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― 安置室 ―
[謹慎の通達があった。
遅かれ早かれこういう日は来るだろうと、そう思っていた。いや、思った以上に来るのが遅かったというのが本音だ。
おそらく『ヨーランダ』が死亡し、そこから調査が入ったのだろう。『ヨーランダを名乗る男』が調査船の船員として働いていると……]
[幸いなことにこの船では斎を重視している。船員との交流の禁止はあれど、墓守として安置室で働き続けることは許された。それでいいと思った。居場所であり自分の本質を失わずにすんだから]
[通達からさほど時間が経っていない頃だった、空のカプセルが運ばれてきたのは。ヨーランダに謹慎処分が下ったことは、本人への通達と同時に全クルーに知らされている。
カプセルを運び入れたやたら独り言の大きい船員は
「落石事故だってよ。一緒にいたキランディはだいぶ憔悴してるんだってな」
と、弔いの準備をしているヨーランダの背後で、やたらと大きな独り言を言い続けている。
キランディはハロと調査に行くと言っていた。きっと自分に責任があるという念に苦しんでいるのだろう。
ヨーランダもその気持ちはよくわかる、自分が頼まなければギロチンの運命は変わっていただろうから。
……いや、比較するのも失礼だなとヨーランダは思い直した。だが、同じ気持ちを持っているとしたら話しくらいは聞けるだろうか?]
[ヨーランダは“うっかり”メモとお供えのお菓子を包んだ紙包を落としてしまった。
やたらと独り言の大きい船員は これは誰の忘れ物かな と包み紙を拾い、ニヤリと笑いながら安置室を出て行った]
[一人になったヨーランダはカプセルを覗き込んだ。
空だ。
こういうことは稀ではない。何故なら死に形はないからだ。
ある人は現場に残されていた服の一部だけ収められた、ある人は唯一持ち帰ることができた触角だけ収められた、ある人は形成不可能として袋に入れられたまま収められた]
はろ
[ヨーランダの手は自然と出発前に触れられた頬に伸びた。小さい体で飛び回り、みんなとお喋りしていたハロはここにはいない。
もし、一部でも回収できるのなら回収してほしい。マーレ10に置き去りにするのではなく、一部でも一緒に帰還したい。
先にこの部屋に来たアシモフとギロチンと一緒に、寝かせてあげたい]
おやすみ。
[棺の主の不在を隠すように、ヨーランダは空のカプセルに布をかけた**]
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【人】 艇長 イワノフ― 三日目の探索に出る前・ロビー ― (80) 2021/11/14(Sun) 00時半頃 |
【人】 艇長 イワノフ― タラップを降りた地点 ― (81) 2021/11/14(Sun) 01時頃 |
【人】 艇長 イワノフ― 三日目・夜/タラップ付近 ― (99) 2021/11/14(Sun) 02時半頃 |
[ヨーランダはのそりと身を起こした。室内を見渡すとハロの献花台に花が置いてあった。
どうやら寝ていたようだ、それも人が来たことに気が付かないほどに深く。きっと今までの疲れが出たのだろう、自分の正体を隠して生活することに対する。今は今後あるかもしれない処罰に対する恐れよりも、解放されたことに対する喜びの方が大きかった]
?
[ハロのカプセルに違和感があった。寝ぼけてそう感じたのかと思い近くによると、かけていた布がずれているのだ。まさか誰かがいたずらをしたのかと慌ててカプセルの中身を確認した。
いた。
ここに収まるべき人物が。
きっと誰かが回収してここに収めてくれたのだろう、一緒に帰れるようにと]
はろ。
[震える声で棺に声をかける]
おかえり。
[ヨーランダは心からよかったと思い、その思いは無意識のうちに言葉として発されていた]
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【人】 艇長 イワノフ― 三日目・夜/タラップ付近 ― (128) 2021/11/14(Sun) 16時頃 |
【人】 艇長 イワノフ― 三日目・夜/タラップ付近 ― (164) 2021/11/14(Sun) 21時半頃 |
【人】 艇長 イワノフ― 四日目の朝・船内ロビー ― (170) 2021/11/14(Sun) 22時頃 |
[世界は暗転した。
それきり、ハロの世界は終わってしまった。
何が思えるでもなく、何が聞こえるでもなく。
痛みや苦しみを感じられる時間すら、瞬きほどもなかった。
駆け出すキランディの羽ばたきを聞いたかもしれない、というのが最後だ。
ハロという生き物にとって、それは幸福だったと思う。]
[これがもしも、長いしっぽや下半身だけを大岩に挟まれて、意識は保ったまま、もしくは一命をとりとめでもしたら、きっとハロは苦しんだだろう。
自分を見舞うクルーを見るのもつらかったし、タプルの手を煩わせることになるのも嫌だった。
自分のことで悲痛な面持ちになるクルーがいるのは、耐えられなかったと思う。
そんな顔をさせたくない。笑って、採集のお土産を持ってきてほしい。
それで充分だけれど、それだけにならないことも容易に予想がつくからだ。
いっそLOSTしてしまえたら、とすら思うかもしれず、けれどハロ自身は自らの命を断つすべを知らない。手足は短く、自分を害することなどできそうにない。
スペランツァのクルーにとっては、その方が幸福だったとしても。]
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