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〜〜♪ 〜〜♪
[ スマホが、鳴っている
無機質なピピピ…なんて音じゃなくって、
ああ、この歌は、メールの着信音だ。 ]
ガタン
……… 痛ッ
[ なにか強い衝撃をうけた気がして目を開ける
あたりは暗闇で、一瞬何が起きたか判らなくて
ぼんやりとした頭で腰をさすりながら見渡した
──────────あたし、 ]
……!!
[ 記憶は続いているはずなのに。
ここは校長室じゃなくって、あたしの家だ。
じゃあ、みんなは、世界は、
あたしはスマホを手に取る。
幾つものメールが未開封のままで、
ただひとつ、開封済みだったのは ──── ]
[ ヒナコが ]
── 病院 ──
おわ、わわわ、
[ 待ち受けていたのはめありの洗礼。
ちなみに例に違わずタクシーで行ったけど、
きっちり釣りは貰ったかんね
セレブではないのだ、セレブでは。 ]
痛い、痛っ
あ〜〜〜でも、
[ めありと、メアリ越しのみんなの顔を見て ]
ただいま
[ 泣きそうになったのは、堪えたからね ]
[ それからヒナコの様子は聞けたかな
まだ戻ってきてないコたちのことも
そっかあ、ヒナコが、って
口にするあたしの頭の中には、
廊下に咲いてたお花のこととか、
文化祭を楽しんでた様子だとかが思い浮かんだ
だけど世界のルール、肝心なことを追加で聞けば
さすがに「はああ!?」って言ったかな
だから、中に居るみんなの気持ちも知らないで
あたしは、世界の内側に向けて願うんだ
どうかみんなが
元気で帰ってきますように。 ]**
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[ ひとり、またひとりって、
あの校舎から帰還したみんなが病院へとやって来る ]
ノッカ、おかえり。
[ メアの体当たりはもはやお約束の通過儀礼。
痛がりながら、こっちに目を向けたノッカに、
私は出迎えの挨拶をした。
あの校舎から、既に半分以上帰ってきたことになる。
もう、あの校舎に残ってる人数はたかが知れていて、
校長室のソファだって悠々なんでしょうね。
ヒナは自分があの世界の主だって
自覚してなかったみたいだけど、
これだけ人数が絞られれば、
そろそろ自覚したんじゃない? ]
[ ノッカとももちろん情報交換した。
こちらの状況の説明をして、
ノッカからはサラが帰ってから後のことが
聞けたんじゃないかな ]
……ヒナ、自分があの世界の主って自覚して、
どうするのかな?
帰りたくなったり、してないかな。
[ まだ私はヒナの心配ばかりしてた。
ヒナ以外の誰かが、あの世界に残りたがる可能性なんて、
まるで頭になかったの* ]
[ メアの体当たりのあとで
最初に迎えてくれたのはユリだった
ただいま、
…… ユリ、生きて、るよね?
さわ、触って、だいじょうぶ、だよね?
[ って、ほっぺたに手を伸ばそうとしたから
怪訝がられてしまったかも知れないけれど。
でもほら、触ったら崩れちゃうんじゃないかとか
そういうこと、ちょっと考えちゃったよね。 ]
[ あたしの目の前にみんなの「死体」が現れて
こう見えて、あたしそんなタフじゃないの。
しかも昨日の今日のこと。
あんな大量の血、生理の日だって見ないよ。
だからそれなりにショックは引きずってるし、
思い出そうとすればすぐにも思い出せるわけ。
動かせなくてずっと目の前にあったユリと、
保健室まで運んだシホのことは、特に。 ]
[ サラが帰ったあとのことも、話したよ
そっか、そこまでは知ってるんだ、って
サラがいたらそっちを見たりして、さ
だからきっとユリは自分がどうなったのかも
きっとよーく知ってるんだ、って。
とはいえサラが帰ったあとはさ、
あたし、ふたりのこと、見てないんだよね。
サラも、ライカも、
リコたちが全部、運んじゃったから。
あたしはずっと、食堂で項垂れてたし
その後は、すぐに、寝てしまったから、さぁ。
だから詳しい状況までは、言えなかったはず。 ]
…… ヒナコ、かぁ
[ 思い出すのは、やっぱり昨日のことばかり。 ]
…… ヒナコね、楽しそうだったよ。
ううん、楽しもうとしてたみたい。
あの世界で。
今となったら、わかるな。
[ それって、まるでこの世界に、
そう言いかけた、言葉の続き。 ]
あの世界に、
ずっといるつもりだったんじゃないかなって
[ 自覚、してなかったのかな。
あの世界に慣れ親しもうとしてたタイミングが
結構早い段階からだったように思えるから。 ]
…… どこかで知ってたのかもね
それか、どこかで気づいてたのかな
ここが、自分にとって居心地の良い場所だ、って
[ なんて、言ってみるけどさ、
それって、帰ってこない、っていうことは
つまり、「そういうこと」だから、 ]
……帰ってきて欲しいよ。
ヒナコにも、もちろん、ふたりにも。
[ ユリはヒナコの心配ばかりだったけど、
あたしは、二人の心配もしてた。
……… 特に、リコのこと。
幾度か、帰ってほしい、ってお願いしたけど、
一度も、首を縦には振ってくれなかったんだ。 ]*
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[ 今まであれほど躊躇していた名前呼びは、
ひとり、ふたりとクリアーしていけば
さほど抵抗なく呼べるようになった。
最初に呼んだゆりちゃんとか、
莉子ちゃんあたりは
内心ガチガチに緊張してたけどね。
めありちゃんからの二度目の熱い抱擁で
こけた僕は、差し出された手
少し照れながら手を伸ばす。 ]
[ あれほど精神世界に残る事を願ったのに
現実世界にいる今は、少し安堵してるの。
もちろん心配は尽きないし
また精神世界に戻れるのなら、きっと戻る。
答えは出なくても。
それでも この世界で安堵してしまうのは
" 死の恐怖 "を知ってしまったから。
この死の向こうに現実世界がある ───
そうは思っていても 確定じゃない。
来世を信じている人が
" もし、来世なんてなかったら? "って
一抹の不安を感じてしまうようなものかな。
そしてそれは一抹に留まらず
感情の殆どを埋め尽くしていく。 ]
[ けれど ───
そんな不安すらも凍りつかせてしまう程
頬で感じる校舎は ただ、冷たかった ]
[ だから思い知ったよ
どんな死にたくなるような事があっても
死を恐怖と感じた僕の本質は
" 生きたい "なんだ、って ]
[ 世界を閉じるのは
琴子ちゃんと関わりの深い故人でもいい ?
全員帰ってくる可能性がゼロでは無い事で
僕の顔に生気が戻る。
こんな重要な情報が今更になってしまったのは
仕方ないと思うから、
僕はめありちゃんに突っかからない。
精神世界の構造について聞かされた時は
半信半疑だったし ───
彼女にはあまりにも時間が無さ過ぎたから。 ]
[ 莉子ちゃんもワザとじゃないから、
肩を揉ませるにしても
お手柔らかにしてあげてね。1時間とか。
病院の中で そんな話をしてたら、
ずっと窓を覗いていためありちゃんが
好夏ちゃんが来たって騒ぎだして
それから僕らは出迎えに行ったんだ。 ]
おかえり、好夏ちゃん
[ 僕にとっては、つい先程まで
一緒にパンケーキを食べていた感覚。
僕が帰った事を知っている彼女は
次の8:50 ─── 朝に精神世界を出た
うん、ここら辺は聞けたと思う。
僕が知ってる範囲は話したよ、って
こっちに視線が向けば 頷いて。
琴子ちゃん、うん ……
[ 2人の会話に挟むまいと、僕は相槌だけ。
あの世界にずっと残る理由 ──
そんなものがあるのだろうか
あの世界にいたいから自殺を図った?
いえ、それでは後付けになってしまうから
自殺を図った結果、
理想の世界が生まれたって事になるのだろうか
いったい、あの世界の何が居心地よいのだろう
ずっと文化祭、友人は人形に変わる
学校から出られない、日付が過ぎない ───
日付 ? ]
[ 僕は慣れない手つきで
スマホのスケジュール帳を開いて、ぽつり ]
琴子ちゃん …… 今日、誕生日 ?**
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[ 私はきっと既にサラから、私のマネキンがどんなだったか
教えてもらっていたと思う。
教室の私の席に座ってたって。
触ると崩れるくらい脆くなってたから、
保健室に運べなかったって。
だから、ノッカが恐る恐るって感じで、
私の頬に手を伸ばした時、
ああ、ってすぐに合点がいった ]
生きてるし、崩れないってば。
[ 生きて帰ってきたけど、
崩れる後遺症が残ってました、とかすごく困る。
私は笑って、無事をアピールして、
頬を触ろうとする手も止めなかった ]
[ きっと私のマネキンが崩れるほど脆くなっていたのは、
あの時、私のプライドが粉々にされたからだと思う。
プライドとか、
私が私たりえたものとか、
そういうものがあの時、全部否定されて、
めちゃくちゃに粉砕されたのを覚えてる。
あの感覚は忘れられないけど、正直思い出したくもない。
二度とごめんだわ ]
[ 私は、メアのマネキンしか見てない。
そのことを、あまり深く考えたことはなかったけど、
恵まれていたのかもしれない、とふと思った。
あの校舎に長くとどまるということは、
先に帰った面々のマネキンを見るということだから。
クラスメイト達が次々に無残なマネキンになっていくのを
なすすべもなく見ていることしかできないというのは、
気持ちのいいものじゃない。
しかも、実際に帰ってくるまで、
無事を確かめることもできない。
きっと帰ったんだと思ってたけど、
あくまでもそれは、推測でしかなかった。
私だって、黒板にも書けなかった。
だって確かめようがないもの ]
[ あの世界の主は、ヒナ。
ノッカはそのヒナが、楽しそうだったと言った。
帰りたくなったりは、してないみたい ]
そっか。
[ あの世界を、楽しもうとしてた。
あの世界に、ずっといるつもりだった。
ヒナのその気持ちは、私にはわからない。
どうしてそんな気持ちになったのか、
私にはわからない。
聞きたいけど、理解したくない。
やっぱりそんな矛盾したことを思う ]
ヒナには、あの世界が、居心地のいい場所だったの?
[ それも、やっぱり私にはわからない。
だって私、早く帰ってきた自分のこと、
恵まれてると思った。
マネキンになるみんなのこと、
あまり見なくて済んだから。
でもヒナにとっては、みんなが無残なマネキンになって、
少しずつ人数を減らしていくあの世界が、
居心地のいい場所だったの?
私が首を傾げていると、サラがスマホを見ながら、
今日がヒナの誕生日だって言った。
私はそれにも首を傾げる ]
ヒナ、18歳になりたくなかったの?
[ もうなっちゃってるけど。
わからないことばっかり。
私、かしこのはずなんだけどな* ]
[ もしもの話。
もしも私が、
一番可愛いままのヒナをみんなの中に残すために、
ヒナが自殺を図ったと知ったとしたら?
私、心底落胆する ]
[ 私、ヒナが可愛いランキング1位だと思ってる。
私がそう思っているのは、
ヒナが可愛いの追求者だから。
そのヒナが、時を止めようとしたということは、
もうこれ以上可愛くはなれないって
諦めたってことでしょう?
これが自分の最高値って、
限界を認めたってことでしょう?
……がっかり ]
[ 自分の限界を自分で決めて、
それ以上追いかけるのをやめてしまったら、
それはもう追求者とは言えないもの。
そんなヒナはもう、
可愛いランキング1位じゃないわ。
私は断じて認めない* ]
ただいま、サラ。
[ おかえり、と言われたら、
ただいま、って返す
これが、こんなにも嬉しいことだなんて
あたし、知らなかったな。 ]
[ かしこなサラは、
やっぱりなんだかいろいろ考えてるようで
その心の中は読めなくとも、
どこかの探偵みたいな真剣な表情したサラが
なにか考えてるんだな、ってときはよくわかる。
……ううん、判るようになってきた、かな。
文化祭を通して3年1組のあたしたち、
知らなかったことを、知れたじゃない?
そんなこともちょっとだけ思い出した。 ]
[ ユリが、あたしの言葉を復唱しても
あたしはヒナコじゃないから、
ほんとにそう思っていたのかは、判らない。 ]
居心地が良い、というより、
多分ひとりぼっちになっちゃっても、
居心地が良いような場所に
心のどこかで、したかったんじゃないかなあ
……… なんてね、勝手な想像。
[ ヒナコもヒナコなりに悲しんでいたし、
楽しんでたじゃーん、なんて茶化したら、
きっと怒られてしまうのかもしれないけどね。 ]
[ もう二度と逢えないくらいなら
怒られる方がよっぽどいいよ。 ]
[ そうしてサラから飛び出した、
ヒナコの誕生日の話。
それからかしこなユリから飛び出した、
今日、自殺を試みてしまった理由。
18歳になりたくない??なんで??って
あたしの脳は理解がやっぱりできそうにないな ]
なんでだろーね
女子高生は楽しいけどさ、
未成年なんて不自由なことばっかじゃん
堂々とお酒飲めないし、
[ って言ってから、かしこなユリとサラを見て
あたし「あっ」って顔して口を噤むんだ。
たつみん、まだこの場にいないよね??? ]*
[ 女子高生のまま居たい、みたいな気持ちだったらさ
前までのあたしなら、多分理解できてたと思う
だって片月JK最強だもんね。制服かわいいし。
女子高生っていうだけで、強くなれる気がしてた。
だけどさ、それが違うって思い知らされたのは
ほかでもない、ついさっきのことだったし、
そもそもそんな理由で死のうとは思わない。
ぶっちゃけずっと女子高生のままで
お金もあって自由ならめちゃんこ嬉しいけどさ ]
[ でもヒナコが「可愛いままで死にたい」なんて
そんなふうに思ってるなら
あたしは心底理解できなかったと思うな。
だって、あたし、自由になったら
最強に可愛くて、無敵で超絶はっぴーな
そんな大人になるつもりだもん
知ってる?死化粧って、かわいくないんだって
一酸化中毒で亡くなったコの顔なんて、尚更。
最後に見られる顔は死化粧なの。
可愛いランキング、落ちちゃうよ。きっと。
………なんて。
心の中の声が届くことはきっとないし、
そもそも死にたい理由も知らなかったから、
ヒナコにそれが伝わることも、ないんだろう ]
[ でもね、知ってたら、こう言うよ。
でもね、伝わるなら、こう言うよ。
『 だから、戻っておいでよ。 』 ]**
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[ 居心地がいいような場所にしたかった。
ノッカの言うヒナの気持ちは、
やっぱり私にはわからない ]
そんなことしなくても、帰ってくればいいじゃない。
どうして帰れないのかな……。
[ 想像ってノッカは言う。
ノッカにもヒナの気持ちはわからない?
だけど、想像はできる?
私は、想像すらできない。
人の気持ちを想像するって、どんな感じ? ]
[ そんなことを考えていたら、
今日はヒナの誕生日だって判明したから、
私は安直に、帰れない理由と誕生日を結び付けてしまう。
だって、どうして誕生日?
たまたまっていうのもできすぎてる気がするし。
もしも誕生日が昨日なら、
誕生日に嫌なことがあったのかなとか、
別の可能性も浮かぶけど、
今日、日付が変わるタイミングだったって聞いた。
嫌なことが起こる時間なんかなかったと思う。
でも、18歳になって、それで何が変わるのかな。
選挙権くらいしか思いつかないんだけど ]
わからない。
そもそも、ヒナが18歳になりたくなかったのかも
わからないし。
なりたくなかったとして、その理由もわからない。
……けど。
[ ふと、思い浮かんだことがあった。
ヒナと将来の話をした時のこと。
私はなりたい職業の話をして、
ヒナは、あしたの話をした。
それから、あの校舎で、
もしも、とヒナが言ったこと。
“なりたい自分になれなかったら、
死にたいって思うのかな?” ]
……ヒナ、18歳の自分は、
可愛くないって思ったのかな……。
[ 私に人の気持ちはわからない。
私にヒナの気持ちはわからない。
だけど、私は自分のプライドが大事で、
プライドでご飯が食べられないなら餓死を選ぶ。
プライドが傷つけられた時、
私を私たらしめるものが覆された時、
生きてる意味を見失いそうになった。
私は、知ってる。
ヒナにとってのそれは“可愛い”だって。
だからヒナは“可愛い”のために、
命を懸けられる人間だ ]
……それはそれとして、
堂々とじゃなくてもお酒は飲んじゃ駄目だと思う。
[ たつみ先生はいなかった。よかったね。
きっとヒナのお母さんに付き添ってるんだと思う。
こんなタイミングで飲酒が発覚して反省文とか笑えない。
私は成績優秀なだけで優等生ではないから、
これ以上は言わないけれどね** ]
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[ どうして帰れないのか、といったら
こっちの世界が嫌になっちゃう理由とか、
そういうのがあるんだろうなって
あたしなら、そう思った。
言わないけどさ。言わないから、きっと
ユリには伝わらないけど、さ。
……だから逆にね。
あたしは思いもよらなかったんだ
ヒナコが、この世界になにも嫌なことがなくて
それでも生命を断とうとしてるってこと
喩え聞いたとしても、理解も及ばなかった。 ]
どーだろね
シワ増えるから?
子宮衰えるから?
[ 知らんけど。
17歳から18歳になって、
うちらが大きく変わることなんて。
ぶっちゃけあたしが想像し得る、
女子高生のまんまで居たいーとかだったら
今日じゃなくったっていいもんねぇ?
だからあたしの感覚とはやっぱり違うんだろう ]
……う、飲んでないって、
飲んでないよお、やだなあ
[ あはははは。
……ちょっとだけだよ。
ほんと、こんなとこで反省文とか笑えない。
[ 死ぬ間際にあたしが見た空は、
きっとあたしが在りたかった姿。
誰かに憧れて 誰かを模倣して
そうして漸く手に入れた姿
あたしはまだ多くを知らなくて、
あたしはまだ世界を知らなくて、
─── あんなにも無力だとは思わなかった。 ]
[ ヒナコ。
女子高生、全然最強じゃなかったよ
レイ。
まだあたしには空を跳ぶのは早すぎたよ。
リコ。
隣には、もうひとり愛が必要だよ。 ]
[ またみんなに、会いたいよ。 ]**
[ 18歳になりたくない? だから自殺を?
女子高生は楽しい
じゃあ、ずっと女子高生でいたいから ?
それなら、誕生日ではなく
卒業式とかに行動を起こしそう。
単純に、" 老い "が嫌だった ?
誕生日を嫌がる理由と言えば
それぐらいしか思い浮かばないけど。
ゆりちゃんの言葉に
最盛期に引退するスポーツ選手のようだなって
思ったけど口にはしない。
死んで人生ごと引退とか、馬鹿馬鹿しいから ]
…… そうね、それはそれとして
お酒はカクテルとかが好きなの ?
[ 聞き逃そうかと思ったけど
ゆりちゃんが窘めるなら
僕は好みのお酒なんて聞いてみようかな。
好夏ちゃんの答え次第では、お説教タイム。 ]*
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[ シワが増えるとか子宮が衰えるとか、
十代が言ってたら、二十代以降の先輩方に
顰蹙を買うしかないと思う。
結局、ヒナ本人に聞かないとわからないってことよね。
こんな時だけど、私はそのことに少し安心する。
だってみんな、ヒナがどうして死にたかったのか
わかってない。
みんな、ヒナがどんな気持ちだったのか知らない。
普通は、人の気持ちがわかる。
わからない私は欠陥品。
投げつけられた言葉は、
ずっと私の心に棘のように刺さっていて、
ちくちくと痛い。
だけど、必ずしもわかるわけじゃないってこと、よね?
みんな、ヒナの気持ちはわからないんだものね? ]
[ 友達が生死の境をさまよっているのに、
そんなことを気にして、安心してるの ]
[ そんなことを気にしている私をよそに、
サラはノッカのお酒の好みを気にしてる
二十歳まであとたったの2年よ。
2年くらい我慢しなさいよ。
その頃にはこのことも、お酒の肴みたいに話せるように
なってるはずだから。
[ ただしそれは、あくまでも全員が生きて帰ってきたら、
って条件付き。
私たちが2年後に美味しいお酒を飲むためにも、
みんな帰ってきてもらわないと困るんだからね* ]
─ いってきます、 ─
[ タオルケット一枚でうたた寝ができるほど
あたしの家は暖かかった。
あたしの家は、あたたかい。
きっと、それなりに、裕福だ。
好きなスポーツに打ち込めて、
希望があれば私立の女子校に入れてくれて、
大学にも通わせてくれる。
母はすこしぶっきらぼうだし、
父は中々の仕事人間で、
弟は生意気なやつだったけど、
きっと羨ましいほどに問題のない家族だった。 ]
[ あたしが壊したんだ。 ]
[ 母はもう眠っているのだろう。
一階の電気は消えていて、
あたしは夢と同じコートを羽織った。
父は出張に出ているし、
……弟は、友達の家にでも行ったかな。
よく言い争いの喧嘩をしていた3つ違いの弟とは
中学のことがあってから
だんだんと疎遠になってしまった。
訳も分からなかっただろう頃は
ただ泣くあたしを慰めてくれたけど、
年を取るにつれて、理解していったのだろう。 ]
[ 彼に思春期が来て、姉の過去の行いを
恥じ、あるいは憤ってでもいるのだ。
友達を遊ぶ、を口実に家を空けるようになり
あたしとの話し方も忘れたのかもしれない。
あたしも、どんな顔をすればいいのか
ずっと、ずっと、分からなくなっていた。
夢のことを、メールのことを思い出して、
あたしはぼんやりと、弟の鞄を見つめる。
……あーあ。
あいつが嫌ならって、しなかったけど、
今度、話しかけてみちゃおうかな。 ]
[ あたしは愚かだった。間違っていた。
べつに、14歳で子供を授かったことが
必ずしも愚かで間違っているとは思わない。
でもあたしは、あたしは、そうじゃなかった。
ひとりになったあの日、あたしは愛せると思って、
本当は育てたかもしれない子どもなんだって、
涙ぐんで、悲劇のヒロイン気取りで、
取り出したその子を見せてもらった。
かわいくて、やわらかくて、いとしいもの、
が、必ずあたしから産み出されると思ってた。 ]
[ でもさ。
あたしは、それを見たとき、思えなかった。
思えなかったんだよ……。 ]
[ あたし、自分が子どもだったとは言わない。
ただ、幼かったんだと、思う。
何もかもが不相応で、バカだったんだ。
自分で正しいと思っていた感覚が打ち砕かれて
あたし、人のことばに頷くようになった。
だから年月が経てば傷も癒えるよって
そんな甘い言葉を信じたふりしてた。
恋は冷めた。あたしはひとりの体になった。
でも、ずっとつらい。
なんも良くなんない。
どうすればいいか分からなくなっちゃった。 ]
[ でも今は、一つだけ、
はっきりどうすればいいか、
分かってることがある。
琴子のいる病院に向かうってこと。
あと、琴子に「ばか」って言いたいってこと。
……これじゃ二つじゃんか。
ばかはあたしだ。 ]
[ スニーカーを履いて、玄関を振り返る。
夢の中の様に、見送ってくれる人は居ない。
声を掛けようと息を吸って、
なにも言葉を震わせずに冷たい空気に霧散する。
結局重い玄関扉を、ただ静かに閉めるだけ。
外に出れば冬のにおいのする風が吹く。
深呼吸をひとつして、
やがてあたしは駆け出した。* ]
─ おはよう、みんな ─
[ 『はしってる!』
って、揺れる画面でメールを打った。
何処に、は書かなくても伝わると思った。
走って、息が切れて、重い足を引き摺って歩いて、
そしてまた走って、走った。
ほんと、きっつい!
あたし、もうちょっと走れると思ってたのにさ。
バスケも、また、やってみようかな。
嫌な顔されても、怒られても。
そうやって、野を超え山を越えー…ってね。
……ごめん。うそ。
流石に疲れて途中でタクシー拾っちゃった。 ]
[ だからからか、病院につくのは、遅かったかな。
夜間の病院の雰囲気に圧倒されながら
見知った顔を見つけて、そっと息を吐く。 ]
みんな…
……なんか面白そうな話してんね?
[ だって、飲酒とかカクテルとか、
そういう単語が聞こえたんですもん。
突っ込まないわけにはいかないじゃんか。
なんて、いつもの調子にも見える皆に
あたしは震えていた手をそっと解いた。* ]
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