10 冷たい校舎村9
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―― 柊君とお話 ――
[ 一般論としてのリスカの話。 私、できるだけ私情は交えず、あくまでも一般論として 淡々と話したと思う ]
煙草とかアルコールの中毒と似たような感じだとしたら、 そんな感じなのかもね。 想像しかできないけど。 柊君はまたやりたいって思わなかったみたいだから なによりだよ。
[ 想像しかできないっていうのは、嘘ついてないよ。 だって私、煙草もアルコールも知らないから、 似たような感じかなんてわからないもの ]
(470) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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……そうだね。アルコールに溺れたり、 煙草がやめられないのだって、 そういうお医者さんがいるくらいだもの。 同じような感じだとしたら、 自分だけの力でやめるのは難しいのかもね。
この世界の主……もう限界でした、だったっけ。 追い詰められていた感じは、するね。
[ 眼鏡一枚分でも隔たってるの、 なんだか今の私には心強かった ]
(471) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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[ 本当はね、わかってる。 ひた隠しにしなきゃいけないようなものを 体に持ってる状態は、まともじゃないって。 左手首を握る癖は、何度も指摘されたことがある。 きっと薄々気づいてる人だっていると思う。 嘘につき合わせて、騙されたふりをしてもらいながら、 それでもやめられない私は正常とは言えない。
わかってる。でもどうしようもない。 私は、リスカをしないと、 まともな人間のふりすらできない ]
(472) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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[ 柊君は、それ以上は聞かなかった。 私はそのことにほっとして、 綿見さん代わりのマネキンにお布団をかけた後、 調理室前で柊君にお礼を言って、別れた* ]
(473) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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── ???・鳩羽 憐 ──
[寝る前にさ、思ったんだ。
朝起きたらさ、 いつもどおりの日常が広がってて、 いつもどおり、みんながいて、
なんだ、あの世界は夢だったんじゃんって 何事もなく過ごせたら良いなって思ったんだよ。]
(474) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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目が覚めるとさ、そこは紛れもなく、 俺らの日常の、3年9組の、教室だった
(475) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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いや、確かに休憩室で寝たんだ。 そこにはユーガもユキも居たはずだし、 俺はここまで歩いてきた記憶もねーし。 多分朝、ユーガが見た時にはさ、 きっと俺、そこにいたはずなんだ。>>458
黒板には昨日までのさ 寄せ書きみたいなのが書いてあって。 ああ、夢じゃなかったなー残念だなーって。 そんなことを、思ったの。
相変わらず寒いなあ。 コート、貸したままなんだっけ。 暖房、効いているはず、なのにな。
(476) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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でも、まあ、ここにいるのもさ、 なんかあれだし、腹も、減ったし。 廊下に出ようと、扉に手をかけようとしたわけ
『 ………… 』
俺のクラス、こんな「ノブ」だっけ 鍵穴がついてるドアノブが、さあ、 3年9組の入り口になぜかついてるわけ。
そして、俺、そのドアノブのこと知ってるんだ。 だって、18年間毎日くぐった扉のドアだから。
(477) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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『 ああ、そっか 』
なんとなしに見上げた時計は なぜか8:50を指したまま止まっててさ、 昨日まで普通に動いてた秒針が、 今居るここでは、止まってるわけ。 そういうことなんだなあ、って思っちゃって。
『 待っててよ、世界。 もう少ししたら、向き合うから。 』
向き合わなきゃいけないんだろ。>>219
(478) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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深呼吸を二度。 それから、黒板に一度だけ戻って、 チョークで何やら書き足せば、俺は、
この世界の出口に繋がっている “住み慣れた家” の扉を開ける。
『 ただいま 』
それを迎えた声は、たったの1つ 俺の、全然知らない女の声だ。
(479) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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住み慣れた家、住み慣れた玄関 学校の廊下を踏み出したはずの俺の足はさ 何故か今、土足のまま、自宅の廊下を歩く。
こんなにうちの廊下長かったかなー まあいいや、こんなもんだろ
そんなことよりさ。
あんた誰だよ ああいや嘘、ごめん 知ってんだ。だって。 俺に、よく顔が似てるから。
(480) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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『 似てる? 』
知らない女は 知らない顔で、俺に振り向く 『 あんた今ひどい顔してる 』
あんたなんかに、似てないよ ここは、私の家だから
あんたは一体何しに来たの?
知らない女は 知らない顔で、俺に云う
(481) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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だって、俺は、 そう言いかけてから
自分がどんな顔してたのか、忘れちまった 自分がどんな暮らしをしていたのかを 自分がどんなふうに生きてきたのかを
階段を駆け上がる 自分の部屋がそこにはあるはずで そこにはちゃんと 18年間の俺の、俺、おれ、オレは
(482) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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なあ 本当の俺ってどんなやつだっけ?
(483) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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自分の部屋の扉を開ければ、がらんどう 姿見がひとつさ、置かれていて 俺、自分の顔、見たわけ。
──── 顔が、無かった
目も鼻も口も、もちろん眼鏡も なあんもない、真っ白なのっぺらぼうの人形
『 ああ。そうか これは、今までの俺だ。 』
(484) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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俺はさ、 いつだって笑っていたかった だけど怒るときだってあったし 泣き顔だって見せられるようになった
そんな泣き顔を、悪くないなんて 言われたことだってあったんだぜ
知らねえのかよ、 もう俺、こんな酷い顔じゃない。
大丈夫。最後に笑わせてやるからさ。
(485) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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カチカチカチ、と 傍らから拾ったカッターナイフ 使い慣れない刃物を俺は手にする 使い慣れない刃物で俺は顔を削る
がり がり がり
痛ぇなあ 笑顔を作るのってさ、 こんなに痛ぇんだっけ
がり がり がり
痛ぇ、まじで痛ぇ しかもあんまり上手くねぇなあ
(486) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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がり がり がり くっそ痛くて手が震える こんなに痛えなら、傷つけるのを辞めたい。 こんなに痛えなら、笑うのを辞めたい。
だけどさ のっぺらぼうのまんまじゃ みんなに引かれちまうだろ 笑ってる鳩羽憐が、望まれてるんだろ 笑ってる鳩羽憐を、俺が。望んでんだろ なあ。今までの 俺。
(487) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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『 憐れだなあ 』
(488) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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出来上がった顔がさ あまりに酷い出来だったから 俺は、思わず、泣いたよ。
もう、血しかさ、出ねえけど。 痛みに耐えて、血の涙を流して。 それでも無理やり笑顔を作って。 本当の俺はのっぺらぼうだ。
だけどさ。 そんな俺とはもう、サヨナラ。 あまりの痛さに意識が薄れてきたんだ。 そろそろさ、俺、行かなくちゃいけない。
(489) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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大丈夫、安心してほしい。 今そこで死んでるのは俺じゃないよ。
のっぺらぼうだった頃の俺。 痛みに耐えて、泣かないふりして、 カッターナイフで笑顔を作っていた頃の俺。
誰かの頭の中に、置いていってごめんな。 こんな俺でも、覚えていてくれたらさ、嬉しい。 俺だって、ずっと覚えてるからさ。
今までだって、これからだって。 写真の中に、たとえ写ってなくたって。
本当の俺はさ、そろそろ、行ってくるわ。 戦わなくちゃいけない現実に。 たったひとつの、未来に繋がる扉を開けて。
(490) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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どうか、本当に好きなひとに好かれますように どうか、本当の好きを見つけられていますように どうか、好きな生き方で自由に息ができますように どうか、──────────。
どうか、偽らずに、本当に好きなものを。 誰かの代わりなんかじゃなくて、自分のものとして、 ずっとその手の中に、たくさん収めていけますように。
俺にもさ、ちょっとくらい祈らせてよ。
(491) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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向き合いたいんだ、 自分と。家族と。誰かと。
寄り添いたいんだ。 誰かに。家族に。自分に。
こんなさ、酷い顔じゃあなくって ホンモノの顔のほうがさ もっと格好良く、笑えるだろ? もっとちゃんと、祈れるだろ。
(492) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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ああでも、もし赦してくれるなら それでも、時々、泣きたいな。 そしたら誰か、傍にいてくれるかな。
(493) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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当たり前の日常を、いつもどおりに。 それでも懸命に息をしている、誰かとか。 助けてって手を伸ばすことを いまも、ためらっている、誰かとか。
クラスのことを誰よりも想って まっすぐ正し、導いてくれる、誰かとか。
きっと今頃、本当の「すき」と ようやく向き合うことができた、誰かとか。
楽しい時も悲しい夜でも、 一番近い場所で共感してくれる、誰かとか。
─── ううん。 ここで共に過ごした9組のやつらなら 誰が隣に居てくれたって、うれしいな。
(494) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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キーンコーンカーンコーン…………
冷たい校舎が また動く 時計の針が、ひとつ進む音を聞く 刻まれただけの作り物の笑顔では 光の先の誰かの姿は、映せない。 それでもホンモノの俺はきっと、 動き出した未来で、待ってるよ。
(495) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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── 残された冷たい校舎で ──
[ 3−9の扉の外に、土足の靴の跡が続いている。 それは三階へ向かう階段へと伸びており、 階段の先の教室へと続いている。
文化祭では衣装部屋として使われていたのだろう 殺風景な教室の中に、姿見が1つ置いてあり その手前で、鳩羽憐は倒れている。
制服、裸足に上履き、いつもの姿。 眼鏡はどこにもなくて、勿論土足じゃない。 のっぺらぼうの顔には、刃物で目と口を模した あまり上手ではない「笑顔」が刻まれている。
眦から溢れた大量の血液が、涙のように、 床を、濡らしていた。 傍らには、カッターナイフが落ちている。 ]
(496) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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[ それからもう一つ。 3-9の教室の黒板の目立つ場所に ひとつだけ「寄せ書き」が増えている 目立ちたがりの誰からしい、 やたら主張した、綺麗じゃない字。 署名はなくとも誰のものかは、すぐ判る。
『 じゃあな、いってくる! 』
そしてその言葉の意味を知っている友は、 この世界には、おそらくもう、居ない。 ]
(497) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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[ もしも8:50にさ、 その部屋に誰かがすでに居たのなら 多分「文字は急に現れた」はず。
まるで今までそこに誰かがいたように。 白いチョークが宙から落ちて、床を汚した。 ]**
(498) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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架空惑星 レンは、メモを貼った。
2021/06/13(Sun) 23時頃
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— 深夜:食堂 —
[わたしたちは綿見さんの話をした。 鳩羽くんと話した向井くんのことを思い出す。 ここからいなくなった人たちのことを話すのは、 寂しさを埋めるような行為だったのかもしれない。
さっきと違うのは、わたし以外の二人の関係性。 ここに来る前まで、わたしは乃絵ちゃんと こんな話ができるなんて思ってなかったよ。
乃絵ちゃん>>465が何を考えているかは分からないけど、 素直な頷きが返ってきたから>>466、 わたしはそれだけでいいと思った。 決して捲られることのない袖>>467だって、いいよ。]
(499) 2021/06/13(Sun) 23時頃
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