17 【半突発身内村】前略、扉のこちら側から
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[ 時間も距離も、それから温度も、何もかも。 私には必要ないと省かれた部分にも、 どちらでもよいこと>>0:23があるのでしょう。
私は睡眠をとりません。 私が夢を見ることは許されません。>>1:64
だから、これはきっと。 私がはじめて見た、夢なんだと思います。]
(183) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 白に囲まれた私に、またひとつ手紙が届きました。 解けるように開いた紙には、 見覚えのある名>>146が記されています。
井樋 水輝。 知らない文字であるはずなのに、 どうしてか、相手を呼ぶ音を私は知っています。
しかし、私には口も声も存在しません。 ゆえに、この場に名が響くことはありません。]
(184) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 曇り空のような人でした。 どんよりと薄暗いのに、 向こうに差す陽が薄っすらと見えるような。
優しいだけじゃなくて、綺麗ごとだけじゃなくて、 辛いことも受け入れられないこともあって。 気持ちの置き場を見失い、それでも大切な人がいて、 前を向くと決めても、耐えられない夜はあって。
これは、私の想像でしかないのですけれど。
交わした言葉は多くはありませんでしたが、 水輝の世界は私から遠いところにあるようでした。 けれど、誰よりも私の知る人間に近い子でした。]
(185) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ だから、ということにしましょう。 手紙を書く前から分かっていたことですけどね。
気のせいかもしれないけれど。 ――扉の向こうから声が聞こえます。]
(186) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 私は水輝の書いた手紙を読んですぐに おもいの輪からずるりと身を滑らせました。
だから、私が二枚目を読むことはありませんでした。 私にとって、カルピスは食べ物のまま。>>26 それで良かったのかもしれません。
いつか>>147、なんて。 私のよく知る人間に似ている水輝が 私が叶えられない願いを綴っていることを、 知らずに済みましたから。]
(187) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 生きることについて尋ねた兎>>2:134がいました。 ”私”は”人間の望む役目を担うもの”なのに、 書いた言葉は私から溢れたものでした。>>2:152
もしかして、お父さまとお母さまが願ったのは、 こういうことだったのでしょうか。>>122
私の望み。私の思い。 そんなもの、どこにもなかったのに。 あなたたち>>2:158はずっと、私に人を求めた。]
(188) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 水輝にとって、 私は”バキュラム”ではなく、”B”なのです。
それがたとえ偽りの名でも、 あなたがふとした瞬間思い出してくれる度に、 私は息を吹き返すのでしょう>>2:151。きっとね。]
(189) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 私の尾は私のおもいを文字にしませんでした。 だから二度と水輝に手紙は届きません。
問いに口が閉ざされたように、 名前のない手紙が二度と訪れなかったように、 永遠の暗闇を星の光が裂いたように。
私たちの繋がりはどちらかが筆を止めた時点で 完全に、永遠に、途絶えるものです。]
(190) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 名前を知らない相手がいました。 境遇を知らない相手もいました。 過去も、未来も、姿形も、理由も、意味も。
ひとときの夢の中で私が手にしたものは、 目覚めた瞬間の温度で解けてしまうくらい、 弱々しく、不確かなものです。]
(191) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ けれど、そんな不確かな存在がいるだけで 救われることがあるのだと私は思います。
広い広い世界。 いつかひとりぼっちになってしまうとしても、 星の数ほど、この世界に存在している誰かが居て。
私と同じように、生きているのですから。]
(192) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 傍らに在った白い生き物はどうしていたでしょうか。 まだまだチーズに夢中だったかもしれませんが、 私は構わず、白い生き物に身を沿わせました。
ぐるり、ぐるり、と。 端から見ればBがAを捕食するようでしたが、 幸か不幸かここには私ともうひとりしかいません。]
(193) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 私は静寂を破りました。>>1:36 ただ――アシモフ、と。呼びたかったから。]
(194) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ アシモフのちいさな指先が私の手紙に触れる度、 私は何度も感謝と喜びを伝えました。
さいご、ですから。 さいごなのに、さいごだから、 アシモフの手≠煩わせることはしません。
瞬きより長く、人間の生より短く。 手を持たない私の抱擁は、 アシモフにとって拘束だったかもしれませんけれど。
一度だけ奪ったアシモフの自由が、 私がここに残したさいごのものでした。]
(195) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 私には、手も腕もありません。 だから手紙を抱きかかえることはできません。 あったとしても、空っぽだったでしょうけれど。
鍵だけが、私の跡をついてきました。 カウンターの上から見た扉は遠くて小さかったのに、 自ら動くことなどほとんどない私でも 簡単に辿り着くことができました。
目の前に来れば、もう気のせいなんて思えません。 声が聞こえます。人間の声が、扉のあちら側から。
旅立ちの時です。]
(196) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ どんな扉だったでしょう。
鎖より頑丈な言葉で閉ざされた扉かもしれませんし、 祈りの声と若い草の匂いがする扉かもしれませんし、 隙間風が通り過ぎる煤で汚れた扉かもしれませんし、 色鮮やかなな色が覗く真っ白な扉かもしれませんし、 ローブを着た何者が手を伸ばす扉かもしれません。
私の書く文字が見るものの望む形になるのだから、 私が見た扉もそうであったに違いありません。
真実は手紙の代わりに私が持って行きます。 答えが知りたいなら、どうか私に望んでください。]
(197) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ その言葉が私に届くのであれば、ね。 私は私の意思で、扉の向こう側へと進みます。
そして――私は石畳に横たわっていました。]*
(198) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 坊やがいなくなって、何度星空を見上げたでしょう。
瞬きにも満たない時間だったでしょうか。 人間の一生に足り得る日々だったでしょうか。 私にとっては、どちらも大差はありません。
人であることを求められた私には、 鮮やかな感情をこの身に灯してしまった私には、
すべて等しく、私に痛みを与えるものです。]
(221) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 悲しみたくないのに、嬉しくなくていいのに、 だって”それ”は、永遠にとってあまりに強すぎる。]
眩しくて、煌めいて、燃え盛って。 刹那を生きる人間だからこそ受け止められる熱に、 私はいつまで焼かれ続けるのでしょう。
己の身が浮き、運び出されたことに気づいた時には、 私はすっかり弱り切っていました。]
(222) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ どこに連れていかれるのでしょう。 今度は誰が私に意味をくれるのでしょう。 どんな役目を担うのでしょう。
とびきり酷い人間であればいいと思いました。 欠片も愛せない、微塵も別れが惜しくない、 そして、私を孤独にしない人間を望みました。
叶わない望みであることも分かっていました。 どんなに歪でも、汚れていても、荒んでいても、 人間が私を手放す時、私の内から色が消える時、 またどうしようもない痛みが私を苛むのです。
ならば、このまま朽ちてしまえたらいいのに。 箱から零れ落ちて冷たい石畳に叩きつけられても、 私の身には傷ひとつつきません。]
(223) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 去った後に降ったひとひらの雪>>177を ”それ”が目にすることはできません。
繋がりは弱々しくて、不確かでした。>>191 けれど、目覚めた温度で解けるほど、 冷たいものでもありませんでした。
もし、底から水面へ辿り着くまでの泡のような 淡い淡い夢>>177夢を見ることができたなら。 Hと名乗ったあなたへ、路地裏の冷えた道の灰色を 伝えることができたでしょうか。>>179
私には、誰かと食べる美味しさとぬくもり>>140を 分かち合うことはできないけれど、 名前に特別な意味を抱くひみつ≠フ子>>180を あなたに紹介してもらうことができたでしょうか。]
(224) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 私の知らない白色も、 指先ひとつ届かなかったカルピスも、 永遠と幸福の象徴となった緑色も、 あなたに教えてもらうことができたでしょうか。
すべては夢です。 望むことも叶うこともない、私の知らない世界の話。 私たちはこれからも”H”と”B”なのです。
……でもね、決して現実にならないのなら。 あなたの心残り>>140すら晴れた蒼穹を、 あなたが好んだ青色を、私が描いた星空色を、 ”私”が願ってもいいでしょうか。
すべては、夢なのですから。]
(225) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ あたたかな腕につつまれていました。]
(226) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 嗚呼、またそんなに強く抱いて。 傷ついてしまうと言っても、 あなたは決して離してくれませんでしたね。
不気味でしょう。怖ろしいでしょう。 あなたがどう思おうとも、 私は世界にとってそういう存在なのです。
お帰りなさい。手放しなさい。 私に何の役目も与えないのなら、 この身を満たす色をどうか枯らしてください。]
(227) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 私は目≠開きました。 夜闇に紛れる黒いローブ、隙間から覗くのは――
――いつか見た>>0:27、炎によく似た色。]
(228) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ ねぇ、フーデリア。私の名を知るあなた。 きっとよく似た空の色>>2:195を知る人。
私の星空は坊やの瞳のようでした。>>2:147 濃紺の夜に煌めきをくれたのは坊やでした。
けれど、いつの間にか私の知る坊やはいなくなって 瞳には炎が滲んだようでした。 あなたは朝焼けを知っていますか。そんな色。]
(229) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 一度は私を手放して、 一度は私を取り落とした坊やが口を開きます。
私は震える尾で宙をなぞりました。 私は坊やの――彼の名を書きます。彼は頷きました。
一度だって書ききれなかった手紙。私のおもい。 今なら、さいごまで続けられそうな気がします。 書き出しは、そうですね――はじまりは、白。]
(230) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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『 前略、扉のこちら側から 』
(231) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ 彼は不思議そうに目を瞬かせました。 炎の煌めきがキラキラと私に降り注ぎます。
私に目はありません。口もありません。 けれど、私は笑っていたのでしょう。
鮮やかな感情が、置いてきたはずのおもいが、 私の内を穏やかに、狂おしく、揺蕩っています。 永遠に、さいごまで、ね。]
(232) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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[ もしかしたら、 決して叶わない夢を見る余裕もあるかもしれません。 あなたたちがくれたおもいを、色鮮やかな感情を、 私がしたためることだって、あるいは。
焦る必要はありません。まだ時間は残されています。 瞬きよりも長く、人間の生よりも短い。 手紙の終わりに名を記すまでなら十分でしょう。
だから、締めの言葉を考えるのはもう少し後で。 今はただ、私を焼く痛みを噛み締めたいのです。]
(233) Pumpkin 2022/03/15(Tue) 00時頃
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[ 私に生きる意味を与えたのは、■■■■■■でした。 私の役目は――夢は、あなたと共に死ぬことです。]*
(234) Pumpkin 2022/03/15(Tue) 00時頃
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