーカーという無彩色の装束(ストーキング時の基本スタイル)で、顔にも余計な色は一切のせない。 街の雑踏なら周囲に溶け込めるのに、賑々しいネオンとレーザーライトの中では、キャンディの姿より浮いてしまいそうだ。
宛がわれた部屋をざっと片付けて、キャンディの衣装一式は纏めてクローゼットの隅に。カメラとタブレットを取り出すと、遊園地を訪れてからの動画を全て削除した。
「――――ごめんな。」
準備が整うと、黒須ワはひっそりとホテルを*抜け出した。*
(236) 2023/11/22(Wed) 14時半頃
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――夜/園内通路――
「ほら、やっぱり知らない方が良かった。」
パレードが終わる前に届いた、キランディこと中村某からの自白。本人にはさぞかし葛藤もあったろうが、犯人探しの幕切れは呆気なく、真相は予想の範疇内だった。他の誰でもなく"推し"に片棒を担がせたこと、何故死にたかったのか、その他信奉者に囲まれたるくあ本人の事情は、何一つ分からなかったけれど。
――まあ自分がるくあに「死にたい」なんて言われたら、あっさり「じゃあ一緒に死のう」って快諾した挙句、凄惨な殺害事件現場が出来上がってしまう。賢明な判断ではある。
復讐の故ではなく、るくあに選ばれ頼られたという点で、殺したいほど羨ましくはあったが、それは招待主や他の脱出したい者が考えればいいことだ。るくあが死んだ事実は何も変わらない。
(262) 2023/11/22(Wed) 19時半頃
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(一斉送信)
『お兄さんに聞いたけど、 遺灰の撒かれたこの島が 煙崎るくあの墓標なんだって。
楽しむことが、るくあへの手向けになるなら。 とりあえず僕は、全部のアトラクションを制覇してから いこうと思う。
後、るくあの眠るこの地を、他の人に あんまり騒々しく踏み荒らされたくはない。』
犯人云々のことには敢えて触れず、送信ボタンを押した。
(*26) 2023/11/22(Wed) 19時半頃
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(坂理へ個別送信)
『僕は適当にアトラクション巡ってるから、 見つけられたら何でも勝負してやる。 罰ゲームは『ギャラクシードリンク(>>1:195)一気飲み』な。
メイクの腕以外、勉強並、運動並、容姿も並、 何やらせても平々凡々な僕からしたら、 顔だけでもソレなら贅沢だ。そして贅沢は敵だ。
だから両方。と言いたいところだけど。
血嘔吐が出る程悔しくて認めたくないけど、 キミの方が、多分るくあの本質を 理解できてる。
よってその案、採用してやるよ。』
(*27) 2023/11/22(Wed) 23時頃
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送信ボタンを押した瞬間、遠く背後で水柱が上がった(>>259)。ドォンと地響きの後、産毛がピリッとする程度の空気の震え。
「……パレードのラスト、 花火でも打上げ損なったのかな。」
もしくは、異星人の侵略的演出なのだろうか。エアビームセイバーを握って、近くのモナリザを袈裟斬りにする仕種。ノリの良いロボットは、数秒停止した後、プシューと蒸気を噴いて倒れる演出をしてくれた。
「上手上手。キミ、パレードのメンツに 何で選ばれなかったんだろうね?
さて、ウィッグが吹っ飛ぶ心配もなくなったし、 これでやっとジェットコースターにも乗れる!」
演技派モナリザを助け起こしてから、眩しい夜の遊園地をのんびり移動する。あわや全滅の危機が誰かの手によって回避されたことなど、知りもしないまま。
(301) 2023/11/22(Wed) 23時頃
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