17 【半突発身内村】前略、扉のこちら側から
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[ 冷たい液体を喉に流し込みながら どれくらいの時間が流れたのだろうか。
目の端に映るたくさんの紙の束の中に、 一枚、文字の書かれた紙を見つけたのは きっと、偶然だったのかもしれないし それは、必然だったのかもしれない。
そこにはこう書かれていた。 前略、扉のこちら側から >>2:48 それは私と同じ書き出しで。
─── 私は、 きれいだった世界の色が知りたい >>2:49 ]
(68) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 12時頃
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私も、知りたいよ。
[ 願えばまた、万年筆は出てきただろうか インクの色まで願わなかったが 今度は万年筆に添えられていたのは 淡い淡い、水色。
それを、晴れた空の色だと、私は思い出した ]
(69) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 12時頃
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前略、扉のこちら側から、 どこかにいるあなたへ。
あなたも、いま この白の世界にいるのだろうか 白の外側にはただぽっかりと昏い宙が広がる 静かな場所に、いるのだろうか
(70) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 12時頃
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私の世界も こんなふうに無機質な光が空を照らす 緑のない、真っ白で、真っ黒な、世界だ
それでも私は、 きれいだった世界の色を知っている
手紙の文字の色のように鮮やかな空色が 太陽に照らされていた頃を知っている
世界中には木々が根付き 生命力あふれる緑が彩っていたのを知っている
(71) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 12時頃
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私に あなたに語れる心≠ェあるなら
終わってしまった命を、世界を。 もとに戻すことを夢見て、生きている。
きれいだった世界の色、ではなくて きれいな世界の色、として。
現在進行形になるように。
(72) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 12時頃
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[ 誰かの世界のことはわからない。 それが似たような境遇の世界であることも>>2:46 私は、今はしるはずもない
だけど、きれいだった世界の色を知りたい、と そう願う誰かの心に、少なからず共感し 言葉を、贈りたいと思った。
それが、届かなくても構わない この世界なんて、そういうものだから。
カルピスの中で、からりと氷が音を立てて崩れた。 ]**
(73) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 12時頃
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[ 返事が返ってくるとは思わなかった ── >>91 それは、私も同じで。 その白が新たに目の前に現れたのは 私がカルピスを間もなく飲み終えようという頃
返事が目に入ったことに驚いて 耳をぴん、と立てて、白い生き物を見て それが私宛であることを悟ったら ゆっくりと、その紙に目を滑らせた。 ]
どうしてそんな心で在れるのか、か。
[ 小さく零した独り言に、 小さくため息を重ねそうになって。 思わず、呼吸をひとつぶん、飲み込んだ。 ]
(94) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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[ エフェメラームの名を冠していたからだ。 最初は間違いなく、そうだった。
悲しくても、寂しくても、苦しくても、 遠い血縁の犯した過ちを、罪を、罰を。 私が全て背負うべきだと、その一心で。
その間に、故郷の空も緑の色も 随分と、記憶は朧げになってしまった ]
(95) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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[ それでも多分、私が恵まれていたのは、 世界の外に出る選択肢が残されていたからだ
世界の外に出れば生き延びられる。 そうして多くの人が現に星をあとにしている。
私は、かの一心から外に出る選択肢を拒んだが それでも、世界の外を見ることができた。 未だ平和な世界の数々を。 未だ美しい空や緑の、その色を。
たくさんのことを教えてもらった。 たくさんのことを気づかせてもらった。 ]
(96) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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[ 私が星に残っている理由。 それは、罪や罰を負うべきだって そんな気持ちなだけじゃない。 ]
(97) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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好きだったからだよ。 私が生きていた、世界が。
(98) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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あなたには なにか好きなものはあるだろうか あなたが 大切にしたいものはあるだろうか
あなたが 手にしたい、と思う、 そんな世界は、あるだろうか。
(99) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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それを想像したときに 好きだと、思えるだろうか
それを想像するいまのあなた自身を 好きだと、思えるだろうか
(100) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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私は好きだったよ 私が生きていた、世界も。 その世界に生きる、私のことも。
その世界を取り戻したいと思う、 そんな今の私のことも。
(101) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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どうか、見知らぬひと 世界のどこかで、お元気で。
そして美しい景色に出会えたときには 心の中で、教えてください。
フーデリア 拝
(102) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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[ 先程は名前を書かなかったその紙に さよならやまたねのかわりに名前を書いて。
どうかあなたに、 好きだと思えるものが。 前を向けるきっかけが。 みつかりますように、と願いをこめて。 ]**
(103) ししゃもん 2022/03/12(Sat) 20時頃
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[ 私に祈ってくれたひとがいた >>1:94 私と約束を交わしたひとがいた>>2:138 私を憶えていてくれるひとがいた>>19 私を羨み、希望を見出してくれたひとがいた>>92
忘れていた世界を、感情を 私は時間をかけて、ひとつずつ思い出した
離れがたい、そんな感情があったこと>>1:105 忘れたくない、そんな気持ちがあったこと>>2:170 私の世界にも、美しい空があったこと>>2:197 私が、私の世界を、好きだったこと >>101 ]
(150) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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[ 私が、あの世界で ちゃんと、息をしていたこと ]
(151) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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[ 息をするために、 今も、あの世界で生きているのだということ ]
(152) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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[ 国のためでも、名前のためでもない 自分自身のために、今も戦っているんだってこと
だって ──────── 好きだから。 ]
(153) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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なあ、白い生き物よ もしもいつか誰かに、 私のことを話す機会があるならば まあ、ないだろうが。
でももし、そんなことがあるならば 私のことは、コロムミケレシアでも、 サータルーでも、エフェメラームでもない。
どうか、フーデリアとして語り継いでくれよ 地位も名誉も、名前も。 全部、ここに置いていかせてくれ。
取りに戻ることはないさ。 だってもう、迷うことはないからな。
ここは、きっとそういう場所なんだろう?
(154) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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[ いつしか掌には小さな鍵がひとつ。 それはあの、慣れ親しんだ扉を開ける鍵。
そこにはきっと、 食卓を囲む習慣がなくとも、 私が家族と暮らした、懐かしい家がある。 ]
(155) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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どうか、皆、元気で。
[ かつてはたくさんの家族が手を掛けた扉のノブも いまは、私、ひとりだけ。
同じドアをくぐる誰かが居なくとも。 私は、私のために、生きていく。
ここに来たときと同じように 硬い靴底がこつりと床を鳴らした。 ]**
(156) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 14時半頃
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[ 扉を開けると、思っていた風景ではなくて どこか遠くへと続く昏い道
きっとこれは宙の中 それでもこの先は、必ず私の場所へとたどり着く そんな確信を持った、夢の中の世界。 ほら、遠くに白い光が見える。
ひらり、ひらりと落ちてくる白い紙 手を伸ばせば、容易くそれを取ることはできて そこには、見慣れた文字が、並んでいた ]
………… ジリヤ。
[ 私は最後に記された名前を見て、 小さく零しながら、歩を進める。>>164 ]
(168) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 19時頃
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ああ。 どうか、元気で。
[ 昏い道はやがて白い光の中へと続いていく
目を細めて手紙を掲げれば ほら、夢の世界は終わるぞ、と告げるように 手紙はさらさら、さらさらと、 まるで流れ星のように、小さな煌めきとなって 私がいま来た道を、照らしていく。 ]
(169) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 19時頃
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[ それでも私は振り返らない。 手紙の温かさも、カルピスの冷たさも、 宙があんなにも暗かったことも 作られた、真っ白な世界にも
もう、戻らない。 ]
(170) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 19時頃
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[ それでも、私は胸に抱く
誰かとの温かな感情を 誰かとの優しい約束を 誰かとの確かな記憶を 誰かとの小さな希望を
私がまた、忘れてしまうまで。 私がまた、忘れてしまって迷ったときには
さあ。手土産は、何にしようか。 ]**
(171) ししゃもん 2022/03/14(Mon) 19時頃
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── その後 ──
[ ところで知っているだろうか エフェメラームは高度に発達した星だった
タイムスリップはできないが 時空転移はお手の物で それゆえ多くの民がこの星を出て、 他の星へと旅立っていった
私もまた、 復興のヒントを探して 様々な星を転々と旅して生きている ]
(248) ししゃもん 2022/03/15(Tue) 09時半頃
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[ だからもしかしたら。飛んだ先が
誰かが見た 朝焼けのような色だったかもしれないし 誰かが好きだった 夕焼けの色だったかもしれない
龍が空を飛ぶ美しい緑の大地かもしれないし 灰色の土の上に 小さな花が芽吹くIFの未来かもしれない
ひとつ大人になった誰かが、 前を向いて暮らす街のどこかだったかもしれない ]
(249) ししゃもん 2022/03/15(Tue) 09時半頃
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[ 長居することはない。 もしもこの先誰かに会えたとしても きっと言葉も交わさない
だけど 本当に広い世界のどこかで 誰かとともに在れたことを
本当に広い世界と世界が どこかで正しく繋がっていることを
私たちはひとりじゃないことを
ただ 認められたなら それだけで、しあわせだったから。 ]**
(250) ししゃもん 2022/03/15(Tue) 09時半頃
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